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騎士も法治されています

「ダサいですね」

「ダサいわね」


 ある日の朝、事務所の窓から外に広げてある魔法のじゅうたんを見て呟く先輩と私。

 シートに広げられているそのじゅうたんは、ガッチリとした黒い座席が10席ほどついていて、シートベルトもついている。


「なんていうか、遊園地の乗り物っぽいんですよね」

「分かるわ」

「探したら有りそうですよね」

「あったら余計に嫌だわ」


 なんで広げてあるのかというと、丸めたり畳んだりできないそうです。

 シートがあるから。


「……なんでこんなの買っちゃったんでしょうね」

「よくあることじゃない、それこそ有名遊園地で買っちゃう耳のついたヘッドバンドやサメにかじられて見える帽子とかね」

「あーたしかに家に帰ったら二度とつけないんですよね、でもその時はすごく欲しいんですよ」

「そんなものよね」


 先輩は諦めてじゅうたんを活かす方法を考えていました。

 たぶん止めたいといっても仁和さんが押し通すだろうとのことです。


「あおのちゃん、因みにじゅうたんは他に何のオプションがあったの?」

「うーんカーナビとか灰皿とかETCの機械とかですね」

「ほぼ車みたいな扱いなのね」

「全部つけませんでした、必要ないと思って」

「そうね、じゅうたんの上は禁煙でお願いしたいわね」

「ですね」


(じゅうたんにタバコの焦げ跡つけられたら嫌だしね)


 そんな話をしていると、仁和さんが元気に事務所の扉を開けて登場しました。


「おはよう!2人ともいつも早いね!」

「おはようございます」

「おはようございます」


 どかどかと事務所に入ってきて自分の席に座り、菓子パンを食べ始めました。


「仁和さん、王国と騎士団つくるって本当ですか?」


 先輩が不安そうに尋ねる。

 仁和さんは菓子パンほ頬張っていたので、口の中の物を飲み込んでから答えました。


「そうそう今日はその作業をしよう!」

「……本気なんですね」

「私は本気よ京子ちゃん」


 そういうと続きを食べ始めました。

 先輩はため息をつくと、あらかじめ作っておいた資料を取り出しました。


「そういうと思って、必要なものをリストにしておきましたよ」

「わぁありがとう」


 私にも用紙が配られました。

 そこには"国の作り方"と書いてありました。


(国の作り方?)


 そして先輩はホワイトボードの前に立ち、説明しだしました。


「まず国を作るには3つの物が必要です、1主権 2領土 3国民 です」

「は、はぁ」

「この3つをそろえて、国連に承認されればほぼ国として認められたといえるでしょう」

「あ、そういう本格的な国造りじゃなくてね」


 仁和さんが一蹴した。


「見た目王国があればいいのよ」

「そういうことですか、じゃあいつも通り建設からですか?」


 先輩は資料をポイっと捨てた。


(切り替え早いなぁ)


「そうだね、洋風の白いお城がいいな」

「背景は考えてあるんですか?」

「背景?」

「そのお城の歴史ですね」

「歴史?特に何も考えてないよ」

「じゃあ私が考えていいですか?」

「京子ちゃんが?別にいいけど、意味あるの?」

「ありますよ!歴史のないお城なんてただの大きな家です!」


(あ、仁和さんが先輩のスイッチに触れた)


「そ、そっか、じゃあお城は京子ちゃんにお願いするね?」

「任せてください、良いお城にしますよ」


 さすがの仁和さんも少しびっくり。

 京子ちゃんに任せた!と言って私を連れて事務所から逃走しました。


「ふーびっくりした」

「先輩は歴史とかお城とか凄く好きなんですよ」

「お城、ハリボテでも良かったんだけどなぁ」

「……あの調子だとそれはそれは立派なのが出来上がりますよ?」

「だよね」


(今の先輩を止められる人はいないだろうなぁ)


「さて、私達は騎士団を作りましょうか」

「はい、例の牧場で馬を買うんでしたっけ?」

「そうよ!さっそく出発しましょう」

「はい」

「とその前に乾さんも連れて行くよ」


 私と乾さんと仁和さんの"チーム衝動買い"が再結成され、バスに乗り込みました。


「じゃあ牧場へ向けて出発!」


 道中1時間弱の道をバスが走ります。


「嬢ちゃん達よう、俺はもう怒られるのはごめんだぜ」


 と乾さん。

 怒られたときを思い出しているのか、三角形の耳が少し垂れています。


(ちょっと可愛いかも)


「今京子ちゃんはすごく楽しく忙しいはずだから大丈夫よ」

「なんだい?その楽しく忙しいってのは」

「うーんまぁとにかく今なら大丈夫だよ」


 分かってやったのか、仁和さんは今のうちに馬を買ってしまうつもりのようです。


 しばらくすると以前訪れた牧場が見えてきました。

 3人はバスから降り、牧場の事務所へ入っていきます。

 仁和さんがガラガラとドアを開けて元気良く叫びました。


「こんにちは!馬買いにきましたー」

「じいさんいるかい?」


 奥から声がします。


「なんだぁまたお前らか、どっこいしょっと」


 奥の部屋で寝ながらテレビを見ていたようです。


「おう、この前の3人揃ってどうした?こんどは馬か?」

「そうなの、5頭売ってよ」

「そりゃあもちろん良いんだけど、移動はじゅうたんじゃなかったのか?」

「今回は違うよ」

「そうか」


 おじいさんはそういうとそれ以上は聞かずに、長靴を履き始めました。


「よし、ついてきな、好きなのを選んでくれ」

「あおのちゃん選んでて、私京子ちゃんに電話しとくから」

「わかりました」


(とは言ったものの、いい馬なんて分からないなぁ)


