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異世界で探偵って需要あるんですか?  作者: 啄木鳥津月
File4:ヌケない大泥棒
39/45

1話

 某日深夜。

 

 一日の仕事を終えたそのクールな男は、一人で閑散とした街の一角を歩いていた。

 街灯もろくになく、足元を照らすのは住宅街の窓から数か所漏れている光と、半月の月明かりのみ。

 ホーホーとどこからか聞こえるフクロウの泣き声に急かされるように、男は羽織っていたマントをクールに翻して家路へと歩を進めた。

 しかしその時である。

 

 突如として、目の前の路地に何者かが立ちふさがった。

 巨大な大男だ。

 確実に身長3メートル以上はあるその体躯は、圧倒的な威圧感を放っている。

 人相は周囲が暗く、おまけにフードを被っていてわからなかったが、見ただけで通常の人間は縮み上がりそうなほどの眼光だけが覗いていた。

 

「なんやワレ、このワイになんか用でもあるんか?」


 しかし、クールな男はその突然の事態に何ら動じることなく、むしろ逆に挑発するように、自分の倍以上はあるその大男にガンを飛ばし返す。

 石像のように微動だにしないそいつは、仁王立ちの状態のまま口を開いた。

 

「貴様……最近用心棒として一躍名を馳せているようだな」


 背筋の凍りつくような野太い声。酔いしれそうなほどクールな美声を持つそのクールな男とは全く対照的だ。

 クールな男はふん、と鼻で笑いながら面倒くさそうに鼻の下を指で擦った。

 

「はっ、人気者ちゅうんは辛いもんじゃのう。あっちこっちから引っ張りだこになるだけじゃなく、あんさんみたいな敵さえも呼び寄せてまう」


 そう。クールな男はクールな用心棒として生計を立てている。

 富裕層の護衛はもちろん、銀行や博物館といった一般施設の警備もそつなくこなす、業界内では割と名の売れたクールな存在であった。

 しかし、用心棒というのは当然外敵から依頼主をクールに守るのが仕事。故にそういった場所や人を狙う犯罪者からも、注目を集める。もちろん悪い意味で。

 おそらく、いま自分の前に立っているその大柄な謎の男も、それに該当するのだろう。

 

「仕事の依頼ってわけやなさそうなところをみると、目的はお礼参りか? 悪いがワイも長いことこの仕事やっとってなぁ、ボコしたヤツのことなんざいちいち覚えてへんわ。あぁ、改めて名乗らんでもええで、これから覚える気もサラサラあらへんしな」


 クールな煽りがクールに決まる。さすがクールな用心棒。もしここが衆人環視の中だったらきっと大歓声が上がっていたに違いない。

 大男の方はそこでおとなしく尻尾を巻いて逃げればいいものを、なおもその場に留まっている。

 一体なんのつもりだ……こっちが仕掛けてくるのを待っているのか、それともこっちを油断させてその隙を狙おうとしているのか……。

 だが、その答えはどちらでもなかった。


「これより貴様に、決闘を申し込む」

「なんやて!?」


 決闘。文字通り一対一で戦う勝負である。

 しかし、今どきそんなものを真っ向から挑んでくる者が現れるとは、そのクールな男のクールな頭脳をもってしても予想はできなかった。

 

「決闘やと……? こら驚いたなぁ、騎士にでも憧れとんのか? アホくさ、お前みたいな図体デカいだけの木偶の坊がそんなもんなれるわけないやろ、現実見ろちゅうねん。ごっこ遊びがしたいんなら他当たれや」

「オレが勝ったら……貴様のその得物をいただく」


 用心棒のクールな忠言を無視し、その大男は彼の腰に下げていた剣を指さした。

 

「この剣を……? はん、これがどんなものか知ってて言っとんのやろな?」 


 ポンポンとその剣の柄を叩きながら用心棒はクールにせせら笑う。


「これはそんじょそこらのなまくらと違うでの。ワイの祖先から受け継いできた、究極にして最強の聖剣や。今日までこれで悪党を数えきれんくらいバッサバッサと斬り倒してきたんやで。まぁ、その価値がわかるところまでは評価したるが……これが欲しいっちゅうんなら、そっちもそれ相応のブツを賭けるのが筋ってもんやで。出せへんならさっさと回れ右して失せろや」


