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5話 初めての魔法

 

 執務室に入るとそこは広めの部屋で、書類などが大量に積まれた机、本や書類が綺麗に並べてある棚がそこらの壁側一面に置かれていてかなり綺麗に部屋の物をまとめてあるようだった。


「とりあえずそこに掛けて待っててくれ。」


 そう言ってグランさんは接客用のソファを指さして棚から何かを丁寧に取り出している。


 見た目からは想像しづらい几帳面さに驚いていると、そんな俺の様子を見ていたディルーナは面白そうな顔をして机の上に置いてあったお菓子を食べ始めた。


「やっぱりマスターのいる執務室に入ってくる人達って大体同じ反応するんだよねー。」


「仕様がないだろ、さっきのグランさんを見た後だとなかなか想像できなかったんだから。」


 ディルーナとそんな話をしているとグランさんが何か水晶をテーブルに乗せて俺たちの向かいにどしっと腰掛けた。


「全く、俺は繊細で几帳面なんだってみんな信じてくれねえんだよな、こんなに真面目に仕事してんのによ。」


「もっと華奢な体で普段の言動がもっとしっかりしてたらみんな信じてくれてたんですけどねー、マスターが繊細で几帳面とかオークが綺麗好きって言われるくらい誰も信用しないですよ。」


「うるせえ、ほんの冗談だよ、とまあそれは置いておいてだ。リュージ、改めて自己紹介をしよう、俺は聖樹の森ギルドのギルドマスターをやってるグラン=ノルドだ。創造神様からお前たち異世界人たちのサポートをしてくれと頼まれている。ディルーナからある程度は聞いてると思うが、ロストアイテムについては俺たちも捜索中だ、けどなかなか難航しててな。無理強いはしないが、できれば手伝ってくれると有難い。」


「ええと、俺は東雲龍二です。こことは違う世界、地球の日本ってところから来ました。仕事が終わって家でゲームを始めたら突然洞窟に飛ばされて、奥にある石碑みたいなのに触れたところディルーナと初めてあった場所に送られて来ました。ディルーナからは神託についてと俺たち異世界人についてそれと言葉が通じることについて聞きました。」


 俺とグランさんが話している間もディルーナは隣でもくもくと幸せそうにお菓子を頬張り続けていて、おそらくこちらの話はほとんど聞いてない。


 そんな姿を横目で見つつ俺はグランさんと話を続ける。


「そうか、じゃあ俺から追加で説明させてもらうとリュージ、この世界についてからなんか体に変わったとことかないか?」


 そう言われて洞窟でのことを思い出すと、あそこまで動き続けていれば普段なら疲れ切って動けなくなっているはずなのに今も全然疲れを感じることがなく、むしろ今までよりも調子が良いくらいまである、そのことをグランに話してみる。


「やっぱりな、この世界にはリュージの世界では存在してないマナってのが存在してな、俺たち人間から動物、そこらにある草木や水にもマナが蓄えられてて、そのマナってやつを使って俺たちは生活してるんだ。人にもよるんだが、そのマナを多く蓄えてると疲れにくく、その上魔法を行使することができて冒険者になると重宝される。お前さんたち異世界人は創造神様も言っていたがこの内包してるマナってのが桁違いに多いんだよ、だから今までよりも体が動くようになったんだ。」


「てことは、俺も魔法を使うことができるんですか?」


「それを今から確認しようと思っててな、ここに水晶があるだろ?これは、まあ魔力やら適性のある属性を調べる魔道具なんだよ。体ん中にあるもんを手から送り出すイメージをしながらこの水晶の上に手をかざして見てくれ。そうすりゃリュージのステータスなんかも出て来て、ギルド登録なんかも簡単に済ませられるようになるからよ。」


 机の上を見ると引き出しのついた木の台に乗せられた顔くらいある水晶玉があって、グランさんに言われた通りに体の中から手に向けて力が集まるようなイメージをして水晶にかざすと、何かが体の中を駆け巡って手の平に集まっていくような感覚がある。少し驚きながら手をかざしていると、今まで透き通っていた水晶の中がだんだん濁っていき中心ににごりが集まっていく。


