第四十二回 柳町の小梅は人の心のつながりを想ふ
博多の柳町遊郭の遊女、小梅はやってきた情人の文十郎の話を聞いて驚いた。
文十郎は、小梅の友人の定家についている半玉の綾機に助けられた。
縁は異なもの乙なもの。
情けは人のためならず廻り回って己のため。
* *
小梅は言う。
「綾機って、猫っぽいちょこまかしたコだ。あたしに義理立てしてくれたとは、そいつは、ありがたいネ」
うん、文十郎とうなずく。
「本当に小梅さまの縁のおかげで助かった。二百両の帳簿の穴を無事に埋めることがどうにかできた」
あんたね、と小梅は溜め息をつく。
「あたしのことを想って来てくれるのは嬉しいけど、お店の金を遣いこむなヨ」
「お前のために使いたかったんだ」
「それは、ありがとうネ。あんたが稼いだ金ならばいいけど、お店の金を抜いて遣ったとなれば話は別ダ。バレたら首が飛びかねない。そいつは、あんたの金じゃないんだから。これは、あんたのことを心配して言ってる」
「すまないね、心配させてしまって。わかったよ」
小梅はふっと笑う。
「わかってくれればそれでいい。それにしても、あんたも無理しないでおくれよ」
「小梅に逢えないことが辛くてね。悪かった。もうしないよ」
と、文十郎。
小梅は目を伏せて情人の手を取る。
「許しておくれ。そんな顔をするんじゃないヨ。あたしだって辛いヨ。あたしだって、もっと、あんたに逢いたいサ」
文十郎は声をあげて泣いた。
「ちくしょう」
しかし、と小梅は言う。
「二百両を笑ってくれるなんてさ、評判の白縫大尽さまは豪儀なものだねえ。柳町の方にちっとも来ないと思っていたら、一人の女に惚れてたのか」
そうそう、と吉十郎は笑った。
「白縫大尽さまは、本当に噂どおり綺麗な御方だったよ、ちょっと人と思えない妖のように。
でも、綾機が口を開いたら、表情がコロコロ変わってネ、おかしかった。
それで、『二百両ぐらい笑ってあげて』って、綾機が言ったら、二つ返事で『いいよ』ときたもんだ」
「本当にすごい御方を、あのコは捕まえたもんだ、そいつは」
言いながら、小梅は哀しかった。
綾機の幸せを喜んでやりたいとは思う。
自分と似た境遇の誰かに、見えない世の中の壁を叩き壊すようにして、幸せになってほしい。
でも、その誰かが自分でないということは、哀しかった。
どうして?
馬鹿馬鹿しい。
やってられないヨ。
とはいえ、綾機には腐った世の中を力いっぱい殴りつけてほしい。
自分の代わりに。
小梅のために無理してわざわざ義理をかけてくれたということは、お互いの心がどこかでつながっていると信じられるから。
「あたし、無理して生きてる奴って、好きサ」




