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 とうとう皇族とのお茶会の日がやってきた。

 とは言っても、俺の泊まっているハーレンス家と皇族の住む家はご近所様だ。隣三件くらいの距離である。まあその隣三件が遠いんだけど、それでも三キロもない。

 その距離をわざわざ馬車を使うんだから無駄遣いというべきか。

 とにかくリーデルとミレイシアの二人に連れられて、俺は皇族の住む家へとやってきた。お伴はそれぞれの専属侍女、チュレイアさんとキュリオリアさんの二人だけだ。


 さて、この国のトップであり支配者でもある皇帝の住む家だ。どれほどの巨大な家なのか想像していたのだけど、大きさは公爵家とそんなに変わらなかった。

 ひょっとすると二、三百メートルほど横に長いのかも知らないが、正直その程度は誤差の範囲だ。そう思うようになってきたのは、俺もこの場所に慣れてきたせいだろう。

 ただ、唯一異なるのは入り口に巨大なアーチがあり、天辺にはこの国の紋章が刻まれたプレートが鎮座していたくらいだ。


 何十年か前にギルドマスターもここをくぐったのか。

 圧巻されただろうなぁ。


 玄関前には大勢の執事や侍女が控えていて、馬車が到着し扉が開かれたと同時に一斉に頭を下げられる。

 なんか偉くなった気分だ。

 その中で先頭にいた二十代後半の男性執事が、リーデルとミレイシアに挨拶をする。態度は慇懃無礼で今まで見てきたような執事なんだけど、全体的にとても偉そうな雰囲気を醸し出している。

 身体は執事だけど心までは染まってないからな! とでも言うべきか。誰得よ。

 公爵家の執事オーバール爺さんの態度を見習えと思う。


「ようこそいらっしゃいました、リーデル様、ミレイシア様」

「お世話になります、クッスルト」

「ごきげんよう、クッスルト」


 その後、彼の視線は俺へと移った。


 今着ている服は公爵家で用意されたものであり、ギルドマスターの家で用意された服とはぶっちゃけ格が違う。あれも普段着ていた服に比べれば素晴らしいものだったけど、子供の頃に着ていた服と大差なかったので、特に違和感が無かったのだ。久しぶりに良い服着たな、という感じ。

 よく考えれば俺も一応子爵家生まれなんで、国が違っても似たようなレベルの服を着ていたって事なんだろう。

 だが、今着ている服はぶっちゃけ格が違う。

 色は白を基調としたフォーマルな服で、さほど目立っている訳では無いのだが、肌触りから質感、着心地、装飾など全てが異なる。

 貨幣で例えるならギルドマスターの家で用意されたものが銀貨だとすると、これは三ランクアップの大金貨くらい。

 この服を売れば、平民の嫁入り費用何人分になるのか、と考えてしまう。

 貰えるならお土産に持って帰って、チュニアにプレゼントしたいくらい。チュニアの母親ポーラはお針子さんとして東区で働いているので、彼女に渡せば良い感じに仕立て直せるだろう。

 ……多分驚かれるかも知れないけど。


 まあそんな俺を見てこの執事は、ふんっと鼻で笑いやがった。

 むかっ。

 どうせ馬子にも衣装、とでも思っているのだろう。


「こちらが冒険者殿ですか」

「本日のゲスト、レモングルド様です」

「ではご案内いたします。本日は虎王の間にてアルフェイラ皇女殿下がお待ちしております」


 俺の名前を聞いても挨拶も何もせずスルーして、颯爽と歩いて行く執事。

 リーデルやミレイシアが特殊なだけで、普通の貴族はこれが当たり前なんだろう。

 でもむかつく。

 ぐっと拳を握ると、チュレイアさんに袖を引っ張られた。

 黙ってろって事だよなぁ。


 こんな感じで最初から良い気分では無かったが、本番はこの程度ではなかった。


♪ ♪ ♪


 通された部屋はとても豪華でした。

 もうね、趣味悪い。

 虎王の間の名の通り、デッドリータイガーという結構強い魔物の皮がふんだんにあしらわれた室内になっており、壁から椅子から虎ばかりでした。剥製も何体か飾られているし、更に言えば金箔などもちりばめられていて、どこの成金よ、って感じ。

 そしてその部屋の中央で待っていたのが金ぴかの子供だった。周囲には侍女が十人くらいと、更に鎧を着た護衛の兵士が十人程度いる。皇族になればお茶会でも護衛が必要なのか。

