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vs八百屋さん①

前回のあらすじ

服屋さんを倒したら女の子に目をつけられた。

やはりあれは参加者のクリア状況を伝えるシグナルだったか。

とすると踊る云々の項目はあくまで音楽を流すための布石で、ついでにこの店長の様なノー天気の馬鹿者が引っかかってくれれば儲けもの、程度に考えていたのかもしれない。

とりあえず次のスタンプを押すまでにこれを防ぐための方法を考えなければ……。

とッッ!!

まずい、店長が心を読めることを忘れていた。

そろそろ学ばないと読者の皆さんに私が学習能力のないバカみたいに思われてしまう…。


いや、それどころじゃない。

店長が怒ったらこちらは為す術なくやられてしまう。

こちらのアイテムは

"気絶した変態"☆2

しかないのだ。

恐る恐る店長を見ると、彼は何かを必死に考えているようだった。その横顔は真剣そのもので、その眼差しに心が恐怖で震えるので二度としないでほしい。


「一体どうして俺たちがスタンプを取ったことがバレ

 たんだ……?」


「……………………………?」

こいつはつい30秒前自分が何をしていたのか忘れているのか。

唖然とする私。


「え?

 歌がながれたのに気づいてないの?」


状況が掴みきれていない女子小学生。

とりあえずダンスの意味について頭の中で念じるが、

どうやら考え事をしているときは心を読んでいないようで反応がない。

まずいな、このままではうちの店長が小学生に馬鹿にされてしまう。


「あ、あー、そういえばちょっと前私達の状況をみんなに知らせるものようなものがあった気がするなー」


流石に少し不自然か…?

いや、中途半端なヒントしか出さずに結局わからない、というのが最悪の事態。

そう考えると多少不自然でも早く気づいてもらったほうがいいはず!!


「……………………え?……………?………?………??

 ああ、そういう事か。」


よし、ギリギリ気づいたようだ。

流石にここで状況に付いてこれないのは致命的だ。

もう手遅れかもしれないが、

まだあの小学生は店長(46)が自分に知能で負けているとは気づいていないはずだ。

店長がドヤ顔で小学生を指差して口を開く。


「貴様、さては橋本さんと繋がってやがるな!!」


橋本さん→服屋さんの本名だよ〜

と、そんなことを行っている場合ではない。

嘘だろ、まだ気づかないのか?

フォローの言葉が見つからない。

さっき来た女の子もあれ?って顔をしている。

店長はそんな周りの微妙な空気に気づかず続ける。


「まさか橋本さんと繋がっているとはな。

 一体どうやってあの彼を動かしたのか、しっかり話

 してもらおうか。

 もちろん俺に嘘の類は通じないぞ?」


店長が引くほど恐ろしい笑みを浮かべた。

場の空気が完全に凍り、少女の目にはみるみる涙がたまっていく。

この勘違いは本当にまずい。

最悪女子小学生に私刑執行人の拷問が執行されるかもしれない。

何とか彼女を救うには…。

ちらりと"気絶した変態"☆2

を見る。

昔からの知り合いらしい彼ならこの状況を何とかできるかもしれない。

変態に期待するのは癪だが正直私もあの状態の店長に話しかけるのは身の危険を感じるしまずは肉壁で様子を見よう。


気絶した彼の手をぎゅっと握ってみる。

だめか…。

全身が痙攣し笑みに狂気が混ざり始めたが覚醒には足りないようだ。ただこの肉壁にこれ以上のコストを支払う気にはなれないためどうしたものか、と考えていると、


「お、確かにそっちを拷問すればいいのか。」


店長がこちらにやってきた。

少女を見るとぶるぶると震えてうずくまっている。

よく見ると泣いているようだ。

無理もない。

私も彼女より一回り年上だがあの顔の店長に睨まれた時はもう少しで泣きながら土下座してしまうところだった。

何とか変態をサクリファイスして彼女を救いたいところだが…。


「で、どんな感じで拷問するんですか?」


「とりあえず起こすところからだろ。

 思い切り頭を殴れば起きるかな?」


「恐らく起きれなくなります。二度と」

 

