表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

8話 魔水晶


「グランさん、レベルってどうやって上げられるんですか?」


「うん?主には魔物や動物を狩猟した時なんかだな、あとは日常生活を送ってても多少は経験値が入ってきてレベルが上がっていくぞ。」


「俺、今レベル12あるんですけど。」


グランさんは驚いた様子でこちらを見てきた。


「何だって?お前、レベル12っていったらそこらの中級冒険者よりも少し下くらいのレベルはあるじゃねぇか。ギルドに来る前に魔物にでも出くわしたのか?」


「魔物はまだ見た事もないです。ディルーナと初めて会ったときには、もう露天のある所に送られてきたんで。」


「それじゃあ何でレベルが上がってんだ?シラユキはここに来た時はまだレベル1だったってのに、心当たりはあるか?」


この世界に来る前に洞窟のような場所に飛ばされてきて、そこにあった水晶が綺麗だったから採取をしていたことを話すとグランさんは少し納得したように頷いた。


「なるほどな、確かに魔物を狩る方が基本的には効率がいいんだが、採取や採掘なんかでも微量だが経験値は入っては来る。採掘なんかは掘り出した物で得られる経験値に違いがあって、貴重な物ならそれなりに経験値も多いんだが、一体何を取ってきたんだ?」


アイテムリストから追憶の封水晶を取り出して机に置いてみると何だか違和感が...おお、この水晶採掘した時みたいにぼんやり光ってるし、ほんのり暖かい。


「そ、そりゃ魔水晶か!?デカさも純度も見たこともねぇ、お前こんな貴重な物どこで手に入れたんだ!?」


グランさんは驚きと興奮から座っていたソファから立ち上がりこちらに顔を近づけて、食い気味に聞いてきた。


「と、とりあえず落ち着いてくださいグランさん、顔が近いです。だからこれはその洞窟にあったんですって。綺麗だなと思ったから採掘したんです。これってそんなに貴重な物なんですか?」


「おっと、すまねぇな、だけどよ俺も結構長く冒険者をやってきてはいるが、こんな純度の高い魔水晶なんて見たことなかったからよ。」


軽くため息をついて腰を落とすと、落ち着いてきたのか冷静に水晶を調べながら、これはちょっとまずいかもしれねぇと呟いた。


急に厳つい顔を近づけてくるからかなり内心驚いたけど、まずい?一体何の事を言ってるんだろう。


「これは魔水晶って言ってな、魔力が長い年月を掛けて結晶になった物だ。一般的に見つかるものは大体こんくらいの大きさのもんだ。」


アイテム袋から拳大の魔水晶を取り出して机の上に置いた。


ん?一般的に見つかるのはってことは、つまり俺が採っててきたものは一般的じゃ無いって言ってるみたいだな。


...確かに違う、大きさはもちろんだけど、何よりも色が違う。


俺が採掘して来たのは、透き通るような透明で中には薄い光の筋が入ってて、今グランさんが取り出したのは、全体的にうっすらと濁りがある紫色の水晶だ。


「これも綺麗ですね、アメジストですか?」


「いや、こいつは洞窟の中で結晶になるときに闇属性の魔力を多く取り込んだから紫色になってんだ。まあ大きさも何だが見てもらいたいのは色と透明度だな。魔水晶ってのはさっきも言ったが結晶になるまでにかなり時間がかかるんだ。」


続けてアイテム袋から同じように取り出した魔水晶は先ほどよりも、ひと回り小さいサイズで黄色、赤、青、緑と様々な色が並べられて行く。


「ただの純粋な魔力ってのは属性に染まりやすいんだ、だからここにあるものは全部別の属性を持った魔力が集まって出来てる。濁ってんのはそんだけ他の属性や塵なんかの不純物が混ざってる度合いだな。色が薄くて濁りがない。その度合いで貴重さが変わってくる。」


一息つくとグランさんは少し困っている表情をして手に持っていた水晶をこちらに返してくるので、受け取った。


「ここまで言えばこれが中々面倒ごとを寄せ付けそうだってのに気がつくんじゃねぇか?ちなみに始めに出したこいつは貴重さで言えば中の上くらいの代物だ。」


俺が持っている水晶の半分もない紫の水晶を指差した。


こ、これは面倒ごとなんてレベルの物じゃ無い!絶対面倒臭いことになる気がする!


