第六十六回 玄海屋灘右衛門は国盗りを口にす
玄海屋とは、勝烏の黒八は長いつきあいがある。
黒八が昔に博多でスリの元締めをやっていた頃から盗品の買い取りを頼んでいた。
天竺から羅馬の品まで扱う男。
竺羅の沖松。
今の阿修羅丸一家でも玄海屋はそう呼ばれている。
戦国の時代には、玄海屋は海賊を兼ねた商人であった。
今では、豊前の国で、冲松は玄海屋灘右衛門を名乗り、小倉潘の出入り商人になっていた。
黒八は玄海屋の奉公人として、筑前博多と豊前小倉の間を行ったり来たりしている。
* *
玄海屋の主人である沖松が京都から豊前の玄海屋の本店に戻ってきた。
黒八は、
「ちょいと、黒八さん、旦那さまがお呼びだよ」
と声をかけられて、
「わかりました」
と店の二階に向かうべく階段をトントントンと上がっていた。
そして、黒八は部屋に入る障子を開けて、
「何のご用事で?」
と言った。
目に飛び込んできた沖松の隣にいる人物に驚いた。
「し、白縫大尽さま・・・」
その人物はつい最近に筑前博多で評判だった。
筑前博多に行くことも多かった黒八は、夜の街でその姿を見たことがある。
人と思えぬ妖しい美しさ。
白縫の挨拶。
「はじめてお目にかかる。白縫数真だ。おじいさんが勝烏の黒八さんか?
定村の重器である花形の明鏡を取り戻すには、阿修羅丸一家の者たちが動いてくれなければ難しかったと思う。世話になった」
黒八は目を白黒させた。
とりあえず白縫には頭をさげる。
「いや、どうも、黒八です。こちらは別にあなたさまに礼を言われるような大したことをしたおぼえはございませんが」
そして、沖松に向き直って、黒八は、
「おい、どういうことなんだい、こいつは?」
と問う。
沖松は答えた。
「白縫さまから博多の大盗である阿修羅丸一家に是非にもお願いしたいという仕事があると言うのさ」
「仕事だと?」
「阿修羅丸一家のやり口は鮮やかだ、しかし、ちまちま商人から金を盗むよりも、もっと面白い仕事があるって話ヨ」
「いったい何だ? 話がちっとも見えねえ」
「金を盗むのではなく、国を盗むのサ」
「国を盗むって?」
「秋月の黒田勘解由さまをお助けして筑前から抜け出させて江戸の将軍さまに拝謁させるんだよ。
そうすれぱ、父親の長政さまのご遺言どおり、勘解由さまは大名になり、秋月五万石が新しい国になる。筑前黒田家から秋月を盗る」
ちょっと待て、と黒八は問う。
「そんなことをして白縫さまは何を得る?」
玄海屋は答える。
「白縫さまは、嫡子でこそございませんが、朝廷の陰陽師の定村の種清の御子。定村の家を継ぐことのできる血筋で、朝廷の定村の名跡を復活させたい。
今の朝廷の陰陽頭は柳生者の幸徳井友景さま。黒田勘解由さまも熱心な柳生門下よ。白縫さまも柳生と御縁のある方でな、今回にお連れになられている二人の供も柳生の忍び。
柳生門下の勘解由さまが筑前秋月に新しい国を持てば、柳生者の陰陽頭の幸徳井友景さまもお喜びになられ、朝廷の陰陽師であった定村の家の名跡を復活させることに手を貸してくれよう」
なるほど。
白縫が動く理由としては、十分なものかと思われた。
さらに黒八は問う。
「なぜ、阿修羅丸一家なんだ?」
沖松は答える。
「今、白縫さまの手元の札の中には、強いものはある。
土蜘蛛・化け猫といった並の人間では及びもつかない化生の妖がいる。勘解由さまの側に連絡がつけられる者が一人。あとは柳生忍者が若干名。
しかし、国盗りをやるには、まだ札が足りない。先日の花形の明鏡の件で、白縫さまは阿修羅丸一家の手口にご感心なすったのさ。
黒八さんよ、どうか、秋月の国盗りの仕事の話を阿修羅丸さまや根津さまにつないでくれねえかな? 頼む」




