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未来魔王は未確認の過去から  作者: yuFa
第1章 足りない1日目
8/18

第1章ー8話 構成された過去

 怪音は止み、目を覚ます。


 目を覚ます、という言い方には少し語弊がある。

 その言葉は眠っている時から起きる時への行動を表すのだ。

 レオナ自身は眠っていたわけではない。

 目覚めた、というよりかは瞬きした瞬間に意識が戻った、の方が正しいだろうか。この感覚を伝えるには実際に経験しないと分からないだろう。


 だが敢えて言うが、レオナは目を覚ました。


 周りの景色はさっきまでの商店街とは違っていた。

 薄暗いレンガの壁が双方にそびえ、壁と壁の間の、少し余裕があるような空間にレオナはいた。


 周りを見た後に、空を見上げる。

 商店街とは違う場所にはいるが、空だけはさっきと同じように綺麗な星空が映し出されていた。


「ここは……?」


 再び辺りを見回すが、やはりさっきとは違う。推測するに、商店街裏の路地なのだろう。

 マルカに問おうとしたが、なぜか今はいないようだ。


 すると、レオナは自分の体に異変があることに気がついた。

 体に異変、というとレオナの身体に異常が起きたと思うかもしれないが、そういうわけではない。

 ここで言う異変というのは、レオナの体の前方にあった。


 なぜか人の感覚がある。


 自分の前にいる小柄な体を、レオナの腕で背中まで回し、自身の体にまで引き寄せていた。

 つまり、ハグしているのである。


「は、はぁ……!?」


 誰かを抱擁していることに気づいたレオナは、すぐにその人が誰なのかを確認する。


 その小柄な女性は、赤い髪をしていて、健気な表情、見たことのある顔。


 そう、勇者アリシアであった。


「はっ!? ゆ、勇者!?」


 自分が抱いていた相手が勇者であったことを知り、裏声を上げながらアリシアの体を解放して後ずさった。


 当のアリシアは今置かれている状況に理解が追いついていないのか、ずっと呆然と立ち尽くしている。


 どうやら今のアリシアは全面戦争の時とは違い、私服のようだ。赤いパーカーを着て、下にはジャージを履いている。この世界でもパーカーやジャージが存在するのだろうか。

 いかにも現実世界の深夜の女ヤンキーみたいな服装だ。


「あ、あなたは一体……だ、誰ですっ……かっ……」


 どうやら、レオナの正体はバレていないようである。


 耳まで赤面しているアリシアは、レオナと目も合わせずに片言で質問する。男性と抱き合ったような経験はしたことがないのだろうか。

 そんな初々しい彼女を見て、レオナの心は強く撃ち抜かれた。


「すまん」


 そう言いながら、もう一度ハグ。


「なっ……なっ……!!」


 側から見ればただのセクハラ行為である。何せ夜に路地裏で行きずりの若い女を抱いているのだ。

 いくら勇者と言えど、男に突然抱きつかれれば戸惑うのも無理ないだろう。


「や……」


 ずっと放心状態でまともな口も聞けなかったような彼女だったが、やっとまともな言葉を発した。


「やめろ! 離しやがれ変態!」


 そう言いながらすぐに抱かれている腕を振りほどき、レオナの顎にアッパーを食らわせた。

 その流れは非常に流暢で、さすが勇者というような体術さばきである。


「うがっ!」


 人生で初めてアッパーを食らったレオナは、綺麗に斜めうしろに飛んで店のレンガの壁に激突した。

 レオナの顎と背中に激痛が走る。


「や、やめろよいきなり……」


 レオナは顎を抑えて何とか呟く。

 さすが魔王の体、アッパーくらいでは気絶しないようだ。


「いきなりなのはお前だろ!? 一体何なんだよ! 見回りしてたらいきなりこんなところまで連れ去って……!」


「連れ去った……?」


 また、覚えのない行動である。

 さっきは道端でいきなり怪音が聞こえて、すぐに意識を失ったはずだ。

 それがこんな路地裏までワープして……。


 そこでレオナはやっと気がつく。


「これって……もしかすると……」


 アリシアは急に何だと、レオナの顔を見つめる。まだ変態を見るような目ではあるが。