少なくとも起き上がれなくなることは確実だろう。


「じゃあどうするんだよ。

 この感じ余程のことがない限り起きないぞ。」


「私に聞かないでくださいよ。


 戦場帰りなんだからこういう時の対処法何か一つく

 らい知ってるでしょう。」


「あそこは基本的に人権を考えないから爪剥ぎからス

 タートなんだよ。」


「ええと、それは流石に…。」


「だろ?」


しかし、こちらは一般人なので効率的な拷問の仕方など知りようがない。


「めんどくせえな、やっぱりあの女の子で行くか。」


それを聞いた女の子は、びくりと肩を震わせ、少し戸惑うように首を振り、こちらに歩いてきた、


「あの…私…こういう時のたいしょほう知ってます。」


「え!ほんとか?」


「なに子供に拷問を期待してるんですか。」


本当であればありがたいが、彼女の経験なんて大方眠っている弟を少々おちゃめに起こしたことがある程度だろう。

その程度でこちらに来ても残念だが役に立つことはないだろう。

まあ向こうからすれば自分が拷問にかけられるかの瀬戸際なのだから必死になるのもわかるが…。


「すみません、ちょっと水をくれますか?」


「え、ああ、はい。」


鞄に入っていた水筒を渡す。

少女は服屋さんの鼻をつまんで塞ぐと、開いた口に水筒の水を思い切り流し込んだ!!


「ちょっと、間接キスになっちゃうじゃないです

 か!!」


「お前のリアクション、本当にそれでいいのか?」


確かに好感度が下がってしまうかもしれない。

驚いた私が心配そうな(ふりをした)眼で彼を見ていると、水を入れられた服屋さんはものの数秒でガクガクと震え始め、大きく息を吸い込んで目を覚ました。


「ゲホッ、ガッ、ガハッ、ぐぅぅ。

 顔覚えたからな貴様ぁ…。」


激しい咳と共に水を吐き出す服屋さん。

弱々しくも鋭く少女を睨むその眼は確かに店長と同じ世界で生きてきた男の眼だった。

少女がまた泣きそうになっていく。

まあここまでやるとは思わなかったが一応拷問は私達の指示の結果だし、助ける努力はしてあげなければ。無理そうなら諦めるけど。


「あの…服屋さん?

 大丈夫ですか?」


「島﨑ちゃん!

 クククもちろんぜんぜん大丈夫でしたよ!

 そんなことよりどうして私の下に!?

 寂しくて寝られないなら一緒に寝てあげますよ!」


服屋さんが一瞬でとてもいい笑顔になる。

この特別待遇、すごく嫌だな…。


「それにしても、その年不相応の技術、お前八百屋

 んとこの子か?」


「クク、言われてみれば見たことある気がしますね」


気づくと、店長と服屋さんが少女を見ていた。


「八百屋?

