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【黒田騒動】新・白縫物語【栗山大膳】  作者: 足音P
第一部 明鏡争奪戦
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第十七回 すぐ人を殺す者の値打ちを疑ってみる

 風見に化けた土蜘蛛は、安養寺の木刀試合で岩太牢を打ち負かした。

 その直後に、筑前藩黒田家の元筆頭家老の卜庵老人の配下から腕試しの挑戦あり。

 混乱する場の中で、意識を取り戻した岩太牢は、荒れ狂って周囲の観客を襲う騒ぎを起こし、卜庵老人の配下に始末された。

 後始末がなされ、卜庵老人と向陽上人との話し合い。

 やはり女性を寺に隠し置くことは風紀上によろしくないということで、風見の身柄は亀屋という筑前博多の商家に送られた。

 亀屋は卜庵老人の屋敷の出入りの商人だと言う。


   *  *


 亀屋の二階にて、風見の護衛につけられている小文治が話しかけてきた。

「早く花形の明鏡が見つかるといいですな」

 風見は、

「お気遣い、ありがとうございます」

 と礼を述べてから、

「黒田家の方々にはお世話になってばかりです。昨年に岩太牢が京で私の家に押し込んできた時も、黒田家の藩士の方々にお助けいただきました」

 と言った。

「え?」

 小文治は目を丸くする。

 そして、

「初めて聞きました」

 と言った。

 風見は説明した。

「お救いくださった方々のお名前は、蔭澤夏之丞さまと雪岡冬次郎さまとおっしゃられました。ご存じありませんか?」

「雪岡冬次郎・・・さま・・ですか・・・」

 急に小文治は笑いだした。

 けげんに思って、風見は問うた。

「どうかなされたのですか?」

 すみません、と小文治は軽く頭を下げた。

「昨年に、雪岡冬次郎さまが京で三人の盗賊に出くわし、二人の盗賊を斬り捨てて一人を逃したという話ですな? 

 その話、拙者も聞いておりました。まさか、その時に盗賊に襲われていたのが、風見さまの御屋敷だったとは」

 風見はむっとした。

「そんなことがおかしいのですか?」

「違いますよ」

 と言って、小文治は大きく首を横に振った。

 問う。 

「去年に冬次郎さまが逃がした盗賊が大屯岩太郎」

 そのとおりなので風見はうなずいた。

「はい」

「先日に岩太牢の喉笛に小柄を投げた虎石力松は、雪岡冬次郎さまと血のつながった実の弟ですよ。

 兄の冬次郎さまが取りこぼした最後の一匹を、それと知らず、弟の力松が掬い上げて始末した。こいつは、えらい偶然です」

 そこまで聞かされて、風見も驚いた。

「本当ですか?」


 小文治という男のことを無口と風見は思っていたが、話題によっては別なのかもしれない。

 この日の小文治の口はなめらかに動いた。

「手前どもの仲間である力松は、虎石力松と申します。

 もとは、一千七百石の雪岡の家の妾腹の八男の雪岡八郎。十五石二人扶持の倉米取りの虎石の家に子どもがないということで、虎石の家に養子に送られました。

 今回に岩太牢を仕留めた件で力松も武名をあげたということで、近いうちには代官付の近習ぐらいの役が回っろてくるでしょう。

 たまたまの機会に恵まれたと嫉む者もおりますが、そのたまたまの機会を逃さないだけの修練を力松は、小さな子どもながら、いつも真面目にやっていた。

 ひどい奴は、力松ではなくて他の大人がやって手柄を譲ったとか言っていて、腹が立ちます。卜庵老人も見ておられたのです。

 力松の奴が岩太牢を仕留めました。これで力松の将来も開けるでしょう。

 アレの兄の冬次郎さまも、昨年に京で盗賊を二人斬った件が家中で評判になり、七百石の止田の家に婿養子に入る話がまとまりそうだとか。これもめでたい。

 冬次郎さまは雪岡家の次男。大きな家に生まれても跡取りでなければ、うまく跡取りとして潜り込める養子先を見つけられないと、先が暗いですからね」

「そうですか」

 京の朝廷に近い位置で育った風見は武士のことがよくわからない。

 ただ、小文治が熱を込めて話しているところから、ずいぶん大変なことなのだろうというぐらいの想像はついた。


 感心しながら、風見はふと気になった。

「雪岡さまの運が開けたという話は、あたしも喜ばしく思います。あと一人、去年にあたしのことをお世話してくださった蔭澤さまはどうなさっておられですか? 蔭澤夏之丞さま」

 ふむ。

 小文治は目を閉じて思い出そうとする。

「去年に雪岡さまが二人の盗賊を斬ったとき、もう一人、蔭澤さまも居合わせていて、確か、蔭澤さまは刀を抜くこともできなかった、と・・・」

 ┅┅無様な。腹を切れ。

 突然に、小文治の蔭澤に対する悪態が風見の心に飛び込んできた。古代から続く陰陽師の家柄、定村家の血筋の能力が暴走してしまった。

 いたたまれない気持ちを風見は感じた。

 すぐ人を殺す者にしか値打ちはないのだろうか?

 風見は言った。

「去年の事件のときには、蔭澤さまはあたしの世話を大変よくしてくださいました」


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