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ドアマットヒロインより空飛ぶ絨毯ヒロイン希望します

作者: まはろ

主人公:マーガレット。あだ名は家族からはペグ、友人からはメグ。


 

「あー、納豆ごはん食べたい」

(ん?なっとう?なっとうってなんだっけ?)


 あ、あの茶色いネバネバしたやつ。

 それは何気ない日常でマーガレットが何気なく呟いたときだった。呟いた瞬間、脳で何かが弾けた。

 例えるならば、某アイスクリーム屋さんの可愛らしい色合いのアイスを食べた時からのような感じだ。甘いアイスを味わっていると不意に口の中でパチパチと弾けるキャンディにハッとする感じ。

 それじゃあ、わかりにくいか。

 まぁ、そんな感じに脳をくすぐられてるような感覚になり、私は前世の記憶をいきなり思い出した。


 前世の私は、たいしたことない芸人。

 第七世代の期待のホープとか言われて、持ち上げられたけど実は中身はなんもない、すっからかんな人間だった。頭の回転だけははやく、無表情、ローテンションでボケて時々変なつっこみするが一部の人たちには面白かったのか、若手のわりにはかなり稼がせてもらっていた。朝早く夜遅い生活。場合によっては家に帰ってもこれない。暑い寒いの季節は関係なく外の撮影はあるし、場合によっては半裸で冷水にインしないといけない。プライベートはSNSをアップしたり、公式でやってる動画撮影をしていた。

 そして、先輩芸人にも可愛がられ、付き合いも大切にしていたため、夜中に呼び出されて飲み会。そんな生活をしていた。いつ売れなくなるかもわからないから頑張り続けていた。


 で、いまここ。

 地球じゃない異世界のとある屋敷の使用人の食堂でパン食べている。

 パンばかりで飽きてきて、別のが食べたいなってふいに思ったことによって前世を思い出した。

 前世がどう終わったのかはわからないけど、あの多忙の生活を思い出すと、おそらく過労死だろう。

 で、生まれ変わったわけである。

 現世の母は娼婦で、まあ放置されていたがお金は生きるのに必要な分だけ与えてくれたし、親切な近所の人たちや、母の仕事仲間に可愛がられて、それなりに育つことが出来ていた。

 7歳になった時、母が体調を崩してそのまま死んでしまい、困っている私を見かねた母の仕事仲間が善意で娼館の仕事を紹介してくれて、働こうとしていたときだった。


 貴族がお迎えに来たのだ。どうやら、私の父は貴族だったらしい。

 もちろんこれでハッピーエンドにはならない。父は既婚者で妻がいて、さらに息子2人と娘もいた。つまり、私の存在は修羅場に発展することにつながった。

 そもそも探さなければよかったのに、なぜ私を探さないといけなくなったかというと、この国の特殊なルールのせいだ。


 この国の王宮には神宝樹というものがある。神が司る樹と言われており、貴族の子どもが10歳になると、この神宝樹のもとに二親等の血の繋がった家族全員でいき、お祈りをするのだ。そうすると、神宝樹からスキルを授けてもらうらしい。

 家族全員という、不思議なルールがあるせいで10歳になった息子の宝樹へのお祈りにいったところ、スキルを貰うことが出来ず、他に血の繋がる誰かがいるぞ、という話になった。慌てて、探索のスキルをもった者に頼み、ようやく私を見つけたわけだ。

 貴族はいわばスキルがステータスにつながるので、私は見つからなかったら困るし、けど見つかっても修羅場というなんとも厄介な存在だっただろう。実際に現在、厄介者扱い継続中だ。

 自室は分かりやすく屋根裏部屋。なんかそんなアニメを昔見た気がする。あんま覚えてないけど。


 しかしまぁ、8歳になった今は前世と変わらずローテンションで感情の表出が少ないものの、持ち前の性格で、年上の使用人たちに可愛がられるようになってきた。性格だけじゃなく、売れっ子だった娼婦の母に似てる整った顔と、貴族の父のブロンドにエメラルドグリーンの瞳を受け継いで、可愛い子どもなのもあるかもしれないけども。世界が変わっても、人間たちはルッキズムみたいだ。世知辛い。

 1年かけて人間関係を構築した結果、まあまあよいポジションになってきた。


「なっとう?それなに?けどあんたも可哀想よね、お母さんが亡くなって、父親が見つけてくれたと思いきや、こんな扱い受けてるなんてさ。使用人と一緒に食事させられたり」


 姉御肌で赤毛の気が強そうな吊り目のメイド、アンナがパンを食べている私にそう言ってきた。


「私だったら、家族と一緒じゃないなんて悲しくて毎日泣いていると思うわ」


 茶髪で優しいそうなタレ目のメイド、エリーが憐憫を含んだ視線を私に向けた。


「いや、お迎えが来なかったら、娼館で働くことになってたし、こっちのほうがいい。学校にも行けるし」


 娼館の話をすると、アンナとエリーが何とも言えない顔になる。きっとより私の境遇を憐れんでるのだろう。まぁ娼館といっても母が働いていた娼館は比較的良心的で、小さいうちは客を取らないで裏方やらせるって話にしてくれてた。この話をすると、おそらくみんな小さいうちから客を取らされそうになっていたのだろうと勘違いをして同情する。あえては訂正してない。勘違いしてくれていたほうが同情を買って色々優遇してくれるのだ。

 そして、仲良くなった使用人たちの助けを経て学校に行けるようになった。エリーの弟クリスとアンナの妹マーサが通っている平民が行く学校。日本でいう小学校だ。


 時間を見ると、クリスとマーサが屋敷に迎えに来てくれる時間になっていた。

 前世を思い出したものの、朝の忙しい時間なので、現在の生活リズムを崩さないように、そのことは頭の片隅に置いた。

 慌ててパンを口に放り込み、立ち上がり、荷物をもち、「行ってきます!」と誰に言うまでもなく言うと、気をつけろよ、とか、行ってらっしゃいなど食堂にいた複数の使用人たちに声をかけられ、顔を向けて口角を軽く上げて、外に出た。


