表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/15

偵察と試運転

「ふぅん、中々いいところじゃないの」

「のどかな風景ですね、お姉さま」


 私は、深呼吸している2人のお嬢様を異世界の村へと案内する。


「さぁさぁこちらへどうぞ、お嬢様方」

「今いくわよ」


 2人のお嬢様、そう若松鈴ちゃんと、若松繭美ちゃんです。

 なぜ2人を案内しているのかというと、

 今回は以前とは逆であちらがゲストでこちらがホストだからです。

 それもこれも仁和さんの一言が原因なのでした。


 ”私たちが本当の異世界を見せてあげる”


 何を思ってそんなことをライバル企業のご令嬢に言ったのか、

 私と先輩にはさっぱり分かりませんでした。

 しかし売り言葉に買い言葉。

 どう見ても気の強いお嬢様であるところの、若松鈴ちゃん

 ”だったら見せて見なさいよ”の一言で、ウチの会社の最初のお客さんは

 まさかのライバル会社のご令嬢となってしまったのでした。


 (まだ正式にツアーも開催したことなかったのに)


「ガイド姿が様になってるじゃないの、綾部あおの」


 鈴ちゃんがからかう様な顔で、こちらを見ながら言いました。


「……えへ」


 憧れの職業だったので、褒められて普通に嬉しかった。


「いつまでもニヤついてるんじゃないわよ、さっさと案内しなさい」

「はい、こちらでーす」


 (今日は機嫌が良いのかな?)


 ひょっとしたら忙しい2人にとって、いい息抜きになっているのかもしれない。

 ライバル企業の偵察とはいえ、楽しもうとしてくれているのかもしれない。

 草原ではしゃぐ2人のお嬢様を見ながら、

 そんなふうに考えていました。


 (なんでフルネームで呼ばれたのかは分からないけど)


 行先は私たちの作った始まりの村。

 小さめの田舎の農村だけれど、宿屋も雑貨屋もあります。

 今日は雇った異世界人にお店で働いてもらっています。


(まぁ普段は洋服で近所の工場で働いている人たちなんだけど)


「こちらが異世界の村になります」

「へぇ」


 姉妹は村を見渡す。

 のどかな風景に人影は少なく。

 建物も4軒ほどしかない。


「……田舎ね」

「……そうですね、お姉さま」

「でも雰囲気あるでしょう?」

「まぁ、そうね」


 とりあえずお店にでも向かおうかという時、鈴ちゃんが何かを見つけました。


「あ、繭!見てみなさい異世界人だわ」

「はい、本当ですねお姉さま」


 鈴ちゃんたちが見ている先には、エルフの間地さんが歩いていました。


「耳が尖っているわね、本当に別の種族の人間なのね」

「はい、そうですね」


 (はぁ良かった、間地さん着替えさせておいて)


 間地さんは冒険者役をしてもらっています。

 アロハシャツとサングラス、スマホは今没収しています。

 伝統っぽい衣装を着させて、弓を持たせ、村の賑やかしになってもらっています。


 (”僕弓なんて使ったことないですよ”って散々言ってたけど、それなりに見えるなぁ)


「他にも異世界人がいないか探検よ、繭!」

「はい、お姉さま」


 (楽しんでくれたようでなにより)


 鈴ちゃん達はパタパタと2人で雑貨屋さんに入っていきました。


 店内には様々なグッズやお土産、回復薬等が売られています。

 店主は羊のような角が頭から生えている女の子です。

 私は普段から枕を持っている睡眠キャラにしよう、と提案したのですがボツになりました。

 異世界では羊と睡眠は結びつかないようです。


「いらっしゃいませ~、お土産に異世界スライム饅頭は如何ですかぁ?」

「お土産は後にするわ、ちょっと見せてもらうわよ」

「どうぞどうぞ~」


 (意外とおいしいんだけどなぁ異世界スライム饅頭)


 私は物色中の2人に話しかける。


「お嬢様方、この後はダンジョン探索になるので、回復薬を買っときましょう」

「ダンジョン探索?いいわね!」


 鈴ちゃんはノリノリです。

 妹の繭美ちゃんはリアクション薄いのですが、なんとなく楽しそうでした。


「回復薬ってどれかしら?」

「その緑色のビンの飲み物ですよ」


 鈴ちゃんは手に取って原材料表示を見る。


「これ中身大丈夫なの?」

「ほとんどエナジードリンクだよ」

「ふーん、ビンが可愛いから買うわ」

「ありがとうございまーす」

 