 で、この子供は勝ち気な目に口元、若干白みがかっている金髪、プラチナブロンドっていうのかな、をただまっすぐストレートに伸ばしてる。でもって金ぴかのドレスに装飾品と、ものすごく悪趣味だな。いや、ここまで体現してくれると逆に天晴れなのかもしれない。

 まあ挨拶なんぞしなくとも、この子供が第二皇女なのはすぐ分かった。

 ただし皇女でありこの中では最上位に位置する者だ。マナーでは上位のものが声をかけるまで……。


「アルフェイラさん! どうして貴女はいつもいつも!」


 そう思ってましたが、どうやらマナーというものは上位貴族の中では異なるようです。

 ツカツカとミレイシアが駆け寄ったかと思うと、ここまで響くくらい大きな音で皇女の頭を叩いた。


「いっ、痛いではないかミレイシア!」

「その格好! 皇女らしい服装をするよう毎回言っていますのに、なぜそうなるのですか! 周りの者たちも止めなかったのですか!」

「我らもお止めいたしましたが……」

「言い訳は無用です。さあ殿下、こちらへ。わたくしが服を選んで差し上げます」

「ちょっ、ミレイシア! 引っ張るでない! あ、そ、そこはほっぺ……いひゃいいひゃい!」

「第一貴女は平民を呼ぶように申しつけたそうですが、それがどれほど手続きのかかる事か分かっておいでですか!」

「ひゃ、ひゃっれりーでるが」

「貴女の一言でどれほど周りが苦労するのか分かっておいでですか!」

「ひゃーーうーーー」


――今度きつく言いつけておきますから。


 ミレイシアはつい先日そう俺に言ってくれたけど、想像以上にきつく言いつけたな。

 有言実行。

 彼女は皇女のほっぺをつねりながら部屋から出て行った。皇女のお伴はミレイシアの後を追っていなくなり、俺らは放置されました。ただし、例の執事だけが部屋に残り大きくため息をついてた。ま、彼は男だし皇女の着替えについていく訳にもいかないからなぁ。


「座りましょう、レモングルド様」

「え? 待ってなくてもいいのか?」

「いつもこうなのですよ。一時間は戻ってきませんし、待っている間にリベリアラさんもいらっしゃるでしょう」


 服を変えるのに一時間……。お小言の時間含めてかな。

 まぁ女性の着替えとなると着付けとか色々とあるんだろうし、時間がかかるのは仕方ない。


「リーデル様、他の者を呼んで参りますので暫くお待ち下さい」

「お願いします」


 執事がそう言って部屋から出て行く。

 ホスト側が誰かしらいないと格好が付かないだろうし、かといってお茶会では男より女のほうが良いのだろう。

 こうしてお茶会は幕開けとなった。


♪ ♪ ♪


「ほう、この者がリーデルの言う冒険者とやらか。冴えない顔だの」


 むかっ。


 皇女は一言で言えば子供だった。

 十一歳らしいけど本当にミレイシアと一つしか変わらないのか非常に疑問である。

 お茶の飲み方はお嬢様らしく動作も綺麗なんだけど、座ったまま足をぶらぶらさせるなよ。

 隣に座っているミレイシアが、ぺしっと足を叩くと止まるけど、すぐまた動き出す。ぶっちゃけミレイシアって苦労人だなぁ。


 そして初めてみるムクビルアス公爵家のリベリアラさん。貴族には珍しい紫っぽい色の髪が目立つ女性で、もみあげに色々とリボンやらが巻いてある特徴的な髪型だ。リーデルのくせっ毛には劣るだろうけど。

 ミレイシアからはかなりきつい性格と聞いていたけど、見た感じだけではそうは思わない。非常に落ち着いた女性で、年相応、いやそれ以上だ。どちらかと言えば皇女を窘めるミレイシアのほうがきつい。ぶっちゃけ姉妹に見える。


「そういえばレモングルド様は専属冒険者と伺いましたが……」


 そのリベリアラに話しを振られた。

 あれ? 何でばれてる?

