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緋桜の幻想恋 ~終焉へ紡ぐ約束~  作者: 桜川 みつき
2/7

~追憶2~

   緋桜の幻想恋~終焉へ紡ぐ約束~ 

   (ひおうのげんそうれん)






ねぇ…いったい何が起こったの…?





目の前で起こった出来事に頭が追い付かずただ呆然とその場に立ち尽くしていた。

真っ白だったドレスが赤く染まりずっしりと重みを増し、そこから強い鉄の匂いが立ち込めていた。


恐怖の目で私を見つめその場から離れようと必死に逃げ惑う人達が瞳に映る中、まるでその出来事が夢かのように思えて、霞がかかってきた視界でその光景を見つめていた。



ねぇ…みんなどうしたの…?



今さっきまでお祝いの言葉かけてくれてたよね。


みんな楽しくお話して笑っていたよね…。




広間にいるすべての人達が慄き喚きながら恐怖の叫び声を上げ逃げ惑っている。

その光景がまるで別の世界にいるかのように私の周りでゆっくりと時間が流れていた。



バンッ!!!



中央扉が一気に開くと大勢の兵士が大広間に流れ込んできた。

逃げ惑う人達の中を掻き分けるように大声で何かを叫びながらこちらに向かって走ってくる。

そして私の前で足を止め、何者も通さないように私の周りをぐるりと取り囲んだ。



みんな…どうしたの…?



私を守護すべきはずの王の護衛兵までもが敵意を剥き出しにして私を睨みつけている。

腰から抜いた剣先を私に向け何かを必死に叫んでいた。


「なぜ………様を…殺…した!!」



え…。


聞こえない…。


何を言っているの…。



瞳に溜まる雫の先に見える光景がまるで夢の中の出来事かのようで、滲んで淡く濁った赤の世界を消すかのようにそっと閉じた瞳から一滴の涙が落ちた。

そしてゆっくりと開いて見えた世界は先ほどとは違ってはっきりとこの現実を突きつける。



どうしてみんなそんな怖い顔をして私を見つめるの…?



何が起こっているのかわからずただ呆然と立ち尽くした私の腕の中から、重みのある真っ赤に染まった何かが音を立てて足元へと落ちた。



えっ……。



足元にゆっくりと視線を移した瞬間、ヒュっと喉の奥がなるのと同時に息が止まった。


どうして……。


ふるふると身体が震えだし、限界以上に見開いた瞳にはあり得ない光景が焼き付いていた。


両手からは生温かい血が滴り落ち、赤黒く染まった床にはお父様とお母様の変わり果てた姿が瞳に映る。

そして今腕の中から壊れたように落ちた人の形をなしたものは、血まみれの弟の姿がそこにあった。



「お……お父…さ…ま、お…かあ………さっ…」



声を出したいのに喉の奥に何か詰まっているように苦しくて声にならなくて、弟の名を呼びたいのに胸が苦しくて息ができなかった。


目の前に映る光景が現実だなんて思いたくなくて、信じたくないという気持ちと目の前の現状を受け入れることなんてできなかった。

ねっとりと手に張り付いた生温かい血の感触と瞳に映るものすべてを否定したくて、声にならない声を必死に出そうともがき続けた。頭を抱え首を何度も振り動かし、閉じる事の出来ない瞳から涙が溢れ出す。



さっきまで笑って私の誕生日を喜んで祝ってくれてたお父様、優しい言葉をかけてくれたお母様…。


私にプレゼントを渡そうとお父様とお母様の下から走ってきた可愛い弟をいつものように抱きしめ、私の耳元で小鳥のように囁く祝いの言葉に感謝の言葉と頬にキスをした時…。



「イヤ 一一一一ッ!!!!!!」




心を堰き止めていた気持ちの留め具がはずれたように一気に言葉として溢れた瞬間。

一本の長い剣が私の心臓をめがけて深く突き立てられた。


鈍い音と今まで感じたこともない激しい痛みで呼吸ができないほどの苦しみでいっぱいになった。

口から吐き出された血が突き刺ささった剣を伝い護衛兵の手元へとゆっくり流れていくのが見える。



どうして……。



幼い頃から私の成長を見守ってくれていた護衛長の顔が目の前にあって、その瞳には今まで見たこともないような剥き出しの殺意に染まっていた。

溢れ出した涙が止まらなくて、口の中に溜まった血がどうしてという気持ちと声を堰き止めていて、微かに動く唇がただ小さく動いていた。

更に深く胸に突き刺さった剣が一気に引き抜かれ、鮮血の血飛沫が護衛長の顔や手へと飛び散った。その瞬間、護衛長の殺意で染まっていた瞳が大きく見開かれ、この世にはないほどの表情を見せ大量の血を吐き出しゆっくりと床へと倒れ込んでいく。


数秒前までこの世で生を成していた者が、目の前で悶え苦しみながら徐々に動かなくなっていった。

それを見ていた周りの兵たちが狂気の叫び声を上げながら一斉に何十本もの剣が私の体に突き立てられた。背中や胸、体のあらゆるところから皮膚を切り割き、剣先が内臓を突き破り骨にあたる鈍い音がした。

目の前で起こった出来事に心が追い付かず堰き止められていた気持ちが狂気の如くあふれ出した。




「アアアアアアア 一一一一一っ!!!!!」



狂乱の叫び声が響き渡り私は意識を手放した。







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