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あんしん異世界保険

 さて、異世界のお城計画のめどが立ち、建設が始まったある日。

 お城に関しての私達の仕事は一旦の目途が立ちました。 


(建てるのは業者さんの仕事だからね)


 久しぶりにのんびりした朝を迎えていたある日。

 私は保険屋さんの名刺とチラシを受け取っていたことを、ふと思い出しました。


「そういえば仁和さん、この前保険屋さんがチラシを置いていったんですけど」


 そういいながらチラシと名刺を渡す。


「どれどれ、ふむふむなーるほど」

「なにが"なーるほど"なんですか?」

「たぶんこの人は表のじゅうたんを見て来たんだよ」


(そういえばやたらに興味を示していたなぁ)


「なんでです?」

「空飛ぶじゅうたんの任意保険に入らないかということよ」

「あぁなーるほど」

「ね?」


(したたかだなぁ)


「任意保険ってじゅうたんもあるんですね」

「そだよ、じゅうたんで人ひいちゃったり、人の物壊しちゃったときの保険だね」

「なんでもあるもんですね」

「異世界には保険もいっぱいあるんだよ」


 そういうとソファで横になっていた仁和さんは、体を起こして座りなおした。


「このチラシと名刺貰ってから一週間経つんじゃない?」

「ぴったり一週間ですね」

「フフじゃあそろそろ来るよ」

「え?」


 仁和さんは髪を整えている。


(この人の言うことは妙な説得力があるんだよね)


 コンコンコン。

 オフィスの扉がノックされました。


「ほら、来たよ」

「はーい」


 私は扉を開けに行った。


 そこには、すこしくたびれたスーツ姿の伊地矢さんが立っていました。


「どうもどうも、お世話になっております異世界保険の伊地矢と申します」

「綾部です、一週間ぶりですね」

「えぇ、お久しぶりです」


(一週間前に見たまんまの姿だ)


「いやぁ相変わらず立派なじゅうたんですね、まだ稼働はしていないのですか?」


(むっ早速じゅうたんに触れてきた!)


「え、えぇまだなんです」

「そうですかぁ」


(なんだか普通に残念そうだ)


「ところで本日は保険等のご担当者様はおられますか?」


 チラっと振り返って仁和さんの方を見る。

 髪の毛を整え終えたようで、よそ行きの顔になっていた。


「はい、中へどうぞ」

「失礼します」


 中では身だしなみバッチリの仁和さんが笑顔で待っていました。


「初めまして異世界保険の伊地矢です」

「初めまして異世界観光の仁和です」


(電話の時だけ声が高くなるお母さんみたいだ)


 べつに盗み聞きしようというワケでは無いのだけれど、

 狭いオフィスなのでお話は聞こえてくる。


「貴重なお時間ありがとうございます、一度ご挨拶したいなと思っていまして」

「そうなんですね、いやぁちょうど大きなお城を建てようとしてて、偶然お得な火災保険探してたんですよ」


(偶然ねぇ)


「えっ本当ですか!それなら弊社はお役に立てると思いますよ」


(白々しい)


 私は先輩と顔を見合わせて苦笑い。


「城下町もつくるから結構な金額になりそうなんですよね」

「そうなんですか!是非一度弊社のプランをご覧ください」


 そういうと伊地矢さんはパンフレットを仁和さんに渡し、説明を始めた。


「火災保険は損害保険です、災害による被害から一刻も早く立て直すために保証金をお支払いする仕組みです」

「うんうん」

「火災保険といっても火災にしか対応していないわけでは無く、落雷や強風、洪水なんかも対象になります」

「ふむふむ」

「プランによって変わるので、御社に合ったプランを選択してください」

「どんなプランがあるのかしら?」

「そうですねぇ、異世界ですので、異世界ならではのプランがオススメです」

「と、いうと?」

「まず通常の火災保険だと、普通の災害や火災にしか対応しません」


(それで充分では?)


「そんなときは弊社の火災保険(竜)です」

「(竜)?」


(なんだそれ)


「火災保険(竜)に入っていると、異世界の生物に起因する災害が対象になります、ドラゴンの逆鱗に触れて家を燃やされた時でも保証します」

「へぇ~」

「その他巨人が家の隣で踊った時の地震なんかも対象ですし、狼の息でわらの家が吹き飛んだ時も対象です」


(どんな状況なのそれ)


「それでも不安な人はこれ、火災保険(霊)」

「(霊)!?」

「先ほどのプランに加え、さらに精霊等の怒りに触れた時に竜巻や台風で家が吹き飛ばされても対象になります」

「ほほー」


(さっきから怒らせすぎじゃない?)


