13 2章目改 プロローグ
なぜ娼婦の母親と伯爵の間にルシエルは生まれたのか。
赤い目の一族の秘密。
それからプシューケーの魔力について触れていく章です。
朝日に照らされながら、ある馬車は揺れる。あぜ道を走らせなければならないことに、イライラしながらその男は乗っていた。
最高級の馬車の席であるのに、クッションがいくらふかふかでも尻が叩かれてとても痛い。
「クソ。なぜこの俺があいつに会わなきゃいけないんだ」
つばを吐き飛ばしながら、一人ごちる。
「大体、あいつが悪い。俺をやたらからかうし、全然可愛げもないんだからな」
それでも、この男には行かなければならぬ理由があった。
王位継承権の剥奪。
父から言い渡さたこと。
「ルシエルと同じぐらいの器量のある女を探せなんて。本当に父上はイかれてる」
あの女と他の令嬢たちの器量の良さを比べれば明白だった。
あの女はとてもムカつくが、男と話すことに戸惑いがない。それどころか、会話の中で人を褒める力がある。おかげで外交関係も、社交界でもヤツの評価は高かった。
「だが、あいつの正体を皆知らないだけだ」
このフィリップ王子には分かりきっていたことだった。ルシエルは外面はできた女であるが、いざプライベートとなると男を下に見るところがある。
特に、この王族でもある俺をからかうなんてことは、ありえないのに、してくるあたり。
『フィリップ殿下は、照れると可愛らしいですね』
『ふふふっ。殿下の頑張りは、皆見習っております。私も貴方様のように頑張らなくてはなりませんね』
いちいちクスクスと笑いながら言ってくるのが、とても意地悪くていやらしい。
ソレが嫌で、俺は愛想のよく可愛い令嬢と添い遂げようとしたのに。
婚約破棄をすれば、父上に怒られる始末。
「ああクソっ…あいつのせいだ。どれも全部…」
男の恨みつらみを乗せたたまま、馬車は走る。
たどり着くのは、黒い魔王城のような公爵家の屋敷。
いつみても庭園は城と変わらないほど丁寧に整えられてはいるが。その屋敷から放たれる、異様な気配は抑えられえいない。
ケルベロスの住む冥界。
馬車から降りた男は、拳を握りながら入っていく。




