6話 ステータスプレート
どうしたのだろう、ディルーナはともかくグランさんはなんだか険しい表情をしてこちらを見てくる。
「ええっと、俺もよくは分かっていないんですけど、拾ったものをしまいたいなって思ったらアイテムリストって所にしまう事が出来るんです。これはこの世界の人たちは使えないんですか?」
「いや、魔法を使っているわけでもないのに、個人でそんな事ができる奴は俺は聞いた事がないな、少なくともアイテム袋って言う空間魔法が付与された特殊なアーティファクトがあるんだが、とりあえず見せたほうが早いな。」
そう言うとグランさんは腰にかけられていた袋を取り、中からこのサイズの袋には間違いなく入らないであろう大きさのロングソードを取り出しながらこちらに見せてくる。
「この袋はアイテム袋って言ってな、こんな小さい袋なんだが見た目以上の物を中にしまう事が出来るようになってる、ざっとこの部屋一杯に埋まるくらいには中に入るだろう。」
この部屋一杯っていうとかなりの広さがある、それがあの小さな袋に入るっていうのはなかなか信じがたいけど、空間魔法なんてのがあるんなら不思議でもない?
それにあんなに簡単にぶら下げているなら手に入りにくいって物でも無いんだろう。
そんなことを考えていると次のグランさんの言葉で現実に引き戻される。
「ちなみにこのアイテム袋、買おうとするとこのリエルの一等地にデカイ庭付きの屋敷くらいなら軽く建てられるほどの価値がある。」
「ファ!?」
リエルがまだどれくらいの大きさの街かは分からないけど、確かディルーナの話では今まで歩いてきた場所や、このギルドがあるのは、街の端にある集会エリアだって言ってた気がする。
そんな規模の街の一等地って言ったら、それこそ1DKの小さいアパートで暮らしてた小市民の俺からすると想像もできない、しかもそれを軽くって。
「気づいたか?この袋にはそんだけの金を出してでも欲しいって奴がいるんだ。こんな小汚い袋でそんだけの価値が付くってなると、アイテム袋も使用しないでアイテムの保管ができるってなりゃあ欲しいやつからしたら正攻法じゃないやり方、例えば女や薬、挙句には騙して奴隷落ちさせたりして、何をしてでもお前さんを取り込もうとしてくるだろう。」
...確かに、この世界に来たばかりで右も左も分からない俺は浮かれてて、何かされても警戒もできずに追い込まれていきそうな気がする、正直ゲームみたいな世界に来れたってことで舞い上がっていた。
それにグランさんは今奴隷とも言っていた。現代日本には全くなじみないその言葉がこの世界では一般的であると言う事でさらに気を引き締めていかないと、もしかしたら思わぬところで足をすくわれていたかもしれない。
「っと、すまないな別に脅したかった訳じゃねぇんだ。創造神様はレットガンドには人格を配慮した上で異世界から力を持った人間を送って来るとは言ってた、確かにこの世界にもいい奴はいるが、全てが善人なんて事はない、中には悪魔なんかよりもエグい事を平気でやってくるようなクソ野郎もいる。」
グランさんは一つ深いため息を吐くと言葉を続ける。
「望んでいたこととは違うかもしれないが、せっかく何の運命か別の世界に行くなんて有り得ないような経験をしたんだ、もし元の世界に帰れるって時が来た時に、辛い経験しか無かったなんてのは、この世界で暮らしている俺からしたら我慢なんねぇんだ。来たからにはしっかりとこの世界を楽しんで欲しい、その為にもそこんところを注意しておいて欲しくてな。」
先ほどまでの険しい雰囲気を無くして頭をかきながら申し訳なさそうにそう言うグランさんを見ていると少し気が紛れて来る。
この人はしっかりとこちらのことを考えて話してくれているんだとわかると、自然と笑みがこぼれそうになるがそれはディルーナも同じようですくっと立ち上がると。
「全くマスターは心配症なんです、リュージのサポートは私がしっかりやりますんで任せてくださいよ。萎らしいマスターは逆に気味が悪いですからね。」
