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【黒田騒動】新・白縫物語【栗山大膳】  作者: 足音P
第一部 明鏡争奪戦
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第十五回 亀屋多門之助は主の名を慮らんとす

 人に化ける土蜘蛛の小女郎が、

「大屯岩太牢が死んで花形の明鏡への手がかりが途絶えた」

 と口惜しがっても、

「そうですか」

 とだけ。

 風見には実感が乏しかった。

 実感が湧くほど、岩太牢のことを考えたくなかった。

 昨日の木刀試合の時も 境内に出ることなく、本堂の中に隠れて風見は震えていただけ。


 風見の父である正七位下の定村種春を殺したの大屯岩太牢。

 常であれば目にするのも身の毒と思えるような男。

 京の都で蝶よ花よと育てられた風見は生身の暴力に抗う術を知らず、殺されたばかりの親の死体を横目に、泣きながら媚びて屈服した。

 下賤の人の子でもするまい。

 あさましや。

 お許しくださいませ。

 ただ求められるまま、大屯岩太牢のことを定村の婿に迎えると約し、秘蔵の家宝である花形の明鏡もすすんで探して差し出した。

 他に知られれば、いかほどに謗られようか。

 風見は人の目が怖い。

 何もかもが溶けて崩れて消えてしまうような心地がした。


   *  *


 この日に安養寺にやってきたのは、亀屋多門之助という博多商人であった。初老の男。道具屋だと言う。

 べたりと愛想のいい笑顔を貼りつけている。

 定村の血筋のため、他人の考えていること心が風見の心にふと入ってくることが時折にある。

 亀屋多門之助は、筑前の元筆頭家老の卜庵老人の子飼いの忍び。

 もとは侍の亀谷光行。

「岩太牢の泊まっていた宿屋の部屋をあらためさせましたが、白縫殿お探しの鏡らしいものは一切に見つかりませんでした。

 いや、お待ちください。

 岩太牢は博多のお多福屋の紹介で、安養寺の陰陽師になる、と宿の者に話していたそうです。ひょっとしたら、お多福屋に預けているのかもしれません。お多福屋にも問い合わせましょう」

「お願いします」

 また、風見そっくりの姿に化けた小女郎は亀屋に頭を下げた。

 この人に変化する土蜘蛛は、昨日、自らのことを風見の異母兄である白縫数真と名乗ったそうだ。

 亀屋は風見と小女郎を見比べた。

「ご兄妹そっくりですな」

 この時には、風見も小女郎も同じ寺小姓の衣類を身にまとっている。


 亀屋は続けた。

「安養寺に女の寺小姓がいるという話は、本当だったのですな?」

 小女郎は言う。

「岩太牢が博多に向かうところを見たという話を聞いて、兄妹そろって向陽上人さまにお世話になったのです。

 向陽上人さまは父の種春の友人で、博多の安養寺の再興に向かうというお話でございましたので、向陽上人さまが安養寺に向かう船に寺小姓として兄妹で同船させていいただきました」

「渡りに船ですな」

 亀屋は笑う。

 そうです、と小女郎はうなずいた。

「向陽上人さまは私たち兄妹が父の仇を討って家宝を取り戻したいと願うのを哀れみ、私たちを袈裟の下にお隠しくださっただけ。噂の女犯の罪が向陽上人さまもにあったわけでございませぬ」

「くだらん噂ですな。向陽上人さまも随分の御歳。さすがに女犯の罪など無理。いや、これは言葉が過ぎましたかな。

 寺に女を入れたとはいえ、父の仇を討たんとする孝子兄妹に手を貸したというのであれば、それほどに目くじらを立てる筋ではありません」

 と、亀屋。


「どうか、向陽上人さまの扱いはご穏便に取り計らい頂きたく」

 そう言ってから、小女郎は続けた。

「父の仇である大屯岩太牢も死んだことですし、そのお多福屋の方に花形の明鏡がなければ、私たち兄妹は京に引き上げます」

 え?

 風見は驚いた。

「京に引き上げる?」

 仕方あるまい、と噛んで含めるように小女郎は語った。

「私たちが安養寺におれば、大恩ある向陽上人に、また、ご迷惑をおかけする。それは宜しくない。早く筑前を去った方がよい。

 父の仇の大屯岩太牢も死んだ。お多福屋の方に花形の明鏡がなければ、もはや縁のないものとして、兄妹で京に戻ろう。お前が身の立つぐらいまでは私が兄として世話をしてやってもよい」

「でも」

 と、風見は口を挟んだ。

「上人さまは、どのようなお考えで・・・?」

 小女郎は肩をすくめた。

「昨夜に私が話した。向陽上人もご同意くださっている。

 大屯岩太牢も死んだことだし、これは一つの区切りではないか? 私の手で討ち果たせなかったことは残念であるが」


 いやいや、と亀屋は首を横に振った。

「事情をよく知らない私どもの余計な飛び入りで、場が乱れて、花形の明鏡の行方を岩太牢にしゃべらせることができなかったというお話となれば、まことに申し訳ありません。

 私どもの飛び入りをそちらにお願いした私どもの主である栗山一葉斎朴庵の体面もございます。

 私どもの主の卜庵の元の名は、栗山善助、栗山備後守利安。黒田八虎の一人、黒田二十四騎の一人。日の本で少しは知られております。

 従五位下の定村種時さまのお孫さまにあたる方々にご迷惑をおかけして、ろくに花形の明鏡を探すことなくお二人に京にお帰りいただいたとなれば、私たちの主の名に傷がつきます。

 お多福屋に問い合わせて駄目でも、他の商人たちにも話を聞いてみたいと思いますので、一ヶ月ほどお時間をいただけませんかね?」



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