 屋敷の門番に挨拶して、屋敷から出るとクリスとマーサが歩いてくるところだったので、駆け寄って合流する。

 わいわい話して、時々、道端にいる猫を触ったり、石を蹴ったり、靴を飛ばしたり、遊びながら通学路を3人で歩く。


 クリスは歳の割に身長が高いが優しくて大人しい男の子で、マーサは華奢だが男勝りな女の子だ。私と一緒に通学するようになって、マーサはクリスとはつまらなかったから、楽しくて嬉しいと言ってくれている。私も小学校をやり直している気分になって、毎日が楽しい。


 小学校のクラスの子たちもいきなり来た私をすぐに受け入れてくれた。最初は、ガキ大将的な気の強い男の子が私の境遇をからかってくることがあったけど、「うん、うん、その通りだね」と許容したり、その男の子が自分の家の自慢をしてきたときは「すごーい、かっこいー」と棒読みに褒めまくったら、なんか仲良くなってた。異世界でも小学生くらいの年齢の男の子チョロすぎる。


 学校は国語、算数、歴史、剣術そして、魔法の5つがメイン科目だ。

 そう、魔法である。これがまた楽しい。

 この世界は魔力がある者がほとんどで、魔法を発動させるには呪文を唱えないといけない。

 魔法が使えるのが楽しすぎて、呪文ヲタクと化している。ちなみに国語、算数、歴史は興味がなく、数ヶ月後にあるテストはおそらく赤点だ。


 授業も終わり、クリスとマーサと帰ろうとすると、今日はガキ大将チョロ男子のロイも一緒に帰りたいと行ってきて、4人の帰宅である。

 みんなで川に寄って、水切り遊びをした。石を投げて水面に誰が1番跳ねさせることができるか競った。

 単純に楽しく、4人で満足が行くまで遊んだ。


 バイバーイと言って解散し、屋敷に帰ってきて、使用人たちのお手伝いをしつつ、晩御飯をもらって、お泊まりの使用人たちと湯浴びして、自室の屋根裏部屋で寝ようとした時にふと思い出した。

 あ、前世思い出したの忘れてたわ。

 といっても思い出したから、こうしようとかああしようとか何もない。気分はバイリンガルだ。日本人だけど外国育ち。ただそれだけ。前世思い出したけど、子どもなのだ。楽しむっきゃない。

 そこまで考えて爆睡した。


 翌朝、起きて思った。

 それじゃもったいないだろ、と。前世の記憶を有効活用するほかない。

 そこで朝思いついたのがこれだ。


 泥団子。

 ツルツルにした泥団子を持って、天才!すごい!と褒められるビジョンが浮かんでいた。

 この世界には泥団子を作る文化がない。ならば、作ってやろうじゃないか。前世がある者の特権である。

 学校に行く前に泥団子作りに毎朝、励んだ。

 前世を思い出しながらやるものの、なかなか上手くいかない。人目のつかない裏庭の端に泥団子を大量に作り続けた。失敗したものは壊すのもあれなので、ゆきだるまのようにコツコツ積んで銅像みたいにした。題名、考えているようで考えてない人。

 そして2週間くらい毎日コツコツ作り続けて、初めて納得のいくツルツルした泥団子が完成した。


「みて」


 早速、迎えに来たマーサとクリスにドヤ顔で見せたが、なぜか戸惑っている。やはり異世界人には泥団子という高度な文化がないからわからないか。


「これ泥で出来てるの」


 ドヤりながら説明し、えーすごーい!どうやって作ったんだい?って反応を期待して待っているとマーサとクリスはお互いの顔を見合わせて

「ねえ、それってプーピー虫のウ」「クリス!だめよ、ええと、あー、それは泥なのよね」と微妙な反応が帰ってきた。天才と褒め称えられるつもりが期待と違いすぎる。

 精神年齢の低そうなロイに見せてみると、ロイには

「うわ、プーピー虫のウンコ?ここらへんにいたのか?女が触るんじゃねえよ」と言われた。

 調べたらプーピー虫というのが、日本でいうふんころがしを上位互換した虫らしく、ウンコを特殊な液体で丸めて、ピカピカにして集める性質があるらしい。娼婦の娘で、学校にも行っていなかったため、ある意味世間知らずなのだ。

 せっかく前世の知識を使って泥団子を作ったのにクソである。ウンコだけに。


 悔しくて意地になった私は、ピカピカの泥団子を朝作るのが日課になった。ただの泥団子じゃつまらないので、絵の具で色をつけたりして遊び心をつけてみる。

 どうせ、プーピー虫のウンコと言われるだけなので誰にも見せずにコツコツ作り続けた。もはや趣味と化していた。いや趣味どころか職人に近い意気込みである。ウンコ職人だ。


「なにしてるの」


 今日も朝から裏庭でコソコソとウンコ作りに励んでいたところ、後ろから声をかけられた。

 顔だけ向けると、そこには茶髪でエメラルドグリーンの瞳の気が強そうだけど、とても可愛らしい男の子がいた。久々に会う腹違いの3つ年下の弟である。


「ひみつ」と言って、ウンコ作りを再開する。どうせプーピー虫のウンコって言うんでしょと拗ねた気持ちがあった。

 ピカピカにしたら、絵の具で色を塗り始める。今回のテーマは地球である。弟はすぐいなくなるだろうと、無視して青と緑で塗りすすめていく。

「綺麗、宝石みたい」と後ろから聞こえた。振り返ると弟がキラキラした目で私の作品を見ていた。その純粋な瞳と褒め言葉に私は胸を撃ち抜かれた。


「あんたはよくわかってる。その反応を待ってたの。これは決してウンコではない」


 私は歓喜して、弟と握手をした。そして、感動のあまり、「内緒ね」と言って、テーマ地球(泥団子)を無理矢理プレゼントした。


 そんな弟との心温まるやりとりがあった1週間後に事件がおきた。こっそりとバレないように作り続けた作品たちがついにバレたのだ。

「プーピー虫が裏庭に大量発生しているのか!?」

「こんな大量の糞になぜだれも気づかなかったんだ?」

「だれかプーピー虫を見た者はいるのか?」

「こんな大量にいるとなると駆除が大変だな」

「みろ、プーピー虫の糞にしてはカラフルだ。新種か?」

「生物学者を呼んだ方がいいか」

 屋敷の使用人たちが裏庭に集まり、相談している。やばいことになった。しかし、今更名乗り出ることは出来ない。プーピー虫の糞ではなく、わたしが作りました。そんなことを言っては、クレイジーなやつだと思われて屋敷から追い出されるかもしれない。

