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【黒田騒動】新・白縫物語【栗山大膳】  作者: 足音P
第二部 勘解由脱出行
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第八十七回 安川三之丞は流言飛語に惑わされる

 鷲羽屋夫妻を殺した安川三之丞と安川半助の兄弟。

 前当主の安川太兵衛がいきなり切腹したのは、鷲羽屋が太兵衛のことを口汚く罵ったからだと理由をつけることができた。

 非武装無防備の鷲羽屋に押し入り、そこの老夫婦を安川三之丞と安川半助の兄弟が刀を振るって殺したことは正式な仇討ちとして認定された。

 ┅┅そこまで罵られたのなら太兵衛自身が即座に刀を抜くべきだったのでは?

 自己責任論。

 しかし、不快な被支配階級が現れたとき、支配階級がそれに問答無用に素早く強烈な圧力を加えて見せたというのは、この時代の秩序維持に対する貢献である。

 親戚である大目付の星野宗右衛門の後ろ盾もあり、安川兄弟は自分たちの功績を言い立てることができた。

 無罪放免どころ城からか仇討ちの報奨金まで勝ち取った。


   *  *


 安川の屋敷において、太兵衛の跡を無事に継いだ三之丞が弟の半助を呼び出す。

 曰く。

「これ、半助や。最近に変な噂が流れておるわい」

「いかなる噂で?」

「例の父上の欲しがっていた掛け軸を賭けて、暮れに牧山の浜近く猿田彦大神で、伊達五郎が豊前の四郎丸なる男と相撲勝負をすることになっておる」

 はっはっは、と半助は声をあげて笑う。

「勝ったも同然です。伊達五郎は藩のお抱え力士。相撲で負けるはずがない」

 それがだな、と三之丞は言う。

「伊達五郎は人の情けをふんだんに持ち合わせている。

 内心に俺たちが鷲羽屋のジジイとババアを殺したことに腹を立て、俺たちに掛け軸を渡さないために、土俵でわざと転ぶやも。

 鷲羽屋のジジイとババアは貧しい者たちに人気があったらしいからのう。そういうこと言う者たちがおるらしい」

「人の情け」

 半助は目を丸くした。

「ふざけたあの鷲羽屋のジジイとババアを始末したことの何が悪い。

 鷲羽屋は、思わぬ幸運で千両の大金を手に入れて、博多の貧しい者たちに金を配っていた。

 身分の低い者が出しゃばった振る舞い。父上のことがなくても、鷲羽屋のジジイとババアは斬るべきだった」

 にっこり三之丞は笑う。

「噂の出どころは、鷲羽屋から金をもらっていた貧しいクズたちだろうな、おそらく」

「おそらく」

 と、半助はうなずく。


 三之丞は言う。

「しかし、注意せねばならん。

 伊達五郎も、一人で格好をつけるのが大好きで、くだらん情に流されることがある。

 あいつの妹が玄之丞に殺されたときには、あいつは法も何もかも無視して、妹を殺した玄之丞を斬り、その新しい女の西淵屋の翠を殺した」

 はい、と半助はうなずいた。

「西淵屋の翠の件については、伊達五郎の罪をもみけすのに宗右衛門さまも大変だったと宗右衛門さまからうかがっております」

 そこよ、と三之丞は語気を強めた。

「伊達五郎が貧しいクズたちから『人の情けがわかる』とおだてられ、本当に変な気を起こすようなことがあっては困る。

 相撲勝負の場では奴が手を抜かないように、俺かお前のどちらかが見張った方がいいだろう。

 暮れの頃には、安川家の当主である俺はお城からの用事を承るであろう。お前に例の猿田彦大神の相撲勝負とやらに顔を出してほしい」

 わかりました、と半助は頭をさげる。

「俺の眼力でもって圧を加えてやります。伊達五郎が手を抜かないように」


   *  *


 勝烏の黒八を起点とする阿修羅丸一家の情報工作に安川兄弟は見事に引っ掛けられた。

 安川兄弟は当日に半助が出向くから土俵近くに特別の席を用意しろと猿田彦大神の側に要求した。

 猿田彦大神の権禰宜にして阿修羅丸一家の側に肩入れする吉田斎は、シメシメと内心にほくそ笑みながら、安川兄弟の要求を受け入れた。

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