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【黒田騒動】新・白縫物語【栗山大膳】  作者: 足音P
第一部 明鏡争奪戦
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第二十一回 独鈷屋の芸子たちは白縫大尽を持ち上げる

 鳥山の秋ちゃんこと秋千代は、博多において、卜庵老人の息のかかった独鈷屋という置屋に属していた。

 半人前の芸子(芸者見習い、半玉)としての顔を持ち、少女の髷で、肩上げをした振袖を着こなす。

 芸妓の手配や出入りが認められている料理屋で、客たちが黒田家にとって不穏な会話をしている場合、通報を受けて呼ばれ、独鈷屋の半玉として宴席に紛れ込んでいく。

 そういう役回りの忍者。

 独鈷屋の芸子たちは知っている。

「秋ちゃんが顔を出すということは、また、何かあるのかい?」

「勘解由さまの件でしょう」

「えらい騒ぎになっているものね」

 寛永元年(一六二四年)の夏、福岡藩黒田家は黒田右衛門佐忠之の弟である黒田勘解由の分封問題でもめていた。

 前藩主の黒田長政は黒田勘解由に五万石を与えて独立させるように遺言をしていた。

 ところが、福岡藩の筆頭家老である栗山大膳らは勘解由を引き留めようと盛んに妨害した。

 黒田勘解由が正式に初代秋月藩藩主として正式に大名に列座するのは、寛永三年(一六二六年)の正月に三代将軍・徳川家光と前将軍・秀忠への拝謁が許されてからの後のことになる。

 その件について、秋千代は特にからんでいない。

 手を振って否定する。

「いやいや、お姉さんたち、勘解由さまの件とは違うから」


 秋千代は白縫数真のことを説明した。

 従五位下の朝廷の陰陽師であった定原種時の孫で、女として見ても美少女で通る美少年である。父の種春を大屯岩太牢という男に殺され、それを追いかけて筑前にまでやってきて見事に討ち果たした。

 なれども、岩太牢に盗まれた定村家の重器の花形の明鏡が見つからない。

 あきらめて京に戻ろうとする白縫を黒田家の元筆頭家老の卜庵老人が引き留めた。一ヶ月だけ博多に残って花形の明鏡が売りに出されていないか探してみることに。


 というわけで、と秋千代は言う。

「花形の明鏡を探しているという話を広めるため、これから白縫さまは、博多で盛大にお金をばらまいてお遊びなられます。

 お姐さんたちも手ェ貸してあげて。

 京の陰陽師のえらい方から白縫さまにお金が出ていますが、使い残して戻ると残した金を返さなければいけないとのこと。

 仇討ちの大願を成就した白縫さまは、これまで苦労してきた気晴らし。

 花形の鏡を探すためと役に立つという理屈がつくので、手元の金を惜しみなくお遣いになられるそうです。

 花形の鏡が見つかればいいですよ。

 そうは言っても、見つからないこともあります。

 見つからなかったときにも、西国一の港町の博多に来て良かった、楽しかった、と白縫さまに思っていただきたく。

 そうでなければ、白縫さまのことを博多に引き留めた卜庵さまの顔が立ちません。

 独鈷屋のお姐さんたちには、白縫さまのことを持ち上げてください。

 上客が財布を空にするまで金を吐き出す覚悟を決めておいでだ。ここは思案のしどころ。独鈷屋の芸子の手練手管の見せどころ」

 独鈷屋の芸子たちは笑った。

「アイヨ」

「もう、煽りなさるな、秋ちゃん」

「面白そう」

「秋ちゃんのお下知に従いますヨ」


  *  *


 花形の明鏡を探すという大義名分で、白縫数真は博多の商人たちと会い、宴席で金を湯水のようにジャブジャブ使った。

 呼ばれる独鈷屋の芸子たちもホクホク顔。

 こいつは【白縫大尽】と誉めそやす。

 それだけでも人気が出て当然だが、白縫大尽はその上に色々な条件をそろえていた。

 仇討ち成就の勲章。

 この時代は親の仇討ちをやると、とても賞賛された。

 卜庵老人による保護。

 福岡藩の元筆頭家老である卜庵老人の名前は博多で大きい。

 白縫の祖父という定村種時の官位。

 従五位下と言えば、黒田孝高(官兵衛)と変わらない。

 金払いはいいは、道徳的評価はあるは、地元の有力者からの保護を受けているは、高貴な血筋もあるは、だ。

 さらに、白縫個人は花も欺く美貌。

 礼儀作法は正しく、周囲に気遣いを見せ、若さに合わぬ古への書籍や芸術に深い知識があり、口を開いて語れば聞く者を飽きさせない。

 評判が評判を呼び、夜の博多八ケ町は白縫を中心に回りだした。


  *  *


 独鈷屋の芸子たちも勢いづく。

「お祭りだね」

「白縫大尽さまが博多にいらっしゃるのが一ヶ月だけというのは、何とも惜しい」

「長い仇討ちの旅でお疲れでしょうから、故郷に戻りたいという里心がついているというのは仕方ないサ」

「また、博多に来たいと白縫さまを思わせるべく」

「頑張りましょ」

「白縫さまが博多におられる間に、白縫さまをお招きして一席設けたいから、白縫さまとつないでくれ、と唐津屋権兵衛さまから、頼まれました」

「よその置屋の女たちが、自分たちも宴席に呼んでくれとか、うるさい。大きな宴席があると、うちらだけでは人数が足りないネ」

「旦那衆にも世間体や顔がございましょう。今、白縫さまが京にお帰りになる前に、一度も白縫さまにお会いできなかったら他の旦那衆に笑われる」




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