 それを聞いた大男は、身にまとっていたボロいマントをバッと広げた。

 すると……。

 

 剣、刀、メイス、ダガー、レイピア、バトルアクス、ボウガンetc……。

 凄まじい数の武器が、マントの内側に取り付けられたホルダーに収まっていた。

 まるで歩く武器屋。さすがの用心棒もこの光景には若干の焦りを覚えた。

 

「な、なんやそれは……」

「見ての通り、オレのコレクションだ。貴様がオレに勝てたならこれを全てくれてやろう」


 なんという大胆な条件。剣一本に対し、20以上はある武器の数々。よほど自分に自信があるのか、それとも向こう見ずなだけか。

 だが、クールな用心棒はそんなことでホイホイ誘いに乗るほど愚かではない。


「ほーん、なかなかええブツ持っとるな。しかし、あんさん……それ、自分で稼いで手に入れたもんちゃうやろ?」

「……」

「100%盗んだもんやな……。思い出したわ、最近世を騒がせてる武具泥棒がこのへんうろついとるって噂……それってあんさんのことやろ?」


 さすがクールな用心棒。クールに頭を働かせ、相手の正体をクールに分析。


「今や騎士団もあんさんのこと血眼で探しとんで、大泥棒さん。なのにこの期に及んでまだ悪事重ねるつもりかいな?」

「世間がオレをどう呼ぼうと知ったことではない。決闘を受けるのか受けないのか、どうなんだ?」


 あくまで自分との決闘にこだわるその大男。まともに話の通じる相手ではなさそうだ。

 

「やれやれ、やりにくい男じゃのう。ていうかあんさん、まさか決闘にその武器全部使ってくるつもりやあらへんやろな? そんな一方的に有利な決闘、乗るつもりはないで?」

「案ずるな、これはあくまで戦利品だ。使うつもりはない」

「ほぉ、ほんなら何で勝負するつもりやねん」

「……これだ」


 すると大男は、懐から自分の使う武器を取り出した。

 それは……。

 

「ぼ、木剣?」


 木剣。木を剣の形に削り、持ち手に布を巻いただけの、シンプルな武器。

 安価で用意でき、訓練や子どもの遊び道具に大人気な商品。

 そんな物を、自らが仕掛けてきた決闘の武器として使用すると、そう言ってきているのである。

 

「な、何言うとんのやお前! 頭湧いとんのか、そんなんで勝負になるわけないやろ!」

「勝負になるかどうかは実戦で試してみるのだな。貴様が本当に噂通りの用心棒ならば……!」

「なんやとぉ……」


 さすがのクールな用心棒も、頭に血が上った。情をかけて見逃してやろうとしたものの、ここまで舐めた態度を取られたらこちらとしても引き下がるわけにはいかない。


「ワイも見くびられたもんやな……言っとくが木剣相手だからってこっちは峰打ちで戦ったりはせぇへんで」

「決闘に同意……ということでいいのだな」

「おう、その喧嘩、買ったろやないかい。後悔しても知らんからな……」

合意確認(コントラクト)


 大男がそう小さく呟いた瞬間。

 二人の立つ場所がまばゆく光った。


「なんや!?」


 まるで昼間の太陽のごとく、その光は用心棒の視界を塞ぐ。敵の不意打ちかと用心棒はクール身構えたが、それは杞憂に終わった。

 徐々に光は収まり、やがてその場所は先程の薄暗い夜の空間に戻っていく。

 しかし、違う点が一つだけ。

 

 地面に、巨大なエンブレムが刻印されていたのだ。

 

 直径10メートルほどの円形をしており、金色に鈍く輝く模様と文字が見て取れる。

 これは……。

 

「魔法痕か! 何の魔法や!?」

「決闘魔法だ」


 武器が格納されたマントを脱ぎ捨てながらその巨漢は言った。

 あらわになったその顔と筋肉隆々の身体は、いくつもの傷にまみれており、多くの修羅場をくぐり抜けてきたであろう事は明白だった。

 

