プロローグ
「 」
それはまるで一瞬の出来事だった。私を飲み込むそれはいとも簡単に私の体を飲み込んでいき、私がもがいてももがいても放そうとしない。
苦しい
息が出来ない
手を伸ばしてもそれからは逃れられず、冷たいそれはどんどん私の中に入っていく。
「死にたくない」
息の出来ない私は意識を手放していく最期にぽつりと呟いた。目から零れるこれは涙なのか…それとも…。
ああ、私は死んだのだ。
落ちていく私は夢を見た。抑々死んだ人間に夢なんて見れるのだろうか?
近づく地面と…一人の女性。…ん?女性!?
「っ……!あっぶなあああああああいいいいいい!!!」
出るか分からないが言わねばならない!そう思った私はいつもの様に話すように声を出す。
勿論、相手に気付いてもらえるように大声で。しかし、相手は声に気付かないのか私の落下地点から退こうとしない。
どうしよう…ここはもう一度!と大きく息を吸い込んだその瞬間
「!!!」
その人が不意に顔を上げて上を…こちらを見た。気付いたとかそういうのではなく、真っ直ぐに私を見つめる。
見つめられたからなのか、私は動くことが出来ず、ただただ落ちていくだけ。このままだと本当に彼女の上に落ちてしまう…
(もうだめだ。)
私は覚悟を決めて、祈るように手を握って目を閉じる。
が、
「大丈夫。」
不意に声が聞こえて思わず目を開ける。すると、彼女は腕を大きく広げるとまるで私を受け止めるかのように私を包み込んでそのまま一緒に落ちていく。
どこに落ちたのかは分からないし衝撃があったわけでもない。それでも確かに、私は落ちた。
「私の人生を…貴女にあげる。」
耳元で囁かれ、視点が暗転した。