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求人と面接

「せんぱーい!助けてください!」

 

 そう言いながらプレハブオフィスの扉をガラガラと開く。


「どうしたの?あおのちゃん」


 園田京子先輩は、相変わらず窓際でパソコンを触っていました。


「仁和さんに"村で働く異世界人を雇っておいて"って頼まれたんですけど、どうしていいやらで……」

「なるほどね」


 先輩は少し笑いました。

 というよりは思い出してにやけたような感じでした。

 不思議な顔で見ていると、

 

「私も昔頼まれたのよ」


 そう言いながら、一枚の紙をパソコンから印刷しました。


「これは前に私が、石津さんと間地さんを雇ったときの求人票よ」

「ありがとうございます!参考にします」


(丸パクリしよう)


「ふふ、いいのよただお願いがあるのだけれど」

「なんでしょう?」

「ダンジョンのスタッフもついでに雇って欲しいのよ」

「えええ!?」

「ダンジョンも人がいるのよ、お願いね?」

「分かりました、でも手伝ってくださいね」

「もちろんよ」


(この会社に先輩がいて本当に良かった)


 私は早速、印刷していただいた求人票を見る。

 現代でもよく見かける求人雑誌に書いてあるような、当たり障りのない文章が並びます。

 

(ふむふむ、接客有り 先輩社員がしっかり指導 ともに成長できる人募集 ねぇ)


 ふと最後の行に見慣れない文が1行ありました。


(魔法の使える方優遇……)


「先輩、魔法の使える方優遇っていうのは?」

「あぁそれはもう消していいわよ」

「もう魔法が使えるスタッフは要らないんですか?」

「それがね、それを書いた当時の私は知らなかったんだけれど」

「はい」

「この世界の魔法が使えるっていうのは、現代日本で自転車に乗れるレベルの話なのよ」

「えぇ、そうなんですか、魔法使いだらけじゃないですか」

「一般的なのはね、大きな魔法はプロでないと難しいらしいけれどね」

「魔法使いってプロもいるんですね」

「自転車だって競輪選手とかいるでしょう?」


(確かに)


 先輩は話を続ける。


「だからそこには別の言葉を入れてほしいの」

「なんて入れるんですか?」

「”中ボス経験者優遇”で」

「へ?」

「中ボスが欲しいのよ、だから"中ボス経験者優遇"って入れてほしいの」


 分かってはいました。

 先輩はあまり冗談は言わない真面目な人です。

 つまり本当に中ボスが欲しいのだということです。

 或いはその経験が欲しいのです。


「……分かりました」

「ありがとうね」

「でもこの世界からファンタジーが消えたのは、何十年~何百年前の話じゃないんですか?中ボスを経験した人って生きてるんですか?」

「あおのちゃん、異世界人は長寿な種族もいるのよ、間地さんも200歳超えてるわよ」

「えー200年も生きているようには全然見えないですよね」

「ほんとね、アロハシャツにサングラスだからかしらね」


 2人でふふっと笑って一息。


「異世界では中ボスの経験って就職に有利なんですかね」

「どうかしらね?少なくとも今必要とされているけれどね」


(何事も経験、中ボスも経験なんだなぁ)


 その後2人で協力して求人票は無事に完成。

 村のスタッフとダンジョンのスタッフを同時に募集し、

 応募があった場合は、私が面接するということになりました。


(まぁ中ボスになりたい人なんて、そんなに来ないでしょう)


「そういえば、村を見てきたんですけどほとんど完成してましたよ」

「でしょうね、この世界は魔法があるから建設はやたらと早いのよね」

「そうなんですか、ダンジョンもすぐにできるんですか?」

「7日ぐらいでできると思うわ」

「早い!」

「ふふ、ダンジョンは私に任せてね、あおのちゃんは人の確保に専念してね」

「はい!楽しみにしてます」


(先輩と作ったダンジョンかぁ、楽しみだなぁ)


 仁和さんがプレハブオフィスに帰ってきて、その日は解散。

 元の世界に戻って別れました。


 その日もすぐに寝てしまいました。


 次の日。

 いつも通りにプレハブオフィスに出勤すると、既に先輩も仁和さんもいました。


「おはようございます」

「おはようございます」

「おはよう」


(この人たちは何時に来てるんだろう)


「あおのちゃん、早速だけど昨日の求人にもう応募があるわよ」

「えっ!?」

「それもダンジョンの方に」

「まさか中ボスですか?」

「そのようね」


 どうやらパソコン上での応募のようで、

 求人サイトに載せた広告にパソコンからエントリーが1件あったようです。


(早すぎる、なんの準備もしてなかったよ)


 来客用ソファーでひっくり返っていた仁和さんが会話に参加。


「うーんさすがあおのちゃん!どんどん雇っちゃってね」

「ま、まだ面接してみないとですね」

「じゃあサッと面接して雇っちゃってね」

「はぁ、そうですね」


(この人は適当なのか本気なのか分かんないなぁ)