「グランさん、この魔水晶はアイテムボックスの中に保管しておきます。」


「そうだな、それがいい。ただそこまでの代物だ、死蔵しておくのはあまりにも勿体ねぇ、どうしたもんかな。」


しばらく考え込んでいると何かを思い付いように立ち上がって、机の中から紙を取り出して何かを書いていく。


「これを持っておけ、俺の信頼してる鍛治師への紹介状だ。バルガスって奴なんだが、確か今は聖炎(せいえん)霊峰(れいほう)にいるはずだ、さっき話したシラユキの向かってる場所だ。もしも会う事があればこれを渡せば協力してくれる...はずだ。」


なんか不自然な間があった気がするけどこれはありがたいな、グランさんが信用してるってなれば大丈夫だろ。


「ありがとうございます。」


この封筒はせっかくグランさんが用意してくれた物だし大切に保管しとかないと、そういえばスキルにはアイテムボックスって表示されてたけど表示はアイテムリストだったよな。もしかしてこの中ってフォルダーみたいにして分けられるんじゃ無いか?


アイテムリストを意識すると視界には見慣れたきたウィンドウが出てきたのでとりあえず封筒を入れてみる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー

アイテムリスト


紅の宝石 1

朽ちた王の長剣 1

追憶の封水晶 521

水晶の欠片 271

清潔な布 1

封筒 1


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


ただの封筒って出てると分かりづらいな、名前とかも変えられたりしないかな。


「・・・い・・・ぶか?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー

アイテムリスト


紅の宝石 1

朽ちた王の長剣 1

追憶の封水晶 521

水晶の欠片 271

清潔な布 1

バルガスさんへの紹介状 1


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


お、出来たみたいだ、好きに書き換えられるみたいだし使い勝手は良さそうだな。


「リュージ!・・・おい!聞こえてんのか!」


「うわっ!びっくりした、グランさん急にどうしたんですか?」


いきなり大きな声で話しかけてくるもんだから驚いた。


グランさんはまったく、と言いながら頭を掻いてる。


「急にってお前、こっちは何度か話しかけたんだぞ?なんかに集中してんのはいいんだが、周りのことが見えなくなるのは良く無い。野営なんかしてるときにこうじゃ、とっさの時に対処出来なくなるだろ?相手はこっちのことなんか待ってくれないぞ?」


「う...すみません。アイテムリストのことで集中してました。」


確かに周りの声が聞こえなくなるほど集中するのは良くないな、ここらへんの整理は今日の夜にでもやるとしよう。


「まあ、次は気をつけたらいい、それよりも、もう結構いい時間話してたしな。そろそろ腹が減ってるんじゃ無いか?ディルーナが店を決めるって言ってたからおそらくあの店か、そろそろ迎えにくるだろうから細かいことは落ち着いた頃にでもまとめてやれば良い。」


あの店?と思っていると扉がバタンと音を上げて開く。


「マスター!リュージ!話終わった?終わったなら早く行こう!黄金の蜂蜜亭の席が取れたんだ!」


黄金の蜂蜜亭?そこがディルーナのお勧めの場所なのか?何だか向かいにいるグランさんの様子が何だかおかしい。店の名前を聞いてからと言うもの顔が驚きのまま固定されてる。


「さ、細かい話は置いて早く行こうよ!」


漫画とかなら背景に大きくワクワクと書かれそうなくらいに元気なディルーナが手招きする、立ち上がってついて行こうとするがグランさんは動かない。


顔が引き攣ってるしなんか震えてる?


