表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【黒田騒動】新・白縫物語【栗山大膳】  作者: 足音P
第一部 明鏡争奪戦
49/324

第四十九回 養母の姉の子という縁で薄くつながる

 白縫数真が博多を発って京に戻るということで、送別の宴が尾張屋丈右衛門の手で開かれることになった。

 博多の町での最後の宴。

 この宴には風見も、京から白縫数真(実は、土蜘蛛の小女郎)を迎えに来たということにして、顔を出すという話が持ち上がった。


 風見は遠慮した。

「まだ、髪が伸びきっておりませんから」

 一ヶ月前まで糸島安養寺の寺小姓の定村かなめに男装していた。髪が短すぎて女として人前に出るのが恥ずかしい。

 八百は言う。

「そんなの。髪を兵庫髷にでも結いあげているように見せて、烏帽子をかぶってしまえばわかりませんよ。そういう細工は、秋千代がうまいのですが」

 博多の亀屋に風見が滞在している間、彼女が風見の身の周りの世話をしてくれた。

 その兄が護衛の瀧川小文治である。

 小文治がからかう。

「おいおい、八百よ、お前は女だろう? 秋は男だぜ」

「あの子は女に化ける本職だろ? 女らしくすることでは、あいつはあたしよりも上に決まっている」

 と、八百は言い返す。

 クック、と小文治は嗤った。

「あいつもまだ修行中だって言っていたぞ。一昨日に独鈷屋に行った時、芸子の女どもが百鬼夜行の化け物たちに見えたそうだ」

 そいつはさ、と八百は言う。

「独鈷屋で芸子を張るような女がまともなわけねえよ。頭のおかしい化け物しかいねえサ」


 小文治も説得にきた。

「風見さまも一日ぐらいは博多の街の夜をお楽しみになられてもよいかと思います。兄上の白縫さまは随分に博多の夜をお愉しみになられたようで。博多の街で評判になるぐらいに」

 それはそうでしょうが、と風見は言った。

「兄が評判になっただからこそ、花形の明鏡が手元に戻ってきたということもありますので」

 少し首を小文治は傾げた。

「白縫さまがおっしゃるには、『綾機に押し倒されている間に他の者たちが鏡を戻してくれた』とのこと」

 顏を真っ赤にして風見はうつむく。

 何も言えない。

 代わりに、八百が抗議の声をあげた。

「おい、小文治の兄者、風見さまは本物の京のお姫さまだ。品のよろしくない話は遠慮しろ、馬鹿」

「申し訳ありません」

 恐縮した表情で小文治は頭をさげた。

 風見は、

「お気になさらず」

 とだけ。

 この件で小文治に悪気がないことはわかる。ただ、住んでいる世界が違う。違う世界にお邪魔してお世話になっている。

 むしろ自分から小文治たちの常識に合わせなければならない、と風見は思った。

「では、立烏帽子をかぶって、白拍子の姿で、一度ぐらい博多の夜の宴に出てみましょう」

 八百は喜んでくれた。

「お綺麗ですよ、きっと」

 冗談めかして小文治は言う。

「俺は風見さまの警護の御役目を仰せつかっておりましたが、風見さまはずっと屋敷にいらっしゃるので、まるで、やる事がありませんでした。一日ぐらいは何か仕事をさせていただきたく」

 そして、

「もちろん俺が必要になるようなことが何もないのが一番ですがね」

 と付け足した。


   *  *


 尾張屋丈右衛門の手で開かれることになった送別の宴には、主役である白縫数真の妹だという者が参加した。

 仇討ちを白縫が終えたという報せを聞いたということで、彼女は京から迎えに来たという。

 定村風見。

 その白拍子姿は人々が息を飲むほど風雅であった。この夜には白縫よりも風見に人々の注目は集まった。


 風見の警護には、瀧川小文治の他に、もう一人が加わった。

 虎石力松。

 まだ十になるやならずの子ども。凛として表情をしていて、まるで桃太郎のように見えて愛らしい。さりとて、その手裏剣術は大人顔負けである。

 荒れ狂う大屯岩太牢の喉元に小柄を投げつけて仕留めた。

 その武功が立身出世につながるだろうということで、しばらく力松は実家に帰っており、亀屋に顔を出していなかった。

 風見にとっては初対面。

「ありがとう。兄から聞きました。あなたが父の仇である岩太牢を仕留めてくれたというお話で」

 力松は恐縮する。

「たまたまの巡り合わせでございます」

 小文治は力松の背中を叩く。

「世の中には、そのたまたまの運を活かせない奴であふれているんだ。もっと堂々としろ。偉そうな態度をとれ。じれったいな。

 今夜に亀屋の旦那がわざわざお前を風見さまの警護のために呼んだのは、お前の顏と名前を博多で売り出したいからだよ」


 そういうこともあるのか、と風見は感心する。

 ふと気がつく。

 座敷の中に見知った顔がいた。否。顔ではない。顔の見えないような深編笠の一種である天蓋をかぶっている。

 あれは┅┅

「青柳春之助さま?」

 と口に出すと、小文治が驚いたような声をあげる。

「ご存じなのですか? 近江屋の用心棒です。亀屋にも来たことがあります」

 この送別の宴には白縫たちを京に送る近江屋の者も参加していた。

 力松はに言った。

「思い出しました。確か、風見さまのことを、京でわが兄の雪岡冬次郎がお救いするとき、青柳春之助も随分と立派に働いたと聞いております」

 え?

 風見は驚いた。

「わが兄って? あなたは雪岡冬次郎さまの弟君なのですか? いや、そう言えば、小文治さんがそういう話をお聞かせくださったようにも」

「はい」

 力松はうなずいた。

 そして、

「僕は本来に雪岡家の八男でしたが、虎石家に養子に出されました。ちなみに、僕の養母は蔭澤夏之丞の母の妹でございまして、僕は蔭澤夏之丞の義理の従弟です」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