「それじゃあ今日は、私は村へ、京子ちゃんはダンジョンへ、あおのちゃんは求人関係をよろしくね」

「はい」

「分かりました」


 3人は打ち合わせを済ませて、2人は出ていこうとドアを開けると、


 ふさふさの青い毛でテンガロンハットを被った犬が、

 革ジャンを着て2本足で立っていました。


「失礼、中ボスの仕事の求人がでていたのだが、ここでいいのかい?」


 低い男性の声でしゃべる犬でした。


 仁和さんはニコっと顔を作り、犬に答えます。


「はいそうでーす、中へどうぞー あおのちゃん後よろしくねー」

「え?えええ!?」

「私も出かけてくるわね」

「先輩まで!?」


「失礼する」

 犬はプレハブに入ってきました。


(ええええ ちょっといきなりすぎるんですけど、この犬も全然遠慮ないし)

(っと混乱している場合じゃない、今は頼れる人はいないんだ)


 こちらへどうぞと、私は来客用ソファーに犬を促しました。


「こちらで少々お待ちください、お茶を入れてきますので」

「かたじけない」


(犬ってお茶飲むんだろうか、日本茶でいいのかな?)


 私はポットでお茶を2人分いれて、ソファーの前の机に出しました。


「ありがとう、お嬢ちゃんも座りな」

「は、はぁ」


(なんで偉そうなんだこの犬)


 のんびりお茶を楽しんでいる渋い声の犬を見かねて、私は尋ねました。


「あの、今日はその、求人をご覧になって来られたんです?」

「……インターネットで」

「はぁ?」

「インターネットでエントリーした乾というものだ」

「はぁ」


(そういえば応募者の名前はまだ見てなかったなぁ)


「えっと弊社は2つ求人を出してますけれど、ダンジョンの方ですよね?」

「……あぁ中ボス業志望だ」


(なんだよ中ボス業って)


「あの、履歴書はお持ちで?」

「……これだ、宜しく頼む」


 そういうと、見た目は普通の履歴書を渡されました。


(ふむふむ、狼男の乾さん120歳ね 現在無職か)

(120歳……この世界って定年は無いんだろうか)


「……フッ合格か?」

「いやなんでなんですか!今のままだと不採用ですよ!」

「何故だ!?中ボスを欲しているのだろう?」

「その態度ですよ!」

「それより経歴を見てくれ、中ボス検定2級 ダンジョン管理士2級もあるぞ」

「ウチは接客もするのでその態度は困ります」

「そこをなんとか頼むよ、チビも3匹いるんだ」

「知りませんよそんなこと」


(チビ犬3匹……すごく見たい)


「違うところで働いたら良いんじゃないですか?」

「……ウチは代々中ボスの家系なんだ、爺さんも歴戦の中ボスだった」


(歴戦の中ボス?バイトリーダーみたいなものかな?)


「数十年前までは中ボス業で食ってきたんだが、最近はダンジョンも減り異種族もみんな仲良くなっちまった」

「はぁ」

「俺たちはこの生き方しか知らないんだ、中ボス業なら誰にも負けねえ自信がある、なぁ頼むよ」

「うーん」


(任されてるとはいえ、一存できめていいものかどうか)

(ましてやこの偉そうな態度ですよ?)


「じゃあ具体的に何が出来るんですか?」

「そうだな、例えばボスの部屋に入るのにカギが要るとするだろう、そしてそれは中ボスが持っていると」

「はい」

「俺ならその鍵を戦闘中に一切傷つけずに、倒された後確実に見つかるように落とすことができる」

「それはすごい!」

「だろう?」

「他には他には?」

「相手が感の鈍そうな奴なら、自分の弱点を光らせることができるぞ」

「すごい!さりげなく弱点を突かれるわけね」

「はっはっはそうだろう、我が家の秘伝なんだ」

「さらに?」

「さらに戦いが長引いたら、BGMをループさせることができるぞ」

「手動だったんだねすごい!」

「だろうだろう?なぁ、損はさせねえよ」


(ちょっと盛り上がってしまった)


「でも先輩がなんていうか、言葉遣いとか気にしそうだしなぁ」

「ぐ、言葉遣いはなんとか直していきたい……と思っています」


 私は悩んだ。

 多分中ボス能力は高いのだろう。

 この偉そうな発言も中ボスっぽいといえばそうなのかもしれない。

 

「なぁあんた、見てくれよこいつらを、こいつらに腹いっぱい食わしてやりてぇんだよ」


 そういうと写真を懐から取り出した。

 そこにはもふもふの3匹の子犬が写っていました。


「くっ、卑怯な」

「中ボスなら必殺技の一つは持ってるものさ」

「分かりましたよ!3か月見ましょう、その間に言葉遣いが直らなかったり周りと揉めたりしたらクビですからね」


 そういうと乾さんはニカっと笑いました。


「あぁお世話になる、いやなります」


 そういう乾さんのしっぽは左右にブンブン振られていました。


「じゃあ初日はまた連絡しますね」

「分かった、分かりました」

「そういえば今日はどうやってきたんです?」

「走ってきたさ、俺たちはオオカミだぜ?」

「帰りも?」

「もちろんさ、じゃあ連絡待ってるぜ!」


 そういうと草原を4本足で駆けていきました。


(オオカミ?犬じゃないのか)


 異世界の狼は群れに入るのも履歴書が要るんだなぁと

 世界の違いを感じていました。


 こうして中ボスの乾さんが仲間になりました。


 尚、ソファーは抜け毛でいっぱいでした。

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