十六
ちょっと提督業やっていて、投稿遅れました←
無事、オークの軍勢を倒した俺らは帝都のギルドへと戻ってきた。
ただし飛竜は帝国軍が管理しているものなので、なるべく早く返さなきゃいけない。そのため、アイとペトラーゼの二人を乗せて先に戻り、俺とガンゼズ、モーライルの男勢は徒歩だったが。ま、行きに比べれば足手まといが居なかったので非常に楽だったから良いけどな。
それはともかく本音を言うと宿に行って眷属の入れてくれたエールを飲みたいところなんだけど、ギルドマスターへ報告する義務がある。とは言っても詳細は先行して戻ったアイたちに聞いているだろうけど、一応俺が取り纏め役なのできちんと報告しなきゃいけないのだ。
何で俺が専属冒険者の取り纏めをやっているのかというと、疑似眷属化の代償って奴だ。いくら俺が滅多に眷属化にしないといっても、操られるというのは気分が悪い。しかも逆らえなくなるのだ。
だから個人単位で引き受けているようなものはともかく、今回みたいな共同作業でのギルドとの手続きなどは俺が全面的に引き受ける事で納得して貰っている。逆にそれだけで良いのかよ、とは思うけど、もともと専属になるような奴らは強さを求める傾向が多いし眷属化すると力が増すので、それ目当てなところもあるそうだ。
「という感じで、オークの軍勢はバラバラになった。打ち漏らしは結構あるから、あの辺り一帯へ冒険者をいくつか派遣したほうが良いと思う」
「そうだな、オルフェル支社へそう伝えておこう。ま、ご苦労だった」
「ああ、今回は本気でやばかった。死を覚悟したからな」
あと数分でも遅れてたら俺は雷精化で魔力を使い切った残りカス状態になってただろうし、そうなりゃオークたちになぶり殺されてただろう。
肩をすくめるとギルドマスターは口元を歪めて笑った。
「間に合ってよかったな」
「それにしてもどうやって飛竜を借りたんだ?」
実のところそれが一番の疑問だった。
飛竜は主に重要人物の移動手段で使われる帝国の虎の子扱いだ。例えば辺境伯など遠方の大貴族が病気にかかってしまい帝都の腕利きの医者を派遣したり、或いは攻められた時に敵を足止め出来るような魔法を使える魔法使いを派遣したりする。
そのため、軍が厳重に管理していて僅か一日二日であっても借りる事など殆ど不可能だ。
いくら国内にオークキングが現れたといっても、ギルドが飛竜を帝国から借りる事なんて普通じゃ考えられない。ましてや軍関係者を乗せず、冒険者だけを派遣するなんてあり得ないだろう。
ギルドマスターが貴族だとしても、相当な上から口利きがないと不可能だ。
ところがギルドマスターは俺を見てにやりと笑った。
「ハーレンス公爵のお嬢さんに感謝するんだな」
「へ? リーデル?」
どうやら彼女は俺が出発した後も、職場を見学をしたいと言ってギルドへ入り浸っていたそうだ。そして連絡を受け取った時にそれを聞いていたリーデルが公爵へ直談判して飛竜を借りたらしい。
なるほど、軍を統括しているハーレンス公爵なら飛竜を管理している長だからいくらでも融通は利くだろう。しかしいくら娘の頼みだからといって、よく許可したもんだ。公私混同するようなタイプには見えなかったけど、意外と親子の情は厚いのか?
とにかく後で礼を言っておかなきゃいけない。
ちなみに蒸しパンはギルドへ連絡を取ったあと戻ろうとしたけどギルドマスターに止められたらしい。飛竜でアイたちを乗せていくんだから、そこにランクAの蒸しパンが混じっても邪魔になるだけだから、これは正しい。
「じゃあ後で礼を言っておかなきゃいけないな」
「アイの報告を聞いて一安心してたが、それまでは相当不安がってたぞ? 今すぐいってこい」
いきなり未亡人になるところだったからな。
あ、でも正式に婚約している訳じゃないから未亡人とはならないか。
「とは言っても俺だけじゃ貴族街へ入れないぞ? お前も一緒についてきてくれるのか?」
礼は言いたいけど、急がなければならない案件ではない。明日でも十分だろう。なにせずっと野宿だったから今日は久しぶりに安宿のベッドで寝たいのだ。ついでにエールと一番安いワインが飲みたい。でもバッケルの作るくっそ不味い飯はいらないがな。
というより、冒険者たるもの一つの依頼を成功させたならその夜は酒場で宴会が定番なのだ。
「お前はハーレンス公爵から正式な依頼を受けたのだろう? 本来なら俺に報告する前に軍へ報告しなきゃだめだろう」
「……あっ」
そういえばそうだった。
結局最後はいつものメンバーだったんで、つい癖でギルドへ報告しにきたんだけど、そうか、公爵への報告がいるんだった。
っつか、今回の依頼料はどうなるんだ? 本来なら盗賊の討伐だったのがオークキングに変わったのだ。さらに援軍に来てくれたアイたちにもきちんと報酬を渡さないとごねられそうだし、その相談はギルドでなく公爵へする必要がある。
