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十二

ちょい短めです


 砦の近くで一旦行軍を停止させ、俺と爺さんの二人で斥候をしてきたのだが、持ち帰った内容にみなが驚いていた。

 そりゃ盗賊と思ってたらオークでした、だからな。


「どの程度の数じゃ?」

「暫く様子を伺った感触では、見張りだけでオークがおおよそ百匹程度だ」


 ガンゼズの質問に俺がそう答えると何かを察したのか、苦い顔をする。

 オークの姿は人間には見分けが付きにくいが、ある程度は予想がつく。そして三時間に一度程度半数ずつ交代していた。

 それから類推するに、見張りはおおよそ百匹程度と考えた。


「見張りだけで百匹も?」


 蒸しパンもその数に疑問を持った。

 普通オークは数匹から数十匹の氏族単位で行動する。それを率いているのがオークリーダーと呼ばれる上位種だ。

 そして氏族は多くても百匹程度だ。それを超えると別の氏族として別れていくからだ。

 だからこそ、百匹の見張りはいくらなんでもおかしい。それではオーク全員が見張りをしている事になる。


「オークなど中級冒険者ですら倒せるのでは? そこまで心配にならなくともよろしいのではないでしょうか?」


 今発言したのは皇族の護衛だった女だ。

 ここのところ行軍で扱きまくったせいか、随分と従順になってしまったようだ。

 ちなみに鎧は最初に寄った町へ預けていて、今彼女は鎧を脱いだ状態であり、結構な薄着だ。意外とふくよかな胸部装甲につい目が行ってしまいそうになるのを頑張って堪えながら答える。


「じゃあ正直に言おうか。俺はおそらくオークキングがいると思う」


 オークキング。

 オークの変異種であり、全てのオークを従える者だ。

 おおよそ数十年に一度生まれ、周辺のオークを従え人間を襲う。多いときには万に近い数になる事もあるという。

 そして一番厄介なのが、キングに服従したオークはキング以外の命令を受け付けず、凶暴化する。時に暴走状態となり、通常のオークに比べかなり強くなるのだ。


「なあ爺さん、あの砦って何人入れるんだっけ?」

「五千人程度が限界ですな」

「じゃあオークの数は多くて三千ってところだな」


 当たり前だがオークの体格は人間より大きい。人間が五千人入れるところなら、せいぜい三千が限界だろう、

 思ってたよりは少ない。が、脅威な事は確かだ。

 オークキングに率いられたオークの軍勢三千は、人間の軍なら一万以上の大軍に匹敵する。町の一つや二つ、楽に陥落出来る戦力だ。


「キングって強いんだよね」

「キングは確かに強いけど、それでもヒドラやワイバーンなどの亜竜種よりは弱い。正面から戦えば蒸しパンだって何とか勝てるんじゃないか? でもな、キングの厄介なところは強さよりも全てのオークを凶暴化させる事だ。三千のオークが凶暴化すれば、それだけで人間の軍隊一万以上の戦力になる」

「一万……」


 帝都に常駐している帝国軍が一万五千である。このオーク勢は帝都の軍とほぼ同じくらいの戦力を持っているのだ。

 当然ここにいる六十人じゃ、どうあがいても勝ち目はない。

 もちろん帝国中の軍を併せれば十万を超えるが、そんなことをすれば他国から攻め込まれるだろう。


「どうすればよろしいですかな」

「このまま黙って放置が一番楽なんだが、そうはいかないだろうな。あの砦に籠もっている理由はおそらくもっと数を集める為だ。放置していれば、この辺りの町が全てオークの手によって破壊される。かと言って、ここにいるメンバーじゃ、到底勝ち目はない」


 アイかシェルリリアが居れば話は変わってきたんだけどな。一発でかい魔法を撃って貰えば、うまく行けばキングを生き埋めに出来る。

 くそ、ギルドマスターが最初にシェルリリアを連れてくか、と提案してきたけど、あいつこういった予感があったのかよ。


「となると、援軍を頼むしかありませんな」

「そうだ、冒険者ギルドへ行って援軍を頼む。ただ、時間はかかるだろうな。先行してアイとシェルリリアが来てくれれば、かなり楽になるんだが」


 イフリートを操るアイと、それを上回る程の火力を持つシェルリリア、この二人がいれば魔法で一気に掃討することだって出来るかも知れない。

 掃討は無理でも、半壊くらいなら出来るだろう。特に砦という一カ所に閉じこもっているなら、まとめて始末できる。

 数百まで減らせれば、俺とガンゼズだけでも何とかなるかもしれないし、キングが倒れれば勝ち確定だ。


「ここから冒険者ギルドの支部がある一番近い町なら一日でいける。ギルドなら本部へ通信具があるから、それを使って本部に連絡すれば、上手くいけば数日で専属や高位冒険者たちが来てくれるだろう。悪いけど蒸しパン、お前ひとっ走りいって来てくれないか?」