「自分と相手が決闘に合意したときのみ発動可能。ルールに則った決着が着くまでは、お互いこの魔法陣から出ることはできない。同様に、外の連中もこの中に入ることはできない」

「……!」


 なんと、クールな用心棒はその大男の手中に嵌まってしまったのであった。

 

「お前……味な真似してくれよって……」

「そう思うなら勝てばいい。オレに勝てば、お前はここから出られる。この武器全てを持ってな」


 その木剣を振り回しながら巨漢はそう言ったかと思うと、足元にあった小石を拾った。

 

「ルールはこうだ。今からこの小石を宙に投げ、それが地面に落ちたところで勝負開始。どちらかの死亡、もしくは気絶で決着とする。異論はないな?」

「……ふん、ワイに喧嘩売った過去の自分を一生恨むことになんで……。この究極聖剣の技……とくと味わいや!」


 後には引けないとわかった用心棒も覚悟を決め、剣の柄に手をかけ、抜刀の構えを取る。

 空気が張り詰める中、両者ともに見合う。

 ドクンドクンと、心臓の鼓動がクールに聞こえてくる。これから始まるクールな戦いの火蓋が、今、クールに切り落とされようとしていた。

 

「いくぞ」


 ピン、と巨漢は指でその小石を宙へ弾く。

 ふわっと空中に舞い上がり、ある一点で動きを止め、すぐにそれは落下運動を始める。

 いよいよ……決闘が始まる。

 

 そして、乾いた音を立てて、小石が、地面に落ちた。

 決闘開始!

 

「いくでぇ!」


 用心棒はクールに叫び、目にも止まらぬ速さで抜刀。そのまま聖剣の刃で、無謀にも向かってくるその大泥棒に、正義の一閃を食らわせ……。

 ようとした。

 が。その頭で描いていた完璧なイメージは、現実にはならなかった。

 なぜなら……。

 

 剣が……なぜか、抜けなかったのだ。


「なにっ」

「しゃあっ」



 ◆

 

 

「で、クールな顔がこの有り様というわけですわ」


 ボコボコにされた自分の顔面を指さしながら、彼は言った。

 その長ったらしい一連の話の聞き手はこの俺、結城界斗である。

 ひょんなことからこの世界「ジェネレイド王国」で目覚め、今はそこで探偵業を営んでいる。

 同じく隣で聞き手を務めていたのは、銀髪碧眼の美しい女性。

 彼女はクリスティア・エルキュール。元王国の騎士だったが、紆余曲折あって今は俺の助手だ。

 そしてここは王国内にある俺の事務所。そこを訪ねてきたのが今の語り手君である。

 本来であれば俺達を頼ってきてくれたその依頼人にお茶を出して丁寧にもてなし、話を聞いてあげて事件を解決に導くのが仕事。

 だが、あいにく今回に限っては二人ともそのモチベはまったくないどころか、むしろマイナス値に吹っ切れていた。


「ちょっと、聞いてまっか? このクールな顔がこんな醜い顔になったんやで? なんかかける言葉あるやろ?」

「あー、……お気の毒に?」

「ちゃうわ!! そこは『ボコボコにされた顔もクールでかっこいい!』やろが!」


 うざっ。


「とにかく! その大泥棒のおかげでワイのクールな顔がボコボコにされてもはやクールボコやこんなん! それに、ワイのクールな聖剣もあいつに奪われてしもた……このままじゃ用心棒稼業もクールにこなせん……。そうなったら仕事の依頼も来なくなり、いずれ金欠に……。って誰の懐事情がクールやねん、やかましいわ!」

「うるせぇぇぇよ! さっきからクールクールクールクール連呼しやがって暑苦しい!!」


 とうとうそのウザさに耐えきれなくなった俺は怒鳴り返した。

 マジでなんなんだその自己賛美フィルターかかりまくった事件の回想はよ。この数分で何回クールって言葉出たんだ、多分20回以上は言ってるぞ?



