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十三


「これでおしまいっと」


 俺の二本の短槍がオークの額を貫き、その奥にある脳を破壊した。

 オークのような体力バカは弱点を突いて効率よく倒さないと、いつまでたっても終わらないからな。それはオークに限らないけどさ。

 しかしオークのような人型の魔物には他にも心臓が効率的であるが、体力のある魔物だと心臓を貫いても一定時間生きているやつもいる。血の巡りが悪いのかね。

 何はともあれ、俺は氏族の一つを殲滅したのだった。

 ここまる一日間、俺とガンゼズの二人で砦へと向かってきている氏族を叩きつぶしていた。

 キングに呼ばれて集まってきているとはいえ、実際にキングの影響を受け凶暴化するには近くへいかないといけない。凶暴化する前のオークなら数十匹程度は楽に殲滅できるのだ。


 流石にずっと砦の周辺を丸一日うろうろとしていたためか、少し疲れた俺は少し休憩しようとガンゼズとの合流地点へ向かった。

 ガンゼズはドヴェルグ族というドワーフの上位種であり、体力は無尽蔵の如く動ける。実際は地面に足をついている限り、大地の精霊から力を吸収できるから、空を飛ばない限りは永遠に戦える。

 俺もダンピールで人より体力はあるが、さすがにガンゼズほど無尽蔵という訳では無いので休憩は必要だ。


「戻ってきてたのか」

「おつかれじゃの」


 合流地点へといくと、なぜかガンゼズが座り込んでいた。

 いくら体力が無尽蔵でも精神力はそうでない。ずっと張り詰めているとそのうちぽかミスをしてしまうので、定期的に休息は必要らしい。


「で、どの程度潰した?」

「四つほどじゃの、全部で百匹はいっとらん」

「俺もそんなもんだなぁ」


 一人頭百匹弱なら二人で二百弱は討伐したことになる。

 だが、たった二人ではうようよと集まってくるオークたちを全部潰すことは不可能だ。それにあいつら基本的に森や山の中を通ってくる。そっちがホームグラウンドなのだろうが、人が通る道は使わないのでなかなか発見されにくいのだ。

 もっと人目に付けば近くの町の冒険者ギルドが感知するんだけど、それはキングも分かっているのだろう。


「そろそろ気づかれるじゃろ」

「だよなぁ」


 この砦の近くで二百匹弱もの同胞が死んでいるのだ。

 血の匂いで分かるし、今まで集まってきていたペースが崩れているはずなので、キングも何かしら手を打ってくるはずだ。

 キング側としては集まりが悪くなってきている、ただし今のところ敵である人間の大攻勢は見当たらない。となるとかなり強い野生の魔物の出現を疑うだろう。氏族単位のオークが為す術も無く殺された、という事は分かっているので、百から二百くらいの威力偵察部隊を出してくるに違いない。

 さすがに単独で凶暴化しているオーク数百相手には出来ない。

 なるほど、ガンゼズはそれを見込んで、俺と二人で戦うためにここへ来たのか。

 ただ、凶暴化していないオーク数十匹ならともかく、凶暴化オーク数百匹相手はかなり長丁場になるし戦闘音が鳴り響く。あまり砦の近くでやると、援軍を呼ばれてしまう。

 そのため、ある程度距離の離れたところまで引っ張る必要がある。

 ただ向こうにとってみれば相手を魔物と思っているだろうから、人族二人がノコノコと現れても無視するか追い返そうとするだろうな。野良オークならくるんだけど、キングに統率されているオークは意外と理性的なのだ。

 どうやって引っ張るか。


「幻覚を使う……か」


 ダンピール、吸血鬼は魔眼を持っている。

 一番有名なのは魅了チャームだ。これがあると血を吸うときに便利なんだけど、それ以外でも色々と使いどころは多い。

 しかし魔眼というのは目で相手を見て能力を発動するので、基本一人にしかかからない。もちろん一人ずつかけ続けていけばいいのだが、今回の相手は数百匹だ。ぶっちゃけ槍で突き刺したほうが早い。