「グランさん?どうかしたんですか?」


沈黙したまま立ち上がるとゆっくりディルーナの方に向かって行って、ガシッと音が鳴るくらいの勢いで肩に手を乗せた。


一瞬ビクッとディルーナが震えるも強気の表情を取り繕いながら「ど、どうしたんですか?マスター?」と言ってるのが聴こえる。


あ、グランさんの圧に負けて顔を逸らした。


「はぁぁぁぁ!?黄金の蜂蜜亭だ?おまっ、いつもの小麦の稲穂亭じゃねぇのか!?」


グランさんが爆発した。


「は、初めは小麦の稲穂亭にしようと思ってたんですよ?でもダメもとで行ってみたら、ちょうどお店の前から出てくお客さんがいましてね?どうしたんだろうと思いながら店に行ったら何とちょうど席が空いてるって言うじゃないですか!もう行くしかないですよ!多分創造神様からリュージへの贈り物か何かなんです!」


「だからってお前!黄金の蜂蜜亭はやり過ぎだろ!」


そんなに高い店なのか?ディルーナもなんか冷や汗をかいて視線もあっちこっち動かしてるし。


「で、でも!マスターもお祝いだって...店も私が決めていいって言ってたじゃないですか!ま、まさかこの聖樹の森ギルドのマスターともあろう人が今更約束を無かった事に、なんて言わないですよね!」


強気に言ってはいるけどディルーナの震えは隠せてない。多分興奮してたから勢いで話を進めてたんだろうな。


「はぁ...もう席とっちまってんだろ?」


「...はい」


グランさんはため息を吐いてから、ディルーナの頭をぽんっと叩くとギルドの入り口に向かって歩き始める。


俺もつられてディルーナの近くまで歩いてくると。


「まったく、お前たちには期待してるからな?」


「!!」


「ほら、リュージもついて来い、今日はお前さんが初めてこの世界に来た記念になる日だ。間違いなく旨いもん食わせてやる。ディルーナもしっかり案内するんだぞ、真っ直ぐ進めばいいとは言えこの時間はそれなりに人混みもあるからな。」


そう言って一度振り向くと、その厳つい顔をニヤッと歪めて執務室を出て行った。


うわ!グランさんイケオジだ!カッケェ!


隣を見るとちょうどディルーナもこっちを向いていて、さっきまで冷や汗をかいてたなんてみじんも見せない笑顔をこっちに向けてきた。


「やったぁ!リュージ、黄金の蜂蜜亭に行けるなんてラッキーだよ、マスターも向かったみたいだし私たちも早く行こ!」


部屋に入って来た時と同じくらい元気になったディルーナがこっちだよ、ついて来て!と言いながらギルドから出て露天の人混みの中に消えていく。


「え?」


ちょっとディルーナさん元気になり過ぎじゃありませんかね、楽しみなのは分かるけど、その速度で行かれると後を追うのが大変なんだけど。


慌てて後を付いて行くけどディルーナはすばしっこくてなかなか追い付かない、前を歩いていたガタイの良い冒険者の隣を抜けようとした時にちょうど向いから影が出てきた。


どんっ


「すみません、大丈夫ですか?」


「はい、こちらも失礼いたしました」


互いに気づいて避けようとしたため転ぶまではいかなかったものの薄茶色のローブを目元まで覆った人物、おそらく声からすると女性だと思われる人物は、軽く頭を下げると急いでいるのか人混みの中に消えて行った。


やっぱ人混みの中急ぐのは良くないな、今の人がもし絡んでくる人とかだったら洒落にならないし。


それよりも先に気にしないといけないのが。


「まずい、完全にディルーナのこと完全に見失った、こんなことなら店の場所を聞いておくんだった。グランさんは真っ直ぐ行けばいいみたいなこと言ってたし、結構有名な店みたいだから歩いてたら見つけられるだろうけど、さっきみたいなこともあるかもしれないから落ち着いて誰かに場所を聞いてみるか。」


あたりを見回すといかにもファンタジーな世界をイメージしそうな黒い天幕が付いていて、木の根っこや動物の干物なんかがつるされている露天がある。


...ちょっと怪しい雰囲気だけど、凄く気になる。


他の店とは違って人がいないから話しても邪魔にはならないだろうし、いかにもな異世界の露天も気になってたからちょうど良いや、冷やかしの迷惑な客だけどこの際だし仕方がないか。


「ん?」


露天に近づこうとしたとき視界の端、足元で何かがきらりと光って見えたので拾ってみる。

それは所謂ロケットペンダントペンダントと言われていて、開閉式のギミックがあり中に何か入れておくことができる代物だった。


「ペンダント?もしかしてさっきぶつかった人が落としたのか?かなり細工が細かいし、大切な物かも、警察なんていないだろうし、開けて中を調べようにも爪が入るような所もつまみも無いから確認できない。後でグランさんにどうすれば良いか聞いてみるか。とりあえず先に店の場所を聞いて黄金の蜂蜜亭に行かないと。」


