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vs服屋さん ①

前回のあらすじ

 

ハゲの店長に付き合って育毛剤を求めてスタンプラリーすることになった

「いつまでそうやってるんだ。そろそろ出発の時間だぞ。」

「………はっ…」


 育毛剤を代々御神物して祀っていくという馬鹿げた宿命を子孫に背負わせてしまった申し訳なさに1人震えてること数時間。

気づくと時刻は11時をまわっていた。

 どうやらそろそろ例のスタンプラリーが始まるらしい。


「というか、これ私も参加するんですか?効率考えた

 ら店長が1人で行った方がいいと思いますけど」


 何しろ全パラメータが規格外の化けも…神の様なお方だ。そのフィジカルを活かせば私の様なしがない事務がいなかったところでライバル相手に無双することなど簡単だろう。

 …たかだか育毛剤のために100万円も払ってスタンプラリーの台紙を手に入れる様な物好きが他にいればの話だが。

 こちらとしてはそんな暇があるならもう少し未来の子供達に謝罪を捧げたいところだ。


「残念ですが今日は用事があって…」

「残念だよ。この時のために生かしておいたんだが…」

「今すぐ準備します‼︎」


 ………まあ、僕の子孫だって代々育毛剤を崇める宿命を背負ったくらいで私を恨んだりはしないだろう。

 私はそんな奴と関わり合いになりたくないが、育毛剤を崇める君を好きになる子も1人くらいいるさ。

 何か一つくらい欠点がある方が女の子にモテやすいと聞いたこともあるし。

何より私は命が惜しい。



 30分ほど後、出発の準備を整え店長の無駄に気合の入った作戦を聴き終えて店の扉を開けた私を出迎えたのは、信じられない光景だった。

 見渡す限り一面の禿頭。

数にしておよそ百人程だろうか。彼らはひとことも発さず静かに集中しており、眼は何かを期待しているかの如くギラギラと輝きを放っていた。


「店長、これってまさか?」

「ああ、今大会参加者の皆さんだ。」


 あまりの衝撃に言葉が出てこない。

 うわ、育毛剤に100万円注ぎ込むような奴がこんなにたくさん…

 何がそんなにも彼らを駆り立てるのだろうか。仮に確実に髪が生えるしても普通100万円払えるか?


 呆気に取られていると店長の姿が少し遠くなっていることに気づく。

 置いて行かれまいと必死にハゲ達をかき分けて進んでいくと、何とか開始数分前にスタンプラリー会場本部前で追いつくことができた。


「おう、来たか。作戦はわかってるな」


 店長の問いかけに私は頷く。

ハゲどもの髪が欲しいという執念がここまでとは思わずさっき言われた作戦は殆ど聞き流していたが、なんとなく要点は掴んでいるしあとはフィーリングで誤魔化せる…はずだ。

 って店長は心が読めるんだった!

 こんな事考えてるのがバレたら今度こそ殺される。

 あーー、店長は神、店長は神、店長は神、店長は 神、店長は神…

 何とか許しをもらえないかと気休め程度に店長を崇めていたが、いつまで経っても処刑が行われない。

 恐る恐る店長の方を見ると、彼は全く気にしていないかの様に会場を見ていた。


「……………?」


 普段なら考えられない様な寛大な処置に戸惑いつつも私は作戦の概要を確認する。 


「ええっと…自分達の店がスタンプの設置場所の一つ

 であることを利用するんですよね? 

 臨時出張店舗を店長のリュックでこっそり立ち上げ 

 てそこをスタンプの設置場所にするとか…」

「…ふむ、考えることは皆同じ、か。」

「え?何か言いましたか?」

「いや、何でもねえ。それより問題はどうやって他の 

 スタンプを巡るかなんだが…」


「おい、そこで何してるんだ?」 


 聞き覚えのある声に振り返ると、店長が後ろで腕組みをしていた。

 ………ってあれ?