「俺……未来に飛んでる……!?」


 レオナは今までの経験を思い出した。


 全面戦争時に怪音が聞こえて気を失った時、その後のレオナの行動が周りの記憶には刻まれていた。

 さっきの商店街の時も、怪音が聞こえて気を失った後に、レオナ自身がアリシアを路地裏まで連れて来ていた。


 つまり、レオナは一時気を失い、しばらくした後の時間に目を覚ます。その間にもレオナは何かしらの行動を起こしているということだ。


 そう、レオナは未来に飛んでいたのだ。

 なぜかは分からない。

 だが、あの怪音が聞こえたと同時にレオナは未来へとワープしているのだ。


「未来に飛んでる? 一体何の話を……」


 ブツブツと独り言を言っているレオナを気味悪がったのか、アリシアはおそるおそる声をかけた。

 しかし彼女の問いかけは、すぐに中断された。


――「カーライル様!!」


 突然、路地の角から1人の兵士が現れた。

 兵士といっても、その服装は豪華でいかにも上級職といった雰囲気である。多分王国軍の中でも上位の騎士なのだろう。


 勇者と上級職の騎士が一緒にいる。

 この関係を見れば、見回りをしていた勇者とその護衛の騎士、といった感じなのは明白だ。


「ネストリウス! どこに行ってたんだよ!」


 アリシアはネストリウスという騎士に向かって怒声を投げかける。


「申し訳ありません、突然の出来事だったで、少し追いかけるのに遅れてしまいました……」


 ネストリウスはアリシアを目視して無事を確認した後、レオナと目線を合わせる。

 その表情は鬼気迫るような顔で、じっとレオナを睨む。


「魔王……!」


「……なっ……!?」


 何でバレた……!?

 アリシアでさえも俺の変装に気づかなかったのに……。


 アリシアもレオナの顔を見て、意外そうな顔をする。

 そして全てを理解したのか、彼女もネストリウスと同様の表情をレオナに向けた。


「魔王……! 私を殺すために取り入ろうとしたな!?」


 突然道端で会い、路地裏に連れ去ってハグした相手が魔王だと知ったアリシアは、怒りで満たされた顔で睨む。


「くそっ……!」


 レオナはそのまま自分の変装を解き、アリシアとネストリウスと対峙する。


 すると、レオナの頭の中に一つの光が差し込んで来た。

 いわゆる閃き、というやつだ。


 レオナは思い出す。

 2回目の怪音が聞こえた直後のレオナの言葉を。


――『おい! やめろ!!』


 今までの経験から、怪音が聞こえた後の幻聴のようなものは、飛ばされた過去の出来事の一部なのだろう。

 そうすると、レオナは飛ばされた過去の間に『やめろ』と叫んだのだ。


 レオナは考える。


 一体どういうことなのか

 なぜ商店街でアリシアと会い、レオナが魔王だと気づいていなかった彼女にやめろと言うのか。

 見た目だけは一般市民であるレオナを突然攻撃するはずもない。


 だが、マルカに向かって言うこともまた、理にかなわない。

 いくらマルカが元魔王とはいえ、アリシアに攻撃する意思はないはずだ。あるならば全面戦争でアリシアと対峙した時に、レオナに加勢していたはずである。


 と言うことは……レオナがやめろと言った相手は……。


 レオナは頭の中で考えたことを全て整理し、ようやく答えにたどり着いた。


「もういい……ネストリウス……」


「何がだ?」


 ネストリウスは冷静にレオナを睨んだまま答える。


 こうして見れば、白々しいにもほどがあるのだ。もし過去が飛ばされていなかったら、すぐに答えに辿り着けたのに。


「俺はお前の全部を知った……」


「だから何を……!!」


 ネストリウスは激昂する。

 アリシアはその2人の会話を不思議そうに聞いている。


「アリシア」


 レオナは初めて、その名前を口にする。ネストリウスでさえ呼ばなかった、彼女の名前を。


「へ……?」


 突然魔王に名前で呼ばれたアリシアはキョトンとした表情になる。


「逃げろアリシア。そいつはお前を殺そうと……」


 すると。

 最後まで言い切るまで待たずに、ネストリウスは動き出した。

 素早い動きでレオナに近づき、剣を抜く。


 その剣は首元へ――!


