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【黒田騒動】新・白縫物語【栗山大膳】  作者: 足音P
第二部 勘解由脱出行
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第六十三回 狐顔の紺九郎は仕官の機会に飢ゆ

 近江屋の屋敷にいる白縫たちのところに、玄海屋という豊前の商人がたずねてやってきた。

 玄海屋からの提案。

「もしも白縫さまたちが朝廷の陰陽師の定村の名跡を復活させようと願いなさるのなら、今に苦境におられる筑前の黒田の勘解由さまをお助けくだされ。

 それが近道ではないかと存じますよ?

 黒田の勘解由さまは、将軍家の剣術指南役の柳生宗矩さまのお弟子のひとり。宗矩さまが免状を与えた高弟の細川忠利さまと御懇意。

 そして、柳生宗矩さまのお従兄弟として、京の陰陽頭である幸徳井友景さまがいらっしゃる。

 勘解由さまをお助けして、幸徳井友景さまのご好意を得ることができれば、従五位下を極位とする陰陽師の家柄、定村の家の復興も果たしやすくなるでしょう」

 長口舌を振るった。


 横で聞いて、若い紺九郎は思った。

 ┅┅これは好機。

 成功すれば、白縫たちが柳生宗矩と近づける。

 奈良で大名家になった柳生家は、京で陰陽頭になった従兄弟の友景にとって有力な経済支援者の一人であることは間違いない。

 宗矩は友景の判断に大きな影響を与えられるのでは?

 少なくとも期待はできる。

 よしんば、宗矩が友景に影響をろくに与えられなくても、新藩創設の話は紺九郎にとって大いなる好機であった。

 ┅┅勘解由さまが新藩を創設するにあたって活躍できれば、私にもありつき(仕官する機会)がまわってくるやも!

 というものである。


 白縫からの質問。

「それは理屈だが、どうやって、私たちは勘解由さまと連絡をつけることができるのだ?」

 玄海屋の返事。

「それは後からおいおい考えましょう」

 白縫は苦笑した。

「おいおい?」

 玄海屋は言った。

「それは後からで、いいじゃないですか?

 まず、勝負に使える強い札を集めておくことが肝要だと思います。

 化け猫の寒八。

 土蜘蛛の白縫さま。

 人ならぬ妖のやるようなことは、なかなか常人の読みの及ぶところではありますまい。

 それに、紺九郎さんや虚呂平さんといった柳生の忍びの方々も心強い。

 勝負に使える強い札を集めておけば、それが信用につながって、望む人に自然と逢える機会につながるかと存じます」

 ふむ。

 迷いの表情を見せて白縫は考え込んだ。

 そして、

「勘解由さまと結びつく話が固まってから返事を決めたい」

 と言った。

 玄海屋は頭をさげた。

「お考えいただけるようで、ありがとうございます。また、明日もうかがわせていただきますよ」

「え?」

「まず白縫さまと親しくなっておけば、勘解由さまとのつなぎの話が固まったときに、よいお返事が聞けるのではないか、という魂胆でございます」


   *  *


 同席していた風見。

 玄海屋が帰った後に、風見はさっきの話の内容を、青柳春之助という近江屋の用心棒の男にペラペラと話す。

 風見は問う。

「どう思いますか、黒田の勘解由さまをお助けするとか?」 

 相手は青柳春之助。

 天蓋と言う深編笠をかぶって、いつも顔を隠している男。

 昨年に風見の父親の種清が殺された時に、福岡藩士の雪岡冬次郎・蔭澤夏之丞とともに、この近江屋の用心棒の浪人が風見の生命を救ったという。

 近江屋は福岡藩の出入りの商人である。勘解由の福岡藩からの独立に手を貸す話を近江屋の者にすれば、福岡藩に伝わってしまう危険がある。

 ┅┅何ともお口の軽い。

 紺九郎は内心に苦々しく思った。

 ふと別の考え方もあるということに気づいた。

 自分たちが福岡藩の出入りの商人の世話になっている以上、福岡藩の利に反する行為に手を貸すというのは道義上にどうか?

 そういう考え方を風見はしているのかもしれない。

 しかし、前藩主の黒田長政の遺言を福岡藩が握り潰そうとしていることは、無関係の第三者の目からすれば、弁護しようもない。

 ┅┅悪いものは悪い。

 若い紺九郎は単純にそう思ってしまう。勘解由のことを助けることができた方が、紺九郎にとって仕官の機会につながる。


 ここから意外なことが起きた。

 春之助は忠告する。

「いや、風見さま、この屋敷の拙者以外の他の者には、その話は絶対にしないようになされよ、

 近江屋は福岡藩の出入り商人の店です。

 もしも、白縫さまたちが勘解由さまの江戸ご参府へお力を貸すという話になれば、風見さまにもこの屋敷をお出になっていただかなくなります。

 白縫さまも他のお供の方々も、いざとなれば、奈良の柳生の里にお帰りになればよろしいのですが、風見さまは困りになられるでしょう。

 近江屋の屋敷をお出になれば、風見さまにとっては、かなりご不自由なお暮らしになるのてはないか、と存じます」

「そんな」

「これはご忠告です」

「わかりました」

 力なく風見はうなずいた。


 春之助は言う。

「実を言えば、拙者の親しい従兄である倉八権右衛門の知行地が鞍手にあり、長政さまの四男であらせられる萬吉さま付きの家臣にならねばなりません。

 萬吉さま(黒田高政)も兄君の勘解由さまと御同様の立場でございまして、長政さまのご遺言に従えば、独立なさられるはず。

 萬吉さまはまだご年少ですから将軍様とのお目見えの話は持ちあがっておりません。

 しかし、あと数年もすれば、必ずや勘解由さまと同じ立場になられましょう。

 今、もしも、勘解由さまが独立なさらなければ、必ずや萬吉さまの御命運にもかかわってきます。

 萬吉さまが独立できなければ、倉八権右衛門のような萬吉さま付の家臣とされた者は、黒田の家臣ではなく、陪臣にされてしまいます。

 倉八の家の者からすれば、ここは一つ勘解由さまには頑張っていただきたい。

 拙者は勘解由さまのお味方のつもりです。

 そんな拙者が最初に聞いたからよかったものの、この屋敷の他の者が聞いたらどうなったことやら、わかりませぬ。

 もしも、お望みでしたら、白縫さまや玄海屋さんのお話を、私の従兄である倉八権右衛門におつなぎするようにいたしましょうぞ」

「結構です」

 と、風見はあっさり断った。


   *  *


 大変な話を聞いてしまった。

 青柳春之助の従兄弟ある倉八権右衛門という男が、黒田勘解由とのつなぎに使えるかもしれない。

 この機会を逃してたまるものか。

 紺九郎は、

「ちょっと身体の調子が悪いから、お姫様の警護を代わってくれ」

 と虚呂平に頼み、玄海屋が泊まっている宿屋に走った。

 


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