 もう一度前に向き直るとそこでも店長が腕組みをして立っている。

 ん?もう一度後ろを…

 くるくるくるくるくるくるくる


『いい加減止まれ』


 双方向から肩を掴まれてそれ以上回れなくなる。

こうなると先程まで有力だった高速移動で交互に現れて私をおちょくっているという説が消えてしまう。

店長が2人になっていることを認めざるを得ない。


「店長、実は分裂可能な体だったんですか?」

『誰が単細胞だ。というかお前も大体わかってる

 ろ。』


 まあね。

ただそれを認めると同時に私がとんでもない失態を犯したことも認めなくてはならなくなるのでできれば違って欲しかったのだが。…………はぁ。


「どちらかが偽物なんですね?」

『その通りだ。わかったらさっさとこっちに来い。そ  

 いつの近くに居られると俺の攻撃に巻き込んじま

 う』


 双方向から腕を引かれるが、正直どちらについて行けばわからない。

 恐らく先程まで話していた方が偽物だったんだろう、という予想はつくが………。


『分かってるならさっさと来い』


 予想はつくのだが…その…なんというか…くるくる回っているときにどっちがどっちだかわかんなくなったっていうか……。

 というか、偽者が来るのならせめてコスチュームの色合いが違うとか、ちょっと目が吊り目とか、そういうわかりやすい差異がないと、やられるこちらとしても反応に困る。

全く見た目が同じならどうやって見分けろというだ。

 ……まずい、目が怒る様なものからこちらを憐れむ様なものに変わった。

 これ以上生き恥を晒す前に殺してやるのが優しさなのかな…とか考えてる時の目だ。


「これ以上生き恥を晒す前に殺してやるのが優しさな

 らのかな…」


 やっぱり。何とか挽回するには正体を見分ける方法を思いつくのがいいと思うが、何かこれというものはないかな………。

 あ、アレがあるか。


「分かりました。じゃあ、本物を見分ける方法を思い

 ついたので少し手を離してください。」

『おう』

「じゃあ、体に力を入れて。」


 店長の姿の2人は、同じように体に力を入れ出す。そして片方はビキビキ、という音と共に体が大きく膨らんでいき、遂には二倍ほどの大きさになっていた。

 そして同時にもう1人が力を入れ始めると、彼の足元に放心円状のヒビが入り、彼を中心に闇色の風が渦巻き始めた。その中心にいる彼の肌は漆黒に染まり、額には大きな角が生えはじめていた。

鳥達が不安からギャアギャアと鳴きながら去り、まだ昼なのにも関わらず、空が血のような紅色になっていく。

周りのハゲ達もこの異常事態に慌てて逃げ始め…。

 ふむ、こっちが本物か。


「もういいですよー」

「ん、そうか。ようやくどちらが本物かわかったよう

 だな」 

「こうなると、驚くほど分かりやすいですね。」 


 昔彼が大掃除を本気でやる、と言い放ちあの形態で床を拭いていたのを思い出しての言葉だったが、何とか成功したようだ。


「それにしても、一体誰なんですか、あれ?」


 店長と全く同じ姿をした謎の人物をみる。

店長と違うタイプではあるが、彼も相当な実力者であることは間違いない。

なにせ長い間店長と暮らしている私でもわからない程、彼は完璧に店長を演じていた。

 いや、私が鈍感なだけだと思われるかもしれないけど、彼は店長の言った言葉も一言一句同じタイミングで合わせていたのだ。

ただ者とは思えない。


「クククッ、ただの思いつきで私の変装を見破るとは、腐ってもこの商店街の住人ですか。ねえ?

『何でも買い取り、何でも売却

 〜高級フレンチから非合法兵器まで〜』でお馴染み 

 の質屋大金星店長、|私刑執行人《逆ラウ者ニ絶対ノ死ヲ の坂本さん。」


 二つ名怖!?






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