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らしい乗り物

「うーんすっかり抜け落ちてたね」


 いつも通りのある日、先日のライバル会社のご令嬢からの指摘を受け

 主要メンバーを集めた会議が開かれていました。


「バスが異世界っぽくない ということですよね」

「そうそう、若松観光に異世界を教えてあげるつもりが、逆に突っ込まれてしまったね」


 なぜこの人は敵に塩を送るようなことをしたんだろうか、

 まぁおかげでバスが異世界っぽくないということに気が付いたのですが。


「仁和ちゃんよう、別にバスぐらい良いんじゃねぇか?ツアーということで来てるんだろう?」


 中ボスの乾さんが妥協案を提示する。

 ちなみに言葉遣いは諦めました。

 何度言ってもその時しか敬語を使わないのです。

 何百年も生きてたらそうそう簡単には変わらないようです。


「……できるだけ、現実的な物は見せたくないんだよね」

「バスなら市内にいけば普通に走ってるぜ?十分"異世界らしいもの"じゃないのか?」

「本当の"異世界らしいもの"じゃなくて、ツアー客が考える”異世界らしいもの”が欲しいんだよー」


(えらく拘るなぁ)


 沈黙の中、石津さんが手を挙げる。


「あの、この会社には他に乗り物は無いんですか?」

「うーん無いことも無いんだけど、社長は機械にしか変身できないんだよね」

「そうですか」


(……今何なにかすごいこと言わなかった?)


「それじゃあ俺たちのようなこっちの住人には分かんねぇぜ?」

「そうなるよね」


 全員でうーんと考える。


(移動手段かぁ、ゲームや漫画だとどうだろう?)

(やっぱり馬とか、生き物かなぁ機械以外だと)


「普通に馬とかですかね?」

「馬ねぇ」

「いいじゃねぇか馬、俺に似合いそうだろう?」


 全員が馬にのる乾さんを想像する。


「ど、どうかなぁちょっと想像できないんだけど」

「昔はよく乗ったもんだぜ」

「じゃあ馬はいるんですね、この世界も」


 しばらく腕を組んで考えていた仁和さんが目を開けた。


「馬かぁ、なんていうか普通じゃない?」

「普通ですか?」

「……意外性が無いわ!」

「はぁ」


 すると黙っていた先輩が、


「仁和さんそうも言ってられませんよ、早くツアー開催しないと資金が尽きます」

「えーでもー」

「でもじゃないですよ、とりあえず馬とか馬車でいいじゃないですか」

「う、うーん」


 お金が関わると先輩のほうが強い。

 先輩がパンっと手を叩く。


「はい、それじゃあ私は予算を計算しますから、仁和さんとあおのちゃんと乾さんは馬買うか借りるかしてきてくれる?」

「えぇ、今からですか?」

「若松観光に差をつけられたくないのよ、急ぎましょう」

「は、はい!」

「乾さんは昔乗ってたなら、どういう場所に行けばいいかわかるでしょう」

「お、おうそうだな」

「さ、そこで唸ってる仁和さん連れてって」

「京子ちゃん~私は少しでも良いツアーにしようと考えてるのにぃ」

「お金が無いとツアーも出来ないんですよ!」

「はぁい」


 こうして3人は事務所から放り出されました。


「……なんか先輩焦ってません?」

「京子ちゃんは私が若松観光に色々と教えたことを納得してないのよ」


(ライバルに手の内明かしたわけだしね)


「仕方ない、まぁ行きましょうか」

「はい」

「で、乾さん何処に行ったらいいかな?」

「昔ならいろんなところに馬屋は有ったんだが、今なら牧場にでも行くしかないんじゃないか?」

「乾さん知ってるとこある?」

「一ヵ所知ってるぜ」

「じゃそこに行きましょっか、社長に乗りましょう」


 3人は社長バスに乗り込む。


(そういえばさっき社長は機械にしか変身できないとか言ってたような)

(……何者なんだろう、社長って)


 乾さんの案内で牧場に向けて出発。

 どこから用意したのか乾さんはテンガロンハットを被って窓際に座っている。


(ちょっと格好が決まってるのが憎らしい)