貴族街の入り口で事情を説明すりゃ、公爵本人への面会予定くらいは取れるだろ。
「ま、オークキングの討伐はうちから出すのが筋ではあるが、出来れば金を貰ってこい」
魔物の討伐料は基本的にギルドが出す。しかし中には都市規模や国家規模の脅威も当然あるが、その場合はギルドと国が折半する事が多い。
今回のオークキングも都市規模の脅威に匹敵するので、ギルドマスターは国からも金を出すよう俺に頼んでいるのだろう。
都市規模の脅威度なら、一千人程度の冒険者は必要だろう。一人平均銀貨三十枚程度だとしても白金貨三枚くらいが目安だ。
ただし飛竜を借りたこと、今回は俺含めて六人で対処したこと、既に前金として金貨五枚貰っている事、殲滅した訳じゃない事を考えると、そんなに貰えないだろう。
一人金貨五枚辺りで手を打つのがいいかな。蒸しパンには先に渡しておいた金貨一枚で十分だろうし。あと、それ以外に逃げたオークたちの討伐依頼も出さなきゃいけないし、ギルドとしてもある程度は必要だろう。
最低大金貨五枚、白金貨一枚くらい貰えれば御の字ってところか。
……リーデルの小遣いが白金貨一枚だったし、公爵家からすればはした金だから貰えるだろ、思ってしまうのが怖い。
「分かった、出来るだけふんだくれるよう頑張ってみるわ」
「頼んだぞ」
♪ ♪ ♪
あれから事態は急転した。
貴族街の門番に公爵へ面会を申し込んだら、頭ごなしに怒鳴られ追い返され、仕方なく宿に戻って一杯飲んでいると執事の爺さんが馬車でやってきて拉致られた。ギルドマスターが裏から連絡を入れたらしい。
でもって公爵へ報告、その後いきなり婚約破棄(正式に婚約していた訳じゃないので破棄ではないが)の申し出があった。
理由は簡単で、オークの軍勢をたった六名で討伐したほどの冒険者であり、公爵家の婿養子にするよりも新しく爵位を与えたほうがいいだろう、となったそうだ。ま、爵位といっても一番下の男爵だし、領地もない。
ま、それは無理矢理な結婚よりも余程良い。リーデルも内心は一安心してるだろう。でも……なんでいきなり爵位なんてくれるんだ?
「君には悪いとは思っている。爵位を与えられるということは家に縛られる事になるからな」
今までの経緯からか寄親はハーレンス公爵となった。俺が住む予定の家から家令から全部ハーレンス公爵が用意してくれるからだって。すごいよ、家貰っちゃったよ。
それと新興貴族は背後関係が弱いし、誰かの下に付かなければあっという間に食いつぶされてしまうそうだ。なにそれこわい。
「貴族って貴族街に住まなきゃいけないんですよね」
「本来ならそうだが、君には管理すべき領地がない。そのため当主自らの裁決が必要な管理業務は殆どないので、代理人を立てれば君自身は平民街にいても問題はない。最も定期的に戻る必要はあるがな」
「代理人を任せられるような知人はいませんが」
「隠居した元当主かその側近たちにやらせれば問題はなかろう」
ああ、そうか。子供がある程度の年齢に達すれば当主は子に譲って隠居する。でも貴族は結婚が早いので隠居したといっても四十代はざらにいるのだ。まだまだ十分働ける年齢である。
しかし……当然な事に金は必要だ。領地持ち貴族でも無い限り定期的に大きな収入なんてないし、冒険者の収入じゃチュレイアさん一人ですら雇えないだろう。
男爵って家を貰っても維持できるほど収入って入るのだろうか。
「心配するな、資金についても当面は当家が面倒みよう。ウェイスルン子爵家縁の者なら君にも馴染みはあるだろうし、その辺りを探しておく」
俺の顔色を察したのか公爵は先手を打って話し続ける。
しかしギルドマスターの血縁者か。それなら多少は馴染める……かな。
でもこれだけ資金を融通してくれるのは、やはりリーデルとの婚約破棄の件で非が公爵家側にあると思っているからだろう。俺としては金だけ貰ってそのままさようなら、の方がありがたいんだけどな。
「でも何故こんな話になったんでしょうか?」
「……うむ、実はな」
俺に爵位を与えるよう皇帝に言ったのは、驚くべき事に皇女の護衛たちだったらしい。
どうやら行軍の途中で色々と鍛えて貰い、尚且つ護衛や兵士たちを帰して自分は死地に赴いた事に甚く感銘を受け是非先生になって欲しい、と第二皇女へ願い出たそうだ。
ただ大公家の者に対して平民がもの申す訳にもいかず、かと言って公爵家に婿入りさせたら基本的に公爵家側の人間となりバランスが崩れてしまうそうだ。子供同士ならともかく、公爵と大公、皇族は互いにつかず離れず一定の距離を置かないといけないんだってさ。どれかが力を得るとバランス的に厄介だからだそうだ。