 ま、ハーレンス公爵なんてそれ以上の情報を持っていたから、普通にばれても不思議じゃないんだけど。ギルド上層部は秘密にしている、と言っても所詮彼らは下級貴族だ。上級貴族から問われたら洗いざらい話しても仕方ないだろう。


 専属? ランクDって思ってたんだけど? と言わんばかりのリーデルの視線。

 こっちは素直というか、俺の事を何も調べなかったんだな。


「一応俺が専属というのは秘密のはずなのですが……あまり公言しないで下さい」

「あら、そうでしたの? 気をつけますわ」

「そうじゃ!」

「ふぁっ?!」


 いきなりお茶を飲んでいた皇女に怒鳴られた。

 身を乗り出すようにして俺に詰め寄ってくる。


「お主に聞きたいことがあったのじゃ!」

「は、はぁ……」


 ミレイシアは額に手を当てて、こいつどうして言ってもきかないのかしら、なんてポーズを取っている。


「我が栄光ある帝国軍と冒険者が戦った場合、どちらが強いと思うか聞きたかったのだ?」

「ケースバイケースで、変わるかと」


 何をもってして勝利なのか、どう戦うとか、そんな質問じゃ全く分からん。

 そもそも軍と戦う事なんざありえないだろ。

 だから俺は当たり障りのない回答をしたのだが、皇女は不満だったらしい。


「剣を持って互いに戦えば、じゃ」

「……同じ技量を持つ兵士と冒険者が、広い草原で百人同士で戦えば兵士の方が勝つでしょう。ただ森の中、視界の悪い場所なら冒険者が有利でしょう」

「ふむ?」

「軍は基本的に集団行動で人を相手に戦う事に主眼を置いてるかと思いますが、冒険者は魔物を相手に戦う事を主眼に置いてます」


 興味があるのか、護衛の兵士たちも俺の言葉を聞いている。

 そこまで気になる事なのかねぇ。 


「そのため、広い場所の集団戦なら兵士が有利ですが、森など視界の悪い場所ですと罠や不意打ちなどを得意とする冒険者が有利になります。何せ人間よりタフで力の強い魔物を相手するのですからそういった小技を使う場面というのは非常に多いので。ただもっと数の多い集団戦、例えば一千人規模だと、これはもう兵士が完全に勝つでしょう。冒険者は多くて十人程度しか連携を取ったことがないので、指揮できるようなものがいませんから各個撃破の良い的になるかと」

「ほうほう。では一対一で互いに戦えば?」

「兵士が有利でしょう。冒険者は対魔物を想定した戦い方を主眼にしてますから、対人を主眼に置いている兵士相手では不利になるかと。冒険者の神髄は魔物との戦いです。十人でゴブリン二十匹を相手して先に倒した方が勝利、という条件なら圧倒的に冒険者が早いでしょう」

「ふーむ、結局どっちが強いのか分からんではないか」

「ですからケースバイケースと言いました」


 煮え切らない皇女だったけど、一応理解はしたのか乗り出していた姿勢を戻してお茶を飲んだ。

 俺も同じようにお茶を飲む。

 正直チュレイアさんの煎れてくれたお茶に比べると少々落ちる。これはこれで美味しいのだけど、チュレイアさんの技量が凄いのだろうね。

 そんな事を考えながらぼんやりしていると、またもや皇女が身を乗り出してきた。


「そういえばお主、専属じゃったの? 強いのか?」

「あまり公言はしないでください。隠している事なので」

「何故隠すのかは分からぬが、とにかく強いのか?」

「……それなりには強いと思います」

「では、この者より強いか?」


 そう言って皇女が指した指の先に居たのは、護衛の中でも最も良い鎧を着ていた女性兵士だった。

 白銀の胸当てに下半身は完全に覆う形の鎧で、軽さを目的としたように見えるが、なんとなくバランス悪そうに見える。これは重心がおかしいのかな。既製品を買ってそのまま使っている雰囲気だし、少なくとも防具屋で調整して貰ったほうが良いと思う。

 皇女は女性なので護衛も女性ばかりなのは良いんだけど、全員どうも動きが訓練を殆どしていない素人なんだよな。これじゃ街にいるごろつきのほうが良い腕持ってそうだ。

 そもそもこんな所まで敵兵が入り込んでくるようじゃ帝国は終わりだろうから実際に戦う事なんてないんだろうけど、それでも一応護衛ならもう少し腕の立つ奴を用意したほうがいいんじゃないかな。


「彼女は新兵でしょう?」

「いや、違うぞ? 妾の近衛兵の中では一番強い」

「うそだっ!? あ、いや……」


 つい口を滑らせてしまった。

 案の定、指名された女性の護衛の表情が一瞬にして怒りモードになってしまった。


「ほう、冒険者殿は私が新兵と思っていたようだな」

「今のは言葉の綾で」


 などと言い訳しても聞く耳持たず、どんどん話が進んでいった。


「私のどこを見て新兵かと思ったのだ?」

「身体の重心とか足の動きとか使って無さそうな剣とか鎧の重さに振り回されてそうとか」

「……………………」

「筋肉のついてなさそうな腕とか視線が皇女だけしか向いていないとか色々と」

「い、言いたい放題だな」

「はは、つい口を滑らせて」

「よかろう冒険者殿。貴公に勝負を挑む!」


 あ、あるぇ?