「それでもまだ不安な方はコレ!火災保険(神)」

「(神)!?」

「さきほどのプランに加え、さらに神の怒りに触れた時に神罰で家に雷が落ちたり、海神リヴァイアサンの怒りに触れ津波に街ごと流された時など、さまざまな神害に対応します!」


(何しでかしたらそこまで怒らせられるの)


「たしかに異世界ならではで良いね」

「でしょう?是非ご検討ください」


(神プランとか保険料めちゃくちゃ高いだろうなぁ)


 ふと先輩の方を見るとすごく不安そうな顔で仁和さんを見ていました。

 仁和さんは先輩の視線に気が付く。


「そ、そうねぇとりあえず社長に聞くからこの規模の見積りだけ貰えるかな?」

「かしこまりました、メールでよろしいですか?」

「はいお願いします」


(ほ、なんとかこの前みたく即決されずに済んだかな)


「それではすぐに帰って見積り出させて頂きますので」

「よろしくね」

「本日はありがとうございました」

「ありがとうございました」


 とりあえず営業は終わったようです。

 伊地矢さんは素早く帰っていきました。


「……営業の人はフットワーク軽いですね」

「まぁそれでご飯食べてるんだしね」


 私は見送った後、外にあるじゅうたんを見て思い出した。


「そういえば、じゅうたんを見て営業に来たんじゃ無かったんですね」

「うーんあの人本当にタイミングが良かっただけかもね」

「そんなことあるんですか?」

「どうかしらね、それよりあの伊地矢さんどこかで見たような気がするんだよね」


 仁和さんはうーんと何かを思い出そうとしている。

 私は全く見たことのない人だった。

 そもそもどっちの世界出身の人なのかも謎だった。


(両方の世界を知っているような口調だったけどなぁ)


「で、仁和さんはどのプランにするんですか?」

「そうだねぇ」


 再び先輩が仁和さんを見ている。


「……うん、(竜)かなぁ」

「(竜)かぁ」


(ドラゴンって怒りっぽいのかな?)


 まだまだ知らないことが多いなと思いました。


 次の日。


 朝から早速見積もりが届いていたそうで、仁和さんと先輩と社長で会議をしていました。

 私は今日は城の建設予定地の視察に向かいます。


 私がみんなとダンジョン運営をして毎日を過ごしている間に、先輩と仁和さんはほぼ建設の準備を済ませていたようで、知らないうちに工事は始まっていたようです。


 私は事務所で準備を整え、間地さんを待っていました。


「おはようございます、綾部さん」

「おはようございます」


 ガラガラ扉を開けて、間地さんが入ってきました。


「間地さん、ほんとに乗るんですか?アレに」

「しょうがないじゃないですか、社長は会議中だし」

「そうだけどー」


 建設予定地までは少し距離があるので、間地さんの運転でじゅんたんで行くことになっていた。


「あんまり乗りたくないなぁ」

「まぁまぁそう言わずに、最近ちょっと練習してたんですよ、じゅんたんの運転」


(そういえば最近ちょいちょい無かったなぁ)


「そこまで言うなら、お願いしようかな!」

「はい、じゃあ乗った乗った」


 しかたなくじゅうたんのシートに座った。


(うーん意外とふかふか)


「じゃあ出発しまーす」

「おー」


 間地さんはじゅんたんの運転手を気に入ってるらしく、ノリノリだった。

 ふわっとじゅうたんは浮き上がり、落ちないかと不安を覚える。

 

「うわ、浮いた!怖!」

「ハハハ大丈夫ですよ、さぁいきますよ」

「ゆっくりね!ゆっくりね?」


 間地さんは集中し、ビルの3回ぐらいの高さまで上昇してから進みだした。

 ゆっくり飛んでくれてたとは思うけど、体感速度は怖いほどだった。


「綾部さーん大丈夫ですかー?」

「あ、うんなんだか慣れてきた」

「それは良かった」


 ふんふん鼻歌を歌いながら運転している間地さん。


「なんだかご機嫌ですね」

「そうなんですよ、僕にもようやく役割ができたというか、そういうのが嬉しくて」

「役割ねぇ?」


(まぁ分からなくもないかな)