 しかしながら全体、とまではいかなくとも一定の範囲内に影響を及ぼす能力もある。

 それが幻覚だ。

 幻覚とはいえ、強力な術者が使えばまるで本物のように影響を及ぼす事も出来る。例えば幻覚に斬られたのに、実際に切り傷を負わす事も可能なほど本物に見える。

 ただ俺はそんな強力なものは使えない。せいぜい自分の姿を弱そうなものに見せかけておびき寄せる、という程度だ。

 しかし今回はそれが使える。

 自分を強そうな魔物に見せかければ、こぞって襲いかかってくるだろう。

 吸血鬼は弱点も多いものの、多彩な能力に優れた身体能力、強力な回復を持っているが、ダンピールは中途半端でこういった小手先の技くらいしか取り柄がないのだ。手数で頑張らないとな。


「どこへおびき寄せる?」

「川の近くがええの」


 まるでツーカーの仲のように、打てば響くガンゼズの答え。百年ペア組んできているのは建てでは無い。

 今回の偵察部隊を殲滅させた場合、次は本腰を入れて襲ってくる可能性が高い。その時は砦の半数以上は出てくるはずだ。ぶっちゃけそんな数、どう頑張っても倒せない。今回の殲滅はなるべく発見を遅らせる事が必要になる。

 だから川の近く、つまり水のある地点ならある程度オークの鼻もごまかしが利くし、血も洗い流せる。多少の時間ならごまかせるだろう。

 今日で丸一日、すでに蒸しパンはギルドについて本部に連絡を取っているはずだ。帝都からなら早馬でくれば三日くらいで着く。

 つまりあと三日、何とか持ちこたえなければならない。


「……で、流れる水って一応俺も苦手なんだけどな」

「苦手なだけで弱点って程ではないじゃろ? 気合いで頑張るのじゃ」


♪ ♪ ♪


「いやはや、流石にこれきつい」

「そうかの?」


 いきり立って襲ってくる凶暴化したオークの軍勢、その数百五十匹ほど。威力偵察部隊が来たのは思っていた以上に早く、ガンゼズと合流してから四時間後だった。キングってかなり頭が回るんだな。

 でも魔物の幻影を見せたところ一発で引っかかってくれて、川側まで引っ張ってきたのだ。いくらキングの支配下にあるとはいえ所詮はオーク、キングの命令を利くだけで行動自体はお粗末なものだった。

 しかしさすがにちょっと数が多い。俺はガンゼズの後ろに回って、迫り来るオークを何とか凌いでいるんだが、正直切りが無い。さすが凶暴化オーク、脳を破壊しようにも反応速度が上がっているようで結構避けられるのだ。かといって他の部分じゃ全く効果が無い。

 腕や胸へ突き刺しても平気な顔(表情は変わらないが)で変わらず突っ込んでくるのだ。ダンピールだって人より遙かに力はあるのだが、凶暴化オーク相手だと力押しもあまり効果が無い。

 ちょっとイライラし始めるも、ガンゼズはのんびりした口調だった。

 さっきから、ガン! ゴン! と背後から音が鳴り響いているんだけど、相も変わらずくっそ硬い奴だな。

 ただ、落ち着いた声で返答されるので、こっちも若干落ち着いた。

 しかし戦い初めてすでに一時間半近く、今のところ大きなミスはないものの、かなり厳しい。ガンゼズは元より俺も攻撃特化という訳じゃ無く、どちらかと言えば攪乱などのサポート向きなのだ。

