1話 GGO(ゴールド グラップリング オンライン)
読んでいただきありがとうございます。
小説初投稿で更新速度などは安定しませんが、皆さんどうかお付き合いいただければ幸いです。
一見あたりを見渡すと、今流行りのVRMMORPGの中なのではないかと言うような、現代の日本で暮らしていたら見る事はないであろう雲を優に越える大樹に、煉瓦と木組の街並み、妖しい薬品やオカルトグッズような物を売る露店、そこで働く猫や犬の耳を生やした住人が視界に入り込んで来る。
あまり上手く働いてない頭で辺りを見渡していると、こちらに気がついたのか読めない看板を持ち兎の耳が生えた15、6歳くらいの女の子が近づいて来て、何かを探るようにちらりとこちらの事を見てくると。
「ようこそ!異世界レットガンドへ!」
そんな元気な挨拶が聞こえて来たけど、俺の頭は今の現状を理解しようとしていて、まったくそれどころじゃ無い。取り敢えず何が起こったか思い出そう。
俺 東雲 龍二は某有名チェーン店の居酒屋で働いてる25歳。
親は二人とも元気だし、仲の良い友人たちと馬鹿やって過ごしたり趣味のゲームをしながら生活してた一般人だった。
だったって言うのは、覚えてる最後の記憶が全然普通じゃなかった事だ。
最近になって急に肌寒くなって来た今日この頃仕事が終り家への帰り道を歩いていると、向かいの薄暗い道からいかにも怪しい格好をした人影が近づいて来ているのが見えたのだ、いくらなんでも夜道を歩いていたら即通報されそうな真っ黒のトレンチコートに黒いハット、黒いサングラスに黒いマスクと、暗闇の中で動かなければ誰にも認識されないんじゃ無いかと言う程全身黒コーデをした怪しい人物だった。
流石にそんな人物が前から歩いてくるのが見えたらなるべく関わらないように別の道を行くか?なんて考えもしたが生憎道は車がギリギリすれ違える一本道だ、ならばと最大限離れられる距離をごく自然に離しながらすれ違おうとしたときだった。
黒い人物は俺の数歩手前で立ち止まると、こちらに顔を向けおそらく視線を向けて来た。そんな様子を視界の端に捉えながらもなるべく関わらないように前を向いて歩いていたが。
「ーーーーーー!」
すれ違ったところで、聴き慣れない声と言うよりも音に近い何かがその人物から聞こえて来た。なるべく意識はしていなかったが気になっていた事もあり反射的に俺は背後を振り返ってしまう。
しかし背後の人物は何事も無かったかのようにそのまま歩いて行き、薄暗い道に消えて行った。
「何だったんだ?今の」
呟いたところで何か変化が起こるわけでもなく、そこにあるのは変わらず切れかけた外灯に薄暗い道と、薄ら肌を刺す冬になりかけている事を現すかのような冷たい空気だけだった。
「そういえば今日やっとGGOが届く日じゃん!気分転換にさっさと家に帰って起動しよう。」
少しだけあの黒服のことも気になったけど、あまり気にしていても仕方が無いと気持ちを切り替えて、家に帰ることにした。
俺の住んでる家は1DKの一人暮らしするには分には十分なアパートで、親は山梨の方で農家をしていて最近も畑で取れたらしい1人では消費しきるのも大変な量の食材が届いた。
そんな俺の普段の生活は、友人と遊ぶこともあるけど、一人の時には大体ゲームをやっている。
レトロゲームから最新のVRゲームまで幅広く手を出して遊んでいるけど、つい最近になって昔から追いかけ続けていたゲームメーカーのWorld Dominata社から8年ぶりとなる新作VRMMORPGが発売された。
ファン達からはここ8年間新作などもなく公式サイトの更新などが無かったため、もう倒産したもんだと噂になっていたけれど、2週間ほど前から公式サイトの方に動きがあり、突然今まで出したことのないVRゲームの新作を発売すると告知された。
『GOLD GRAPPLING ONRINE』
プレイヤーはレットガンドと呼ばれる世界に降り立って開拓者になり、世界中を好きなように巡ることができる。
冒険者としてモンスターを狩りながらハンター生活をすることもできるし、生産職になって装備品や装飾品、魔法を使用するアイテムを作成する専門職になり自分の店も持てる。