「よし、もう手を離しても大丈夫だ。その水晶の下の台についてる引き出しを開けてみな、中にリュージのステータスプレートが入ってるはずだ。」


 小さいつまみを持って引いてみると中には金属製の何も書かれていないプレートが一枚入っている。


「これですか?ただの金属板みたいに見えるんですけど。」


「ああ、そのままだと書いてあることは読み取れないんだ、そこにプレートを作った奴の血を垂らすことで初めて本人認証されて使えるようになる。」


 そういうとグランさんは当たり前のようにナイフを机の上に置く。


「え、血ですか?」


「少しくらいの傷ならすぐ治せるしな、簡単な治療魔法の練習にもなるし、この世界で生活していくってなれば多少なりとも怪我なんかすることもあるだろうから、慣れていった方がいいぞ。自分でやるのが無理ってんなら俺が切ってやってもいいぜ?」


 そう言うと、凶悪な笑顔に顔を歪ませたグランさんがナイフを取ろうとする。


「いやいや、俺がやります、なんかグランさんに任せたら腕ごと持っていかれそうな気がするんで。」


 グランさんが取るより先にナイフを取り、取り付けられている革製のカバーから抜くと、そこにはよく使い込まれているのであろう、かなり切れ味の良さそうなナイフが顔を出す。


「俺をなんだと思ってるんだ、そんなことはしない、何より俺のナイフ技術はすごいんだぞ?全く痛みを感じないように切ってやれるからよ...貸してみ?」


「いえ、いいです自分でやりますから...っ!」


 そんなことをいうグランさんを制して俺はナイフで軽く指を切ったつもりが、少し力んでいたせいか、かなり深く指を切ってしまったようで、とめどなく血が流れ始める。


 脳が麻痺しているのか不思議と流れる血の量ほど痛みは感じないが、それでも痛いものは痛いので、我慢しながらプレートに血を少し垂らす。


 すると垂らした血が表面を這うようにして先ほどまで何も書かれていなかったはずのプレートに文字を刻んでいき、よくゲームでみるようなステータスが記されていた。


 そんな様子を驚きながら見ているとつい先ほどまでお菓子を頬張っていたはずのディルーナが俺の手を取り、いまだに流れている血を布で抑えてくれる。


「ほらー!マスターがそんな怖い顔で圧力かけるからリュージさん切りすぎちゃったじゃないですか!私の時も同じことして先輩に怒られてたの忘れたんですか!」


「いや、俺はそんな圧力なんてかけてないぞ?」


「いいえ、マスターの顔は孤児院の子供たちが見ただけで泣いちゃうような顔なんです、早く自覚してください。」


「おいおい、ひでぇ言われようだなぁ、そのことについては後で話すとしてだ。すまなかったなリュージ、脅かすつもりはなかったんだが、先にその怪我を治すとしよう、せっかくだ、自分で治療魔法を使って治してみるといい。まずはさっきやったみたいに、魔力を動かして切った指先に集める意識してみろ。」


「いえ、勢いをつけて切ったのは自分ですから、グランさんは気にしないでください。」


 ディルーナから布を受け取り、抑えたままの指先に魔力が集まる感じを意識すると、いまだに鈍い痛みがする指先に熱が集まっていき、痛みが少し引いていく、そんな様子を見るとグランさんは頷いて自分の前に人差し指を立てる。


「いいかリュージ、魔法ってのは一にも二にもイメージだ。世間では魔法の発動をサポートするために詠唱すんのが一般的なんだが、めんどくせぇ詠唱なんてのはイメージするのを怠ったひよっこのすることだ、そんなんじゃあ平凡より上になんて上がれやしない。」


『プチファイヤー』


 指先から小さい火が上り、次第にその火は様々な生き物を模した形に姿を変えていくと、仕上げだと言わんばかりに、少し上に飛んでいき小さな破裂音をさせて消える。


「慣れていけばこんな風に始動キーを唱えるだけで魔法は発動できる様になって、魔力で作ったものを自在に動かすことだって出来るようになる。今お前さんの指先に集まってる魔力を使って傷が治るイメージをしながら、『ヒール』って唱えてみろ、これは魔法の効果を決定するための始動キーってやつだ。」


