第四十五回 町医者の遠藤周伯は貧しき民に慕われる
鷲羽屋の老夫婦が、亀屋から千両箱を無事に受け取った。二人で持ち上げようとして腰を痛めたとのこと。
愚かな。
隙間数えの風丸は、腹立たしく思った。
なぜ、亀屋の側も老夫婦を止めなかったのか?
とりあえず、鷲羽屋という古道具屋の老夫婦は博多の町医者である遠藤周伯のもとに運ばれた。
根津甚八に仕えていた根来忍者。
風丸個人からすれば、田宮流の抜刀術と含み針を遣うという印象が強い。
居合いの間合いを見切らせて相手を引き込んで口から毒針を吐く。
今は本当に町医者になりきっている。
評判は悪くない。
むしろ、名医と言われている。
薬の知識は通常の町医者の水準をはるかに超えているし、整体の腕も確かだし、傷の縫い合わせも器用にこなす。
貧しい患者たちを相手にする時には、治療費や薬代を支払いを待ってやったり、金を取らなかったりすることがある。
* *
風丸が周伯の診療所を訪れると、周伯は何やら名簿をつくっていた。
「こいつらは貧しい、と俺は自信を持って言える連中だ。
あまり人間がよろしくない者は外したが、五十人ぐらいはサラサラと書けた。
こいつら全員が俺のところにこれまでの治療費や薬代をまとめて持ってきてくれたら、俺もちょっとした分限者だ」
風丸は苦笑した。
「周伯先生は、貧しい者たちを良くお助けで。何のための名簿ですか?」
こいつはな、と周伯は説明する。
「例の千両箱を持とうとした鷲羽屋のじいさんとばあさんにな、今回に得たあぶく銭を配ってほしい者たちを教えるためだよ。
今回の花形の明鏡を亀屋に持っていって、あのじいさんとばあさんが得た千両は、まさしく濡れ手に粟。
阿修羅丸の奴からも『貧しい連中に分けてやれ、やらなければ後でひどい』と言われている。
だから、『自分らの懐に入れるのは百両ぐらいにして、残りは景気よくバラまいてやれ』と俺もコンコンと言って聞かせてやった。
鷲羽屋の左衛門じいさんも俺の理屈がわかったようで、『必ずそういたします』って神妙な顔で頭をさげていたよ」
なるほど、と風丸は感心した。
「そいつは、並みの者が言ってきかせたところで、あまり素直に聞ける話ではない。周伯先生ご自身が、金にこだわらない姿を普段から身をもって示しておられるからでしょう」
おいおい、と周伯は言った。
「俺だって金は欲しいサ。しかし、自分の器以上の金をもてば、かえって『薬も過ぎれば毒』ということになる」




