表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【黒田騒動】新・白縫物語【栗山大膳】  作者: 足音P
第二部 勘解由脱出行
59/324

第五十九回 紀州海賊の頂点が盗みの素人なわけなし

 鷲羽屋を殺したことについて安川兄弟が褒賞をもらったという話。

 豊前中津の港の玄海屋の屋敷で、阿修羅丸の口から黒八は聞くことになった。


 黒八も驚いた。

「おやおや、鷲羽屋のじいさんを二人がかりで殺した安川の家の小僧たちは何のお咎めもなし。それどころか仇討ちだと褒められたというわけですか?」

 チェッ。

 忌々し気に阿修羅丸は舌打ちした。

「どうなっているんだ?」

 黒八は言う。

「鷲羽屋も上から睨まれていたのかもしれませんな」

「睨まれていたとは?」

「それは阿修羅丸一家のおかげで得たあぶく銭だからといって、鷲羽屋が博多の貧しい者たちに本気で金を配ってまわりました」

「理由になるのかね?」

 と、阿修羅丸は疑問を呈した。

 お頭もまだまだ若い、と黒八は思う。

「下の者がどんなによいことをやったところで、上の者よりも人気が出てしまうようなことがあれば、上の者はやりにくくなっちまいます。

 安川平兵衛のところの馬鹿息子たちが鷲羽屋を殺っちまったことは、『上は上で下は下だ』みたいなところを下に見せるためのよい機会だと上は思ったのでしょう」

 阿修羅丸は吐き捨てる。

「くだらない」

「そういうくだらないことで人の世の中は回っておるのです」

 と、黒八。

 言おうか言うまいが少し迷ったが言うことにした。

 老人の黒八はそろそろ死を意識しなければいけない。

 生きている間に、この若者にできるだけのことを教えておいてやりたい。それが自分の爪痕をこの世界に残すこと。そんな気がする。


 話は変わり、阿修羅丸は言う。

「お燐の話だと、また、伊達五郎からの使いが玄海屋に例の掛け軸を買い付けに来るだろうという話だがな」

「はい」

「俺が先にその掛け軸を買ったということにして、その掛け軸を賭けて、正月の博多の相撲勝負というのに、俺が出てみようかと思う」

「え」

 黒八は驚いた。

 阿修羅丸は六尺を超える巨漢で腕力と身体能力は怪物と言ってよいほどずばぬけている。

 真田十勇士の根津甚八とそれに従う根来忍者たちの教えもあり、かなりの武の心得もできている。並みの者が相手ならばまず負ける気遣いはない。

 しかし、相手は本職の力士。

 さすがに土俵の上で勝てるとは思えない。

 遠回しに黒八は止めることにした。

「三笠山の伊達五郎と言えば、わしも名前を聞いたことありますよ」

「強いらしいな」

「ええ」

「俺も強いよ」

 阿修羅丸は若者らしい驕慢な言葉を口にした。

 それは黒八も知っている。

 でも、

「根津さまにご相談なさってみては?」

 と言う。

 すると、阿修羅丸は言う。

「もう相談したさ。決して勝てないと思う勝負はやめておけ、と」

「わしももそう思いますな」

「だから、正月まで稽古だ。マエストロ根津は二度ぐらい、三笠山の取り組みを見たことがあるらしい。勝つ為の策をマエストロ根津が立ててくれてる」

 駄目だ。

 真田にこの人ありと言われた根津甚八。

 心意気をもって戦おうとする若者を簡単に止めたりしない。

「はあ」

 黒八は溜め息をついた。

 しんみりした表情で阿修羅丸が言う。

「伊達五郎の手元に掛け軸が渡ると、そいつはそのまま安川の兄弟のところに渡ってしまう。

 何もかも、安川の思うどおりになったら、安川に殺された鷲津屋のじいさんとばあさんが浮かばれないだろう?」

「お気持ちはわかりますよ」

 と、黒八。

 阿修羅丸一家が立てた鷲羽屋の老夫婦に白縫からの千両の謝礼金を受け取らせる策こそ、すべての事のはじまりなのだ。

 青い目の阿修羅丸は陽気に笑った。

「俺たちは盗っ人サ。いっちょう白星を盗んでやろうぜ」


   *  *


 三年前の元和七年(一六二一年)のこと、を阿修羅丸一家が生まれるきっかけをつくったのは、勝烏の黒八であった。

 当時に博多の多くのスリをまとめていた黒八は、流れのスリ集団を追い払うのに、根津五郎たちを利用することにした。

 それから、両者の間でつきあいが生まれた。


 スリでしか生きていけない。

 しかし、捕まれば簡単に殺される。

 黒八は愚痴った。

「くだらない生き方ですよ」

 根津五郎は不愉快そうに唇を歪めた。

「おいおい、くだらないと思うのならば、やめとけよ」

「そんなことを言われても」

「黒八よ、お前さんたちのスリの腕は大した芸だとは思うが、どうも現場の一発勝負というのは何ともいただけないな、俺の性には合わない」

「どのようなのが根津さまのお好みで?」

「勝負事の半分は事前の仕掛けで決まるものだと俺は思っているよ。盗むにしたって、もう少し、頭を使わなければいかん」

 上から目線で説教されて黒八は腹を立てた。

「それは根津さまは大したお侍さまだったのかもしれませんが、盗みについては素人でございましょう?」

 冷たく乾いた声で根津五郎は笑った。

「素人でもないサ」

 真田十勇士の根津甚八という男は、真田幸村から九鬼水軍の調査を命じられて、紀州海賊の中に潜り込み、そのまま紀州海賊の頂点に立った経歴を持っていた。

 陸上の盗みも素人ではない。


 阿修羅丸を通じて、黒八が根津五郎と出会ったことで、筑前博多の地に阿修羅丸一家という盗賊団が生まれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