 先輩から後輩への指導という形で、結構良い指摘だと思ったんだけどなぁ。

 だってねぇ、腕は仕方ないけど、皇女を護るという気概が感じられないんだよな、この子。

 例え身を挺しても皇女を護る、常に周りに視線を動かし異変があれば即座に皇女の前に出る、ってのは護衛の基本じゃないかなぁ。


 そして何故か皇女の護衛と模擬戦を行う事になった。


♪ ♪ ♪


「で、何か申し開くことはあるかね?」

「全くございません公爵閣下」


 あの後皇女の護衛全員を素手でのして、更に異変に気がついて駆けつけた本物の皇帝の護衛もノックアウトし、ついでにあの生意気な執事も一発殴ってしまった。一発だけなら誤射だ。

 だってね、ずっと部屋に閉じ込められていてストレス溜まってたし、護衛たちはずっと俺をゲスな野郎を見るような視線で見てたし、お茶を煎れる侍女もわざと茶器を鳴らすし。

 すっきりしたのは良かったけど、部屋の中は大惨事となっていた。

 虎柄のカーペットなんて俺の俊足で穴が空くし、護衛を投げ飛ばしたら壁にひびが入ってしまったのだ。


 結局最後は駆けつけたハーレンス公爵に睨まれて、こうして連行されてきたのだった。ちなみに執事の爺さんは今回もきちんと居る。


「私は常々冒険者には強さがあればいい、と思っていたが今回冷静さも必要だな、と考え直した」

「それは正しいと思い……」


 肯定しようとしたら、ぎろっと公爵に睨まれた。

 でもなぁ、まだ俺で良かったよ? もしアイなら皇帝の屋敷が延焼していたところだし、ペトラーゼなら回復されて半殺しにされての繰り返しだっただろうし。


「さて、皇女の護衛を殴り飛ばす程度ならどうとでもなったが、さすがに陛下の護衛はそうもいかん。今の君ではかばい切れぬ」


 皇女の護衛だけなら良かったのか。くそ、何であそこで新手が来るんだよ。

 って、自分の屋敷内で騒ぎがあればそりゃ駆けつけるのは普通か。まあでも後からきた護衛はそれなりに腕は立った。あれなら普通の冒険者並には役に立つだろう。


 それはそうとして、かばい切れないのか。

 俺、このまま牢屋へ直行? それとも首でも切られる?

 だが、公爵の言葉は斜め上を行っていた。


「そこで、だ。早いがリーデルとの婚約発表を緊急で行う」

「は?」


 ……ああ、婚約発表して公爵家の庇護下に置くって事か。

 今の俺の立場は、公爵家ご令嬢の客人の冒険者だ。殆ど後ろ盾など無いに等しい。

 皇女の護衛程度なら、まあまあ彼も反省している事ですから、とリーデルが言えば不承不承ながら納得して貰えるが、皇帝の護衛だと公爵自身が出向く必要がある。

 しかし俺の現在の立場だと公爵自ら動く理由が無い。娘のお友達の騒動程度で親が首を突っ込むなんて大人げない、という感じなのだろう。

 だが婚約発表してしまえは、後々俺は公爵の婿養子、公爵家の人間になるということだ。

 公爵本人が後ろ盾として動く事ができる。


「あの……良いのですか?」

「既に国家戦略の一つとして動いていると言ったであろう。この程度の事で君を失っては損だ。全く、こんな下らない事で舵取りを変更させないで貰いたい」

「全くおっしゃる通りで……」

「本来なら二年近くは猶予があったというのに……」


 ぼそりと公爵が呟いた言葉にぴんときた。

 元々俺は他国を降伏しやすいように持って行くための存在だ。婚約発表すれば、当然他国も知ることになる。

 では他国はどのようにして帝国に降伏の意図を伝える?

