エンジェルバンパイヤ
深い森の奥にある湖。
湖は海のように広く、風が強い日には海のように大きな波がたつ。
その湖に小さな島があり、古いお城がある。
そのお城にはエンジェルバンパイヤがいると昔から言われている。
エンジェルバンパイヤは血を捧げると何でも願いを1つ叶えてくれるという。
嘘か本当か、わからない。
城に行った者は、誰ひとり帰ってきていないのだ。途中で動物の餌になったのか、湖で溺れたのか、食べ物がなく餓死したのか、わからない。
ただ1人「エンジェルバンパイヤはいる」と言い続けている人がいる。
その人は幼い頃、不治の病だった。
お父さんと2人で暮らし、お母さんは不治の病で亡くなった。
そして、ある日突然、お父さんは行方不明になってしまった。
「お父さんが病気を治してやるとお城に向かったの。その3日後、お父さんの声で目が覚めたの。だけど、お父さんは家にいなくて、体がいつもより軽くて、咳がでなくなって、少しだけ歩くことができたの」と幼い子どもは言う。
診察に来た医者は驚いた。余命残りわずかな子どもがこんなに元気になるなんて、ありえない。おかしい。
その後もなんの病もかからず、優しいおばあちゃんになった。とても長生きした。
これがこの村の昔話。優しいおばちゃんももういない。
あれからどれくらいの時間が経っているのだろうか。
昔話の昔はどれくらいの年月なのかを知りたい。
城を探しながら、私は考える。
エンジェルバンパイヤは今もいるのだろうか。
私の願いを叶えてくれるのだろうか。