 先ほどの火から意識を戻して、自分の指先に集まっている力を使って、傷が治るイメージをしながら『ヒール』と呟くと、今まで感じていた痛みが全く感じなくなっていく。


 抑えていた布を取ると布には確かに先ほどまで傷があったことを証明する様に血が滲んでいるけど、それにもかかわらず指先の傷は綺麗になくなっていた。


 その出来事に驚いていると、ディルーナは驚き、グランさんは納得している様な表情をしている。


「ほぁー、さすがだねリュージ。ユキちゃんもそうだけど地球から来た人達って魔法の発動がびっくりするほどスムーズなんだよね。できるかなとは思ってたけど、マスターのあんな力任せな説明で出来たのはユキちゃんとリュージくらいじゃないかな。」


「力任せは余計だ、それはともかくリュージ、今のが魔法を使う感覚だ、慣れてくればもっとスムーズに扱える様になってくから早いうちに慣れてくといいぞ。それとこれがリュージのステータスプレートだ無くさない様に気を付けろよ?書いてある詳しい内容は基本的に登録した本人しか見られない様になってる。それと、これは余談なんだが。」


 先ほどまでとは打って変わり真剣な表情になったグランさんは続ける。


「もしも犯罪なんかしたらプレートは赤く染まってしっかりした理由がねぇ限りは元に戻すことはできない。それとこれから生活していくにあたって、どこかでステータスプレートを拾うことがあるだろう。その時は近場のギルドに届けて欲しい、これは冒険者の身元を明確にするためのものでもあるんでな。」


 犯罪に関しちゃあんま心配してねぇけどな、と言うと先ほどまでの様子に戻り、水晶玉を棚に戻すために席を立つ。


「そうだ、ディルーナさっきはありがとう。おかげで血で周りを汚さずに済んだよ。」


「マスターが登録のために立ち会うと、絶対さっきのあれをやるんだよ。私の時にもやって怒られてたのにいまだにやり続けてるんだもん、困ったものだよね!あ、そうだ、その布使ってもう一つ魔法練習しようか。その布に意識を集中して『クリーン』って唱えるとその物についてる汚れなんかを綺麗にしてくれるから、野営とかする時には重宝する魔法だよ。」


「分かった、やってみる...『クリーン』」


 そう魔法を唱えると今まで持っていた血のついた布からまるで消しゴムをかける様にして、血の跡が消えていき、後に残っていたのは最初にディルーナが抑えてくれた時よりも綺麗になっている布だった。


「おー、リュージの魔法ってかなりすごいね、私が使うよりも綺麗になっててちょっと悔しいくらいだよ。その布あげるからよければ使って?戦ってたりする時って治療する暇ない時もあるから、意外とこういった布って役に立つんだよ。」


「そうなのか。じゃあこれはありがたく貰っておくよ。」


 そう言って布をどこかにしまおうか考えると、見覚えのあるポリゴンと共に忽然と姿を消した。


「あー、そういや忘れてた、アイテムリストにしまえるんだったっけ。」


 そう呟いて視界にアイテムリストのウィンドウを開くとそこには見覚えのあるアイテムが目に映る。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 紅の宝石    1

 朽ちた王の長剣 1

 追憶の封水晶  521

 水晶の欠片 271

 清潔な布    1


 ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ...確かにあの時は我を忘れて掘り進んでいた記憶はあるけど、まさか水晶を500個以上も掘り出しているなんて思いもしなかった、いや確かにあの空間にある取れそうなところのものは大体取ってきたから、かなりの数にはなると思っていたけど。


 しかし、ここまで入るとなるとこのアイテムリストに限界があるのか調べたくなってくるな。


 そんなことを考えているとディルーナがこちらのことをかなり近くから覗き込んでいるのに気がついた、その顔は何か不思議なものを見た様な顔をしている。


「おわっ、ディルーナどうしたんだ?」


「リュージ、今私のあげた布どこ行ったの?私の目には急に消えた様に見えたんだけど...」


 そう言いながら俺の手を取り不思議そうに見回す、そうしていると水晶を棚に戻したグランさんも向かいに座りこちらを見てくる。


「それは俺も気になるんだが、リュージ教えてもらってもいいか?」



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