第十九回 留田家の婿入り養子話には問題あり
大坂が大阪になっていました。pixiv版の方が先行していますが、なろう版の方が誤字修正の機会が多い。
青柳春之助は博多の港に着くと、近江屋の者を通じて、博多商人の亀屋の店に招かれた。
上方(京・大坂)の話を聞きたいとのこと。
「別に拙者でなくとも」
嫌な予感。
しかし、雇い主の近江屋の頼みを断れるほど明確に言葉にすることはできなかった。
言われるまま亀屋に足を運んだ。
* *
亀屋の奥の部屋に案内されると、待ち受けていたのは卜庵老人であった。
福岡藩の元筆頭家老。
「色々と妙な縁があってな、この店では定村の風見さまの世話をしておる。風見さまが、京におられた頃、そなたに危ういところを助けてもらった、とおっしゃっておられる」
「左様ですか」
春之助は返事に迷った。
すると、卜庵老人が言う。
「昨年の京の盗賊退治の一件については、風見さまから話を聞いておる。
お主が天蓋の深編笠をかぶって顔を隠しておる理由もな。
従兄弟の倉八長之助のことを慮ったおるそうだが、ここでは他に人の目はない。ちょっと顔を見せてくれふか」
強いて断れば、長之助に余計な問題を持ち込むことになるやもしれない。
天蓋を春之助は脱いだ。
「お見せいたすほどの値打ちのものではありませんが」
「確かに、長之助にそっくりよ」
と言ってから、卜庵老人は続けた。
「なるほど、風見さまは嘘を吐いておらぬようじゃな」
好奇心に駆られて春之助は問うた。
「嘘とは?」
「昨年の京の盗賊退治、一人はお前が斬って、手柄を冬次郎に譲ったそうじゃな」
と、卜庵老人。
単刀直入。
そういうことか、と春之助は納得した。冬次郎が七百石の留田の家に婿入りできるかどうかという話になっていることは冬次郎からの手紙で知っていた。
春之助は言った。
「あの時に冬次郎さまは確かに見事にお斬りになられました」
卜庵老人が言う。
「冬次郎は一人しか斬っておらんという話は夏之丞からも話を聞いておるぞ」
やれやれ。
思わず、春之助は溜め息をついてしまう。
夏之丞も後からそのようなことを言うぐらいならば、恥ずかしがらず、自分の手柄としておけばよかったのだ。
あまりにも冬次郎がうまく行きそうになったので妬み心が湧いたのか?
卜庵老人は言った。
「嘘はよくないと言わない。しかし、上の者は下の者の力量をよく知っておかなければならぬ、とわしは思う。本人の能力に見合わない難しい仕事をまかせては失敗の原因。この件は、息子の大膳に伝えておく」
栗山大膳。
卜庵老人の息子であり、現在の福岡藩の筆頭家老である。
そして、
「別に冬次郎の婿入り話をわしは邪魔したいとは思わん。ただ、大膳は知っておくべきだろう」
と付け加えた。
それでは、冬次郎の婿入りの件は、大膳の意向次第ということになる。
春之助は溜め息をついた。
「はい」
心配するな、と卜庵老人は言った。
「去年の件の真相については、大膳にも黙っておくように言うわい。
ただ、冬次郎のことを高く見積もって役を与えると仕事も失敗するし、冬次郎本人も辛い。
冬次郎を使おうというときには、使う大膳もそういうことを頭に入れておかなければなるまい」