「いいけど……ここはどうするんだ?」

「俺とガンゼズで見張っておく。動きがなければちょっかいはかけないが、何らか動いた場合は阻止するよう頑張ってはみる」

「……危険だよ? 僕も居た方がいいんじゃない?」


 確かにランクA冒険者が一人居ればかなり楽にはなると思う。

 しかしそれだと冒険者ギルドへ連絡する人材がいない。走る速度なら俺が一番早いだろうし、ダンピールだから人より体力があるから走り続けられる距離も長い。

 ただそうなるとガンゼズしかオークの軍勢に対抗できる奴がいなくなる。ガンゼズは堅いがアタッカーではないのだ。そしてランクAだとあの大軍には到底立ち向かえない。

 いやまあ俺だって全部相手するのは到底無理だけど、死ににくいし最悪空を飛んで逃げる事だってできる。ガンゼズは放っといても死なないだろ、っつか堅すぎてオークが諦めて無視すると思う。


「俺とガンゼズは冒険者ギルドの看板を背負っている専属だ。オークの軍勢をみすみす見逃して被害を出す訳にはいかない。だけど蒸しパンは一般冒険者だ。それにお前が一番走るの速いし、もし道中魔物に出会っても何とか対応できるだろ? 適材適所って奴だよ。まあ連絡が済み次第ここへ戻ってきてくれると助かる」


 それで蒸しパンを納得させると、次に五十名からなる帝国軍へと視線を移した。


「で、お前らは帝都へ帰れ。悪いが爺さん、行軍の面倒を見てくれ」

「は!?」


 自分たちも何かの役目を与えられると思っていたのだろうけど、肩すかしを食らったように驚きの声があがる。

 ただなぁ、素人が五十人いても正直囮しか思いつかない。


「俺は公爵から、一名の犠牲者も出さず討伐しろ、と言われているんだよ。ぶっちゃけ言えばお守りする余裕が一切ない。素直に帰ってくれ」

「しかしそれでは残るのがたった二名ですぞ! それに我らも帝国軍です。オークの五体くらいは相手取れます!」


 皇女の護衛が声を荒げた。

 周りの何人かが同調するように、そうだそうだ、と相づちを打つ。

 だがそれは甘いと思うぞ。凶暴化したオークは中級冒険者だって苦労する相手だ。

 オークの皮膚は硬く、そして中に筋肉が詰まっているせいかなかなか剣で切りにくい。またかなり力があり、薄い皮鎧程度なら一発でも喰らえば内蔵破裂は間逃れないし、ましてや防具がなければぐちゃっとなっても不思議じゃない。

 まあ魔物ってのは基本人間より力があるので、受けるなんていう行為はガンゼズみたいにガチガチ防御してなきゃ、出来るだけ避けるか受け流すのが正解だけどさ。

 魔物とろくに戦った経験の無いものじゃ、五十人で五匹、つまり十人で一匹を囲って攻撃しても勝てないだろう。犠牲を覚悟して時間をかけ体力を削っていって、やっと二匹が限界だろう。


「あのなぁ、三千匹の中から五匹倒したところで焼け石に水なんだよ。それに多分お前ら五十人でかかっても凶暴化したオーク五匹すら勝てないぞ? 十分後には男は殺され、女は服をはぎ取られてるだろうな」

「ひっ?!」


 俺の言葉に思わず腕で胸を隠す護衛。

 オークの好色は有名だ。女なら人間どころかゴブリンやコボルトだってOKな奴らだ。捕まったらどうなるか、想像に難くない。これだけ女性がいれば狂喜乱舞してくるだろう。

 下手すれば俺ら男を無視して女だけ襲いにいってしまうかも知れない。


「来る途中、魔物が襲ってきたことは一度だけだった。逆に言えば帰るときにも一度くらいは魔物の襲撃があると思え。そして一番近い町に寄って冒険者十人くらい雇って護衛を付けろ。もしくはその町で待機しててくれ。ギルドを通じて連絡を入れてくれれば、後で迎えに行く」


 一番怖いのはこいつらが帰る途中に襲われて犠牲者が出る事だ。お守りできる奴がいないからなぁ。

 爺さんは思った以上に強かったけど、それでも中級冒険者には劣る。動きは良いんだけどどうにも対人特化しているし、それに年だから仕方ないけどさ。


「わかり……ました」


 皇女の護衛も渋々ながら納得してくれた。

 最後にガンゼズへと振り向く。


「ガンゼズ」

「わかっとる」


 百年パートナーをやっている相手なだけあって、俺の言いたいことが分かったようだ。

 ここの監視はもちろん必要だが、オークの軍勢をこれ以上増やすわけにはいかない。

 つまり、この砦を目指してきているオークの殲滅をするのが目前のお仕事になる。こいつらは氏族単位で行動していて数十匹程度の数しかいないので十分殲滅は可能だ。


 まずは直近の行動は決まった。

 俺とガンゼズがここへ集まってくるオークたちを殲滅、蒸しパンはギルドへ援軍要請後に戻ってきて俺らの手伝い、残りは帝都へ戻るか近くの町で待機。

 あとは何とか時間を稼ぎつつオークの数を減らしていって、アイたちが到着次第もう一度戦術を練ろう。


 ……大丈夫かな?


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