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十五


『モーライル、お前突出しすぎだ少し下がれ。ペトラーゼはモーライルの後方近くまで行って防御系中心の魔法を頼む。シェルリリアは西側のオークへ魔力弾をいくつかぶちかまして威圧させろ。アイは炎の壁を南側に作ってオークを止めてくれ、いいかお前はあまり魔力を使うなよ?』


 俺の指揮により、まずは場を整えていく。陣形といっても良い。

 まず完全前衛型の攻撃役モーライルを北側へ配置させペトラーゼをバックアップに持って行く。これでそうそう落ちることはないだろう。

 東側はガンゼズをそのまま配置、あれは置いとくだけで十分だし、そもそも疑似眷属化を受け付けないので声も届かないからな。

 西と南はあくまで牽制程度に抑える。この攻撃型魔法使い二人、特にアイはオークキングを見つけ次第そこへでかいの叩き込む用途に取っておく。シェルリリアはでかい魔法を使う時は長い詠唱が必要になるが、アイはイフリートへお願いするので詠唱自体短い。ファーエムが居てくれればシェルリリアの前衛を任せられるんだけど、居ないものは仕方ない。

 俺がそっちへ回るのもいいけど、それはどちらかのキングを見つけてからだ。


 場を整えたら次にペース配分を崩さず的確に敵を順序よく倒していく。体力はペトラーゼの回復魔法があるからそうそう心配はいらないけど、魔力はそうでない。魔力回復薬は連続で使用すると吐き気や副作用が出てしまうので、出来るだけ少ない魔力で効率よく倒していく必要がある。

 このあたりは巨大な魔物を討伐するなど、時間のかかる相手で経験しないとなかなか難しいし、しかもそうそうそんな機会は訪れない。だから冒険者はこの辺を苦手とする者たちが多い。

 ま、初心者の頃は弱い魔物しか相手しないし、逆に強くなれば相手を瞬殺してしまうからな。


『シェルリリア、もう少し魔力を薄く、その分数を多く作ってくれ』

『私は風邪を引いたのでもう寝たい、けほっ』

『嘘つけっ! そもそも頭の中で念じてるだけなんだから念話で咳なんてでねぇよ! さっさとやれ!』

『レモンおーぼー』


 特にシェルリリアはこの中で一番若手の十代だ。魔力が多すぎて危険なための専属だから、戦闘経験も少なくその分他よりも細かい指示が必要だ。

 ま、それもあと五年もすればそれなりに使えるようにはなるが、専属自体そんなに仕事ないからなぁ。


『モーライル、少しペース落とせ。ここ乗り切っても次がある』

『レモンの旦那、まだいるのかい?』

『ああ、オークたちはここからほど近い砦を根城にしている。そこも後で落とすからここでへばるなよ?』

『いいねぇ、いいねぇ。これだけ暴れられるのは久々だぜ』

『アイはもっと魔力を節約しろ。お前の役目はこっち側へオークを寄せない事だ』

『あたしも暴れたい!』

『今キング探してるから、見つけるまでそのまま維持だ』


 そんな感じで各自に指示を出しつつ、キングの姿を探す。あいつは大柄だが、これだけ似たようなオークがいると流石に見つけにくい。しっかしそれにしてもかなりの数がいるな、一千五百はいるんじゃないか?

 全体で多くて三千、威力偵察で百五十、そしてだいたい三百匹くらいは倒してるから、二千弱くらい連れてきたのか。じゃあ砦にいるのは多くて一千だな。

 ただ、キングを倒すとおそらくオークリーダーが統率するだろうが、氏族単位でバラバラに行動するはずだ。あまりばらけられると倒すのに面倒になるし、この際一気に倒しておきたい。そうすりゃこの辺のオークは殆ど数が居なくなる。

 こいつらをわざと撤退させて砦へ逃げさせて、一気に魔法で叩いた方がいいか?

 ま、どちらにせよキングは二匹だ。一匹倒して少し様子を見させて貰おう。


 だが、そう事は上手く運ばなかった。

 オークの軍勢が徐々に引いて行っている。こちらに援軍が来た事、想定以上に強くこのままだと倒せない事が分かったのだろう。うーん、キングって意外と頭が良いんだな。

 そういや威力偵察の後、キング二匹が本隊引き連れて俺らのところへ来たんだし、更になるべくオークの数を減らさない戦いをしてきていたっけ。そして既に俺らは本隊の一割ほど削っている。

 数を減らさない、と言うことはこれから先を考えて、更に増える当てもあまりないということだ。となると、これってもしかすると思ってた以上に数が少ない?

 下手すりゃ砦には殆どオークがいなく、ほぼ全軍でここに来ている?

