表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

vs八百屋さん②

前回のあらすじ

八百屋もやばいやつだった。

 唯一の常識人枠が儚く消えてしまったことにショックを受ける。

そういえば服屋さんも最初の10秒くらいはまともに見えていたな。

単に異常なところが他の人に分かりにくい、というだけなのか。


「クク、島﨑ちゃんが現実を知れた様で何よりです。

 しかしまずいですねぇ。」


「何がまずいんですか?」


「ほら、坂本さん…店長があの妻たちにかかりきりに

 なっているでしょう?」


「はあ、けどあの人たちも店長にかかりきりになっ

 てますよね?

 もしかして伏兵でもいるんですか?」


「いえ、指輪の数を見る限り妻は揃っている様です」


言われて八百屋さんの指を注意深く観察する。

…正直よく判別できない。

まあ、彼が嘘を付く事はないだろうし彼を信じよう。


「しかし、彼にはもう一種類手駒があるのですよ。」


「もしかして、男色ですか?」


「ククク!

 大変面白い発想ですが残念ながら違います。

 あなたも一度見たはずですよ?」


そう言われて記憶を探ると、確かに見た覚えがある。

しかし…。


「…この女の子ですか?

 けど、流石に小学生には負けませんよ?」


隣に立つ女の子を見ると、にっこりと微笑まれる。


「アリス、おねーちゃんになら勝てるよ!」


まじか。

なんとも屈辱的なことに私の戦闘力は小学生より劣っているらしい。

流石に信じがたいが、少し警戒してしまう。


「ちなみに、君のお母さんはどの人?」


「えーっとね、あそこでおじさんと戦ってる人!」


見ると空中を自在に動き回りながら拳銃を乱射する黒スーツ姿の美女がいた。

あの人の娘か…。

勝てないかもしれない。


「あんなふうに糸を使ってうごくの、だんだん上手

 になってきたの!」


勝てないなこれ。

というか今まで私がまともに勝負できる人間がいないのだが、もしかして私の戦闘力ゴミ以下か?

とりあえず頭をなでて褒めてみると、嬉しそうに私の足にくっついてきた。


「けどさすがに服屋さんは負けませんよね?」


「この子だけなら負けないんですがねぇ。

 他にもいるんですよ、あの妻たちの血を継ぎ、半人

 前ながらもその技術を叩き込まれた子供達が。」



「そんなふうに父を軽視するのはやめてほしいな。

 僕たちは母親から技を受け継ぎ、父親からは家族に

 対する愛情をもらったんだよ。」



後ろを振り向くと、総勢20人ほどの子どもたちが、一列に並んでこちらを見ていた。

子供と言っても一番上の子は高校生ほどで、一番下は

中学生らしき女の子が抱えている赤ん坊、と年齢差は大きいようだ。

やばい、完全に目をつけられている。


「お母さんたちだと勝つのが厳しいかもしれないから

 ね。

 君たちには人質になってもらうよ。」


まずいな。

彼らは知らないだろうが、店長の性格からして私達を

助けるために敵に殴られても耐え続ける、というような不良漫画のいいやつみたいな事彼に期待するのはやめたほうがいいだろう。

そして、役に立たない人質の末路など一つだ。


「…服屋さん、これ勝てますか?」


「クク…、あいにく私の専門は変装でして…。

 彼らには、一対一で何とか、といった所ですね」


ふむ、まともにやっても勝ち目はなさそうだな。

まだ私の足に顔を押し付けている少女をチラリと見る。

その中で一番年上らしき高校生の男がまた口を開いた。


「ほら、アリスちゃん。

 そいつらは敵だから早くこっちにおいで。」


「えぇー」


アリスちゃん、と呼ばれた少女は渋々私の足から離れようとする。

ここしか勝機はない!

アリスちゃんの後ろに立って店長に持たされた護身用のナイフを彼女の首元に突きつける。

そして私の拘束を解こうとするアリスちゃんに対して素早く説得を開始する。



「アリスちゃん、好きなお菓子ある?」


「…ええとね、アリスはね、ぷりんが好き!」


プリン……。

余裕で説得できそうだ。


「じゃあ、アリスちゃんがこのままいてくれたら、

 おねーさんプリン100個買ってあげる!」


「ホント!

 じゃあアリスずーっとここにいる!」


何とか作戦の第一段階は成功。

続いて正面に並ぶ子どもたちに大声で叫ぶ。


「こいつの命が惜しければ動くな!!」


「あなた人として恥ずかしくないんですか!!?」


高校生の戯言が耳に届くが私の心には一つも響かない。


「人としてのモラルとか道徳とか言えるのは自分が豊

 かで安全が保証されている時だけなんだ!

 人の命はなによりも、そう!

 愛とか勇気とか自由とか尊厳とかよりも重い!」


「恐ろしいほど人生観歪んでますね!」


「うるさい!

