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「……乗り心地悪いです」


 今日はガンゼズ、リーデル、チュレイアさんを連れて西区へ遠征に向けて買い出しにやってきた。

 ただし、宿屋から西区まで徒歩だと正直時間がかかりすぎるし、お嬢様もいるので奮発して乗合馬車を使ったんだけど不評でした。


 さて、西区は職人街とも呼ばれ、家具や調理器具から冒険者向けの武具など様々な物が売られている。もちろん遠征に必要な携帯食料もあるし、野営用のテントや、果ては魔道具なんかも売っている。

 特に魔物除けの魔道具は野営では必須と言ってもいいくらいのもので、あるのとないのとでは夜襲の頻度が全然異なる。今回は五十人以上の団体さんなので、魔物もあまり襲ってはこないと思うけど、それでも準備はしておいたほうが良いだろう。

 西区は大通りとその二つくらい隣のブロックまでが店になっている。そこから更に外れ奥に行くと職人の住む家や作業場、或いは倉庫となっている。

 また西区側の門の近くには川が帝都内に引き込まれていて、船による荷物の搬入が行われている。ここが帝都八十三万人の胃袋を抱える玄関口であり、ひっきりなしに馬車が帝都内へと散っていくのだ。

 帝都が発展したのもこの川の存在が大きい。


 話を戻して、今回の遠征は片道一週間、向こうでの滞在を含め余裕を持って二十日分くらいだ。向こうにも街があれば良かったんだけど残念ながら山脈の中腹が目的地であり、寂れた村程度しかないので食料も多く必要になる。

 しかし食料については軍の方で準備して貰えるそうだ。これは食料などを運ぶ荷馬車、つまり兵站の訓練も兼ねているからだってさ。また水は魔法で生み出す事ができるので、基本的には魔力切れの際の予備として樽を三つだけ持って行くそうだ。


 ということで今回購入する物は、魔物避けの魔道具とナイフ数本、そして解毒薬、傷薬、あとはロープに防寒具、マント、火打ち石、研石、携帯の調理器具、ランタンと油……かな。

 特にマントは防寒具にもなるし、緑色なら保護色にもなるし、頭から被れば雨具にもなるし、更に寝るときの布団代わりにもなる優れものだ。一応携帯食料も三日分くらいは持っておいたほうが良いだろう。油も罠にも使えるし多めに必要だろう。

 武器や鎧の手入れは定期的にガンゼズに任せてるから、こっちは安心だ。


「ふわぁ、様々なものが色々雑多に並んでいますね」

「貴族の家格に合いそうなものがありますよ?」


 チュレイアさんが指摘したように、貴族が使っていてもおかしくない出来映えのものはある。

 普通貴族が何かを購入する場合東区の裕福層の店に注文を出すが、実質作っているのは西区の上級職人だ。そして東区の専属となっている上級職人もいるが、大抵はそれだけだと食っていけないので個人の店を持っている。そこで売っているものは当然東区経由で売られるものより安い。そういったものを見つけ出すのも楽しみの一つだろう。

 ただし、安ければ良いと言うものではない。保証がないからだ。

 東区経由で買えば商品に何か不備があっても東区の店がそれを負うので購入者に損は出ないが、西区で売られている物は基本的に購入者の自己責任となる。

 ま、あまりに不備が多い店だと最終的に誰も買わなくなり潰れてしまうのでそこまで不良品はないけど、露店は要注意だ。偽物なんかも普通に並べられているし、翌日には露店が消えているなんてことも珍しくない。


 そして今日、彼女たちはそこまで目立ってはいない。

 西区には東区の裕福層の人がちょくちょく様子を見に来たりするからだ。もちろん商品の取引が主体だが、職人捜しをしてる場合もある。

 だが購入者側からはあまり目立たないだけで、商売人側からは注目を浴びている。やはり東区のお抱え職人になりたいからか、自分を売りに出す仕草をする職人が結構多い。

 もっと言えば、俺とガンゼズが護衛、チュレイアさんはお付きに見えるので、よりいっそう東区からちょっと覗きにきたお嬢様に見えてしまう。


「そこの可愛らしいお嬢さん、どうだね、うちの商品を見ていかないか?」

「いやいや、うちのほうがいい物を取り扱ってるよ?」


 などとさっきから声をかけられまくりである。

 更には声をかけられどうしたらいいのか分からず、チュレイアさんの手をぎゅっと握って隠れている。

 よくこれで貴族街を抜け出して北区まで迷って来れたよな。もしかすると、声をかけられて慌てて逃げていくうちに迷ったのだろうか。

 そもそも貴族街の出入り口は衛兵によって管理されていて、簡単に出入りなんてできないのだが、一体どうやってリーデルはそこから抜け出したのだろうか?