 一行は雑貨屋を退店。


「さぁいくわよ繭!綾部あおの!いよいよダンジョンでしょう?」

「はい、お姉さま」

「そうだけど、ガイドより先に仕切るの止めてよ鈴ちゃん」


 鈴ちゃんはダンジョンが気になって仕方ない様子。

 冒険に思いを馳せていました。


(うーん、子供っぽくて可愛い)


 気が付くと2人はキラキラ目で私を見上げていました。


「よぉし、じゃあダンジョンに向けて出発だよ!」

「おー」


 バス(社長)に乗り込み、ダンジョンの前へ出発。

 10分ほどの道のり、鈴ちゃん達をお菓子で餌付けしていると、

 ダンジョンの丘までは近いのですぐに到着しました。


 小高い丘の麓。

 石畳が横穴に続いています。


「あの横穴がダンジョンね?」

「そうですよー、恐ろしいボスが待ってるよ」

「……恐ろしいボス?」


 すこし歩みを止める鈴ちゃん。


「あら怖くなったの?鈴ちゃん」

「そ、そんなことないわよ!いくわよ繭!」

「はい、お姉さま」


 3人は入り口までスタスタと歩き出しました。


 入り口には入場門と受付がありました。

 受付には園田京子先輩が立っていました。


「いらっしゃいませ、ダンジョンにようこそ、1人500円でご入場できます」

「あらあなたこの間の人ね、っていうか入場料とるの!?ダンジョンって」


 鈴ちゃんがびっくりしている。


「当ダンジョンは世ダン連(世界ダンジョン連盟)認可済みの正式なダンジョンなので、入場料を頂いています」

「ぐぬぬ、まぁ500円ならいっか」


 鈴ちゃんはサイフから、2人分を支払った。


(さすが先輩は淡々と説明するなぁ)


(あ、受付に世ダン連認可ステッカー貼ってある)


 受付を終え、ゲートをくぐった3人は中へ入っていきます。

 いよいよダンジョン攻略の開始。


「中は明るくて歩きやすいわね、繭!ついてきなさい」

「はい」

「ちょっとちょっと、ガイドを置いて2人でどんどん行かないでよ」

「遅いわよ、綾部あおの!」


 ズンズン進んでいく鈴ちゃん。

 そして、鈴ちゃんが落とし穴に足をかける。


 ズボッ!


「え?キャーー!」

「お姉さま!?」


 繭美ちゃんと私は走り寄り穴を見ると、

 鈴ちゃんは落とし穴に見事にはまり、1m下のマットに転がっている。


「ちょっとこれは何なの!綾部あおの!」

「ダンジョン内で油断したね鈴ちゃん?大丈夫?」

「くー、低いしマット引いてあってまったく痛くないけどムカつくわね!」


 私は鈴ちゃんを引っ張り上げる。


「ちょっと!ちゃんとガイドしなさいよ!」

「先にどんどん行くからだよ」


 その後もぷんぷん怒りながらも突き進んでいく鈴ちゃん。

 この先にも転がる岩や、槍が飛び出す仕掛けも

 見事に全部の罠に掛かってくれました。


(いやぁ罠のチェックが出来て助かるわ、その都度私が怒られるんだけど)


 一行は数々の苦難?を乗り越えついにボス部屋の前の橋までたどり着きました。

 ボスの部屋は地底湖に橋を架けてあり、その先に扉があります。

 

「いよいよボス部屋ね、長かったわ」

「鈴ちゃんが罠に掛からなければすぐなんだけどね」

「うるさいわね綾部あおの!ここには何かあるのかしら?」

「お、学習したねぇ鈴ちゃん、私は嬉しい」

「いいからさっさと教えなさい!」


(ほろほろと泣く真似したかったのに)