「第一、今のお前のどこがクールなんだクソ猿!!!」



 猿。

 一言で言えばそれ。

 いやまぁ人も猿の一種ではあるけれどもそうじゃなくて、マジで猿。

 全身が茶色い毛で覆われた上に、赤っぽい顔。そして尻尾。

 ニホンザルとチンパンジーとオランウータンを足して3で割って二足歩行させたような風貌のやつが、人の言葉を喋ってるのである。

 

 彼の名は、エドガー・キーチ。

 俗に言う亜人種だ。

 

 この異世界であるジェネレイドで暮らしている国民は人間だけではない。エルフやドワーフはもちろん、獣人もたくさんいる。だから別にそれ自体は問題ない。

 問題は……。

 

 勧められたソファに迷いもなく寝っ転がってケツをボリボリ。

 勝手にシュガーポットの角砂糖を手づかみで食って床にボロボロ。

 極めつけに、テーブルにあったまだ読んでない新聞をちぎって鼻をチーン。

 

 一挙手一投足全てが傍若無人。クールのクの字もありゃしない。完全に動物園の猿そのものだ。

 せっかく綺麗に掃除して、お茶もいいのを用意して、懇切丁寧に出迎えた数秒後にこれである。

 こんなのが本当に人気用心棒なのかよ、嘘くせぇ……。

 

「あのな、クールを気取るんだったら、ちったぁそういうふうに振る舞う素振りを見せろよ!」

「クールを気取る? はっ、あんさんわかっとらんのぉ……」

「は?」

「ワイがクールに振る舞うんやない、ワイが振る舞うからクールってことになるんや」


 ぶっ殺すぞ。


「どうするカイト、処す? 処す?」

 

 ティアも流石にブチギレていたのか、こめかみに青筋をビキビキ浮かべながら俺に訊いてくる。

 だが彼女は元軍人。ゴーサインを出してやりたいのは山々だが、そうなったら確実にこいつの息の根を止めかねない。

 くっそ、なんで俺達がこんなやつの相手しなきゃならないんだ……。

 と、唇を噛み締め、爪が食い込むほど握りこぶしを握って耐えていたその時である。

 コンコン、と事務所のドアがノックされた。

 今度は誰だよ、と内心うんざりしながら外の人物に入室を促すと。


「失礼するぞ、ユーキ。エドガーの取り調べは終わったか?」


 第三騎士団の兵士だった。思わず舌打ちしそうになるのを俺はなんとかこらえる。

 第三騎士団。このジェネレイドの治安維持を担当する軍部。そしてこの事務所のケツモチでもある。

 俺達の事務所の仕事は主に二つ。一つは直接訪ねてくる依頼人から受ける仕事。もう一つはこの騎士団が回してくる、彼らには処理しきれない、あるいは対応するに値しない雑務だ。

 そして今回は後者。

 先程の事件の被害者であるこの猿の取り調べを担当し、調書を提出せよという仕事だ。

  

「今あらかたの経緯を聞いたところです……あとは文書にまとめて」

「まだ終わってないのかよ……さっさとしてくれ、この後にもまだ控えてんだぞ」

「ちっ!」


 ホントに舌打ちしちゃった。こちとらクールどころか頭がフットーしそうだよ。


「知っての通り、今ジェネレイドでは武具盗難事件が相次いでいる。それも同一犯の線が濃厚のな。だから一つでも多く有力な目撃情報が必要なんだ」


 連続武具盗難事件。

 先程この猿の話でも言及されていた、武具のみを狙って盗む泥棒のことである。

 最近になって世間を騒がせており、新聞もこぞって取り上げている。

 武器屋はもちろん、富豪の屋敷や美術館、骨董店……果ては一般家庭にまで幅広い被害が出ており、ジェネレイド市民の間では犯人の話題で持ちきりだった。

 世界一の探偵を志している俺からすれば、これはまたとない好機。華麗に解決して犯人をとっ捕まえ、一躍話題をかっさらってやろうと息巻いてたのに、捜査権限は騎士団が独占、俺には情報は回してくれない。

