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6 リシウスside

 とうとう、やってしまわれた。


 私の主君であり、この国の王様となられたリシウス陛下。

 陛下が王となられたのは、あるお方を手に入れる為だった。


 リシウス陛下に見初められた幸運(?)な女性はある村に住む平民のメアリー様だ。


 どうしてもメアリー様を妻に迎えたいと言われたリシウス陛下に(まだ第三王子様だった頃)平民とは結婚出来ないとお伝えすると、方法はないのかと鋭い目を向けられた。


 私は、貴族の養子とされる事を提案したが気に入られず、では、と王様になれば何もかも手にできる事をお教えしたのだ。



 メアリー様は、数ヶ月前に一緒に暮らされていたおばあさまが亡くなられ、お一人になられた。


 城へ連れて来ると言われた陛下に、私はまだ時期が早いとお伝えしたのだが。


 遠くから見守っておられたリシウス陛下が、彼女の周りに不穏な動きが見られると言い出されたのはほんの数日前だった。

 何やら影に指示を出されていたのだが、まさかこんなに早くに攫って来られるとは……。



 リシウス陛下は、愛しいメアリー様の事となると、周りのいう事は聞かれない。


 これまでもそうだ。メアリー様を虐めた者を目に入らぬ様にされ、彼女によからぬ気持ちを寄せる者を遠くへと追いやられてこられた。


 定期的に贈り物もされていた。

 両親を亡くし祖母と暮らす事となった彼女が不自由な思いをしないようにと、資金も送っておられた。

 それは村長が管理し、彼女の家には国からの補助金だと言って渡すように頼んであった。

 リシウス陛下は陰ながら愛する女性を見守っておられたのだ。


 実は直に見に行かれていたのだが……。


 ある時、赤い薔薇の花束と共に渡したカードをメアリー様が「怖い」と言われた。

 それを知ったリシウス陛下は、珍しく少し落ち込んでおられた。


 陛下もそういう気持ちになられるのか。


 不敬にも私は、リシウス陛下の人らしい感情を見せてもらえた事に喜びを感じてしまった。


 いろいろとあったが、これまでリシウス陛下はメアリー様を迎える為に、さまざまな努力をされていた。……と思う。


 そうして……努力かどうかは分からないが、次々と王族が亡くなり、リシウス陛下は王様となられたのだ。



 まさか本当に、それもこんなに早く王様になられるとは思わなかった。

 

 愛の力は偉大だという事か。



 リシウス陛下は、ふた月ほど前からメアリー様を迎える準備を始められていた。


 まだ国王も健在であったのだが、私はその事に関しては口を出す事はしなかった。

 リシウス陛下の中で、既にこの先起こる出来事は決まっておられたようだったからだ。



 陛下はまず、メアリー様の部屋を用意された。

 王様となっても、正式に結婚をする迄は妃の部屋を使う事は出来ないからだ。

 そこも変えられればよいのでは? と思ったが、陛下には何か考えがあられるのだろうと何も言わなかった。


 もしかすると、即位前に連れて来る計画を立てられていたのかも知れない。



 それから、彼女専用の侍女になる者を集められた。

 皆、素晴らしく有能で、決して逆らうことなく口も固いもの達だ。

 それは当たり前の事。そうでなければ家族共々どうなるのか分からないのだから。


 平民であったメアリー様が妃となられる為にはどうしても教育者が必要だった。

 私が有能な方を紹介したが「嫌だ、私自ら教育をする」と言って聞いてもらえなかった。


「リシウス陛下はお忙しいのですよ? そのような時間はありません」


「時間など作ればいい。他人になんて任せられない。メアリーには僕が教えるんだよ。僕の妻になるんだから」


 そう話されるリシウス陛下のお顔は、それは愉しげで、かつ恐ろしさも感じるほどだった。


 口を出してはいけない……。



 そして自らが王様となり、専用の足枷が出来上がったタイミングで、メアリー様が自宅で寝ている時に薬を嗅がせそのまま城へと攫ってこられたのだ。




 昨晩から、リシウス陛下は今までにない程機嫌良く……。


 よかったのだが……。



「断れないというのか? お前たちは無能なのか?」


 凍りつくような王様の視線が、会議中の臣下に向けられている。


 いや既に、半数の方は凍っておられるようだ。

 固まったように動かれない。


「で、ですが既に他国から大勢の姫君が我が王様に一目お会いしたい、と申し出て来ております。リシウス陛下はまだ特定のお相手を公表しておりません。ですからどうか一目お会いするだけでも」