それなら新しく爵位を与えればその辺りの関係は問題無くなるし、もっと言えば大公家の問題児たちを一纏めに管理できるものがいれば男爵の爵位程度なら一つや二つくらい安いそうだ。当初の目的である俺の宣伝効果も、公爵家に婿入りより新しく爵位を与えるほうが大きい。大きなところに入るより、小さくても一国一城の主のほうが大きいのか。
「という訳で、君には定期的に皇女の護衛たちを鍛えて貰う仕事がある」
「え、いや、男爵って下級貴族ですから第三地区には入れませんよ」
「今の君はまだ平民だが第三地区にいるではないか」
そりゃ爺さんに拉致られたんだし。
「下級貴族が第三地区に入れない、という訳では無い。招待者がいれば良いのだよ。その辺りは大公家が用意するだろう」
「あの第二皇女に会うわけですか」
「ああ、それと……少し流れが変わってきている」
「流れ……ですか?」
「ペイリアの血は過去、エルフの血を混ぜた事は知っているな?」
公爵の問いに頷く俺。
リーデルの成長が遅いのもエルフの血が混じっているからだそうで、母親であるホライアさんも三十を超えているのに、見た目はまだ十代後半なんだって。
しかし続く公爵の言葉に一瞬混乱してしまった。
「君の血を混ぜてみてはどうか、と大公家から申し出があってな」
「は?」
以前、公爵はリーデルと結婚はしても子供は作らなくていい、と言った。
それはすなわち俺の血を公爵家には混ぜない、という意味だとミレイシアから教えて貰ったが、なぜ大公家が血を混ぜるよう言ってきたのだろうか。
だがそれは公爵の言葉で理由が分かった。
「言い方は悪いが実験だよ。ダンピール、すなわち吸血鬼の血がどのように作用するか興味があるらしい」
……眷属化の事かよ。
俺の三つある奥の手の一つ、精神感応。血を吸った人間を擬似的に眷属化させて従わせる能力だ。多分アイたちが飛竜を返しに行ったとき、ぽろっと言ったんだろうなぁ。
確かに貴族がこれを使えるようになれば非常に大きなメリットとなるだろう。ダンピールと人間の子がそんなものを使えるかどうかは未知数だけどさ。
だから実験って言ってるのか。
「ペイリアの血を取り入れる時も、一旦新しい爵位を設けそちらで子を成し、その後生まれた子の中から餞別し我々と婚約して取り入れていた。君もその手順となるだろう」
「俺が貴方たちの血を吸って操るとは思わないのですか?」
「君を力尽くで従わせる事は不可能だろうし、君に本気を出されるとおそらく防ぐことは出来ないだろうな。しかし交渉は可能である。事実君は私との交渉において力を使わなかった」
「これからもそうである、とは限りませんが」
「これからの交渉役は私ではない。君との子を望む女たちだ。その中にリーデルも含まれている」
「あんたさっき婚約破棄って言ったじゃないか!?」
「当家へ婿養子する話が無くなった、という意味での破棄だよ。大公家からの申し出により当家で君を独占する事が出来なくなったからだ。またおそらく他の公爵家も追従する。当家も指を加えて見てるだけにはいかんのだ。そして貴族の当主は第三夫人まで持つことを認められている。意味は分かるな?」
俺の血が欲しいために大公家や公爵家のお嬢様方が婚約を申し出てくるので、その中から三人を選べって事だろう。
交渉役が女ってのはそういう意味か!?
――外部の血を取り入れるのは、皇族以下わたくしたち全員の納得と承認を得られない限り、混ぜることはできません。しかし裏を返せば、承認が得られれば種族など関係無く取り入れても何ら問題はありませんよ。
ミレイシアの言葉がふと脳裏に浮かんだ。
これって皇族も認めてるって事だよな?
「ああ、さすがに二人とも取られると当家としても困るので一人に絞って貰いたい」
その三人の中にリーデルかミレイシアのどちらかが入っていれば公爵は何も言わない……と。更にもっといえば、俺へあげるつもりの金は高いんだよなぁ、お返しくらい欲しいなぁ、なんて顔をしてやがる。
くっそ、くっそ、なんで貴族ってどいつもこいつもこうなんだよ!
それに俺は寿命が半端なく長い。当主の座はほぼ俺が独占してしまう事になるし、大貴族の娘と結婚すれば外戚関係になるので、生まれた子を大貴族へ婿養子や嫁に出しても問題は全くない。そうなれば次世代以降には俺の血が大貴族の中へ混じっていく事になる。
それって子供製造器みたいなものじゃないか。
「じょ、冗談じゃない!? 打算の結婚なんてやりたくねーよ!」
「皇女の護衛やリーデルは打算関係なく非常に乗り気だよ。いや、男として羨まし……おや、どこへいくのかね?」
「帰らさせて頂きます!!」
そう言って俺はさっさと公爵の部屋を退出すると、なぜか部屋の外にリーデルが待っていた。
長くなりそうだったので一旦分けました。次で終わりです。