「グランさんありがとうございます、確かに少しはしゃいでいて気が緩んでいたと思います。けど突然この世界に来た俺をここまで気に掛けてくれるグランさんやディルーナ、さっきはクレイさんと言う方も気さくに話しかけてくれましたし。とても良い人たちが周りにいてくれるんだと言うことを改めて理解する事が出来ました。なのでもしも帰れる方法が見つかって、地球に帰ることになったとしても、レットガンドで暮らしていた経験は大切なものになると思います。改めてこれからよろしくお願いしますギルドマスター。」
そう言って握手を求めるとグランさんはくつくつと笑いながら力強く握り返して来る。
「今まで通りの呼び方で構わなねぇよリュージ。全く、歳をとると説教臭くなって良くねぇな。お前さんもシラユキもほっとけなくてついついおっさんが出てきちまう。」
「白雪さん、と言うと俺の前にこのギルドに送られてきたって言う方ですか?」
「そうだ、年はお前さんよりも少し下くらいだと思うがあまり変わらんと思うぞただ2年ほど前にこっちにきたから一応先輩っちゃあ先輩だな。今は聖地の1つの聖炎の霊峰まで依頼で向かってるはずだからしばらく帰って来ないだろうが戻ったら紹介するとしよう、同じ世界から来てる事だしもしかしたら知り合いかも知れねぇぞ。」
「まさか、俺の住んでた世界は70億人以上の人がいるんですよ?その中で知り合いなんて...いや、可能性でしかないけど有り得ない話じゃない。グランさん、話の腰を折ってしまって申し訳ないのですがWorld DominataとかGOLD GRAPPLINGって言葉を聞いたことはありませんか?」
グランさんは少し考えた後に首る。
「すまないが俺にはわからない、ただ白雪からも前に同じことを聞かれた気がするな。やっぱりお前さんと白雪は知り合いなのか?」
やっぱりそうだ。前にきてる白雪さんって人はGOLD GRAPPLINGのプレイヤーだったんだ、グランさん達は聞き覚えがないようだけど、おそらく俺たちがこの世界に送られてきてることに全くの無関係ではないはず。
「いえ、知り合いかどうかはわかりませんが、おそらくその白雪さんと言う方は俺と同じ状況から送られてきてるんだろうなと言う事がわかりまして。」
「そうなのか、俺にはそのWorld DominataやらGOLD GRAPPLINGってのは分からないが、もしそれがお前さん達が元の世界に帰ることに関係してるってんならこっちでも少し調べておくとしよう。」
「お願いします。多分なんですけど他の聖地に来た人たちも関係して来る話かも知れません。レットガンドに来るまでの時間に差がある理由はわかりませんが、何か原因があると思うんですよね。」
もしゲームが関係して送られてきているとして、なんで俺と始めに来たって人には40年もの差があったのだろうか何か理由があるんだろうけど今の段階でははっきりとしない。
話に一息ついて考えていると隣にいるディルーナがうさ耳を萎っとさせて、むすっとした顔をしながら足を揺らしていた。
俺がその様子に気がついたのを悟ったらしく顔を向けるとふいっと逸らされる。
「ディルーナ、どうしたんだ?」
グランさんもその様子に気が付いたようで声をかける。
「私もさっきいいこと言ったのに流されたことなんて全く気にしてません。」
どうやらそれが原因らしい。
慌ててグランさんとディルーナをフォローする。
「いや、別にディルーナの話を流した訳じゃないんだって、ディルーナのサポートはこれからも頼りにさせてもらうからさ!」
「そうだぞディルーナ、俺だって柄でもないこと言っちまった自覚はあるしな!そうだ、リュージがこのギルドに来たお祝いってことで今日は何かうまい物でも食いにいくとしよう!」
ディルーナのうさ耳が少し元気を取り戻して来る、もう一押しらしい。
「もちろん全部俺の奢りだ、店はディルーナが決めていいぞ!」