 倒した数もせいぜい四十〜五十匹程度、まだ半分も削っていない。


「ぐっ、このっ!!」


 オークの持つ錆びた剣が俺の右腕を切りつける。咄嗟に左手の短槍で剣をはじき返すも隙を作ってしまい、槍で腹を刺された。

 ただ俺はダンピールであり、この程度では致命傷にはならない。すぐにダンピールの超回復で傷付いた箇所が治っていく。

 でもその間、痛みでかなり動きが悪くなってしまったのか、いくつか攻撃が避けきれずダメージを負ってしまう。


「雷よ!」


 俺の呼びかけに二本の槍へと雷が纏わり付く。その瞬間、俺の身体までも再構成され雷の姿となった。

 切り札の一つ、雷精化。

 十秒しか継続せず、更にごっそり魔力を使ってしまうのでこういった長期戦で使用するにはとても不利な技だ。だが、今はこれを使わないと押されてしまう。


 突然変化した俺に驚いたのかオーク達の攻撃が少しやんだ。その隙を突いて一気に前へと踏み出し、手近のオーク達を次々と触れていく。

 今の俺の身体は雷そのものなので、触れるだけでも相手をショック死させる事ができるし目に見えないほどの速度で動く事もできる。

 前へ前へと歩み寄って手当たり次第触れていくが、たった十秒だ。倒した数なんてたかが知れている。

 あっという間に雷精化が解けた俺は再びガンゼズの後ろへと急いで移動した。


「使ってしまったな。魔力回復薬はあるか?」

「あるけど飲んでる暇がない」


 雷精化が解けた俺に、勢いを取り戻したかオーク達が今まで以上に雄叫びを上げ襲いかかってきていた。

 その頃には受けた傷も全部治ってはいるものの、また徐々に押され始める。さっきの雷精化で十匹くらいは倒したけど、それでもまだ半分も削っていない。もう一つ切り札はあるけど今の魔力量でそれを使ってしまうと息が続かず、詰んでしまうだろう。


 ……これはちょっとばかりやばいな。


 そろそろ撤退も視野に入れないといけない事態になってきた。

 それが分かったのかガンゼズが尋ねてきた。


「レモン、あとどの程度踏ん張れるかの?」

「……十分は頑張れる」

「ならば五分踏ん張って、あとはわしが引き受けよう」

「頼む、十分休憩したらまた来る」

「十五分休んでおけ」


 ガンゼズなら一人でも引きつけるだけなら余裕だろう。

 その間に俺は空を飛んで一旦抜けて、その間に魔力と体力の回復だ。それにあと半日くらい頑張れば蒸しパンが戻ってくるはずだ。

 でも戻ってきてもランクAだと正直厳しいし、俺が休憩に入る間の十分ちょっとでも引きつけてくれれば御の字だろうけど。


 が、ここで異変が生じた。

 突然オーク達が引いていったのだ。


「なんじゃ?」

「……嫌な予感がする」


 取り急ぎ、腰の後ろにつけていた袋から魔力回復薬を取り出して一気に飲み干した。

 三十人規模の盗賊退治だと思ってたからぶっちゃけこれ一本しか持っていないんだよな。

 みるみると魔力が回復していく。これでもう一度雷精化は使えるようになった。

 さて、何故オークたちが引いたのかはすぐ分かった。

 オークの軍勢が二つに分かれ、その間から一際大きなオークが登場したのだ。


「キング様自らのご登場かよ」


 オークキング。

 突然変異種であり、数十年に一度生まれるオークたちの王。

 オークはだいたい二メートル程度の大きさなのだが、オークキングは三メートル近くの体格を誇っていた。更に目には知能を宿したかのように俺ら二人を睨めつけていた。


「ここ数日オークどもの動きがおかしいと思ってたら、貴様等のようなネズミどもが荒らしてたのか」


 普通のオークは知能はあるけど、そこまで高くはない。

 氏族を束ねるオークリーダーであれば片言だが会話する知能もあるのだが、ここまで流ちょうに人族の言葉を話してくるとは思わなかった。いったいこいつどこで習ったんだ?

 しかも威力偵察部隊がたった二時間近く戻ってこないだけで、自ら大軍を率いてきたのだ。部下思いな奴だな。


 しかしぶっちゃけこれはチャンスである。敵の親玉がわざわざ俺らの前に姿を現したのだ。

 奴の背後にいる無数のオークが問題だが、なーに、キングを瞬殺すれば済む話だ。そうすりゃ烏合の衆と化す。


「レモン、早まるなよ」


 雷精化をして一気にカタをつけようと思ったとき、ガンゼズから待ったがかかった。

 なぜだ? 今ならものすごくおいしいシチュエーションなんだが。

 ガンゼズに反論しようとしたとき、止めた理由が分かった。俺らの右手側にいたオークの軍勢が分かれて、正面にいるキングそっくりの奴がもう一体現れたのだ。


「……双子……だと?」


 オークキングの双子って聞いた事ねーよ!

 なんだよそれ、キング二匹って指揮系統はどうなってるんだよ!

 普通トップが二人居れば、一人砦に残しておくもんだろ!?

 そうした場合、キング一匹倒したとしてもぬか喜びになるけどさ。


「くくく、人族どもを血祭りにあげる前祝いだ」

「はっはっは、弟よ、あまり前に出ぬようにな」


 キング二匹は全く同じ獲物である長槍を両手に持って……そして周りのオークたちへ何か命令すると、一斉に襲いかかってきた。



ちょっと投稿遅れました・・・

次も遅れそうです(´・ω・`)

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