 やっとそれ関連の仕事が来たと思ったら、このクソ猿の相手だってんだから、そりゃ不機嫌にもなるわ。


「はいはい、重々承知してます。いちいち確認しに来るほどお時間がおありなら、代わっていただいてもよろしいですよ、彼の対応」

「結構だ。そいつはうざい」


 ごもっともで。

 まぁだから俺に押し付けようって話になったんだろうね。


「先日もアクロイド美術館に例の泥棒が侵入したっていうから、騎士団も周辺の警備と聞き込みで手一杯なんだ。なんだっけ……えぇと……コソ泥イタチ、だったか?」

「大泥棒ミズチ、や」


 突然猿……エドガーが言った。


「ミズチってのはどっかの国の神話に出てくる、水を操る蛇のバケモンや。あるときは水が流れるように静かに盗んで消え去り、あるときは獲物に牙を剥いて強引に奪い去る……そんな手口がいかにもそれっぽいんってんで、そういう通り名になっとるらしいで」

「そうそう、そのコソ泥イタチを見たという目撃情報が終日ひっきりなしに騎士団に届いていてな」

「今の話聞いとった?」


 エドガーのツッコミを華麗に無視して兵士は淡々と続ける。


「だがその中には、明らかに悪ふざけや真偽の程が怪しいものも大量に混じっている。一人一人相手をしているときりがない。だが、だからといって無視するわけにもいかんからな……お前にはそのへんの精査も兼ねて聞き取り結果の報告を急いで上げてもらわんと」

「はいはい、わかってますよ。すぐにまとめて送付しますんで……」

「え? 何、ワイもしかして悪ふざけで通報した思われとるんか?」


 うざいからだよ。

 

「頼むぞ。そいつが終わったら次の目撃者のとこ行ってくれ。場所はエッジウェア闘技場だ」

「了解です……」

「それと」


 ジト目で俺を睨みつけながら、その兵士は俺に人差し指を突きつけた。


「いいか、わかってると思うが捜査はあくまで騎士団主導だ。探偵だがなんだか知らんが、くれぐれも勝手な真似はするなよ」


 言うだけ言うと、その公僕はさっさと出ていった。

 やれやれ、こっちの気も知らないで……。

 だがまぁいつまでもこの猿を相手するのは嫌だし、さっさと終わらせよう。


「で、さっきの続きですけどエドガーさん……ボコられたのは決闘のときに剣が抜けなかったからだと?」

「せや。あれにはびっくりしたで。まるで柄と鞘が一体化しているかのようやった」


 心底悔しそうにエドガーは言う。

 剣が抜けない……ねぇ。一体どういうことだろう。


「つーか、相手が抜刀してないのに斬りかかるのってルールで禁止じゃないの?」

「キーチ殿の話に寄れば、決闘のルールは小石を投げて開始ということと、どちらかの死亡もしくは気絶で決着という二点だけ。ならそれ以外は何をしようと違反にはならん」


 マジかよ、やっぱし怖いスね異世界決闘は。

 

「きっと魔法でワイの剣になんか細工をしたに違いあらへん。決闘魔法の発動時にかぶせて絶対別の魔法も使っとったんや!」

「そう……っすかねぇ。手入れを怠って錆びてたとかじゃないんすか?」

「いやいや絶対そうやて! でなかったらワイはただ決闘に負けただけの雑魚になってしまうがな! 全然クールやあらへん!」


 魔法。

 この異世界を異世界たらしめている重要な要素。

 物を浮かせたり、火を起こしたり、光を灯したり……常識を超えた力をここの人々は当たり前のように使っている。

 一見便利でワクワクするようなものに見えるが……探偵という職業を営む俺にとっては必ずしもそうではない。なぜなら、何かしらの事件が起きた時、それに魔法が使われていないか、使われていたらどのような魔法をどのように使ったかを必ず考慮しないといけないからだ。

 現実世界ならば常識ではありえない、と真っ先に除外する仮説がここでは本当にそうだった、というのはよくある話。

 だが当然俺はそんなものの知見は皆無に等しい。それをいつも助けてくれるのが、現地住民のティアである。

 俺とは違い大抵の魔法は熟知していて、その知識はまるでヒントの宝庫。彼女のおかげで解決できた事件も多く、今や俺にとっては欠かせない助手なのであった。


「ティア、そういう武器にロックをかける魔法ってのはあるの?」

「実際に使われるのは見たことはないが……施錠魔法とか接着魔法の応用であればできないこともない……かな」

「そっか」


 相手を煽って決闘を申し込み、決闘魔法で逃げ場を封じる。それと同時に武器を封じて一方的に勝利、そして戦利品を回収と。まぁ確かにこれもある意味「武具泥棒」ではあるのか?