 今日一日で驚くほど歪んだわ!」


この状況を維持したまま店長と妻たちの決着を待つことができればいいのだが、なかなか難しいだろう。

なにせこちらは何らかの方法でこの少女を奪われたらその時点で詰みなのだ。

しかし、状況が苦しいのは彼らも同じ。

彼の言うことを信じると店長は勝てるらしいので、私達は店長が勝つまでここで粘ればそれで勝利なのだ。

そして、もし彼らの母親が負けてしまえば彼らは狩りをする強者から狩られる弱者に変わる。

先程家族愛が云々といううざったい口上を語った以上例えこちらからアリスを取り返せるとしても少女が危険にさらされるような方法はまず選ばないだろう。

まず警戒すべきは催眠術や超スピードなどのこちらが感知できない方法で彼女を奪還されることだ。

なお、奪還方法がそんなちゃちなものじゃなくもっと恐ろしいものだった場合は諦める。


「そんなわけで服屋さん、とりあえずアリスちゃんが

 奪われないよう警戒してください。」


「クク、了解しました。

 そちらも一応気を緩めないように。」


「わかってます。」


服屋さんは一対一なら互角に戦えると言ったのだから

これで気づいたら向こうにアリスちゃんがいる、という事態は避けられるはずだ。

向こうもそれは分かっているはず。

となると次に起こるのは…。


「アリスちゃん。

 そんなことしてたら家に帰れなくなるよ?

 ほんとにいいの?」


「え…ええっと……その…。」


やはりアリスの説得にかかったか。

だが説得はマイナスではなくプラスを提示することが成功の秘訣!

この分野において彼は素人のようだな。


「じゃあアリスちゃんうちに来ればいいよ!

 アリスちゃんが私のうちに来たら毎日好きなだけプ

 リン食べれるよ?」


「ぷりん!

 え!ほんと?」


「もちろんだよ!」


「ぐぅ…、あなたねえ…。」


悔しげにこちらを見つめる高校生を睨み返す。

この戦場で生き残るなら私はなんだってやってやる。

戦いなんてどれだけ早く倫理観捨てるかで八割方勝負が決まるんだよぉ!


勝利が決まった私が仲良くアリスちゃんと歌を歌っていると、しばらくの間憎々しげにこちらを見つめる彼の眼に光が灯った。


「アリスちゃん…。

 もし今から僕たちのところに来てくれたら、プリ

 ン150こあげよう。」


「え!ほんとに?ほんとに150こ?」


まずいな、まだ諦めていなかったか。


「…200個だ」


私がいうとアリスちゃんはまたこちらへ来る。

しかしこのままではジリ貧だな。


「300個!」


「450!」


「まだやりますか、680!」


「大人を舐めるんじゃない、900!」


こんなことをこのまま続けると、いずれアリスちゃんには理解できない数になっていくだろう。

そうなった時にアリスちゃんがどう動くかは未知数、か…。

いや、実際いつかアリスちゃんがこちらを離れ親しみやすい向こうに行く、というのは十分あり得るだろう。

服屋さんにアリスを拘束してもらってもいいが、今子供達が動かない理由の一つは現状アリスに危険が及ぶ危険が全くないからだ。

それを崩せば、少し危険を冒してもアリスを確保する方が最終的に安全、という判断がなされかねない。

子供達に注意を向けつつちらりと店長達を見ると、店長が有利にことを運んでおり、もう少しすれば勝利することができそうだ。

…一応聞いておくか。


「服屋さん、店長達の様子はどんな感じですか?」 


「クク、島崎ちゃんの期待通りならよかったのです

 が、生憎状況は拮抗していてすぐに決着とは行かな

 さそうですねぇ。」


…ふむ。

素人には分からないが状況は拮抗しているらしい。

となると決着を期待するのはやめた方がよさそうか?

だが、この状況で他に何かできることは…。

八百屋さんを人質に加えるとか?


「服屋さん、もし八百屋さんと戦ったら、どちらが勝

 ちますか?」


「クク、私でしょうね。

 しかし、この状況で彼をどうにかするのは厳しいで

 すよ?

 彼を叩こうとしても、彼の妻達が気づいて止めるで

 しょう。

 少し気を引くことはできるかもしれませんが私は

 そこで倒されるでしょうし、私がいなくなれば子ど

 もたちもノーリスクで島﨑ちゃんからアリスちゃん

 を奪還できてしまいます。

 そうなったら二人とも詰みです。」


だめか。

こちらが彼女らの最愛の人である八百屋さんを(人質として)迎え入れることができれば有利になると思ったが…。

決着を早めるのが難しいならやはり彼の勝利を待つ方向で考えるべきか?

いや、アリスちゃんが高校生の怖い雰囲気におびえて向こうに行こうとしかけている。

どうにかしないと本格的にやばいが…。

あっ。

…これなら行けるか?


「服屋さん、一つ作戦を思いつきました。」


「ククク、教えてもらっても?

 …中々単純ですがそれなら上手くいくかもしれませ

 ん。

 その年でそんなことを考えるあなたは少し心配に

 なりますがねぇ。」


急に心を読んでくるんじゃない。

死に設定だと思って油断してただろうが。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