 しかし仁和さんはまだ唸っていました。


「仁和さんまだ諦めてないんですか?」

「だって馬だよ馬、現代日本にいるじゃない」

「まぁそうですけど」

「角くっつけてユニコーンにでもします?」

「……最終手段ね」


 仁和さんは本気の目でした。

 

 バスは最初の村からダンジョンとは逆方向に向かいます。

 少し走ると舗装された道路が現れました。

 良くある田舎道のような道路を走ると、建物が見え始め、コンビニのような物があったり、工場があったり。

 現代日本と変わらない景色が見え始めました。


(様々な種族が歩いていること以外は、本当に元の世界と変わらないんだなぁ)


 いつのまにか窓を開けて口笛を吹きだした乾さんが鬱陶しくなってきたころ、

 ようやく目的の牧場が見えてきました。


「お、あれだ懐かしいねぇ、俺の行きつけの牧場さ」

「……なんですか行きつけの牧場って」

「昔は馬に乗れるやつはかっこよかったのさ」


(何年前の話をしてるんだか)


 牧場に到着したバス。

 3人は降りて事務所に向かいました。

 木造で小さな古めかしい小屋のトビラを

 乾さんはガラガラと開けて言いました。


「じいさん、俺だぁ、馬売ってくれ」

「あぁ?だれだぁ?」


 奥から腰の曲がった獣人(乾さんを老犬にしたような見た目)の人がのそのそやってきました。


「おう乾のボウズじゃねぇか」

「じいさんボウズはよしてくれ、もう立派な中ボスだ」


(……立派な中ボス)


「おまえさん中ボス職に就けたのか?」

「俺の風が吹き始めたのさ」


(……早く本題に入らないかな)


「こっちの2人は職場仲間の仁和と綾部だ」

「よ、よろしくお願いします」

「よろしくー、おじいちゃん乾さんと知り合いなの?」


(仁和さんってあんまり怖いものなさそうだなぁ)


「おう、昔は毎週このワンコロが馬を見に来てたさ、馬に乗せてくれって騒いでたな」

「昔の話はよせよ」

「で、今日はとうとう馬を買うのか?」

「仕事で必要になったんだ、詳しくはこの仁和から聞いてくれ、俺は迷える子猫ちゃんを導いただけさ」


(うざ)


「そうか、どんな馬を希望だ?」

「10人ぐらい乗れる馬車を引っ張れるような強いヤツで」

「おいおい、そんな馬ウチにはいないぞ、いったい何に使うんだ?」

「じつは……」


 仁和さんは店員さんにいきさつを説明した。


「……なるほどなぁ、だがさっきも言ったがここにはそんな馬力の出る馬はいない」

「そうなんですか?」

「今は馬自体がそんなに需要が無くてなぁ」

「まぁ移動は車で十分ですしね」

「今は専らペット感覚だったり、1人を乗せられるような小さな馬を売ってるんだ」

「そうですか」

「……済まないねぇ」

「いえいえ」


 店員さんは少ししょんぼりした様に見えた。

 確かに見てきた通り、田舎にまで舗装された道路があるこの異世界。

 車があるなら車で移動した方が良いのでしょう。

 この店員も長生きしているらしく、時代時代に合わせて商売をやってきたが

 そろそろ年齢的にも限界を感じているとのことでした。


「10人ぐらい引っ張れる強い馬か、ちょっと他の牧場を当たってやろうか?」

「良いのか?」

「あぁ、今どき馬を買いに来てくれるのが嬉しくてな」

「……じいさん年取って丸くなったな」

「……おまえもな」


(尖ってた頃の話とか興味ないから!)