「乾さん良い馬とか分かる?」

「おいおい、おれはカウボーイだぜ?」


(いつからだよ!そのテンガロンハットだって普段かぶってないでしょ)


「じゃあ任せる」

「……一流のカウボーイは馬を選ばないものさ」


(頼りにならないなこの中ボス)

(こういうすぐ形から入っちゃう所とか、仁和さんと気が合うんだろうか)


 私は諦めて店主に聞くことにしました。


「おじいさん、どんな馬が良い馬なんですか?」

「そりゃおめぇ用途によるだろう」


(用途か、そういえばちゃんと聞いてなかったなぁ)


 私は想像した、馬鎧を纏って、鎧を着た騎士を乗せているカッコいい姿を。


「たぶん重たい物を着て、重たいものを着た人を乗せて走ったりするかと」

「なんだそりゃ、どういう状況だ?」

「たぶん、鎧とか?」

「まぁよく分かんねぇけど、パワーが必要そうだな」


 おじいさんは少し考えて、


「そしたらこいつらだな」


 数少ない牧場の馬の中からおじいさんはパワーのある馬をピックアップ。

 黒くて大きい馬や、白い馬など5頭つれてきました。


(やっぱりなんでも店員さんに聞くのが早いな)


「ありがとうございます、良く知らないもので助かります」

「おう」


 しかしおじいさんは少し難しい顔になりました。


「綾部さんと言ったな、お前さんたち馬についてはどれぐらい知ってるんだ?」

「ほとんど初心者です」

「そうか、ちなみに馬は法律上どんな扱いになるか知ってるか?」

「いえ、まったく」

「馬は法律上は軽車両に当たる、つまりは自転車と同じだな」


 私は想像した、自転車に乗っている鎧を着た騎士のカッコいい姿を。


「……自転車と同じ扱いなんですか?」

「そうだ、道路を走るときは左側を走り、信号に従って右折は2段階右折だな」


 私は想像した、交差点を2段階右折する鎧を着た騎士のカッコいい姿を。


「あと夜間は点灯義務があるし、ウインカーが無いから手信号だな」


 私は想像した、夜はヘッドライトが点灯する鎧を着た騎士のカッコいい姿を。


「免許はいらないが、飲酒運転は違反で捕まるぞ」


 私は想像した、飲酒運転でネズミ捕りに捕まる鎧を着た騎士のカッコいい姿を。


「大事に育てた馬なんだ、しっかり勉強して大事にしてくれよ」

「……はい」


(騎士も大変だなぁ)


 そんなことを話していると、電話を終えた仁和さんがやってきました。


「おまたせ、京子ちゃんのOK出たから買って帰るよ!」

「え、連れて帰るんですか?バスには乗りませんよ?」

「あおのちゃん、何のために乾さん連れてきたと思ってるの?」

「……まさか?」

「ほら、乾さんカウボーイぶってたじゃない?馬5頭連れて帰るぐらいできるでしょ?」


 気に入った馬を撫でていた乾さんが驚いて振り返りました。


「え!?あぁ、も、もちろんだぜ?」


(大丈夫かなぁ、この人)


 購入の手続きを終え、私たちはお爺さんに挨拶して帰ることにしました。

 

「それじゃあこれで失礼しますね」

「ありがとうよ、おかげで牧場はもう少し続けられそうだ」


 手を振りながら、私と仁和さんはバスへ。

 乾さんは一頭に乗り、残りを引き連れて道路で帰ります。


「じゃ、乾さん後はよろしくねー」

「先にバスで帰ってますね」

「お、おう馬の扱いは任せて先に帰ってな、嬢ちゃん達」


 たどたどしい乾さんの馬の扱いを見なかった事にしてバスは出発。


「あの人ほぼ素人なのになんであんなに自信満々なんですかね」

「ふふ、彼ならプライドで何とかするでしょう」


 先に出発したバスは来た道を辿り事務所に到着。

 2人は事務所の扉を開ける。


「ただいま、京子ちゃん」

「ただいま戻りました」

「お帰りなさい2人とも、お城の設定と図面を描いてみたのだけれど見て欲しいの」


 先輩は待ってましたとばかりに、絵を見せてきた。

 そこにはりっぱな城下町に巨大なお城が描かれていました。

 もう1ページにはびっしりと国の歴史の設定が書かれていました。


(びっちり書いてあって読む気もしないんだけど、それよりも気になることが)


「これってかなり大きな都市になるんじゃないですか?」

「もちろん!やっぱり立派なお城にはそれなりの城下町がいるわよね」


 先輩は目を輝かせて語っています。

 すると図面を見ていた仁和さんが、


「そうね、ただこの規模の街をウチの一社だけで運営するのは難しいね」

「ですよねぇ」


 仁和さんは以外と冷静でした。


「でも京子ちゃんがここまでやってくれたんだから、なんとかするよ」

「なんとかするってどうするんですか?維持や管理にかなりのお金と人を使いそうですけど」


 長々とお城の歴史を説明している先輩を横目に、仁和さんはにやりとした。


「そうなると思って人を呼んでおいたよ」

「人を?」


 と、その瞬間。

 事務所の扉が勢いよくピシャっと開いた。

 そこにいたのは、


「まったく相変わらず狭い事務所ね!来てあげたわよ綾部あおの!」

「あの、失礼します。」


 若松観光のお嬢様2人でした。

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