 大臣が真っ青な顔をしながら王様に話す。


 リシウス陛下は若く美しい王様で、その上まだお妃様が決まっていない。

 その妃の座を、周りが放ってはいなかった。


 臣下達は皆、リシウス陛下のお気持ちを知ってはいるが、有力者からの話を無下にする事も出来ず、こうやって頭を下げている。


「会ってどうする? 時間の無駄だ。この話をしている今も無駄だというのに」

「外交問題にも関わって参ります。どうぞ一度で宜しいのです。機会を作られて下さい」


 外交官も頭を下げてリシウス陛下に頼んでいた。


「……何処の親も娘には甘いという事か」


 諦めた様にリシウス陛下は声を落とされた。

 主君は何だかんだと国の為ならば動いてくださる。


 臣下達は胸を撫で下ろし「では、日程を……」と、王様の気が変わらぬ内に話しを進めて行く。




◇◇



 リシウス陛下は麗しい方だ。

 側室であられた(残念ながら、リシウス様を生まれた後亡くなられてしまった)妃殿下によく似ておられる。


 その美貌には老若男女問わず惹かれるらしく、まだ幼き頃からいろいろな事があったのだ。


 まだ王子殿下であった頃から部屋へ令嬢が入り込まれる事も多く、その度に私や臣下達が対処してきていた。



 押しかけてくる者は、若き令嬢だけではなかった。


 恐ろしい事に、血の繋がりがないとはいえ母となられる正妃殿下までも、部屋へ来られた事もあったのだ。


 あれは、第二王子様が亡くなられて一年程過ぎた時だった。


「アダム、お前は今夜僕のベッドで寝て」

 

 突然リシウス殿下が私に言われた。


「側近が主君の寝具を使うなど、そんな事はできません。どうかなされましたか?」

「どうにかされそうだから言ってるんだよ。いいから、今夜は僕のベッドを使え」

「はい」


 リシウス殿下の言っていることがよく分からないまま、私は主君のベッドで寝ることになった。



 上質なベッドになれない私は、なかなか寝つけずにいた。


 すると……。


 深夜、誰かが私の寝ているベッドへ登って来た。

 そのまま手首を捕られ組み敷かれる。


「誰だ!」

「アダム?! 何故お前がリシウスのベッドで寝ているのよ!」


 驚いた顔でそう叫びながら、私を上から組み敷いていたのは第一王妃ターニア殿下だった。


 ターニア殿下はまるで娼婦のように薄い寝間着姿で、身体からは鼻につく甘い匂いが立っている。


「王妃殿下….…一体コレは……どうして」


「僕をどうにかしようと思っていたんだろう」


 暗闇からリシウス殿下の声がした。


 ……どうにか……ああ、そういう事か。


 リシウス殿下の少年から大人へと変わりつつあるその顔立ちは、男性にもかかわらず、誰もが見惚れるほど美しく妖艶だった。

 しかし、まさか王妃殿下までが。


「義理とはいえ息子を襲うとはね。この事を父上に告げられたくなくば、僕の言う事を聞くんだよ。()()


 私を組み敷いたまま固まる王妃殿下の首に、剣を当てながらリシウス殿下は低い声で告げられた。


「リシウス……お前」


 ワナワナと唇を震わせ声を低くするターニア王妃。


「口の利き方がなっていないようだね、ターニア」


 少しだけ角度の変わった剣先がキラリと光を放った。



「……分かりました。……王太子殿下」


 青褪めたターニア王妃はその場で項垂れた。




 その半年後に王妃達の争いが起こったのだ。


 王妃が側室達に放った言葉に憤慨した側妃が壁に飾られた剣を手に取った。まさか剣を向けられると思わなかった正妃は王様に助けを求め……王の部屋は惨劇の間へと変わってしまったのだ。

 正妃と王を斬りつけた側妃はもう一人も道連れに命を絶たれた。



◇◇



 つい先日、城で起こった悲劇を思い出し、しばし遠くを見ていた私に、リシウス陛下がメアリー様の下へ行くように命じられた。



「アダム、先に行って様子を見て来て」


 まだ臣下達の話しは終わりそうもなかった。


 メアリー様にはドレスをお仕立てすることになっており、この時間は仕立て屋を呼んでいる。

 もちろん職人は女性で、心配する様な事は何も無い筈だ。それでも、気にかかられるのだろう。


「分かりました」


 私は一礼するとその場を後にして、メアリー様のお部屋へと急いだ。




 何故かメアリー様の部屋の前に侍女と仕立て屋の女が立っている。皆、血の気の引いた顔をしていた。

 これは……。


「どうかしましたか?」

「私どもがお食事を取りに行って戻りましたら、メアリー様はお部屋から居なくなられておりました。どこにもいらっしゃらないのです」


「……本当に?」


 その言葉に私の血の気も引いた。



 メアリー様には足枷が付いていた。抱き抱えでもしなければ連れて行く事は難しい。

 それに影がいる筈だ。


「他に、ここに誰か来ましたか?」


「私どもは見ておりませんが、食事をとりに行った際、すれ違ったメイドがスターク公爵ザイオン様を庭で見かけたと言っていたのを聞いたのです」


「ザイオン様を?」


 すぐ側にある庭は、誰もが入れる場所では無い。 


 誰かが手引きしたのか、そもそもこの部屋に誰か居ると分かって来られたのか?

 連れ去られる理由も分からないが……。


 侍女は小さく震えていた。この事をリシウス陛下が知ったら大変なことになってしまうと恐れているのだ。


「影はどうしたのですか?」

「先程から何度呼んでも出て来ないのです」

「何故?」

「分かりません」

「……そうですか」



 ヤバい……リシウス陛下が来られる前に何としても探し出さなければ、どうなる事か。


 いや、隠し事などしてはならない。

 すぐに知らせる方が賢明だ。



 しかし、スターク公爵ザイオン様か。

 確か御令嬢はリシウス陛下に懸想していたはず。 

 御令息の方はどうだったか……急ぎ調べて見なければ。

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