「その橋の真ん中辺りの両側ににガーゴイル像があるんだけどね、橋に近づくと火を噴くよ」

「え、危ないじゃないの!」

「大丈夫、一定間隔で噴き出すんだけど人が前にいるときは噴き出さないから」

「なにそれ、センサーとかで?」

「センサー的なので」

「なるほどねぇ」


 渡る前は一定間隔で噴き出してるので、タイミング良く通り抜けようとするけれど、

 渡っている間は噴き出さないので、タイミングよく行けた気がするという罠になっている。


 3人は橋に近づくと、橋真ん中あたりにある像が火を噴きだした。


「綾部あおの……像は片方しか火を噴かないの?」

「そんなことないよ、あれ?片方しか火でてない?」

「出てないわね」


 よく見ると確かに、片方の像から火が出ていませんでした。


「ありゃりゃ、ちょっと待っててね」


 私は橋の真ん中へ行き、火を噴いてない像の背中をパカっと開けた。


「全く、石津さんに毎日チェックするように言ってたのに」


 開けた背中からガスボンベを取り出す。


「え、ボンベ式なの?それ」


 鈴ちゃんが驚いている。


「そうなの、やっぱりガスの栓引いた方がいいかなぁ」

「いやそういうことじゃなくて、魔法的なのじゃないのね」

「魔法は便利だけど燃費悪いんだよね」


 私は新しいガスボンベをセットして背中を閉じる。

 橋の前まで戻ると、像は元気に火を噴きだしました。


「はいOK!さぁどうぞ」

「どうぞって、像にガスボンベセットするシーン見た後じゃテンション下がっちゃったわよ」

「ふむ」


 ならばと私は演技を試みる。


「さぁボスの部屋まであとすこし、最後の難関は橋の火を噴くガーゴイル像だ!」


 大げさにポーズをとる。


「どうする冒険者たち!」

「はぁ、さっさと行くわよ綾部あおの」

「ちょっとひどいよ鈴ちゃん、待ってよー」


 3人はボス部屋の扉を開ける。

 大きく派手な装飾のされた扉が音を立てて開く。

 中は天井の高く、広い部屋の真ん中に大きな椅子に座っているゴーレムがいました。


「あのゴーレムがこのダンジョンのボスです、見事打ち勝って宝を持ち帰りましょう!」

「え、あのゴーレムって」


 鈴ちゃんは石津さんの姿を見て、困惑している。


「なんか洋服着てない?」

「……石津さんの衣装はまだ完成してないから気にしないで!」

「いや気にしないでって言われても、せめて脱ぐとかできなかったの?」

「……あの」


 座っていた石津さんが喋りだしました。


「なんでそっちの世界の人たちは皆、私を脱がそうとしてくるんですか」

「石津さん……本当ごめんなさい、ほら鈴ちゃんも」

「え、あの、ごめんなさい」

「良いんです良いんですよ、ゴーレムは服着ちゃいけないんですよきっと」

「そ、そんなことないよ、ねぇ鈴ちゃん?」

「え、も、もちろんよ!とても似合ってるわ、繭もそう思うでしょう?」

「はい、私も似合っていると思います」

「……本当ですか?」

「うんうん」

「ROCKって書いてあるし、最高よ」

「そ、そう?」


 こうして私たち3人は落ち込むボスを励まして、お宝を分けてもらい裏口からダンジョンを出ました。


「ふう、いやぁ色々あったけどダンジョン攻略おめでとう!」

「おめでとうじゃないわよ!綾部あおの!ちゃんと衣装用意しときなさいよ、いたたまれなくなったわ」

「まぁほら、2人が来るのも急だったしね?」

「まったく、でこのお宝はなんなの?」

「異世界のお土産だよ、このダンジョンにまつわるストラップがランダムで入ってるから是非コンプリート目指してね」

「ふうんどれどれ」


 鈴ちゃんがお宝と書かれたカプセルを開けると、中からガーゴイル像のストラップが出てきた。


「よりにもよってこれかぁ 繭は?」

「私は座っている石さんのストラップでした」

「まぁすごい、繭ちゃんのそれレアだよ」

「良かったわね、繭」

「は、はい」


(あんまり表情が表に出ないなぁ繭美ちゃん)


「じゃあ帰りましょっか」

「はーい」


 3人はバスに乗り、村まで戻ってきました。

 村には、仁和さんと先輩が私たちの帰りを待っていました。


「おかえりなさい、2人ともどうだった?」


 仁和さんが2人に尋ねる。


「ふん、まぁ異世界っぽさが負けてるのは認めてあげるわ」

「ふふ、分かったでしょう?」

「でも今に見てなさい!すぐに若松観光が追い付いてあげるんだからね」

「そうね、良いライバル関係になりましょうね」


 仁和さんと鈴ちゃんは握手を交わしている。


「ところで」


 先輩が一息ついたところで尋ねた。


「何か感じたこととか、思ったこととかアドバイスは無いかしら?」

「なるほどお客目線の意見が欲しいわけね、まぁ今回は楽しかったから一つだけ気になっていることを言ってあげるわ」

「気になっていること?」

「それはね」

「それは?」


「異世界でバスってどうなの?」


 …………


 ……

 

「確かに!?」×3

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