勘違い
三題噺もどき―にひゃくさんじゅうはち。
暖かな日差しが、窓から差し込む。
それは、酷く柔く、和やかで。
―ひとりは、寂しい。
「……」
辺りは、ガヤガヤと騒がしい。
いくつかのテーブルが並び、カップルや家族連れが楽し気に。
―ひとりのわたしは、酷く浮く。
「……」
目に付くのはやっぱり、カップルだろうか
まぁ、そういう人たちに人気の店だと言うし、そういう売りでやっているカフェだ。それは、そうなのかもしれない。
「……」
賑やかなカフェの端。
二人掛けの小さめの机。
そこに1人で、座る私。
「……」
「……」
「……」
あの人と会ったのは、いつだったか。
「……」
初めての1人暮らし。
それも、都会での、1人暮らし。
こういうのって、慣れ始めると、寂しさを覚えてしまってよくない。
最初は慣れることに忙しくて、寂しいどころじゃないのに。
「……」
そんな風に、仕事にも、暮らしにも少し慣れ。
寂しさを、虚しさを覚え始めていた頃。
「……」
上司だったあの人は、色々と面倒を見てくれたのだ。
あまり、同僚というものがいない会社だった。困れば上司に頼るしかなかったし、それは仕事の相談ごとだけにとどまらなかった。
生活の事とか、人間関係の事とかも相談していた。
あの人が直接の上司だった期間は、正直言ってあまり長くはなかった。
だが、不思議と何か困れば、あの人を頼っていた。
迷惑かもと思いもしたが、あの人は何も言わずに聞いてくれた。
「……」
それが、なんだか嬉しかったのかもしれない。
友達や家族以外で、相談に乗ってくれる人なんて初めてだったから。
むしろ、今までは相談に乗る側の人間だったりしたものだから。
「……」
「……」
「……」
あれは、紅葉が散り始めていた頃だった。
春を過ぎて、夏も終わって。
秋ももう終わろうとしている。
そんな時だった。
「……」
私は、会社を休み気味になっていた。
まぁ、色々とあって。
あの人に相談する暇もないぐらいに。バタバタとしていて。
それで、溜め込んでしまって。
落ち込んで。沈んで。生きている意味が分からなくなって。
ここに居る意味が、分からなくなって。
「……」
砂丘の砂の一粒みたいに。
風が吹けば飛ばされるだけの。
捨てるほど大量にある何かの、1つでしかない。
いても居なくても。同じ。
いなくてもいい。いる必要性もない。
「……」
そんなことばかり考えて。
落ち込んで。落ち込んで。終いには、生きている意味が―。
―そんな時に。助けてくれたのがあの人だった。
「……」
たった一言のメッセージだった。
『元気?』
たったそれだけ。
それだけなのに、救われた。
「……」
こんな私でも、気にしてくれる。
元気かと声を掛けてくれる。
それだけで、嬉しかった。
「……」
―今思えば、吊り橋効果的な奴だったのかもしれない。
あの時。
助けてくれた、あの人に。
一瞬にして、惹かれていって。
いや、多分。元から惹かれては居たのかもしれない。
それに、気づいて。
「……」
いつの日か。
あの人と。
いっしょにいたいと。
いつまでも、共に在りたいと。
思うようになって。
「……」
今日。
「……」
ま。
今ここに、1人でいるのが。
答えだろう。
お題:紅葉・都会・砂丘