 獣人たちが会話している横で何かを考えていた仁和さんが質問しました。


「ねぇおじいさん」

「なんだい?人間の嬢ちゃん」

「おじいさんはこの世界に車が登場する前は、どんな移動手段があったか知ってる?」

「そうだなぁ……」


 店員さんは遠い目をして何かを思い出している。


「燃費が悪いから使われなくなったが、魔法の乗り物なんてものもあったな」

「魔法の乗り物?」

「魔法の箒だよ」

「へーすごい!」


(魔法の箒かぁ さすがに一人用だよね)


「箒は昔から魔女なんかが使ってたんだが、一人用だしなぁ」

「なんだぁ……」

「あとは魔法のじゅうたんなんてものもあったな」

「……魔法のじゅうたん!?」


 仁和さんの目が光った。


「昔はそれで人や荷物を乗せて運んだらしいぞ」

「いいじゃない!魔法のじゅうたん」

「しかしなぁ魔法に長けた人でないとかなり疲れるらしいぞ、とても10人なんて乗せられないだろうな」

「そっかぁ」

「まぁ運転できるとしたら、魔法が得意なエルフ族しか無理だろうなぁ」


(ん?)


「……エルフ族?」


 3人の脳裏にアロハでサングラスのあの人が思い浮かんだ。

 私と仁和さんは叫んだ。


「エルフいたーーー!」

「おぉ、なんだなんだ?」


「おじいさん、魔法のじゅうたんを今でも売ってるとこって知らない?」

「あぁそれなら今でもエルフ族の住処付近で売ってるぞ」

「場所を教えて!」


 ……3時間後


 3人は勢いよく朝いた事務所の扉を開く。


「たっだいまー京子ちゃん!」

「おかえりなさい3人とも、馬は買えたかしら?」

「見て見て京子ちゃん」

「あら、外にいるの?」


 3人で外に出るとそこには特大のじゅうたんが広がっていた。


「なにこれ?」

「魔法のじゅうたんだよ!すごいでしょ」

「仁和さん馬は?」

「それよりこれでツアーしようよ!異世界っぽいでしょう?」

「……いくらしたの?」

「えっとこれ領収書」


 仁和さんはレシートを差し出す。

 先輩が少しづつ震えだした。


(これはやばい)


 乾さんも自慢げに話しだす。


「最新式だぜ、カートリッジ式で魔力を貯めておけるしホットカーペットにもなるんだぜ」

「そうそう、これで間地さんが運転したら完璧よ!」


 仁和さんは先輩の変化に気が付かずに、話を続ける。


「安心して京子ちゃん!なんとシートベルトもついてるのよ」


 そして先輩が爆発する。


「仁和さん!なんで勝手にこんな高いもの買うんですか!」

「え、えぇ!?」

「あおのちゃんと乾さんもこっちにきなさい」

「は、はい」

「俺もなのか!?」


「3人もそろって何やってるんですか!馬買ってきてって言いましたよね?こんなの本当に使えるんですか?法律や安全面は大丈夫なんですか?間地さんがお休みの日はどうするつもりですか?メンテナンスとか修理とかどうするんですか?じゅうたんに保険はかけられるんですか?リースと比較しなかったんですか?なんで買う前に相談してくれないんですか?減価償却費を計算しなおしじゃないですか!銀行から融資を得られなくなりますよ!」

「ご、ごめんなさーい」×3


 この後間地さんは魔法のじゅうたんの免許を取らされ、じゅうたん運転手になり人気を博したのでした。


 次の日。

 乾さんと私と仁和さんはそろって昨日のことを思い出していました。


「先輩怖かったですね」

「まぁ異世界っぽいし、買ってきてしまったから仕方ないと最終的には許してくれたけど」

「しかし馬はもう時代遅れなのか、じいさんの牧場もやめちまいそうだな」


 乾さんは少し悲しそうな顔をした。

 最近異世界人の表情が何となく分かるようになってきた気がする。


「そうそうそれなんだけど、あそこの一人乗り用の馬全部買えないかな?」

「え、大丈夫ですか?仁和さん、先輩に怒られたばっかりですよ」

「ふっふっふ、私は京子ちゃんに怒られ慣れてるからへっちゃらだよ」


(……先輩も大変だなぁ)


「馬買ってどうするんですか?」

「私に考えがあるの」

「どんなです?」


「次は王国と騎士団をつくりましょう!」


(あぁ……また突拍子もないことをいいだしたぞ)

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