グランさんの言葉に言質を取ったと言わんばかりにうさ耳を立てて、こちらに向き直る。
「本当ですか?」
「ああ勿論、これから2人には頑張ってもらうしな。」
その言葉を聞きディルーナは先ほどとは打って変わり笑顔をこちらに向けて来る。
「むふー、聞きましたよマスター、後で無しってのは駄目ですからね、それでは先に行って店の予約をしてきます、リュージ!後で私のお勧めの店に案内するから楽しみにしてて!」
そう言い残して笑顔のままディルーナは部屋を後にした。
部屋に残された俺とグランさんはディルーナの勢いに圧倒された後、少しして笑いが漏れて来る。
「ハッハッハッ、すぐ元気になりやがって現金な奴め、あいつさっきまで来客用の菓子を食ってたってのにまだ入んのか。」
「本当ですね、あのディルーナの性格があったから今もこうして落ち着いて話せているんだと思います。サポートにディルーナを付けてくれてありがとうございます。」
「ああ見えてあいつは冒険者としても優秀だからな、いろいろ教わるといい。」
確かにディルーナからは今は感じなかったけど、初めて会ったときには見た目には合わない余裕みたいなのも感じられたし、こうしてグランさんに選ばれているってことは本当に優秀な冒険者なんだろう。
「しかし、俺はここにきたのがリュージみたいな奴で安心してんだ。いくら創造神様が選ばれたからと言って全て信用できるかってのは怪しいからな、その点あそこまでディルーナが懐くってんならなんら問題はねぇ。これから頼んだぞリュージ。」
「はい、任せてください。」
「おっと、そうだ、ステータスプレートについても話しておかねぇとな。」
グランさんは机の上に置いてあるプレートに目を向ける。
「このステータスプレートってのは、言葉通りその持ち主のステータスが分かりやすく表示されたもんなんだが基本的に見るのは自分くらいだし、そこの数値ってのは戦いの中だとあまり当てにならねぇんだ。」
「え?当てにならないってそれじゃああまり意味ないんじゃ。」
「まあ言わんとしてることは分かる、だが意味はある。自分の今の強さを理解して、それにあった適切な鍛え方を出来るようにしていけば上達までの速度は格段に違う。それに良い事もある、裏を見てみろ。」
ステータスプレートをひっくり返してみると、そこにはいくつかのスキルにBP6と書いてある。
「この世界にはBPってのがあってな、それをステータスプレートを使うことで自分の持ってるスキルに振り分ける事ができる。そうすると数値を加えた分技や技術の熟練度が上がって体の動きの最適化が出来たり、スキル自体の効果も上がっていく、とりあえず今の自分が何ができるか確認してみるといい。」
俺は自分のステータスプレートを確認してみると、今まで少し見辛くなっていた文字がしっかり表示される。
東雲龍二 25歳
種族(人間)
Lv 12
体力 75
魔力 39
筋力 120
防御 78
知力 52
素早さ 43
運 68
【スキル】
剣術 Lv4
採掘 Lv6
アイテムボックス LvMAX
魔法適性 LvMAX
言語理解 LvMAX
成長加速 LvMAX
BP 6
...なんか筋力だけ高い気がする、それにこのレベルと剣術と採掘ってまさかあの洞窟で上がったのか?剣なんて振ってないけど。
「グランさん」
「お?確認できたか、まだレベルとかステータスなんかも低いだろうが落ち込むことはないぞ、これからディルーナと鍛えてきゃ良いさ、俺たちもサポートしてってやる。」
ガッハッハと笑いながら言うグランさん。
そうか、この世界に来た人たちのステータスって初めは大体こんなもんなのか。
「シラユキもここに来たばかりの頃はまだレベル1でそこらの子供よりもステータスなんか低かったしな。それが今じゃこのギルドでもトップクラスの実力だってんだから、やっぱりお前さんらは創造神様に選ばれたってだけの事はあるんだろうな。」
前言撤回、やっぱり普通よりも高かったみたいだ。