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 私は十六歳になった。


 相変わらず名前を知らない人から、赤い薔薇の花束は届けられている。


「最近は、カードが入っていないねぇ」

「そうね」


 そう、おばあちゃんの言うようにカードは私が「怖い」と言ってから入って来なくなった。


(聞いていたのだろうか? まさか?)



◇◇



「おばあちゃん、今日は具合悪くないの?」


 この頃、おばあちゃんの体調は悪い。

 疲れたと言って横になる事が増えた。


 歳のせいだよ、とおばあちゃんは言って笑っていた。


 家の事は出来るけれど、私は不安で仕方なかった。


 もしおばあちゃんまでいなくなっちゃったら、私は完全にこの世で一人ぼっちになってしまう。

 そんな事を考えてばかりの私は、毎日不安で一杯だった。



 そんな時、また花束が届けられた。

 キレイな赤い薔薇の花。


 服や靴、鞄などの贈り物も届いていたが、全て上等な物で、私は使うことが出来ず大切に仕舞っていた。

 本当にこの名もなき人は、何故私にこんなに良くしてくれるのだろう。



「アタシがいなくなっても、この人がメアリーを見ていてくれると思うと安心して逝けるよ」


「そんな事言わないで。名前も言えない人なんて、どんな人か分からないじゃない」


「こんなに長く花束や贈り物を届けてくれる人が、悪い人な訳ないよ」


 おばあちゃんは花束を見つめながらそう言って笑っていた。



◇◇



 三ヶ月後、おばあちゃんは亡くなった。老衰だった。

 葬儀は、隣のおばさんやダイアナが来て手伝ってくれた。


 みんなが帰り、一人になった家は広く感じる。


「おばあちゃん……」


 当たり前だけど、呼んでも返事は帰ってこない。

 訳のわからない不安と寂しさが押し寄せてきた。


 周りはどんどん変わっていく。


 唯一の友人だったダイアナは、既に結婚が決まっていて来月にはこの村を離れて遠くの街へと行ってしまう。

 男爵家に養子に行ったジェームスも、婚約が決まり、一年後にお嫁さんをもらうのだとおばさんが嬉しそうに教えてくれた。


 こんな時、私にも側にいてくれる人がいたらいいのに。


 けれど、私は好き人もいない。

 想ってくれる人もいない。



(……花束の人は別。名前も知らないもの)


 私は一人ぼっちだ。



◇◇



 おばあちゃんがいなくなってひと月が経った頃、この国の王様が亡くなった。

 

 王妃様と側妃様の争いに巻き込まれて命を落とされたらしい。

 王族はこのところ不幸続きだ。

 その争いで、王妃様と二人の側妃様も命を落とされている。


 王族で残されたのは、第三王子様だったリシウス様ただ一人となった。


 王様の葬儀が済んだと同時に戴冠式が行われ、リシウス王子様はこの国の王様になられた。


 十九歳という若さで王様となられたリシウス陛下は、国民に発した言葉により、王としての才覚を見せられた。容姿麗しい王様は、瞬く間に国民から絶大な支持を得ることとなる。



 リシウス様が王様となられてから一週間後。

 私にまた花束が届いた。


 今回は久しぶりにカードが入っていた。


 そこには一言だけ


『君を愛してる』


 そう書いてあった。


 名前も知らない人からとはいえ、人生ではじめてもらった愛の言葉。


 淋しい日々を気丈に送っていた私の心は揺れてしまった。


 はじめて贈り物をもらってから、七年が過ぎている。


 おばあちゃんが言っていた通り良い人なのだろうか。

 会ってみたい……気もするけど……。




 その夜に、私は寝ていた部屋から攫われたのだ。


 この国の王様、リシウス陛下に。



◇◇



 目が覚めたら豪華な部屋にいて、足には足枷が嵌めてあった。


 その後、王様に呼ばれて現れた二人の侍女に、体を清められた。




 まったく分からない、どうしてこんな事になっているんだろう。


 何だか愉しげに微笑んで、私の髪を櫛で梳いている王様に尋ねた。


「私は何故、足枷をされているのでしょうか? 悪いことでもしましたか?」


「メアリーは僕の妻になるからね、少し覚えないといけない事があるんだ」


「……妻?」

 

 リシウス陛下はおかしな事を話し出した。


「そうだよ、その為に僕は王になったんだから」


 梳いた髪に指を通して、満足した様に微笑むリシウス陛下。


「綺麗だ。この柔らかい金の髪、いつもそっと撫でる事しか出来なかったから」


 そう言って髪を一房もち、匂いを嗅いでいる。


「あの……いつも撫でるってどう言う事?」

「……どういうことかな?」


 美しい作り笑いを浮かべて、リシウス陛下は、何かバツが悪くなったように「お腹空いているでしょ、何か持ってこさせるよ」と言うとスタスタと部屋を出て行った。


 すぐに侍女が食事を運んでくれた。

 たくさんのフルーツとパンとスープ、小さくカットされた野菜と美味しそうに焼かれたチキン、フルーツやハーブが入った贅沢なお水がテーブルに並べられる。


「どれから食べる?」


 私はなぜかリシウス陛下に抱き抱えられ、椅子に座ることになった。

 スプーンを片手に持ち、私に食べさせようとするリシウス陛下。


「自分で食べます」

「ダメだよ。メアリーは一口が少し多いからね、食べる量から教えてあげる」


 そう言ってリシウス陛下はスプーンに少しだけスープをとり、私の口に運ぶ。


(一口が多いって? 私この人の前で食べた事ないのに?)


「メアリー、口を開けてくれない? 開けないと口移しで飲ませるよ? そっちがいいのかな」


 自分で言っておいて一人で勝手に想像したのか、リシウス陛下はその白い肌を赤く染めた。


 口移しなんて嫌。

 私は口を開けてスプーンをパクリと咥えた。


 それを見たリシウス陛下は「あっ」と小さな声を上げる。


「メアリー、スプーンを咥えてはいけないよ。仕方ないなぁ、じゃあもう一度……」


 目を細めて私を見るリシウス陛下は、またスプーンにスープを掬って飲ませた。

 それから私は、ちびちびと彼から食事を与えられた。


「明日は僕は朝議があるんだ。その間に仕立て屋を呼んでいるから。メアリーに似合うドレスと靴を用意させるからね。では、おやすみ」


 食べた気のしない食事が終わると、リシウス陛下はようやく部屋を出て行った。



 朝議がある? それって……明日はすぐには来ないって事?


 もしかして今度こそ逃げられる?

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