第二十回 陰陽頭の幸徳井友景は柳生石舟斎の甥なり
卜庵老人が去った後に、風見の異母兄である白縫数真についての相談をするべく、亀屋は春之助を引き留めた。
「花形の明鏡を博多で探すためには金があった方がいいだろうということで、白縫さまは砂金の入った大きな袋をこちらにお預けになられました。博多で使える金に換えてくれ、と」
「金はあった方がよいですな」
と、春之助。
亀屋は言った。
「白縫さまの金の出所はどこなのでしょうね? そいつがわかりません。あの若さで持てるような金ではありませんよ。
ご本人におたずねしましたが、陰陽師の世の偉い方が関わっておられるそうで、それ以上のことは言えない、と」
━━陰陽師の世の偉い方━━
何か思いついたことがあるらしく、春之助は、
「ひょっとして、アレか?」
と言い出した。
「思い当たることがおありでしょうか、春之助さま?」
「まったくの思いつきで、お恥ずかしい」
「是非にもお聞かせいただきたく存じます」
と、亀屋は頼んだ。
春之助は口を開いた。
「今の京の新しい朝廷の陰陽頭である幸徳井友景さまは、柳生石舟斎宗厳さまの甥御さま」
「石舟斎さまの」
意外の名前に亀屋はあっけにとられた。
幕府の隠密を引き受けている柳生の名前は、黒田家としても警戒せねばならない。
春之助は語る。
「先年に、筑前の金山において、化け猫騒ぎがあったと聞きます。
京から送った陰陽師が手も足も出なかったのに、流れの陰陽師が化け猫を退治してのけたとか。
おそらく、その流れの陰陽師は大屯岩太郎。
定村種春さまの家から盗まれた花形の明鏡を使った。
流れの陰陽師に体面を傷つけられたと思った京の陰陽師たちは騒ぎたてました。
昨年に、定村種春さまが岩太牢に殺されて花形の明鏡を奪われた時、陰陽頭の幸徳井友景さまは全くお動きになられなかったとのこと。
古い朝廷の陰陽師たちは武家上がりの陰陽頭である幸徳井友景さまについて、色々と陰口を叩き、友景さまを引き下ろそうとするような話も」
「大変ですな」
と、亀屋。
思うのですがね、と春之助は言う。
「卜庵さまのような忍びの修行をなされた方でも、変装ではないと認めるなら、白縫さまと風見さまは本当に血のつながっている御兄妹でしょう。
往時のことを思えば、朝廷でときめく陰陽師であった定村種時さまの御子の種春さまに、柳生が女を近づけても不思議ではない。
岩太牢と花形の明鏡の件で、友景さまがお腹立ちのとき、たまたま都合よく、柳生の里に種春さまの子がいたので、『自分の親の仇を討て』とお命じになられたのやもしれません」
なるほど、と亀屋は思った。
「話が通ります。おっしゃりたいことはわかります」
春之助は指摘する。
「それに、幸徳井友景さまであれば、京の陰陽頭ですから、まさに白縫さまの言うところの【陰陽師の世の偉い方】です」
「色々と平仄が合いますな」
と、亀屋。
白縫数真の背景がおぼろげながら見えたような気がした。




