第八十四回 愚連八と摩耶蔵と邪魔助は人を集める
阿修羅丸一家の小頭たちの三人が夜の博多の港に呼びだされた。
愚連八。
摩耶蔵。
邪魔助。
いずれも黒八が博多でスリの頭目を勤めていた頃の部下たちである。
「今年の暮れの戸畑の猿田彦大神の相撲大会に人を集めてくれ。
阿修羅丸一家の者が出る。
鷲羽屋のじいさんとばあさんの霊を慰めるため、安川兄弟の手先になっている三笠山伊達五郎から白星を盗み取ってやる」
愚連八は驚きの声をあげた。
「それは俺らも安川兄弟のやってことは許せませんよ」
摩耶造はたずねる。
「阿修羅丸一家の者って誰ですか?」
「そいつは、見てのお楽しみヨ。こちらもすごい男を用意している」
「誰ですか?」
「こいつは他の者たちには秘密だぞ。出るのは四郎さん、わしらの一家の頭目である阿修羅丸さまだ」
邪魔助は興奮して声をあげた。
「すげえや」
黒八の指示。
「どうにか鷲羽屋の縁者を誰か相撲大会に引っ張れないかと思うんだ。他の連中にも声をかけるがね、そちらでも探してくれ。いなければ、それらしく見える者でもいい」
愚連八は首をひねった。
「いったい、どうなさるおつもりで?」
馬鹿、と賢しげに摩耶蔵は言う。
「阿修羅丸さまが善いことをなさろうとしているという芝居のかたちをつくるってわけだ」
「そのとおり」
と黒八はうなずいた。
言葉をつづける。
「鷲羽屋のじいさんとばあさんは阿修羅丸一家のおかげで手に入った千両を、こちらの言ったとおり、博多の貧しい者たちに本当に正直に配っていた。
あのじいさんとばあさんが安川兄弟に殺されたのは、とんでもない災難だった。博多の貧しい者たちは怒っている。
安川兄弟の手先になって例の掛け軸を手に入れようとする三笠山伊達五郎はとんでもない悪党だ。阿修羅丸一家がこらしめてやらなければなるめえ」
なるほど、と邪魔助は言う。
「伊達五郎が負けなければ世の中おかしいという空気をつくれってことですな」
黒八は言った。
「普通にやっても、阿修羅丸さまはお勝ちになられるはずだが、念には念を入れたい。
場の空気が完全にこちら側に寄っていれば、伊達五郎も焦るだろう。伊達五郎が焦って何か間違いをやらかせば、それだけ四郎さんが勝ちやすくなるという寸法だ」
愚連八は笑った。
「四郎さんには派手に勝ってもらいたい」
黒八は惜しげなく小判を配下たちに配る。
「とりあえず四郎さんには土俵での上の勝負のことだけを考えてもらう。下拵えのイタズラはわしらが行う」
邪魔助は言う。
「そういうことでしたら、こちらが用意する鷲羽屋の縁者は、伊達五郎が土俵にあがる前に、立ち上がって喚き散らして一席ぶつような馬鹿がいいかもしれませんな」
「女が面白いかもしれん。化粧をして、白粉で顔を真っ白にして、派手な着物を着て、伊達五郎の顔を見てギャアギャア派手に騒ぐような年増とが」
と、摩耶蔵。
黒八は言う。
「そのあたりはお前らで話し合ってくれ。まかせる」
邪魔助は言う。
「女とかいうのならば、伊達五郎本人がいたぶって殺した翠さんのことを忘れちゃいけねえ。翠さんの親である西淵屋もこの芝居に引き込みたいものですな」
なるほど、と摩耶蔵は声をあげる。
「西淵屋が顔を出せば、伊達五郎だって少しは気が咎めるだろう。仮に伊達五郎が平気でも、伊達五郎は悪役になって場内の客は四郎さんの味方にまわりやすくなる」
愚連八は肩をすくめる。
「ついでに翠さんの怨みも晴らしてやるか」
黒八は配下の男たちを眺めまわす。
「この芝居に引っ張り込めるなら、誰でもかまわん。どんどん引っ張り込んでくれ。今回の件に必要になる金があればわしに言え」