ギィン!!


 レオナにとって、それは二度目の光景だった。

 ネストリウスの剣は、レオナの頭上の上で止まる。

 剣先がレオナの手で掴まれているからだ。

 その光景は、全面戦争のレオナとアリシアの対峙を彷彿とさせた。


 止まった剣は、ネストリウスの力によってカタカタと震えている。それに拮抗するような力でレオナも耐えている。

 レオナはそのまま途絶えた話の続きを始める。


「アリシア、落ち着いて聞いてくれ。こいつはさっきまで、お前を殺そうとしていた」


「くっ……」


 終始冷静な表情を保っていたネストリウスは、少し顔を歪める。

 図星のようだ。


 レオナがこの答えに辿り着いたのは先ほどの商店街での出来事が理由なだけではない。

 全面戦争の時にもまた、そのヒントは隠されていた。

 

 マルカによれば、アリシアと対峙した時、レオナが突然彼女を庇ったと言った。しかし誰から庇ったのかと言えば、魔獣ではないとマルカは証明した。


 ならば答えは一つである。


 あの時、あの場にはアリシアとレオナとマルカと……もう一人、アリシアの護衛としてネストリウスがいたのだ。

 アリシアを庇った理由は、魔獣でもマルカでもなく、ネストリウスがアリシアを攻撃しようとしたのをレオナが目撃したからだろう。

 そうして考えると、商店街でアリシアを路地裏に連れて行った理由も同じで明白だ。


 アリシアは何を言っているのだとレオナを見ている。今まで共に戦ってきたであろう戦友が自分を殺そうとするなど、すぐに受け入れられるはずがないのである。


「カーライル様! 魔王の戯言に耳を傾けてはいけません!」


「うっ……やはりそうきたか……」


 レオナにとって、そのセリフは想定内だった。

 レオナがいくらその証拠を記憶から証明したとしても、アリシアに信じて貰える証拠はどこにもないのだ。

 逆に言えば、魔王が勇者と騎士を対立させるための嘘だと捉えられてもおかしくない。


 だが。


「魔王」


「……何だ?」


 二人の会話に戸惑い、置いてけぼりなアリシアをよそに、レオナは言葉を発する。


「お前は俺を見た時、魔王だとすぐに気づいたな?」


「あぁ。それが何だ。騎士たるもの、魔王の変装など見破って当然だろう?」


「勇者でさえ気づかない変装にか……?」


「……!?」


 当のアリシアは未だに会話について行ってない。ずっと棒立ちで二人の会話を聞いている。


 そう。さっきネストリウスが現れた時、アリシアでさえ気づかなかったレオナの変装にネストリウスはすぐに気づいた。


「……それがどうしたんだ」


 ネストリウスはまだ、冷静に話す。

 冷静ながらも、剣の力は未だに衰えない。


「全面戦争の時……俺がアリシアを庇った時。お前はアリシアを殺そうとした所を目撃した俺を見たはずだ。そしてさっき、俺は商店街でお前がアリシアに攻撃する前に、すぐに反応してアリシアを連れ去った。それなら俺と魔王が同一人物だってことは、すぐに分かるだろう」