貴重品かもしれないし、このペンダントはアイテムボックスにしまっておいた方が良いかもしれない。


グランさんがバレると面倒だって言たし、ペンダントをポケットに仕舞うふりをして、アイテムボックスに入れておこう。


歩きながら露天のカウンターまで近づいたことで、何でこの店に人が近づいて来ていないのかが分かった、はっきり言って臭いのだ。


な、何だこの匂い、どこかで嗅いだことがあるような独特な匂いがする、鼻を抑えるまではいかないけどかなり強烈だぞ、何だっけこれ、凄くモヤモヤする。


「おや?あんたみたいに若いもんがこの店に来るなんて珍しいね、誰かの使いできたのかい?」


店の奥から同い年くらいの女性が出てきた。綺麗な人のはずなんだけどかなりヨレヨレのローブを羽織ってるし、髪もボサボサなせいで見た目よりもくたびれて見える。


「使いとかではないんですけど、初めてこの街に来たもので、露天を見て回ってるんです。それとちょっと知り合いと逸れてしまいまして、商品を見るついでに場所を伺えないかと思って来たんです。ここって何を売っている店なんですか?」


「何だい、始めて来た街で迷子かい、それはついてなかったね。ここはポーションや錬金術なんかに使う材料を主に扱ってる店だよ。うちで作ったポーションなんかも売ってるから、買ってくといい、そこらの素人がつくった物よりも効きが良いよ、ほれ。」


そう言って女性が手渡してきたのは、ゴルフボールくらいの大きさの容器で中には粘性のある緑色の液体が詰まっていて、蓋のところからは例の香りをさらに濃縮したような匂いがする。


「そうか、この匂い、正○丸だ!」


っと、正○丸なんて言ってもわかんないか、店主さんも首を傾げてるし。


「正○丸ってのは何かわかんないけど、それは回復ポーション(中)だよ。それにしても珍しいね、うちのポーションの匂いを嗅いだ奴らはこぞって臭いって言うのに兄さんはその匂いは平気なのかい?」


嗅ぎ慣れない人からしたら堪んないかもしれないけど、何て言うのかな、この匂いって昔から結構嫌いじゃないんだよね。


「そうですね、自分の住んでたところでもこれと似たような匂いの薬があったので、懐かしい気持ちにはなりましたけど俺は嫌いじゃないです。」


「そうかい!そうかい!いやー兄さん分かってるね。冒険者の中にはこの薬を使うくらいなら魔物の糞の方がマシだ、なんて言ってくる奴らもいるんだよ。」


糞の方が良いって、例え話何だろうけど俺はそっちの方が嫌だわ。


そんなことを思いながらポーションを返すと、代わりに小さな木でできた小物入れを手渡された。


「話のわかるお兄さんには特別にこの薬をサービスしてあげよう。ポーションほどではないけど傷口に塗れば自然治癒力を早めてくれる塗り薬だ。森の中では枝や葉で小さい傷ができるけど、そこにこれを塗っておけば次の日にはすっかり綺麗に治ってるって代物だよ。うちの店でも取り扱ってるから次からは是非買っておくれ。」


確かに便利だな、小さい傷でいちいちポーションなんて使ってられないしこれはかなりありがたい。


「ありがとうございます。使わせて貰います。」


「何数回ぶんのお試しようだから礼なんて要らないよ、それより兄さんここでゆっくりしてていいのかい?迷子なんだろう?」


「あ、そうだった、黄金の蜂蜜亭ってところに行きたいんですけど、場所ってわかりますか?」


「黄金の蜂蜜亭?ああ、あそこなら、ほらここから見えるあのでかい建物さ。蜂の絵が書かれてるから目印に丁度いいんだよ。」


カウンターから身を乗り出して指をさしてくれた先には他の店よりもひと回り大きい店で、蜂の絵も相まってとても分かりやすい場所に建っていた。


「おお、あんな所にあったんですね。ありがとうございます。」


「なに、気にしなさんな、落ち着いたらうちの店にもその知り合いといらっしゃい、安くしとくよ。」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