 結果、素知らぬふりをすることにした。

 素知らぬふりをしたことは良いが、気がかりなのは弟である。口止めをしないといけない。


 人がいないときを見計らい、屋根裏部屋に弟を拉致した。

 屋根裏部屋のマイルームを見て、戸惑っている。

「いい?この前あげた私の作品は内緒にしてよね。裏庭に作ったのも私が作ったって内緒ね」

 弟は何かに悩むように眉をしかめて、わかったと頷いた。

「内緒にするかわりに、またここに遊びに来ていい?」と交渉してきた。

 やはり、私の作品を好きな弟はわかるか。

 今や、この屋根裏部屋はマイワールドになりつつある。前世を思い出して制作したのが泥団子だけというのはアレなので、コツコツ、ブランコやハンモックやテントなどを自作し、屋根裏部屋においている。テーマは秘密基地だ。それだけではない。コツコツ集めた様々なコレクションもある。おぼっちゃまには魅力的に見えるだろう。屋敷が無駄に広すぎるため、屋根裏部屋も無駄に大きいからできる所業だ。

 弟の反応に機嫌を良くした私は、よい、と許可した。

 すると弟は週に一回はくるようになった。来すぎだ。

 ちなみにプーピー虫事件はプーピー虫が見当たらないため、未解決事件となっているそうだ。ウンコは処分された。本当は泥団子なんだけどね。


 弟はお気に入りのハンモックやブランコに乗りながら家族の愚痴を言って帰っていく。5歳の男の子なんて鼻くそを食べて、ウンコチンチンとか言ってゲラゲラ笑ってるイメージなのに、この弟は大人びている。

 しかし、弟が家族の愚痴をいうせいで、同じ屋敷に住んでいながら疎遠で全貌が見えなかった家族の性格がだいたい分かってきた。


 父は典型的な放蕩貴族らしい。仕事はできるらしいがあまり家庭には興味がなく仕事以外は遊び歩いているようだ。母は対極的で真面目で潔癖で教育熱心。11歳の兄は母親似で生真面目。私の1歳下の妹は精神が不安定で時々ヒステリーを起こすらしい。


 弟の唯一の心の拠り所は友人で、家族ぐるみで仲の良い歳の近い貴族の幼馴染がいるそうだ。遊びについて色々聞かれたので鬼ごっこやカードゲームなどのアドバイスをした。最初はツンケンして猫のような態度の弟だったが、一緒に遊んでやると、段々懐いてきて可愛くなってきた。

 学校がない日は暇すぎて、庭師のじっちゃんと一緒に庭いじりを手伝っている。日焼けしないように帽子を深く被って、じっちゃんとだべりながら雑草を抜いていたら、「ペグ」と声をかけられて振り向くと弟と双子の男の子がいた。ちなみに弟からはペグと呼ばれている。

「この前言ってたドロケイやりたい」

「いいけど、4人じゃ少ないよ」

 と私が言うと、弟は一瞬悩むそぶりを見せて、双子を引き連れて、去って行った。

 また雑草を抜きながら、じっちゃんから昔話を聞き出していたら「ペグ」とまた声をかけられた。

 振り向くと弟が双子と、年上の男の子を2人連れてきた。1人は久々に会う兄だ。もう1人は双子にそっくりなのでおそらく双子の兄だろう。

「じっちゃん、遊んでくる」と声をかけて、バラ園の真ん中で5人にドロケイの説明をする。幼児チームはノリノリで目を輝かせているが、巻き込まれた兄チームは戸惑っている様子だが、無視をして話を進める。最初なので私が警察役をして、ヨーイドンすると、幼児チームはキャーキャーと可愛く叫びながら、逃げ始めた。逃げ遅れた兄を捕まえて、牢屋(バラ園の真ん中)に連行する。双子の兄は戸惑いながら、逃げることにしたらしい。

「ハッハッハ、泥棒はどこかな?」

 迷路のようになっているバラ園で、幼児チームはいる場所がバレバレだ。近くでわざと大声を出して探しているふりをするとキャーと喜んで逃げる。可愛すぎる。分かる通り、幼児チームは戦力外だ。

 油断ならないのは双子の兄だ。気配がない。幼児チームを時々かまってやりつつ、双子の兄に意識を集中する。

 しばらくすると、幼児チーム3人が私の前に姿を現した。弟が中心で左右に双子がいる。双子の兄は見えない。ここで油断してた幼児チームがまさかの行動に出た。3人とも捕まってる兄めがけて走り始めたのだ。

 こうなったら、これしかない。乱獲じゃあ〜!