 撤退戦で一番危険なのは殿しんがりだ。で、偉い奴ってのは大抵逃げる時は先頭にいる。


 ……つまり。


『アイ! 今すぐ飛竜に乗って撤退するオーク軍の先頭へ行って、一発どでかいの撃ってこい!』

『まってたーーーー!!』


 嬉々として飛竜に乗るアイ。だがお前の期待には応えられないんだ。

 キングはこっちが飛竜を従えているのを知っている。つまりいつでも空から急襲が可能だ。逃走するとしても一番に襲われるのは先頭だと分かるはずである。

 ではこのオークの撤退するような動きはなにか?

 陽動以外考えられない。

 キングはこちらの最大戦力がアイだと思っている。そりゃ上位精霊のイフリートを従えたエルフだからなぁ、目立つし。更に炎の壁を作るだけで目立った攻撃をしてないのは、魔力を節約している事に他ならないと考えるはずだろう。

 ならば、そんなところへアイを飛竜に乗せて先頭へ向かわせればどうなるか?


『シェルリリア! 西側を俺が支えるからお前は詠唱して南側へでかいの打ち込め! 範囲は特大だ!』


 アイのいなくなった南側からキング二匹が急襲してくるだろう。

 今まで俺らがとっていた戦法はモーライルが攻撃のメインで、残りは防御主体だ。つまりアイの開いた穴へ数に任せて一気に押しつぶそうという魂胆だろう。

 仮につぶせなくとも、そのまま俺らの陣形を乱してから逃走だ。

 レモン無茶言う、なんて呟き、というより思念が飛んでくるがそんなもの後回しだ。


≪我は乞う、龍の吐息、古の輝き、天より下れ破滅の根源≫

「雷精化!」


 シェルリリアの詠唱と同時に雷精化する。十秒しか持たないが、全力で駆け抜ければ抑える事ができるだろう。

 彼女の魔法が途絶えた途端、次々と襲いかかってくるオーク。だが、俺がそいつらに触れると電撃が走り一瞬にして炭化していく。ペトラーゼの血を吸ったおかげで、雷精化の威力も上がっている。

 

≪舞え踊れ我が願いを叶えよ破壊の化身≫


 二本の短槍を伸ばしオークの心臓を狙いながら、更に足も使ってとにかく暴れまくる。

 獅子奮迅ならぬ四肢奮迅だ。

 威力が増しているおかげか、俺が近くにいくだけでオークたちの全身に痺れが襲っているようで、動きが鈍くなっているのも幸いしている。


≪生あるものは大地へ返せ、死せりものは天へ返せ、汝の力を我が手に宿せ≫


 シェルリリアの詠唱と共に凄まじい魔力が彼女から発せられた。魔力の量だけで言えば上位精霊のイフリートをも上回る。

 彼女は生まれつき魔力が異様に大きくなる天性増魔という病気らしいが、普通なら増える魔力に身体が耐えきれず、子供の頃に死ぬケースが非常に多い。が、彼女は天性の才を持っていたらしく、これだけの魔力をしっかり制御している。

 ただ、一歩制御をミスれば周囲一帯を破壊させる爆弾みたいな状態であり、だからこそギルドが魔力封じのローブを与え専属にして管理している。


≪叫べ喚け贄たちよ、無慈悲なる鉄槌を我は落とさん≫


 シェルリリアの詠唱が終わると同時に俺の雷精化が切れた。普段は十秒なのに、今回は十三秒程度継続できていた。血のおかげだろう。

 いつもなら魔力を封じるローブを深く被っていて素顔を出さないシェルリリアが、顔の部分を露出させていた。あのローブ、普通の人間が着ると魔力を完全に遮断し一切の魔法が使えなくなる代物なのに、彼女の場合だと多すぎて身体から漏れる魔力を何とか封じるくらいにしかならない。

 そんな彼女の紺色の髪が吹き出る魔力に流されきらめく。

 準備が出来たようだ。


『やっちまえシェルリリア!』

狂雷破滅レイジ


 シェルリリアの魔法が発動する。同時にオークたちがいる地面に巨大な立体型の魔法陣が浮かび上がった。

 遠くで火の魔法が発動したのを感じた瞬間、シェルリリアの魔法が吹き荒れた。

 瞬時に壊滅していくオークの軍勢。

 この日一千五百のオーク軍はシェルリリアとアイの魔法で瞬時に半数とオークキング二匹を失った。


♪ ♪ ♪


 オークキングを失ったオークの軍勢は既に統率を失っていて、残党狩りに俺とモーライル、ガンゼズの三人が担当した。

 残念ながら殲滅は無理だったがこれで当分の脅威は去っただろう。

 ちなみに魔力の使いすぎで動けなくなったアイとシェルリリアはペトラーゼが面倒を見てたけど、苦痛の聖女の名の通り、嬉々としながらちょっとずつ痛みを伴う回復魔法を倒れた二人にかけ続けたらしい。


 しかし今回は本当にやばかった。

 援軍が間に合わなければ俺は死んでいただろうし、ガンゼズだって無事では済まなかったかも知れない。

 盗賊三十人と思ったらキング率いるオーク軍だったという事もあるが、やはり準備と人員はきちんと念には念を入れなきゃだめだな。


 そう思いながら帰路に付いた。



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