メインストーリーがグランドクエストという形で進行していき、千年前に神によって封印されたロストアイテムを探し出しこの世界の秘密を探していくことが目的になっていて、進んでいくにつれて火山や雪原、湿地帯など新しい場所を探せるようになっていくみたいだが、今後のアップデートによってさらに違う場所が追加されていくらしい。
少しストーリーを進めていくと小さな離島を所持し、そこを自分の拠点にして活動することもでき、自由に開拓して自分の好きなようにクリエイトしていくことができるようだ。
謳い文句は、《自由な世界で誰も見たことがない冒険とあなたが作り上げる物語》というどこかで見たことがあるような物で、説明を見る限りではかなり自由度の高いRPGなんだろうということが窺える。
けれど、今の時代VRMMORPGはオープンワールドで自由度が高く、グラフィックがよくてストーリーも進めていて飽きない、そんなゲームがごまんとある、その中で正直に言って8年間音沙汰のなかった名前を忘れかけられているような会社から出るMMORPGでは、どれだけのものが出てくるのかあまり期待できない雰囲気が隠しきれない物だった。
その上告知された日にサイトで、このご時世に初版はダウンロード販売無しでソフト版のみ販売、通常版と数量限定で豪華セット版の予約販売が開始されていて、豪華セット版の個数が20個限定、価格も通常版のソフトだけなら一万円で販売されているのに対して、限定版は価格が何と四万円、しかもセット内容もアクリルスタンドだとか設定資料集など他でよく見るような物ばかり。
少し目を引く物で豪華セット版のみ限定オリジナル武器が付いてくるのだが、武器の内容は不明で分かっていることは、20ある武器は全て種類が違い豪華セット版のソフトの中に一緒に封入されたプロダクトコードを使用してのみ受取可能で、そのコードは一度使用したらもう使うことはできないという物であった。
そして、おそらく一番の売りだと思われる一番最後の方に書かれている特典が「???」ソフト発送後三日以内にお客様のもとへお届けいたします。
なんて軽く出せる金額じゃ無いくせに特典の内容もはっきり決まっていないという不明瞭さで、8年間も音沙汰のなかったゲームの告知を公式サイト以外で行うことはなく一部のコアなファン層しか発売を知らないという、もう販売する気が全く無い売り方をしたゲームだった。
このゲームの販売を知ることができたのは、別のゲームでパーティーを組んでいたフレンドから突然、『リュージ!聞いた!?《ワルドミ》が新作のゲームを発売するらしいよ!!』 というかなり興奮の混じったチャットが送られてきたからだった。
俺『リュージ』とチャットを送って来たフレンドである『グリム』はまだWorld Dominate社が全盛期だった頃からのフレンドで、略称『ワルドミ』の新作が出なくなった後も他のオンラインゲームでパーティーを組んでは一緒に遊ぶネトゲ仲間である。
突然の情報に驚きと何より興奮を隠せなくなりながらも、冷静な風を装ってチャットを返す。
『マジかよ!!8年間音沙汰なかったんだぜ!?しかも何だこれ、豪華版だとしても高すぎるし特典の武器に関しての情報出てないじゃん。』
そうするとグリムから、
『確かにそうだね、それにこの値段設定とこの???の特典、しかも販売情報は公式サイトにしか掲載されてないときた。こんなのを買うなんてよっぽどの馬鹿か金持ちのボンボンくらいだと思うよ、だけど、いや、だからこそ僕は買うよ!』
グリムの方も興奮を隠せていないのか、いつもなら俺と言っている文章も素が出て僕になっている。
『これはもうワルドミファンとしては買わざるを得ない!そりゃ四万は安くないけど今なら買える!』
けど俺の方も興奮を隠せないのは同じなわけで給料日直後だったというのもあって、ついついテンションが上がっていたため、会話をしながらもワルドミの公式サイトにアクセスし購入ページの必要項目を打ち込んでいた。
『お!まだ豪華版の方も買えるみたいじゃん!まあ四万もするんじゃそうそうすぐには買い手もつかないよな。』
『リュージも買った?僕も買ったからソフトが来たら一緒にやろうよ』
『もちろん、一緒にやろうぜ!』
そうして購入の確定ボタンを押しながらグリムと別のゲームでのパーティー申請を送りながらその日は過ぎて行った。