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【黒田騒動】新・白縫物語【栗山大膳】  作者: 足音P
第一部 明鏡争奪戦
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第三十三回 根津甚八は真田十勇士の一人なり

 隠れ里の根津五郎。

 阿修羅丸一家の裏の頭目と言うべき男は、かつては根津甚八を名乗っていた。

 後世において、真田十勇士の一人とも呼ばれる。

 真田幸村の臣下であった根津甚八は、九鬼水軍の情報の探索を命じられ、九鬼水軍の本拠地である紀州熊野灘に赴くと、自身が海賊に身を投じて情報収集するうちに、海賊の首領になった。

 紀州において、根津甚八は、熊野灘の海賊の他にも、鉄砲を製造して使用する根来衆と毒の吹矢を得意とする根来忍者を配下に加えた。

 最後に幸村の下で戦うことができた大阪夏の陣では、根津甚八は、穴山小助が総指揮を取った火龍軍の七人の隊長の中の一人に選ばれた。

 負傷で意識を失ったところを、松明、稲妻、石火といった元根来衆の部下たちに救われて、死ぬことができなかった。

 根津五郎と名前を変えて盗賊稼業に身を落としている。

 生き恥を晒しているのかもしれない。


   *  *


 根津甚八に報告するのは、直属の配下である。

 隙間数えの風丸。

 かの黒田勘解由孝政と同じ慶長十五年(一六一〇年)生まれ。数えで十五才の根来忍者である。狭い空間に潜り込み、他人の家の門や扉を開けるのが得意。

 少し早口で話す。

「亀屋の前を巨亀と連九郎が歩いて見せたところ、向かいの店から飛び出してきた三人組の役人たちと、ぶつかりました。

 向かってきた一人を巨亀が殴り倒し、その足を連九郎が刺しました。

 もう一人が腰を抜かしたのを見て、連九郎が調子に乗って飛び掛かろうとしたのを、最後の一人が背後から連九郎を斬りつけました。

 連九郎が引っ繰り返ったところを見て、巨亀が助けに入りました。

 そしても連九郎を倒した最後の一人と鍔迫り合いのかたちになり、ぐいぐいと巨亀が押し込んでいるとき、亀屋の二階から巨亀を狙い撃ち。

 一発で巨亀の頭は吹き飛ばされました。顔を斬られて、痛みのあまり動けなくなっていた連九郎はそのまま捕まりました」

 口惜しそうに風丸は言う。

「一人の足を刺した後、すぐ巨亀と連九郎は走って逃げるべきでした。

 足を刺された一人は追えない。

 残った二人の役人のうち、一人は腰を抜かしておりました。

 夜の闇の中では、最後の一人も無理して追ってこなかったでしょう。こちらは二人いたのですから」


 根津甚八は問う。

「お前が助けてやることができなかったか?」

 風丸は答える。

「初めは巨亀だけで十分そうに見えましたので、助けるまでもないかと思いました。

 いや、正直に申し上げて、まさか、亀屋があの闇の中で二階から鉄砲で狙い撃ちとは驚きました。飛び出さなくて良かったです」

 助けに行っても余計な犠牲が増えただけだろう。


「さすがは、亀谷多門之助」

 横からそう言って敵を褒めたのは、阿修羅丸一家の中で闇夜の鉄砲上手として知られる火平太。

 投げ炬火の火平太。

 火平太は、根津甚八が紀州で海賊として暴れていた頃からの配下で、鉄砲術で知られる根来衆の出身だ。

 根来衆とは、戦国時代に紀伊国北部の根来寺を中心とする一帯に居住した僧兵たちの集団である。

 真言宗の根来寺の僧侶たちは、その学識でもって、種子島鉄砲を複製してみせた。

 鉄砲を操る行人の根来の僧侶、根来は剃髪せずにザンバラ髪だ。当時の髪型で火平太は通している。僧侶の頃の名前は、松明。

「昔の根来衆の間でも、大した鉄砲打ちの甲賀忍者がいると評判でしたよ、亀谷多門之助と言えば」

 どこか楽し気な口調。

「亀屋の奉公人には、かの栗山善助(栗山利安、一葉斎卜庵)の子飼いの甲賀忍者が何人もいて、中にどんな罠が仕掛けられているかわかりません。

 うちで抱えているへなちょこ素人連中では、数を揃えて突っ込んでみたところで、死体の山を築くだけでしょうよ」


 言うな、と根津甚八は苦笑した。

「亀屋のところには、腕利きが何人もいる。ただ、下の者たちにはそれがわからない。白縫大尽とやらが大金をもって亀屋に逗留しているという話だけで騒いでいる」

 はあ、と風丸は溜め息をついた。

「その白縫大尽本人も、柳生忍者で、あの柳生の幻術遣いのシラヌイの血をひくそうです。黒田の侍の三人を一瞬に幻術で手玉にとってみせたとか」

 火平太は笑う。

「甲賀に加えて柳生までいるのかですか?」

 チッチッと風丸は舌打ち。

「阿修羅丸一家は、数こそ多いですが、まともに戦える者はほとんどいません、そのくせ、変に気持ちだけは大きい。今回に撃ち殺された巨亀は、まだ使える男でした」

 根津甚八は言った。

「巨亀も連九郎も、亀屋の近くの代官所の守りが厳しくなっていることだけを示して、『ああ、今の亀屋は難しいな』と下の者に思わせてくれれば十分だった」

 風丸は問う。

「そういうことを巨亀や連九郎にきちんと言いましたか、根津さま?」

 いや、と根津甚八は首を横に振った。

「あいつらは馬鹿すぎて口が軽いから、な。こちらが弱気に聞こえる話はあまりできなかった」


 火平太は言う。

「巨亀も惜しいことをしたが、連九郎が生きたまま捕らえられたというのは痛いですな。連九郎も元小頭、知っている他の小頭の名前を黒田に漏らすかもしれません」

 それに対して、根津甚八は言った。

「盗みをやっていたら誰かが失敗って捕まるようなことは当然にある。一度に大勢が捕まらないように、小頭同士でつきあうことは禁じている」



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