 キャーキャー喜ぶ幼児3人まとめて捕まえて、牢屋をみると兄はいなかった。やられた。

 まぁそんなこんなで遊んでたら、兄と双子兄と戦いの中で友情が芽生えた。そして元気すぎる双子は私にめちゃくちゃなついた。

 双子が帰る時間になり、お別れの挨拶をしてるときに、「では、また。お兄様と弟よ」と言うと兄はめちゃくちゃ驚いていた。

 もしや、あれか。庭師の孫と勘違いしてたんか。腹違いの妹とは気付かないで遊んでたのか。まぁ数回しか会ったことないし、しょうがないけど。

 こうして、双子兄弟が訪れた時は兄と定期的に遊ぶようになっていった。それでもくそ真面目で、寡黙な兄だから、必要最低限しか話さない。つまらない男だ。むしろ、スポーツマンタイプで明るい双子兄と仲良くなり、「お兄ちゃん」と「ペグちゃん」と呼び合うぐらいの仲となった。


「この売女!!お兄様とアルフレッドに色目を使って!!」


 ここで登場したのは1歳下の妹。茶髪の可愛らしい少女であるが、すっごい怒ってる。おこである。最近は何故か遭遇率が高い上に、毎回イチャモンをつけられる。言いたいだけ言わせておけば、そのうちいなくなるから、無害ではある。

 ちなみにアルフレッドは弟だ。

 数えてはないが、怒鳴られ続けるのが100回くらいになった頃、変化があらわれた。


「なんで、あなたみたいな売女の娘が!なんで、私が!!」


 怒鳴りながら感情が高ぶりすぎたせいか涙目になっている。泣かれたら困る。不義の子どもが、本妻の子どもを泣かしたとバレたあかつきには、折檻される可能性がある。されたことないけど。そんな物語をみた気がする。

 ポロポロ泣き始めた妹の腕を引っ張り、無理やり屋根裏部屋に押し込んだ。

 泣いてヒステリックに私を罵る妹を椅子に座らせて、妹の話に耳を傾ける。

 父の生き写しのように、ブロンドの髪でエメラルドグリーンの瞳をもつ不義の子の私と、本妻の子でありながら、母似で茶髪で茶色の瞳の妹。つまり劣等感が刺激され、攻撃的なのだ。

 泣きが徐々におさまってきたところで、魔法石でお湯を沸かして、紅茶をつくり、前世を思い出しながら作ったキャラメルポップコーンを妹の前に出してみた。


「わかったから、食べて落ち着こう」


 そういうと怪訝そうな顔をしながらも、好奇心が上回ったのかポップコーンに手を出した。美味しかったのか、目を見開き、2個目、3個目と次々と口に放り込んでいく。ちょっと可愛い。前世は破天荒なホストの兄しかいなかったから姉妹に憧れていた。

 姉らしいことを言ってみたくなった。


「ストレスがたまったら甘いものが1番よ。悲しくなったら、甘いもの用意しておくから、食べにおいで。まぁストレスの原因が私だけならごめんね。あんまり顔合わせないようにするからさ」


 手作りのチョコチップクッキーも出すとキラキラと目を輝かす。チョコ系も好きなようだ。

 チョコチップクッキーを2枚食べて、紅茶を飲んだ後、口をちょっと尖らせて睨みながら「私まで懐柔しようとしてもそうは行かないんだから。またあなたを監視するためにここに来ますからね!」と啖呵を切って出て行った。わかりやすくツンデレな妹である。

 この出来事から妹は弟と一緒にこの屋根裏部屋によくくるようになった。弟いわくヒステリックで困った姉だったけど屋根裏部屋にくるようになってからヒステリーはちょっとずつ改善してるらしい。糖分が足りなかったのかと、可愛い妹のためにせっせとお菓子作りに精を出すことにした。可愛いらしい動物を描いたアイシングクッキーやカラフルなカップケーキにはそれはもう年頃の女の子らしく喜んでくれて、ツンデレだったのが最近はデレが強くなってきている。

 懐いてくれたらそれはもう可愛くなり、わたしも初めての妹という存在をベタベタに甘やかしている。


 妹の話によると義母は同じ女だからか妹に対してとても厳しく、妹は負担になっているそうである。弟や兄のように気心知れた友人がいればいいが、人見知りでありながら気が強い妹は上っ面だけの友人しかいないようだ。結果、唯一無二の仲良しの姉妹となった。交流をはじめてから半年は双子みたいに一緒にいればペタッとお互い寄り添って、女子の会話をする。メイドのアンナの妹のマーサはサバサバ系だから、こんな風に女子とイチャイチャ出来なかったから嬉しい。恋バナとかないか聞いたら、好きな人はいないが、いま貴族のご令嬢の中で人気な令息は、5人くらいいるらしい。

 1人はなんとクソ真面目な兄。父と私と同じブロンドにエメラルドグリーンの瞳をもち、端正な顔立ちかつクールで素敵だと言われているそう。2人目は王太子。黒髪で青い瞳でかっこよくて優しいらしい。あと、他3人の説明をされたが、そこらへんで興味がなくなり、頑張って説明する妹の顔を可愛いなぁと思いながら適当に相槌を打っていた。


 そうやって色んな人と交流を深めていたり、学校生活を楽しんだり、プライベートを充実されていたら、あっという間に10歳になってしまった。


「お前も一応私の血を引いているからな。王宮に行くぞ」


 お久しぶりな父に呼び出されたら、いきなりそう言われた。すっかり忘れていたが、私が見つかるきっかけになった神宝樹のことらしい。スキルをもらえるのは楽しみである。父に言われて、王宮に行く際の服を仕立ててもらうこととなった。グレーのレースがついたアフタヌーンドレスだが、髪色が明るいため、あんまり地味に見えないし、まぁまぁの仕上がりとなった。

 だれもなにも教えてくれないので、兄にこっそり神宝樹でスキルもらうための手順を聞いてみたが、手順もなにもなく神宝樹の前に立つだけでよいとのことなので、安心した。


 そしてついに神宝樹様とご対面の日である。家族と一緒に王宮に向かう。道中、全員無言である。ギクシャク感が半端ない。話を盛り上げる自信はあるが、不義の子どもである私が盛り上げたら、だめだと思うので自重した。


 王様へ謁見しご挨拶してから神宝樹のところに向かうらしい。手順とかないとか言っていたのに、いきなり困る。作法もなにも知らないよ。とりあえず、王様がいる謁見所に案内され、横目で妹を見ながら真似をすることにした。