「くっ.......!」


 ネストリウスはその説明を聞いて、さらに歪んだような顔を見せる。


 ネストリウスがアリシアを攻撃をする前に俺が気づいた、というのは半分ハッタリである。

 レオナの正体をすぐに見破ったことを考えての推測だ。

 レオナが魔王と同一人物だと思われる理由は、商店街の時に『ネストリウスがアリシアを殺そうとしていることを既にレオナが知っていた』はずだからだ。

 ネストリウスがアリシアを殺そうとしていた所を全面戦争で目撃したのは、レオナだけのはずである。


「まさか貴様に顔まで見られていたとは……」


 正確に言えば、直接目撃してはいないのだが。


「ならば貴様も、勇者もろとも殺してやる……!」


 そのままネストリウスは渾身の力を込めて剣を動かそうとする。

 さすがのレオナも現役騎士の本気の腕力には敵わず、少しずつ圧倒されていく。


「なん、で……」


 その後ろで、アリシアが絶望の表情を浮かべながら震えた声でネストリウスに問いかける。


「分からないのですか? 勇者候補は騎士から選ばれるのです。勇者になれば、それなりの名誉と人生が約束される。それを欲して何が悪いのですか?」


「そんな……」


「あなたの時代は終わりです、カーライル様。私怨だけで魔王に立ち向かおうとするから、魔王と対峙した時に背後の私の存在に気づかないのです。そんな勇者より、私の方が断然早く魔王軍を滅ぼすことができる」


