第二十五回 高原京右衛門と神原八十八が尋問す
筆頭家老の栗山大膳の命を受けて、福岡藩の徒士目付・高原京右衛門は、相役の神原八十八とともに、蔭澤夏之丞の家に出向いて彼を尋問した。
京右衛門は言った。
「芸子の取り合いで、町人を相手に刀を抜くというのは帯刀殿たちの不始末。
もちろん、町人が歯向かって武士を怪我させることがあれば、問題。
しかし、帯刀殿たちは懲らしめたという白縫数真さまは、従五位下の陰陽師の定村種時さまのご実孫。帯刀殿たちは気を失ったでだげで怪我一つしておらぬ。
となれば、先に申した帯刀殿たちの不始末を藩として処断しなければならない。筆頭家老の栗山大膳さまはそのように思し召し」
びくついた顔で夏之丞はたずねてきた。
「私はどうなるのでしょうか?」
横から相役の八十八が言った。
「貴様は、帯刀殿らの乱暴を止めに入っただけと聞いておる。特にお咎めはない」
ほっと夏之丞は溜め息を吐き、
「で、帯刀さまたちはどのような処分に?」
と問うてきた。
京右衛門は教えてやることにした。
「石堂帯刀殿、矢野主馬殿、四宮源右衛門殿、ご三方は、御入牢を申しつけられる」
夏之丞は興奮した口調で語る。
「あの時、確かに冬になっておりました。居合わせた芸子たちもそのように語っております。妖術という者もいる様子です」
「妖術なあ・・・」
と、京右衛門。
すでに野口左助を経由して、福岡城内で種明かしがなされている。
恐慌した者ほど暗示に引っ掛かりやすいという。
たまりかねたように八十八は言う。
「あわてふためいて我をなくした者が、これという拍子に耳に飛び込んできた言葉に心を大きく動かされてしまって幻を見る。
小左衛門は本当に幻を見たのだろう。町人が突然に三人の武士に絡まれて刀まで抜かれたのだから、小左衛門が泡を食ったのは仕方ない。
しかし、他の多くの者たちは、主人であったり客であったりする小左衛門に、調子よく話をあわせているだけのようじゃったぞ」
「どういうことですか?」
夏之丞から問われて、京右衛門は嘲った。
「お前が事件の時に随分と気が動転していたということはわかった」
そして、
「少しは修養を心がけよ」
とも。
話題を変えるべく、京右衛門は言った。
「幻を見せようとする白縫さまの声の掛け方が相当にうまかったということもあるのだろう。何やら、先年に京で殺された陰陽師の定村種春さまの妾腹の御子だとか」
「えっ」
蔭澤春之丞は突然に大きな声をあげたことに驚いて京右衛門は問う。
「いかがした?」
「実を申しますと、私は昨年に雪岡冬次郎さまと京におりましたとき、定村種春さまの家が盗賊に襲われている場に居合わせることになりまして」
その話は京右衛門も聞いている。
「冬次郎さまが二人の盗人を斬ったそうじゃな。もう一人おった者は刀も抜けなかったとか」
「私でございます」
ぬけぬけと認める夏之丞に、京右衛門はあきれた。
「そうか」
かまわず夏之丞は続けた。
「私たちがその時にお助けした定村の姫君であらせられる風見さまは、その後、どうなさっておられますか」
京右衛門は、
「お前がそれを知って、どうするつもりだ?」
と問う。
「別にどうもいたしませんが、できれば、また一度お目にかかりたいと念じております」