「なあリーデル」

「は、はいっ! あ、レモングルドさん?」

「そこまで怯えなくても……単なる客引きと思って無視してればいいんだよ」

「で、ですが……彼らも必死で頑張っている、と思いますと、どうしても無視するのに気が引けてしまいます。でもどう答えればいいのか分からなくて」


 生まれてこの方、客引きに声をかけられるなんて無いのだろうけど、性格も相まってか無遠慮な声かけと相性が悪いんだろうなぁ。

 いやいや、そんな事を聞きたい訳じゃ無い。どうやって貴族街を抜け出したのか、を聞きたいんだ。


「前にリーデルは北区まで一人で来てたけど、どうやって貴族街から抜け出したんだ?」

「あ……そ、それは……えっと……その……」

「ほらほら、白状しろ。別に怒ってる訳ではなく、誰でも出入り出来るような手段があるなら問題だろ?」

「わたくし、エルフの血を引いておりまして……その……少しだけ精霊魔法が使えるのですよ」


 そういえば、リーデルのミドルネームであるペイリアは、エルフの血を引いている、ってミレイシアが言ってたな。

 エルフと言えばイフリートと契約しているアイしか思い浮かばないけど、普通のエルフは風や土の精霊と契約をする。

 風の魔法で壁を越えられるなら簡単だけど、あの壁の上には魔法障壁が貼られており、空からでも侵入できないようになっている。無理矢理こじ開ければ入れるけど、即座にばれてしまうだろう。

 つまりリーデルは精霊魔法を駆使して貴族街の出入り口を突破したという訳か。

 しかし次のリーデルの爆弾発言に俺とガンゼズがつい大声を上げてしまった。


「たまにお勉強ばかりで嫌になって家の中で隠れてたら、いつの間にか姿を消す魔法が使えるようになってしまいました」

「は!?」

「なんじゃと!?」

「え? あ、あの……な、何かわたくし悪い事しました……か?」


 姿を消す魔法。

 つまり人の視界から光の屈折を利用して自身の姿を見えなくする事であり、それはすなわち光の精霊と契約しているということだ。

 光と闇の精霊は火水土風の精霊とは異なり上位精霊しかいない。更に言えば精霊と親和性の高い純粋なエルフであるアイならともかく、殆ど人間と変わりないリーデルが上位精霊と契約なんておとぎ話レベルだ。

 下手をすれば国がリーデルを祭り上げて食い物にする可能性があるし、それどころか他国からも狙われるだろう。

 それだけ上位精霊と契約した人間というのは貴重な存在だ。

 姿を消せるだけでも、尾行や諜報活動、或いは斥候が非常に有利となる。更に言えば光を敵軍にずっと照らし続けるだけでも疲労を誘う事になる。四六時中昼間の様に明るければ仮眠だってそうそう取りにくいし、体内時計だって狂ってくるからな。


 そして上位精霊と契約できるようなもの、まあエルフだが、彼らは冒険者になることはあっても人間の国には仕えない。

 そもそも種族が異なるし、冒険者は国同士の争いには不干渉なのだ。これは絶対であり、例え誰であろうとそれを破ればギルド自ら処罰を行使する。そしてそれに駆り出されるのは専属冒険者である。裏仕事とはこういう処罰も含まれるのだ。


 だから公爵家の長女という、言わば国側の人間が上位精霊と契約した精霊魔法使いなら、一体どうなるか?