 ああ、まだ変なのがいるんですね。」


「まあ…そうだな。

 俺たちと違って特別な技術を持ってるわけじゃない

 んだが、なかなか恐ろしい才能があってな。」



「人の秘密を喋るのはやめてくれ、私刑執行人(逆ラウ者ニ絶対ノ死ヲ)よ」



振り向くと中年で背のスラリと伸びた金髪の男性が道の真ん中で立っていた。 

すべての指に指輪をはめているらしく、陽の光を浴びてダイヤがキラキラと光っている。

なかなか顔が整っていて、その背の高さも相まってとても美しく見えるが、残念ながら頭を見るにこの大会に参加する理由は持っているようだった。


「あのイケメンさんが八百屋ですか?」


しか意外だ。

八百屋、という言葉からもう少しのんびりしたイメージを持っていたが、それと反するまるで貴族のような雰囲気にこちらも呑まれてしまいそうになる。


「お前は、ああ…ええと…なんかすごい八百屋さんの店

 主の愛する我が主のために(ノブルハニートラップ)!!」


「〜品種改良を重ねたこだわりの野菜をその日のうち

  に収穫、販売〜

 を掲げる八百屋の伊藤だよ。ええと…。」


「あ、島﨑です。」


「島﨑さん、よろしくね。」


普通だ。

圧倒的常識力に驚きが隠せない。

しかも彼らと同じ戦場帰りでこんなまともな性格をした人がいるということは、やはり彼らがおかしいのは戦場でネジが外れたからではなくそもそもの性格がひどかったということだろう。

前置きも普通すぎるくらいに普通だし。


「というか店長、前置きはちゃんと覚えとかないと。

 あの人自分で店のPRすることになってたじゃないで

 すか。

 そんなんだからバカって言われちゃうんですよ」


「ああ?うるせェぞ。

 てめえ、自分の立ち位置理解させてやろうか?」


怖。

店長がこちらに向かって迫ってくる。

差し当たって土下座をすべく地面に正座すると、


「やめないか、坂本。」


凛とした声が響いた。


「自分の失敗を暴力で誤魔化そうとする癖はまだ直っ

 ていないらしいな。

 そんなことだから馬鹿と陰口を叩かれるんだぞ。」


「うるさいな、あの真正の大馬鹿よりマシだろ。」


「あいつの話はやめろ、トラウマで目がかすむ。」


まだ商店街の面子は増える予定なのか。

これ以上出てくると収拾つかないぞ。


「今話に出てるのは床屋の日比野さんですね。」


「服屋さん、知ってるんですか?」


「まあこの商店街の方々は昔共に戦った仲ですからね

 比較的常識的な私や八百屋の伊藤は彼らをまとめ上

 げる、というか彼らに作戦を理解させるのに随分苦

 労したのですよ。」


「私が今日見た常識人は八百屋さんですが。」


「クク、まああくまで比較の話です。

 それに彼もただの普通の人間ではないのですよ。」


はあ。今のところ不審な点は見つからないが…。


「ああ、もう鬱陶しい。

 どうせお前もスタンプ狙いだろ。

 さっさとアイツラ呼んで俺と戦え。」


「チッ、まだ話は終わっていないのだが…。

 まあいい、いつまでも時間を無駄にするわけにも

 いかんからな。」


「お前らもさっさと来ねえとこいつ殴り飛ばすぞ!」


勢いをつけ八百屋さんに殴りかかった店長を止めたのは、突然現れた南国風の美女だった。


「何あたしの夫に手ぇ出してんだコラ!!」


彼女はそのまま彼の拳を見たこともないような動きで

受け流して八百屋さんを守る。


「あの人は?」


「もちろん、彼の妻ですよ。」


瞬間、店長はその場から飛び退く。

先程まで彼がいたところは大きな罅が入り、中心には小柄な北欧系の美少女が立っていた。


「私の夫に手を出す人、許さない。」


そのまま彼女は店長に向かって跳び、彼を殴り数メートルほど吹き飛ばした。


「…あの人は?」


「クク、お察しの通り、彼の妻ですよ。」 


話している間にもどんどん新しい女性が出てきて店長と数の力で互角に渡り合っている。

鞭を巧みに操る英国子女、メイド服の黒髪美少女、

手に持った十字架を投げる年若いシスター……。

だんだんわかってきた。

店長の言う彼の特異な才能、服屋さんの発言、

何より彼の指にはまっている数え切れないほどのダイヤのリング…。


「あれが、各地の戦場で敵国の姫をおとし、政略結婚で戦争を止め続けた伝説の調停人、愛する人のために(ノブルハニートラップ)ですよ。」


…ろくなやつがいねえなこの街。



ルビの最大文字数制限反対!

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