 王様の前にきたら、妹の真似をしてカーテシーをする。見よう見まねでプルプルである。

 王様の近くには男の子が1人たっていた。おそらく王太子である。

「顔を上げよ」と言われ、プルプルのまま顔を上げる際に、その男の子と目があったが、すぐに王様に目線を向けた。

 王様から、入学式、卒業式小学校の校長先生みたいなこと(〜を励んで〜うんちゃらかんちゃら)言われたが、カーテシーの体勢がキツすぎて聞いてなかった。プルプルふるえながら「はい、励みます。ありがとうございました」とだけ答えて、謁見は終わった。

 神官らしき人についていき、厳重に管理された神宝樹の前についた。はじめてみた神宝樹は荘厳美麗の一言だ。樹齢何千年と言っても過言ではないほどの大きさと逞しさ。かつ生き生きとしていて、この樹の前に立つと、心が洗われるような気になる。パワースポットだ。つい一礼して目を伏せて合掌してしまった。すると身体の奥から力が湧いてくるような感覚になった。

 すると神官らしき人が私の額を触り

「これは珍しい。創造のスキルですね」

 と言われた。ぶっちゃけよくわからない。


 家に帰ってから、兄にスキルの使い方聞くと、スキルは人によって発動条件ややり方が違うからよくわからないと言われた。

 スキルをもらったのはいいものの持て余していたら、屋根裏部屋に遊びに来た弟がもっと面白い遊びをしたいと言ってきた。7歳になった弟が喜ぶ遊びを考えたら、人生ゲームが思いついた。しかし、物品を揃えるのは大変だなぁ。まずはボードを作らないとダメか。とボードを頭に思い浮かべた。4角で、ルーレットがあって、マス目があって…。

「ペグ!これなに!?」

 弟に声をかけられて、ハッと目を向けると、目の前にボードが浮いていた。手にとると私の想像していたものと同じものだ。クオリティはかなり低い。創造のスキルってこういうことなん?

 コマを想像すると、3Dプリンターみたいに目の前で想像したとおりのコマが出来上がった。

 他のものも何度か試したが、想像力が乏しいとクオリティが低いものしか出来上がらないらしい。

 創造のスキルをキラキラした目で見てた弟に、日本でよくラーメン屋のおまけのおもちゃでもらう、光るプラスティックの剣を作ってあげたら、めちゃくちゃ喜んでいた。

 そこからはスキルを使いこなそうと日々鍛錬の毎日だった。


 スキルを磨きまくり、気がついたら12歳である。

 この創造のスキルは私のやる気と想像力しだいで精度に差が出るのがわかり、これ作って!と頼まれても、興味が全くないものは微妙な仕上がりになる。しかし、すごい作りたいと思ったものはとんでもない精度の高い仕上がりになる。いまや、通ってる小学校では人気者である。お金のかからない、おもちゃ屋として。

 木のおもちゃや人形遊びぐらいしかないこの世界で、日本のおもちゃを売れば、爆発的に売れると思うが、経営はさっぱりわからず、スポンサーがいるわけでもないので、無料配布だ。平民からお金を取るのはなんか申し訳ないし。


 ある日、校長先生から呼び出された。無料配布しているおもちゃで怒られるのかとドキドキしながら話を聞きに行った。

 ハゲ散らかした校長先生が頭を撫でながら話した。

「ある高貴なお方から、平民、貴族関係なく優秀な生徒は公平に学ぶべきというありがたいお言葉をいただいた。さらには、この学校の優秀な生徒をぜひパブリックスクールの中等部に編入させて欲しいと言われて、君が名指しされた」

 ちなみにパブリックスクールは弟や兄が通う優秀な貴族たちが通う名門校だ。優秀な人材を輩出しているという。

「なんで私なんですか?」

 スキルはあるし、魔法は好きだが、優秀とは程遠い成績である。私がそうたずねると、校長先生も困った顔をした。

「わからん。なんで君なのか」

 校長先生もわからないらしい。そもそも私は平民枠としては微妙なところだ。半分貴族の血が入っているし。

「頭の良さなら総合的にクリスが1番いいし、魔術は私以上にマーサが得意です。剣術にいたっては、ロイが1番です」

「そうだな……私もそう思うよ。なんで君の名前が出たかわからないが、うちにはもっと優秀な生徒がいますとかけ合ってみる」

 そう言って校長先生は頭をかかえた。残り少ない髪がなくなりそうで心配だ。


 その話を忘れた頃に、呼び出された。クリスとマーサとロイもだ。少し嫌な予感がする。

「ある高貴なお方が、平民、貴族関係なく優秀な生徒は公平に学ぶべきという考えをお持ちであり、光栄なことに、この学校の優秀な生徒をぜひパブリックスクールの中等部に編入させて欲しいと言われて、君たちが選ばれた」

 みんな目が点である。そらそうだ。

「そ、それは光栄なことですが、金銭面などは?」

 しっかり者のマーサが尋ねる

「学費、教材費、学食費、寮の費用、つまり学校に行くにあたっての費用を負担してくれるらしい。しかし、せっかくいただいたチャンスだ。学校に通うと決めたら、頑張らないと行けない、それを約束できないとダメだ」

 マーサとクリスは目をキラキラさせて、「行きます!」と返答した。

 私とロイは、戸惑いながらお互いに目線合わせた。

「俺は剣術しか得意じゃないから。ぶっちゃけ勉強頑張ってもバカだから良い成績とれるか自信ないです。だから遠慮します」

 自信なさげに言うロイに続いて私も続く。

「私は逆に魔法は好きだけど、マーサとクリスの2人よりは成績良くないし、ロイみたいに剣術も得意じゃないし。遠慮します」

 そう言うと校長先生はハゲ頭を抱えた。うなりながら、「わかった。そう返答する」と言って退室を促された。校長先生、前回より髪が薄くなってる気がする。


 数週間たち、また校長先生に呼び出された。ロイも一緒だ。

「好きな分野をパブリックスクールで学ぶいい機会だ!嫌いな分野を無理に頑張る必要はない。お願いだ、編入してくれ!」

 変な圧力がかかっているのだろうか。三回目にして校長先生のハゲ頭が脂汗でテカテカしている。

 ロイと私は目配せする。

 ロイは「それは光栄ですが、なぜそんなに俺らを?」と聞いた。

「高貴なお方の考えは私にもわからん!その方いわく、マーサとクリスは男女で2人だけの平民は寂しいだろうから、優秀じゃなくても、ぜひ君たちも入れて欲しいと言われた。お願いだ!もう胃に穴があきそうだ」