 諸手を挙げて歓迎し、そして嬉々として戦場へ送り出すに決まっている。

 強力な精霊魔法使いが戦場に現れれば、各国も、そして下手をすれば暗殺ギルドだって動く。バランスブレイカーになりうる精霊魔法使いなど、戦場には不要だ。魔物でも狩っていればいい。


「それは誰かに話したことあるか?」

「いいえ」


 俺が真面目な顔をしているのに気がついたか、リーデルがチュレイアの手を離し、毅然とした態度で見上げてきた。くせっ毛もぴんと立っている。

 へぇ、大貴族の娘ってだけあって、こういう姿勢も様になるな。


「リーデル、チュレイアさん。いいか、これは絶対他人に話しちゃだめだ。公爵にも皇女にも、例え皇帝だろうが、誰にも、だ。そして今後、可能ならば魔法は使わないでいて欲しい」

「レモングルドさんのおっしゃることですから、悪い事ではないのでしょう。誰にも話しませんし使いません。ただ、理由をお尋ねしてもよろしいでしょうか」

「知る必要はない。世の中には知らなければ良かった、という事もあるんだよ」


 仮にも婚約者だ。

 この話がばれればリーデルとの婚約は流れてミレイシアになると思うけど、さすがに道具にされるのも、殺されるのも、黙って見逃す訳にはいかない。

 しかしリーデルは生粋の貴族であり、国や家の為には自身を捨てることだって厭わない、と考える事もありうる。

 だから理由も話さない。正直なところ俺の我が儘になるだろうけど、これは譲れないな。


 納得はしないけど、取りあえず言われたことは守る、という感じだった。

 大丈夫かな。


♪ ♪ ♪ 


「ふわぁ、安く買う事って出来るんですね」

「一個なら結構厳しいけど、複数個まとめて買うときは値引きしてくれるか聞くのが定番だよ。聞くのはタダだからな」


 リーデルはもちろん、チュレイアさんだって自分で物を買うなんてことはないだろう。もちろん値引きという考えすらない。

 欲しい旨を侍女なり執事に頼めばその者が購買担当に伝える。そして実際に商人へ注文するのは下働きで、金を払うのは財務を預かっている側近になるからな。最終的に商人に言われた額をそのまま支払うので、値引いて貰っているのか高値で買わされているのかさっぱり分からないらしい。

 まあ金は天下の回りものって言うし、一番金を持っている貴族が多く使う事で経済は回るのだ。できれば東区だけじゃなく、北区や西区にも直接金を落として欲しいんだけどな。

 もっと言えば冒険者ギルドに色々と頼んで欲しい。


「さて、これで一応予定してたもの全部買ったけど、何か忘れ物あるか?」

「そうじゃの。念のため、武具の見直しでもするか?」

「ここ三ヶ月、下水道潜った時くらいしか武器使ってないけど……」

「そうじゃの」


 しかも鼠相手だったなぁ。

 一応あの後ガンゼズに手入れをして貰ったし、それ以上する必要もないだろう。

 しかし本当に俺は冒険者か?

 三ヶ月で一度しか魔物と戦って無いし、それ以外はお茶会で潰れたようなものだ。

 これはいけない、冒険者は冒険者らしく!!


「ちょっと近くの魔物でも倒しにいくか」

「たわけ。明後日には出発じゃろうが」

「だって! よく考えたらここ数ヶ月一度しか魔物と戦ってないんだぜ?」

「一週間も移動するんじゃ。道中いくらでも遭遇するじゃろうて。その時にしておけ」


 普通なら遭遇するだろうけど、こちらは五十人以上の団体だ。ちょっと知能のある魔物ならまず襲ってこない。

 まあ強力な魔物、或いは本能でしか動かないような魔物なら襲ってくるだろうけど、遭遇率は少ないだろうと思う。


「それより三十人の盗賊をどう処理するか、考えるのが先じゃ。逃げられたら面倒じゃからの」

「そんなもん、実際に見てみなきゃ分からん。一応古い砦を占領してるらしいけど、三十人じゃどう頑張っても全部を見張る事なんてできないし、どこかに入り込める隙はあるだろ。ま、いざとなりゃ飛べば・・・いいさ」


 空を飛ぶのは俺の奥の手の一つだ。

 ダンピールとはいえ吸血鬼の一種、つまりコウモリに化ける事ができる。ただしダンピール故かコウモリの羽だけしか変化出来ないけど。

 しかし羽だけとはいえ長時間は無理だが空は飛べるのだ。

 これで奇襲をかけることもできるだろう。



 俺はこのとき、盗賊は大したことはないと思っていた。

 実際大したことは無かったが、別の大きな事件が発生することは読めなかった。



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