 そんな話をしていると、真下に牧場が見えた。


(あ、乾さんが馬を世話してる)

(……牧羊犬とかにも使えそうだなぁ、あの中ボス)


「乾さーん!」

「ん~その声は綾部っちか?どこだ?」

「上だよ」

「上だぁ?」


 乾さんは上を向く。

 絨毯の横から目が合った。


「おうじゅうたんか!いいねぇどこ行くんだ?」

「ちょっと建設予定地にね、中ボスは今日はいいの?」

「今日はダンジョン休みなんだ、正解には"今日も"だがな」

「どういうこと?」

「ボスが昨日から来てないんだ」

「えぇ!?」


(ボスっていうとゴーレムの石津さんか)


「連絡付かないの?」

「そうなんだ、だから昨日から臨時休業中だ」


(知らなかったなぁ)


「間地さん何か知らないの?」

「僕も知らないですね」


(どういうことだろう)


「まぁこっちからも連絡してみるよ」

「頼むよ、俺は中ボスは得意だがボスは苦手だぜ」

「どう違うのよ」


 乾さんと別れた後、村とダンジョンの間に建設予定地はありました。

 すでに大掛かりな工事が始まっていて、ヘルメット姿の従業員が何人か作業しています。


 じゅうたんから降りた私と間地さんは建設予定地にあるテントに近づきます。


「こんにちはー」

「はい?」

 

 これまた低く、怖そうな声が聞こえた。

 テントをのぞき込んでみると、そこにはヘルメットをかぶったゴーレムが指示を出していました。


「あのー私異世界観光の綾部と申しますけれど」

「同じく間地です」

「あぁどうもどうも、私はゴーレム建設の岩井です」


 名刺を交換した。


(なるほど、岩井さんね)


 岩井と名乗る彼は下っ端ゴーレムに指示を出している。

 おそらく現場の偉い人なのだろうことは見て分かった。

 体つきというか、石つきとかいうか、他のゴーレムとは違う雰囲気があった。


「現場を見に来られたんですか?」

「え、えぇそうなんですよ」

「そうですかそうですか、ぜひゴーレム建設の働きを見ていってくださいよ」

「は、はい」

「あ、ちょっとすみません」


 そういうと岩井さんはテントから出て叫び出した。


「コラ新入りぃ!そっちじゃねぇつってんだろう!こっちこい!」


 そういうとテントに再び帰ってきて、


「いやぁすみませんね、昨日から入った新入りがどんくさくて」

「そ、そうなんですね」


(こ、怖い)


 すると怒られたゴーレムがテントまでやってきた。


「オヤカタすみませんでした……ってああぁぁ綾部さん!」

「その声は石津さん!」

「なんだ、新入り綾部さんと知り合いなのか?」


 怒られていたのは石津さんでした。


「助けてください綾部さん!オヤカタ話を聞いてくれないんですよ」

「どういうこと?」

「私は異世界観光のゴーレムだと言ったんですけど聞いてくれなくて」

「なんだ新入りの言ってたことは本当だったのか」

「だから新入りじゃないんですってば」

「ガッハッハすまんすまん」


 オヤカタは豪快に笑っている。


「いないと思ったら、なんか大変な目に合ってたんだね」

「……大変でした」


 するとオヤカタが全員を集め出した。


「おぅお前ら!いったん集合しろ!」


 はい!という声とともにゴーレムが集合した。


「新入りが新入りじゃなかったから今日で最後だ!挨拶しろ!」

「お疲れさまでした!」


 ゴーレムが声を揃えた。

 石津さんも答える。


「短い間でしたけれど、ありがとうございました」


 ガチガチガチガチっとゴーレムが拍手している。


「じゃあ仕事に戻れ!」

「はい!」


「……良かったね、石津さん」

「なんだか複雑な気持ちです、宿舎でのみんなとの生活も楽しかったような気がしてきました」

「そ、そっかぁ」


(一日いただけでしょうに、雰囲気に流されすぎでしょ)


 石津さん失踪事件は解決しました。

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