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悪の華 LES FLEURS DU MAL  作者: シャルル・ボードレール Charles-Pierre Baudelaire/萩原 學(訳)
憂鬱と理想 SPLEEN ET IDÉAL
53/121

51. 猫 LE CHAT

マリー・ドーブラン詩群 #34 と同一題名

二部構成 何れも脚韻ABBA

挿絵(By みてみん)

I

歩き回るはわが脳裏、

自分のアパートも同様、

強靭にして柔軟、魅惑の美猫よ。

みゅうと鳴いても聞こえもしない、

Dans ma cervelle se promène,

Ainsi qu’en son appartement,

Un beau chat, fort, doux et charmant.

Quand il miaule, on l’entend à peine,

鳴く音は控えめ、ごく優しく。

落ち着いていても、唸っても、

響くは豊かに深々と。

そこが秘密の、その魅力。

Tant son timbre est tendre et discret ;

Mais que sa voix s’apaise ou gronde,

Elle est toujours riche et profonde.

C’est là son charme et son secret.

この声、珠となり透き通る

私のいちばん暗い深みにて

韻文のように私を満たして

麻薬のように愉しませる。

Cette voix, qui perle et qui filtre

Dans mon fonds le plus ténébreux,

Me remplit comme un vers nombreux

Et me réjouit comme un philtre.

残酷極まる苦痛を麻痺させ

ありとあらゆる恍惚を。

どんなに長い文句でも、

言葉を必要ともしないで。

Elle endort les plus cruels maux

Et contient toutes les extases ;

Pour dire les plus longues phrases,

Elle n’a pas besoin de mots.

挿絵(By みてみん)

いや、噛み合う弓など無かった

わが心、完璧な楽器に合う、

いやが上にも格調高く、

この上なく生き生きとした弦を鳴らすのは、

Non, il n’est pas d’archet qui morde

Sur mon cœur, parfait instrument,

Et fasse plus royalement

Chanter sa plus vibrante corde,

声ばかり、不思議な猫の、

熾天使な猫、見慣れない猫、

万物統べる、天使のような子、

調和取れつつ繊細な子の!

Que ta voix, chat mystérieux,

Chat séraphique, chat étrange,

En qui tout est, comme en un ange,

Aussi subtil qu’harmonieux !

挿絵(By みてみん)

II

ブロンドと茶色の毛皮から

とても甘い香りを放ち、私は

ある晩、それで防腐処理された

一度の、一度きりの愛撫から。

De sa fourrure blonde et brune

Sort un parfum si doux, qu’un soir

J’en fus embaumé, pour l’avoir

Caressée une fois, rien qu’une.

この地に居着く精霊か

裁き、統べ、鼓舞するは

その帝国の万物をば

妖精なのか、神なのか?

C’est l’esprit familier du lieu ;

Il juge, il préside, il inspire

Toutes choses dans son empire ;

Peut-être est-il fée, est-il dieu ?

愛するこの猫に向かって、私の目は

磁石に引き寄せられるように

するすると素直に振り向き、

そして私は自身を見つめた、

Quand mes yeux, vers ce chat que j’aime

Tirés comme par un aimant,

Se retournent docilement

Et que je regarde en moi-même,

私は驚いて見入った

青白いその瞳の焔に、

澄んだランタン、生きたオパールに、

私をじっと見守る人が。

Je vois avec étonnement

Le feu de ses prunelles pâles,

Clairs fanaux, vivantes opales,

Qui me contemplent fixement.


訳注

ジャンヌ・デュヴァル詩群にあった同名の作品より一層手の込んだこの1篇を読んで、だいたいこの作者の性格が解った。猫や恋人を猫可愛がりしようとして、手を出す度に引っ掻かれるタイプだ。そんなに目を見開いて、両手ワキワキさせて掴みかかろうとしたら、嫌がられるに決まってる。


miaule: フランス人が聞く猫の鳴き声。「ニャア」より「みゃう」に近いようだ。


filtre: だいたい「フィルタ」「濾過」の意味に使われるので、「珠となりふるいとなり」とは、どんなフルイ分けだ?と頭を抱えた。ほぼ逆に「(篩の目を)すり抜ける」という使い方にもなるようだ


d’archet: ヴァイオリンの弓。詩人という楽器を鳴らすのに相応しい弓など、ぬこ様以外にあるものか、と言っている。と同時に、この詩を受け取る恋人を猫扱いしてもいる。


séraphique: Seraphim(6翼の熾天使)から来た「天使のような」とする形容。「熾」は「火が盛んに燃える」の意で、神への愛と情熱で体が燃えていることを表す。最上位の天使とされる。