 胃に穴があくならいいけど、ハゲ頭がさらに不毛地帯になりそうなのが心配だし、確かに幼馴染のマーサとクリスが平民のいない貴族の中で2人だけでやっていくのは心配だ。確かに平民のそれぞれ男女の友人がいてくれたら心強いだろう。

「自分の能力以上に頑張れって言わないなら、行きます」と私は答え、ロイも同じように返答した。

 マーサとクリスに私とロイもやっぱり編入することを伝えたら、2人ともめちゃくちゃ喜んでいた。

 そして、高貴の方のゴリ押し具合にみんなで首を傾げた。

「ありがたいことだけど、なんか思惑があるように感じるわね」とマーサ。

「あしながおじさんなんじゃない?」

 と私が言うと、全員が「あしながおじさん?」と聞き返してきた。しまった。前世の知識だった。しらばっくれるしかない。

「え、あしながおじさん知らないの?じゃあ、うでみじかおじさんも知らないわけ?」

 というと、また変なこと言ってるよ、みたいな目線を3人からもらい、見事スルーしてもらえた。


 お嬢様学校に通う妹に、パブリックスクールに通えるようになったことを話すと色々情報をくれた。

 王太子と、王太子の婚約者候補の公爵令嬢が私と同級生でいるらしい。パブリックスクールは優秀な生徒しか通えないので少数精鋭で、1学年に2クラスしかいない。平民が4人入れるのは異例中の異例。

 そんなところに入るのは怖すぎる。授業についていけない自信があった。


 そしてパブリックスクールに編入する日。同じ制服を着ていても貴族のご令息、ご令嬢はオーラが違うし、あんまり無駄な会話をしていない。唯一、マーサと私はおしゃべりしていた。

「メグ、この雰囲気に馴染んでいるのをみると、あなたは親しみやすいけど、やっぱり貴族ね」

 メグとは私のあだ名である。

「そう?あ、見た目の話?見た目はそりゃ父親似だからね。だけど、中身は貴族とはかけ離れてるでしょ」

 とお茶目にウィンクすると、マーサが軽く笑った。

「そらね。なんせあなたはプーピー虫のアレを作っちゃう変人なんだもの。それにしても、クリス緊張しすぎじゃない?」

 いまだにプーピー虫のうんこ事件はネタにされる。マーサがいうので、後ろをみたらクリスは教科書を読んでいたが、いつもの穏やかな雰囲気ではなく身体中に力を入れているようにガチガチに緊張していた。ロイは早速寝ている。

「まかせて。クリスの緊張をほぐしてくる」

 私はそう言うと、クリスの席まで行き、教科書を見ているクリスの肩を叩いた。私は顔をうつむかせて、クリスがこちらをみたタイミングで、顔を上げた。

「おにがわら」

 某芸人の持ち芸をパクった。白目に顔をクシャクシャにしかめて、顎をしゃくらせた。つまり変顔である。クリスの反応がないので、白目を戻してクリスを見たら、クリスは笑いをこらえた顔でこちらを見てた。クリスは私のこの変顔が大好きなのだ。

 成功である。満足して席に戻ろうとしたら、クリスの後ろの席の黒髪のイケメンと目があった。ポカンと口を開けてこっちを見ていた。

 なに見てんだこのやろ。

 また、「おにがわら」をして黒髪イケメンを牽制すると、黒髪イケメンはビクッと身体を震わせた。

 びびったか。不敵な笑みを浮かべて自席に戻った。


 始まった学生生活はそれは楽しい毎日だった。と言いたいところだが、実際は地獄だった。授業が終わるたび、ロイが私のところにきて、「メグ、やばい。わかんない」と報告してきて、「私もわからない」と報告し返して、安心するという意味不明なルーティンが出来た。このままわたしたちが劣等生となったら、どうするつもりだ、うでみじかおじさん。


 生徒会もあるらしく、クラス役員がそれを担うらしい。つまりクラス役員になるとめんどくさいってことだ。

 黒髪イケメンが立候補し、終了かと思いきや、女子のクラス役員も必要らしい。だれかはよ立候補してくれ、と思ってたら、前の席の赤毛の美少女が手を上げた。よし、終了だ、と思った矢先の出来事だった。

「マーガレットさんがクラス役員に適してると思います」とのたまった。

 いきなりの発言に私は椅子からずっこけそうになった。

 新手のいじめか。

 仲間うちで「〇〇くんがいいと思いまーすw」「やめろよーw」みたいなノリならわかるが、赤毛の美少女は話したことすらない。

「ムリですムリですムリですムリです。勘弁してください」

 と、断固拒否してるとロイやマーサやクリスが加勢してくれた。

「メグは、面白くてユーモアもあるし、ムードメーカーだけど、役員とは程遠い性格なので、別の人がいいと思います」と。

 わかってるじゃないか。その通りだ。

 結局、私がクラス役員という話は流れて、逆に赤毛美少女がクラス役員に決まった。

 あの美少女は一体なんだったのか。

 ちなみにクラス全員、クラスメイトに向かって自己紹介はしたが、人の名前が覚えるのが苦手すぎて名前は覚えていない。

 マーサの情報によると、黒髪イケメンは王太子で、赤毛美少女は王太子の婚約者候補の公爵令嬢らしい。なんで平民4人と同じクラスなのか甚だ疑問に思う。

 最初は平民だからか遠巻きに見られていた4人だが、授業などで交流を深めることでクラスメイトとも少しずつ仲良くなっていった。バカだが、ガキ大将で兄貴肌のロイはなぜか人気者だ。

