1.「あれ、人生の転機来たんじゃねこれ」
『俺は不幸である』
開口一番こんなことを言うのもアレだが、事実なので許してほしい。
いや違いますよ?「僕不幸だわー。超不幸だわー。」とかそういうのじゃなくて。
「きゃああああああああーーー!!!!!そこの人避けてぇぇぇーーー!!!!!」
そうそう、こんな風に頭上に植木鉢が落ちてくるくらいには……。
あー。
◆ ◆ ◆
「いやはや。もはや見慣れてきたな、ココの頭から血を流して登校してくる姿」
笑いながらそう話しかけてくるのは、眼鏡を掛けた頭の良さそうなイケメン。そして俺の友人である「豊崎東華」。
実際頭は良く、実家は病院、そしてその後継ぎでもあり可愛い婚約者も居る。地獄へ落ちろ。
「笑い事じゃねえんだよ、こっちは毎朝死にかけてんだ」
「はっは。しかし昔に比べたら体も頑丈になってきたのではないか?普通の人間なら救急車で運ばれて入院コースだしな。なんならウチの病院で診てもらうか?」
「いいよ、別にいつものことだしな。こんなので毎回病院通ってたんじゃ不登校になっちまう」
「こんなの、で済ませる怪我ではないのだがな。はっはっは」
こんな愉快そうに笑ってはいるが、コイツは今完全に無表情なのである。あと笑い方が若干腹立たしい。殴りたい。
……まあ東華の言うとおり昔に比べれば体はかなり丈夫になったと思う。というか丈夫にせざるを得なくなったというか。油断したら死ぬし。
「あーーー。この病気みたいな不幸はほんとにいつになったら終わるんだろうな……」
「無理だろうな。諦めろ」
「仮にも病院の跡取りですよね君……!?」
若干切れながら東華の肩を掴み、グラグラと揺らす。
いや、病気じゃない以上病院に出来ることはないし分かってるんですけどね……。
「そもそも、お前の不幸は明らかに常軌を逸してる。病院に行くよりも霊媒師とか祈祷師とか、それこそ神社仏閣に行くべきじゃないのか?」
「ああそれね……。もうほとんど全部試した」
そう言って俺は首から下げている数々のお守り、十字架、よくわからない民族のよくわからないモノを制服の中から取り出す。
「多神教どころじゃないな。それむしろ災いを呼ばないか?」
「ハハッ……。この程度で招かれる災いとか屁でもないぜ……」
「なんという嫌な慣れ」
東華が感情の読み取れない顔でそう笑うと、ちょうどキンコンカンコーンというHRを始める鐘の音が話を中断させる。
そういえば手当も何もしていなかったなと、目に少し入ってきた血を拭き取りながら自分の席に向かおうとした俺に、東華は告げた。
「そういえば、4組に引くほど幸運な女子が居るらしいぞ。――――お前と足して割れば、一になるかもな」
そう笑い話のように投げかけられた言葉に、しかして俺は、返答することができなかった。
―――――――――あれ、人生の転機来た?
俺こと「不来内幸」は、クソみたいな考えだなと思いながらも、そう、思ってしまったのである――――――――。