イザヤ書6章

ウジヤ王の死んだ年、わたしは主が高くあげられたみくらに座し、その衣のすそが神殿に満ちているのを見た。

2 その上にセラピムが立ち、おのおの六つの翼をもっていた。その二つをもって顔をおおい、二つをもって足をおおい、二つをもって飛びかけり、

3 互に呼びかわして言った。「聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、万軍の主、その栄光は全地に満つ」。

4 その呼ばわっている者の声によって敷居の基が震い動き、神殿の中に煙が満ちた。

ヨハネの黙示録4章

8 この四つの生き物には、それぞれ六つの翼があり、その翼のまわりも内側も目で満ちていた。そして、昼も夜も、絶え間なくこう叫びつづけていた、「聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、全能者にして主なる神。昔いまし、今いまし、やがてきたるべき者」。

挿絵(By みてみん)

無数の目を持つ6枚の翼ある生き物、として絵に描くなら、この世のものとも思えない景色であるが。

挿絵(By みてみん)

おそらくメソポタミアから伝わった6翼の神像に、毒蛇を喰らう孔雀(神)の姿が「神々しい姿」として合成されてしまったものであろう。

挿絵(By みてみん)

embaumé: 「芳香で満たす」こと、または(ミイラに施す)防腐処置をいう。普通は「香りに満ちる」と訳すが、ボードレールはエジプトの神を意識してもいたし、救い主イエスの故事もある。

ヨハネによる福音書12章

3 その時、マリヤは高価で純粋なナルドの香油一斤を持ってきて、イエスの足にぬり、自分の髪の毛でそれをふいた。すると、香油のかおりが家にいっぱいになった。

挿絵(By みてみん)

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【対訳】ボードレール『悪の華』表紙

参考文献

ブログ
philofrançais.fr Baudelaire, Les Phares
Séquence 4 (Les Fleurs du Mal : Baudelaire et le "culte des images")
Charles Baudelaire: Don Juan aux enfers
ボードレール 「地獄のドン・ジュアン」 Baudelaire «Don Juan aux Enfers»  詩句で描かれた絵画
ボードレール『悪の華』韻文訳――015「冥界のドン・ジュアン(1861年版)」
【対訳】ボードレール『悪の華』表紙
Baudelaire et les étonnantes « caricatures de modes » de Carle Vernet
Le trente-un, ou la maison de prêt sur nantissement | BnF Essentiels
Wikipedia
ポイボス
パエトーン
レーテー
メランコリー
メランコリア I
Der Freischütz
Les Fleurs du mal
Don Juan aux enfers
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William Edward Parry
Parry Channel
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Quinquet
ポーモーナ
Cierge (bougie)
ブルゴーニュのブドウ畑のクリマ
Wikisource
Les Fleurs du mal (1861)(第2版)
Les Fleurs du mal (1868)(第3版)
Les Fleurs du mal/Concordance(一覧表)
Librivox
Les fleurs du mal
論文
高橋宏幸「パエトンの暴走とオウイデイウス 『変身物語』の構想」
佐々木 稔『頽廃と神話 ボードレールにおける古代性と現代性』
原島恒夫『ボードレールの「音楽」について』
小倉康寛『1860 年におけるボードレールの詩学の「成熟」』
オスマンのパリ大改造
A propos d’Ernest Christophe : d’une allégorie l’autre
YouTube
Der Freischütz, OP.77 Overture: Vienna Philharmonic Orchestra, Wilhelm Furtwängler
Weber: Invitation to the Dance, Knappertsbusch & VPO
Der fliegende Holländer: Overture
Horowitz: Chopin Sonata No.2 Op.35 (3/4) marche funèbre
Beethoven Piano Sonata No.17 in D minor, Op.31 "The Tempest"
Carmen ACT2 : Les tringles des sistres tintaient
The Flying Dutchmen: Sailors' Chorus
POÈME ÉLÉVATION DE CHARLES BAUDELAIRE MISEN MUSIQUE
ÉLÉVATION Charles Baudelaire
Der wunderbare Mandarin pantomime, Op. 19, Sz. 73 (Vienna Philharmonic, Pierre Boulez)
Léo Ferré: Je te donne ces vers
Good Times Bad Times - Led Zeppelin/Covered by Yoyoka, 8 year old
「枯葉 Les Feuilles Mortes」イヴ・モンタン Yves Montand
Debussy: La Mer/Orchestre National De L'O.R.T.F /Jean Martinon
ベートーヴェン第14弦楽四重奏曲 ブッシュ四重奏団
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