 私はといえば、何故か異様に赤毛美少女に詮索されるように絡まれることが多かった。

 そして、学校生活といえば逃げきれないものがある。それは試験である。

 案の定、ロイが下から2番目で私が下から3番目であった。5点くらいの差であるが、ロイが私に負けたのを悔しがっていた。

 担任に呼び出されて説教されたが、私とロイからしたら、最下位じゃないの、すごくね?だ。逆に最下位が気になる。


 赤点組が集められて、スパルタの補習の毎日でロイと死にそうになっていた時、赤毛美少女に呼び出された。

「あなたは素質はあるのに、なぜできないのかしら」

 赤毛美少女の話によると私は素質があるらしい。自分でも知らなかった。

「このままでは、ようやくあなたを探し出して、この学校にいれた意味がなくなるわ。お父様には頼み込んだのに」

 小学校のハゲ校長が言ってた高貴なお方はこの方だったようだ。うでみじかおじさんは君だったのか。

「なんで、私なんですか?」

 赤毛美少女は私を見透かすように、まじまじとみて、言った。

「あなたはドアマットヒロインだからよ。

 あなた転生したのでしょう。私も一緒よ。あなたは虐げられながらも、健気に一生懸命生き抜いて、最後に愛を勝ち取るヒロインなのよ。それなのにあなたは」


「ちょっと待って」私は言葉を遮った。「私は何ヒロインって言ったの?」

「ドアマットよ」

「ドアマット?」

「そうよ。ドアマットヒロイン」

「なにそれ?」


 赤毛美少女の話によると、ドアマットみたいに踏みつけられるように虐げられる物語のヒロインのことのようだ。


「えー。やだ、それ。それであなたは私がドアマットヒロインって言ってるの?」

「そうよ。実際にそうでしょ。調べたわよ。家族からは無視されて、屋根裏部屋に住んでて、使用人として働いてたり、平民として学校に行ってたりしてるんでしょ」

「まぁあながち間違いじゃないけど、ドアマットではないと思う」

「じゃあ、なんだというの」

「えー、空飛ぶ絨毯とか?空飛ぶ絨毯ヒロインってセンス良くない?踏まれそうになっても空飛んで自由に生きる的な」

「良くないわよ。全然上手いこと言えてないわ」

「じゃあ、ハンモックヒロイン」

「その心は?」

「押されても、ゆらゆら揺れてご機嫌ヒロイン」

「意味わからないわ」

「じゃあ、自動ドアヒロイン」

 次から次に出てくるボケにツッコミつかれたのか、赤毛美少女は無言になった。

「だめ?じゃあ、バスマットヒロインとか」

 私が色々提案すると、赤毛美少女は「もういいわよ!空飛ぶ絨毯ヒロインで!」と妥協してくれたので、空飛ぶ絨毯ヒロインで決定した。まだ色々話したそうな赤毛美少女だったが、こちらはスパルタ補習後でHP 0だ。また今度、と言って赤毛美少女とわかれた。


 スパルタ補習がようやく終わり、心に余裕ができた頃に、また赤毛美少女に声をかけられた。

「おっ、空飛ぶ絨毯ヒロインさん。どした?」と私が言うと「それはわたしじゃないわ!あなたよ!」とめちゃくちゃキレられた。

 赤毛美少女によると、どうやら私はヒーローを攻略しないといけないらしい。

 王太子を狙えと、この美少女はおっしゃっている。

「えー、ムリムリムリ。おにがわらしちゃったし」

「なによおにがわらって」

「おにがわら」変顔を見せると、赤毛美少女がフリーズした。

「はあ!?なんで、それを王太子にしたのよ」

「なんでだっけ」

 わたしがそういうと赤毛美少女は頭を抱えた。

 とりあえず物語の進行上必要だから、王太子と仲良くなれと言われて、赤毛美少女に見張られながら、王太子に声をかけないといけなくなった。

「あのー」と声をかけると、奇怪な生物をみてしまった!みたいな顔をしたので、何故かイラッとしておにがわらして威嚇した。

「マーガレット!」赤毛美少女に頭をチョップされた。「殿下、申し訳ありません。これは、その、ちょっと、色々ありまして。この子は普段はこんなことしないのです。照れちゃだめよ、マーガレット」なぜか赤毛美少女が王太子に謝罪と弁明をする。