「それに、同様に抜刀ができずに一方的にやられたという被害は他にもあったみたいだぞ。この後聞きに行く相手もどうやらそうみたいだ」


 ティアは興味なさそうに先程の兵士から渡された目撃者の資料をめくりながら言った。

 まぁ話を聞く限り、その巨漢の泥棒は他の連中からも武器を奪ってきたのは間違いない。

 だけど……なんか引っかかる。

 いくら決闘魔法と武器ロックで奪えるとはいえ、普通に背後から闇討ちした方が効率はいい。

 しかも自分が使うのは木剣……わざわざそれを選ぶ理由はなんだ……? 単純に相手を「これなら勝てそう」と乗り気にさせるため?

 そもそも武器屋とかの店から奪う場合はどうやってやってるんだ? そっちは普通に忍び込んで窃盗? クソ猿の話だと、窃盗も強奪も両方やってるかのように聞こえたけど……。

 騎士団が情報を回してくれない以上、ぶっちゃけ情報源は新聞や噂話くらいしかなく、他の詳しい被害状況の比較ができない。なので今ははっきりしたことは何一つわからないが……どうも臭うなぁ。

 

「ふふ、カイト……真剣な顔してる」


 あれこれ思案に没頭している俺を、横のティアがニヤニヤと見つめていた。

 

「久しぶりに事件らしい事件が来たからはりきってるんだろ?」

「いやでも……騎士団からは余計なことするなって言われてるし……」

「ん? 騎士団に言われたからおとなしく回された仕事だけするのか?」


 いきなりそう言われて俺はちょっとキョドった。


「ど、どういう意味だよ」

「どういうもなにも、私が知ってるカイトはそんなことで捜査を諦めるような人ではないだろ」


 じ~っ。

 と俺の顔を覗き込んで、彼女はちょっと意地悪な笑みを浮かべながらそう焚き付けてくる。


「この世に蔓延るどんな謎も、微塵に砕いて解と成す。それがモットーだろ。目の前にこんなどでかい謎があるのに、少々邪魔が入ったからって放置するのは、世界一の探偵を目指す者としてどうなんだ?」

「……」


 これを言ってるのが元第三騎士団の副長だっていうんだから驚きだ。てっきり「騎士団がダメって言ってるんだから絶対ダメだぞ」とか先手を取って諌められるものかと思ったのに、まるっきり言うことが逆である。

 

「なんかティア、随分と思考が探偵らしくなったな」

「ふふっ、伊達にあなたといっしょに仕事してないからな」


 そう得意げに言ってウインクする元女騎士。所作までなんかそれっぽい。


 ……ま、確かに彼女の言う通りだ。

 王都中を騒がせる武具泥棒。それは一体何者なのか、またその目的は何なのか。

 その解は、砕いてみなくちゃわからない。


 なら砕いてやろうじゃねぇの。

 異世界探偵、結城界斗がな!


 推理魂に火がついた俺は勢いよくソファから立ち上がる。


「よし、ティア。ここからもう遠慮はなしだ。調書は後回し、次の目撃者のとこに行く。そのついでに、犯人の足取りも追うぞ」

「承知した。もし騎士団連中と揉めたら相手は任せろ」


 待ってましたと言わんばかりに、助手も意気揚々と銀髪を優雅になびかせて俺に並ぶ。

 首洗って待ってろよ大泥棒……お前の正体を突き止めて、絶対にとっ捕まえてやる。

 これから挑む大事件とまだ見ぬ犯人との対決に心を滾らせながら、俺は改めて気持ちを引き締めるのだった。

 

 

「さぁ、謎を砕きに行こうか!!」

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