 国丸ごと降伏ならその国の王が皇帝に拝謁願えば良いけど、個人が目立たないように降伏するのなら、どこかに窓口が必要だ。

 そのための組織の編成やら、連絡が来た場合の一次対処、待遇、諸国への通達方法など決めることがたくさんある。

 俺は二年の猶予を貰っていたが、それは公爵側にとっても必要な時間だったのだ。それを一気にゼロにしてしまったから、これから早急に組織を作る必要がある。


 これは確かに頭を抱えたくなるだろう。

 いやほんとごめん。


「さて、婚約発表するのは良いが目立つ成果が必要だ。君には一つ功を立てて貰いたい」


 醜態をさらしたのに無条件で婚約なんて出来ないから何か功績を立てろ、とおっしゃっております。

 もうその通りです。


「新兵五十人程度を率いて盗賊を討ち取ってこい。相手は三十人程度だ、君なら一人でもどうにかできるだろう?」

「それは新兵は戦いに参加せず見学だけさせて、俺一人で討伐する、ということですか?」

「そうだ。別に新兵を参加させてもいいが、一人たりとも犠牲は出すな」


 新兵を連れて行って、一人の死者も無く盗賊を討伐した、と宣伝したい訳か。

 何も知らない人が聞けば、有能な指揮官ときちんと訓練した新兵なんだ、と思うだろうな。しかもそれが今は亡き公国の貴族で、帝国のために戦った、と。

 うわぁ、ここでもしっかり宣伝するのか。さすが国家の重鎮、転んでもただでは起きない。


「ああ、皇女の護衛も一緒に連れて行け」

「あんな使えない奴らを?! あ……」

「まあそう言ってやるな。ぼんぼんが一生懸命やる気になって、ようやく念願の皇女様の護衛に付けたのだ。ま、使えない奴ら、というのは理解できるし所詮は子供の貴族ごっこだとは思うがな」


 つい本音を出してしまったが、公爵は苦笑いをして、それを肯定どころかそれ以上に煽った。

 どうやら彼女たちは大公家の人間らしく、公爵家たちにいつも喧嘩を売っているそうだ。

 大公家ってのは皇帝の親族、いや、皇帝や先帝の兄弟たちやその子で、何かと公爵たちとは仲が悪いんだって。

 有能なものは全部公爵や侯爵に臣籍降下するけど、無能なものは大公家になるそうで、皇族としてのプライドが高いだけのものたちだそうだ。

 なるほど、あの執事もリーデルたちを軽く見ていたけど、そういう理由があったのか。


 そんな奴らを連れて行くのかよ。


「徒歩一週間程度の距離だ。新兵にもちょうど良い行軍の練習にはなるだろう。普段冒険者がどのように目的地へ移動しているか学ばせろ」

「他に冒険者を連れて行ってもいいでしょうか?」


 俺だけじゃ到底面倒見切れない。

 せめてガンゼズくらいは連れて行かないと辛いだろう。それにギルドマスターにも相談して、あと一名くらいは追加して貰おう。

 盗賊三十名を討伐なら俺一人でも出来るが、一人じゃ到底殲滅は無理だ。逃げられる。


「二、三人程度なら許可する。また行軍監督としてオーバールを付ける」

「えっ!?」

「君たち専属冒険者の強さは私も理解しているし、盗賊の討伐程度は楽に出来るだろう。ただ、その行動は理解出来かねる。戦闘以外についてはオーバールに適宜相談しろ。心配するな、オーバールは私の父に付いて戦場を行き来していたベテランだ」


 オーバールはこの家の執事の爺さんだ。

 フットワーク軽い奴とは思ってたけど、まさかお目付役として行軍についてくるなんて。

 しかも先代の公爵についていって戦ってたなんて、色々と経歴が気になる。

 ちら、と爺さんの方を見ると軽く会釈をしてきた。既に了承しているのだろう。

 ってか、俺が連行されてすぐ話し合いとなったのに、いつの間に打ち合わせしたんだ? 俺を連行する前に処遇は決まっていたのか?

 相も変わらず先手を打つのが早い。貴族はこうして先手を打って先に出ないと負ける事があるのだろう。


「出発は五日後、それまでに準備しろ。話は以上だ」


 公爵はこれで話は終わりだ、と打ち切って、俺は部屋から追い出された。

 ……まずはギルドマスターに会わなきゃなぁ。




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