「これが私だ」

 マーガレットを無視して王太子に対して、おにがわらを繰り出し続ける。

「マーガレット、いい加減にして!」

「レティ、その子は…呪いでもかかっているんだろうか?」

 王太子は、私のことを心配そうに見つめる。

「そう、呪いなのです!普段はこんな子ではないんです。かわいそうに…」

 違うと言いたいところだが、赤毛美少女に口をおさえられて話せない。

 そして、赤毛美少女に腕を引っ張られて連行された。


「なんでおにがわらしちゃうの!物語の進行がぐちゃぐちゃじゃないの」

「そもそも物語ってなに」

 赤毛美少女こと公爵令嬢スカーレットの話によると、この世界は日本のある小説と同じ世界だそうだ。ラノベとか言われたが、よくわからない。

 その物語は、ブロンドにエメラルドグリーンの瞳で儚さがある美少女がヒロインで、伯爵と愛人の娼婦の不義の子として産まれた。母が死に、幼いながら身売りせねばならないところで、伯爵家からお迎えがくる。伯爵家の息子に神宝樹のスキルを授けるには血のつながりのある者全員をつれていかないとダメだからだ。伯爵家に迎えられたのは良かったが、屋根裏部屋で使用人のように扱われる。無関心な父と義母、無視を決め込む兄、陰湿な意地悪をしてくる妹と弟、使用人にもぞんざいな扱いを受け、四面楚歌状態だった。唯一、こっそり通っていた平民の学校では成績優秀で、勉強だけが生きがいであった。10歳のスキルでは珍しい創造のスキルで、勤勉な性格もあり、スキルを極め、優秀なのもあり、学校の先生たちからの推薦でパブリックスクールに編入することとなった。王太子と同じクラスになり、優秀なヒロインに興味を持った王太子と仲良くなる。しかし、良く思わなかった婚約者候補がヒロインをいじめ倒して、学校生活が居心地の悪いものとなる。そんな中でも王太子とヒロインは交流していき、惹かれ合うが、公爵令嬢の悪巧みで卒業後、ヒロインは粗暴と言われる辺境伯に嫁がされることとなる。辺境伯は、無理やり嫁いできた王太子をたぶらかしていたという悪い噂のある嫁を両手広げて歓迎するような懐の広さはなく、ヒロインには白い結婚とし3年後に離縁するのでここから出てくるように伝え、それ以降、冷遇するようになる。しかしヒロインはめげずに新しい環境でも健気に頑張り続ける。その美しい生き様に辺境伯が悪い噂は嘘だと気づき、ヒロインに惹かれ始めるが、不器用な辺境伯はヒロインにうまくアプローチ出来ないままだった。そして3年がたち、ヒロインは離縁届を置いていなくなった。王太子はヒロインが辺境伯のところで冷遇されていた事実をようやく知り、初恋の相手であるヒロインの手助けをしようとしていたが、そのときには辺境伯のもとから主人公が出て行ったあとの話だった。イケメン優男な王太子とワイルド色男の辺境伯がヒロインを探し始める。自由になったヒロインは平民として他国で暮らし始める。すると兄の友人でよく屋敷にきていたヒロインの初恋の人と偶然出会う。どうなる、この四角関係!

「という胸熱展開になるの!」

 鼻息を荒くしながら、スカーレットは説明をした。

「で、どうなるの?」

「そこまでしか知らないのよ。だから、その先を知りたいの。だから、あなたは王太子と仲良くなって、私が画策して、辺境伯と結婚するのよ」

「無理」

「なぜ無理なの?」

「私、好きな人いるから」

「え!?」

 スカーレットが目を見開かせた。

「誰なの?」

「言わない」と私が言うとスカーレットは唇を尖らせて、すねた表情をみせた。

「とりあえず、あなたの言う物語ってさ、なんなの?私たちがその物語の世界にいるってこと?確かにその主人公は私の人生に少し似てるけど、ちょっと違うよ」

「それは、私たちが転生者で、物語と違う行動をしてるからじゃない」

「転生者であるにしろ、私は私でしょ。今を楽しく生きようよ」

 そういうと、スカーレットは黙り込み、返事をしなかった。「じゃあね」と言って、スカーレットの前から去った。


夕日が差し込む放課後の教室に戻り、自分の席に座って、肘をついて目をつぶって、ある人物を想像する。

 目を開けて、創造のスキルで目の前で作られたある人物のフィギュアを手に取る。

 薄い茶髪で、優しいタレ目。笑うとさらに目元が垂れてもっと優しい印象になる。最近はさらに身長が伸びて、体つきが男の子らしくなってきた。

 クリスである。


 前世の母は若くして子どもを産み、父とは結婚したのは良いが、喧嘩が絶えずに私が小さい頃に親は離婚した。シングルマザーとなった母は外に彼氏をつくり、子どもたちを放置していた。5歳離れた兄は私を可愛がってくれていたが、思春期に入ったら典型的にグレてあまり家に寄りつかなくなった。私は高校にも満足に行くことが出来ず、生計をたてるためにアルバイトしながら、芸人になることにした。芸人になれば、幸運なことに人気が出て、生活は楽になったが、仕事が忙しくて、プライベートを楽しむ余裕のないまま、ぽっくりと逝ってしまった。

 青春という青春をしないまま、前世を終えた。

 今はどうだろう。不義の子と言われたが、家はあるし、家族もいるし関係も悪くはない。友達もいるし、青春らしい青春をしている気がする。恋だってしている。


 クリスといると癒される。そばにいるとぬるま湯に浸かってるような、ぽわーんとした感覚になる。最初はただそれだけだったが、タレ目で笑いかけられると好きという気持ちが溢れてくるようになり、今や大好きすぎる。クリスが私のことをどう思ってるのかわからない。クリスは優しいから、私だけに優しいわけではない。けど、ジーッと見つめると、ちょっと赤くなってはにかむから、脈はあるんじゃないかと思う。マーサには気持ちがバレてて、クリスは控えめなタイプだけど、私の前だとよく笑ってるから私のことは好きなんじゃないかと言ってくれてる。けど、告白して断られたら怖い。

 けど、こうやってちゃんと恋愛が出来ている自分が嬉しい。前世では出来なかったからだ。

 そのうち他の女の子にとられる前に、告白したいけど、もう少しだけこの片想いをしていたい気持ちもある。けどラブラブもしたい。マーちゃん、クッくん、と呼び合ってイチャイチャしたい気持ちもある。


自分のフィギュアを創り出して、クリスのフィギュアと自分のフィギュアの手を繋がせて抱きつかせてみる。


告白してみようか。

私は空飛ぶ絨毯ヒロインだから、振られても、悲しいけどきっと大丈夫だ。乗り越えられる。


「あれ、メグ。まだ寮帰ってなかったんだ」


クリスが教室に入ってきた。運命としか思えないタイミングだった。私は決心した。


「あのね。私クリスのこと――」


クリスは私の言葉を聞いて、目元を赤らめて、頷いた。


 END

お久しぶりでございます。過去の作品に感想を書いていただいたみなさん、ありがとうございます。ちょっと過去の作品が今以上に拙すぎて、黒歴史となっています。怖がり少女は少しずつ、改稿していきたいと思っています。

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