プロローグ
ドラゴンの奇襲。
キャンプで眠っていたパーティメンバー全員が混乱状態の中、おれだけは冷静だった。
地上最強の生物と呼ばれるドラゴンを目の前にしても、おれの力があれば負ける気がしなかったからだ。
背中に背負った大剣ヴァルムンクを抜くと、ドラゴンの動きが止まった。
恐れている。
おれの力に。おれの覇気に。
パーティメンバーたちはそんなおれの姿を見て落ち着きを取り戻し、おれの後ろに陣取った。
いつものフォーメーション。
負ける気がしなかった。
おれは跳躍し、ドラゴンの頭めがけてヴァルムンクを振り下ろした。
しかし、超硬質のドラゴンの皮膚は他の魔物のように簡単に切り裂くことができず――
脇腹に深い衝撃。
ドラゴンが猛烈なスピードで回転しながら尻尾を叩きつけたのだ。
おれは地面に叩きつけられた。
痛みが全身を駆け巡る。呼吸が止まる。
視界の端に狼狽したパーティメンバーたちの姿が見える。
倒れるおれの方に駆け寄ろうとしたプリーストのおっさんがドラゴンの顎に捕まり、一飲みにされた。
他のメンバーは完全に恐慌状態に陥り、散り散りに逃げ出した。
おれは呻きながら立ち上がり、ドラゴンに向かって再び剣を構えた。
ドラゴンがこちらを向き、燃えるような瞳でおれをにらみつけた。
絶体絶命。
それでも、負ける気がしなかった。
ドラゴンが大きく息を吸い込み、ブレスを吹きかけてきた。
おれは身じろぎもせず、その炎に包まれる。
髪が、皮膚が、肉が焦げる感覚があった。内臓が燃える感覚があった。
おれの意識が消えるその瞬間、おれはスキルを発動させた。
瞬間、ヴァルムンクから黒い光がレーザーのようにほとばしり、ブレスを突き破り、ドラゴンの頭を射抜いた。
ドラゴンがその場に崩れ落ちたのを確認し、おれも倒れた。
スキル――魔剣
己の生命力が乏しくなればなるほど威力を増すという、なんともクセの強いこのスキルは、
そこらの雑魚に対しては扱いづらいものだが、強敵相手には絶大な効果を発揮する。
まあ、そのたびに死にかけなければならないのが難点だが。
しかし、今回はやりすぎた。
超高熱であるドラゴンのブレスを喰らいすぎたのだ。
体毛は焼き尽くされ、皮膚と肉はただれ落ち、むき出しになった骨が炭と化している。
回復スキルを持つプリーストのおっさんはドラゴンに食われて死んでしまった。
他のパーティメンバーも全員どこかに行ってしまった。
非常にまずい。
このままではおれは一人、この森で……
死ぬ。
意識が、途切れた。