第十八回 彼れと此れとを繋がむ糸や結ばれず
プロットの変更があり、第二部の小文治の活躍はなしになりました。
第一部で多少の見せ場があるから十分だろう、と。
「蔭澤夏之丞さまかい?」
亀屋多門之助は、夜になって、小文治からの報告を聞いた。
「ええ、風見さまは夏之丞さまのことを楽しそうに語っておられました」
「只村かなめが他国からの隠密だという疑いが、どんどん晴れていく心地がしますヨ。本物の定村の風見さまなのでしょう」
と、亀屋。
小文治からの提案。
「夏之丞さまをお呼びして風見さまに会わせれば、もっと色々はっきりするのでは? 風見さまは店の中に引きこもってさみしそうな顔をしております。ちょっと風見さまと話のできる者を呼ぶのも」
ただちに亀屋は却下した。
「やめておきましょう」
「なぜ?」
「どうせ、風見さまは、長くても一ヶ月もしないうちに京にお帰りになる方です」
「だからって、手を抜くのですかい、亀屋さん?」
口をとがらせる小文治。
亀屋は説明する。
「昨年の冬次郎さまの盗賊退治の一件。
おそらく、風見さまがお前さんにした話が正しいでしょう。
盗賊の一人に出合い頭に吠えられて夏之丞さまは金縛り。
斬られる寸前に、横から、近江屋の用心棒の青柳という男がその盗賊を斬った。
もう一人の盗賊がいて、仲間が斬られて泡をくっていたから、そいつを『これは功名の良い機会』と冬次郎さまが斬った」
「風見さまが嘘をついておられるとは思わんです」
「私はあまり風見さまと話していないから、わからない。けれども、冬次郎さまとは何度かお会いしたことはございます。小文治もあの人を見れば、わかりますよ」
「何が?」
「冬次郎さまには、二人もパラパラと斬れるような腕前はありません。びっくりしている相手に襲い掛かる不意打ちでも、本当に一人斬ったというだけでも、あの冬次郎さまにしては上出来感心よくやった」
小文治は苦笑した。
「ずいぶん馬鹿にしておられる」
亀屋は言う
「こちらは正直に人を量っているだけです」
「なるほど」
「それが冬次郎さんが二人斬ったという話になっている」
「風見さまの話によると、最初に青柳という浪人者は自分が一人斬った件を夏之丞さまに譲ろうとした。それを夏之丞さまは冬次郎さまにお譲りなったとか。理由がわかりませんな」
と、小文治。
亀屋には理由が想像できた。
「そいつは、夏之丞さまが蔭澤の家の跡取りだからでしょう」
「どういうことです?」
「冬次郎さんは雪岡家の次男坊です。いい婿入り養子先を見つけられなければ大変です。将来に次ぐ家のない冬次郎さんに手柄を譲ってやろうという夏之丞さまの気持ちはわかります」
なるほど、と小文治は言った。
「案外に夏之丞さまにもいいところがありますな」
亀屋はうなずいた。
「京で盗賊を二人パラパラと斬ったという話があれば、感心する人がでてきます。現に七百石の留田の家に冬次郎さんの婿入りが決まろうとしている」
「半分は嘘の手柄で」
茶化す小文治を亀屋はしかりつけた。
「冗談いっちゃいけません。冬次郎さんが本当に一人斬っていたという話だけで私は驚いていますよ。よく頑張りました。褒められて然るべきです」
「ですかねえ?」
「だいたい、長男に生まれておけば、何もしなくても家を継げるのです。
それに比べたら、実際に前に出て人を斬れるところをみせたというだけで、冬次郎さんは頑張ったと思います」
亀屋は言う。
「風見さまが夏之丞さまに会いたがっていてそれを会わせると、去年の冬次郎さまの盗賊退治の件を勘ぐる人が出てきます。本当は夏之丞さまが盗賊を斬ったのではないか、と。私はそういう余計な騒ぎを引き起こしたくありません」
「余計な騒ぎ、ですか?」
「風見さまの話でも、冬次郎さまはちゃんと一人斬っているのでしょう? あの人にしては頑張った。見直しました。七百石の婿になっていい」
「はあ」
顔をしかめる小文治に、亀屋は付け加えた。
「まあ、何よりも、私たちにとっては力松のことがあります。冬次郎さまは力松と血のつながっている兄上さま。冬次郎さまに悪い噂が立つことがあれば、弟の力松の評判にも傷がつきます。
しょせん風見さんは長くてもあと二十日かそこらで船に乗って京に戻られる方だ。少しぐらい退屈なさっても、御辛抱いただきましょう。
私にとってすれば、力松のことを何とかしてやりたいと思います。鏡探しの件が終わったら、力松の良い評判を城下に広めていくための策を練りますよ」
なるほど、と小文治は了解した。
「岩太牢退治のことを機会にして力松の道を開く絵図を亀屋さんが描くというならば、俺にも何か役割を与えてもらいたいですな」