 そうだった。

 アリシアも口は悪いが勇者なのだ。

 それこそ王国軍の中のトップレベルのはず。周りの殺気など、すぐに気づいてもおかしくないのだ。

 だがアリシアはネストリウスの殺気に気づかなかった。魔王を見た途端に、恨みで我を忘れていたからである。


「……そんな……」


 アリシアには、もうそんなことしか言う元気はなかった。

 ただ棒立ちしているだけだ。


 段々と剣を握っているネストリウスの力は強くなっていく。レオナにとって、魔王にとっての力はここまでが限界だった。

 せめて、【畏怖】の力さえ発動すれば……。


 ゆっくりとネストリウスの剣はレオナの頭に近づく。

 少しでもレオナが力を抜けば、剣はすぐに彼を真っ二つにするだろう。


 そんな拮抗した二人の傍で、アリシアは相変わらず呆然としている。

 おそらく、ネストリウスは彼女にとって大切な仲間だったのだろう。勇者とその次の位の騎士など、親友のような関係を持っていることがテンプレートである。

 しかし、地位強奪のために下剋上が起こるのもまた、テンプレートなのだ。


「私は今まで隠していましたが、私にとって、あなたは――」


 ネストリウスは剣を未だに進めながら、アリシアに言葉をかける。


「――ただの『昇進道具』でしたよ」


 その言葉を聞いた彼女は、ガックリと、腰を抜かした。

 今まで信頼していた仲間に『道具』と言われたのである。


 アリシアの顔は絶望感と共に、恐怖心に支配されていた。

 【強心】を持っている勇者が、そんな表情を浮かべている。彼女にとっては、それほど『仲間』が大切なのだろう。

 家族や仲間を思って、魔王に立ち向かうほどに。


「……そろそろ、終わりにさせてもらうぞ」


 言うことを言い切ったネストリウスはさらに剣に力を込めた。

 徐々にレオナに近づきつつあった剣先は、更にスピードが上がる。もうレオナでは対抗できないようなレベルだ。



 だが、レオナはそこでニヤリと笑う。



「ごめんなアリシア。お前の恐怖心、貰うぞ」



 レオナの頭上寸前に来た剣先は、ピタリと止まった。

 ネストリウスが力を抜いたわけではない。それよりか、さっきよりも辛そうに力を込めている。


 いきなり止まった剣先に違和感を覚えたネストリウスはレオナの体を見た。


「な、何だそれは……!!」


 レオナの体は強い魔力のようなものでまとわりつき、体つきも少しずつ大きくなっていく。その体はネストリウスの1.5倍ほどの大きさになった。


 ドリムア王国魔王の力、【畏怖】である。

 畏怖と言えば、自分より上位の存在に向かって恐怖心を覚える時に使われる言葉だが、どうやらただの恐怖心でもそれに該当するらしい。


 【畏怖】の力によって倍増した紫色の魔力は、次第にネストリウスの剣先にまで染み込む。

 そして剣先はレオナの手によって砕けてしまった。


「なっ……」


 この光景もまた、見るのは二度目だ。

 しかし、あの時とはレオナの心境は全く違っている。

 その感情は――


 怒りだ。


 砕けた剣先には目もくれず、レオナはネストリウスの懐に一瞬で近づき、彼の右腕に手を当てる。

 力を込めて攻撃したわけではない。ただ右腕に手をそっと、当てただけである。

 その行動を見て、ネストリウスはすぐに距離を取ろうとする。


 しかし。


 ネストリウスの右腕はそこで無くなってしまった。

 切られて吹っ飛んだわけでも、千切られたわけでもない。そのまま消失したのだ。


「はっ……つくづく魔力ってのは何でもありなんだな……」


 ネストリウスの右肩からは、血がドバドバと溢れかえる。

 突然失った右腕への激痛を感じて右肩を抑えるネストリウスを見ながら、レオナは少し笑う。

 あの時、全面戦争の時よりも、レオナに心境は落ち着いていた。しかし、心の奥底では怒りで燃え上がっている。


 そしてトドメを刺そうと、ネストリウスの方向へダッシュする姿勢を構える。

 が。


「――いい」


 レオナの行動に口を挟んだのはアリシアだった。

 心が落ち着いたのか、彼女は立ち上がって冷静にレオナを制止しながら、ゆっくりとネストリウスの方へ向かう。


「くそっ……くそくそくそっ……!」


 ネストリウスは自分の腕に治癒魔法をかけている。しかし、無くなってしまった右腕がそう簡単に治るはずもない。

 その事ばかりに集中していたネストリウスには、アリシアの行動は見えていなかった。


 ネストリウスの後ろに立ったアリシアは、彼の頭にそっと、手を乗せる。


「ネストリウス……私は、お前を仲間だと、戦友だと思ってたよ」


 深く悲しみを抱いた、低い声。

 泣いている様子はないが、ただただ悲しく、寂しいという、そんな気持ちだけが強くこもった一言だった。


 間も無く、ネストリウスはすっと目を閉じて地面に倒れこんだ。

 倒れこんだネストリウスは静かに眠っているような表情だ。ただ、起きる気配はもう感じられない。


「な、なんだ……?」


 走る寸前のような格好の悪い状態で止まっていたレオナは、謎の出来事に疑問を持って呟く。


「治癒魔法の逆みたいなもんだよ」


 アリシア冷静に、淡々とそう述べた。魔王を前にしているということは、今は気にしていないらしい。


「……何で私を助けた」


 そして彼女はレオナをキッと睨みつける。


「何でだ。お前は魔王で、私は勇者のはずだ。なぜ私を助けた」


「……」


 レオナは黙って格好の悪い姿勢を戻す。

 彼女はジッと、レオナの目をまっすぐに睨み続けた。レオナもまた、彼女の目を見つめる。


「……俺の勇者は、お前、だけだからな……」


 片言でそう言った。


「はぁ?」


 アリシアは理解不能の顔をしていた。それもそうである。『俺の勇者』と言われても、アリシアにとっては意味不明な言葉だった。


 だがレオナにとっては、自分の気持ちを直接含んだ、そういう言葉だった。


「俺の勇者はお前以外にはあり得ないんだ……」


「そ、それはどういう……」


 質問するアリシアをそのままに、レオナは話し出す。


「今日一日で色んなことがあった。いきなりこの世界に来て、魔王になって。突然全面戦争にも参加して」


 ゆっくりと語りレオナに、アリシアは意味が分からないままでも静かに耳を傾けている。


「そこでお前と出会った。大事な部分が足りない一日だったけど、最終的にお前を助けれて良かったと思ってる……。俺にとっては最高の一日だったよ。だからこそ、お前に言わいといけないと思う」


「……何を」


 今まで恋愛経験の無かったアリシアにとっては、本当に何を言っているのか分からない言葉のようだ。

 レオナにもそれは分かっている。

 直接、言葉で伝えなければならない。



 そして。



「――俺が、お前のことがす」




 まただ。




ゴオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォ……




 頭の中で、あの怪音が鳴り響く。


 何でだっ……! 何でこんなタイミングでっ……!!

 また飛んでしまうのかよ……!!


 再び現れたその怪音は、時も場所も選ばない。

 無慈悲に現れるのだ。


 最後の一言を、レオナは必死に伝えようとする。

 だが、言葉が出ない……。


 突然苦しみ出したレオナを、アリシアは様子がおかしいと思ったのか声をかけている。

 しかし、やはり外の声は聞こえない。


 レオナの意識は段々と薄れていく。


 その刹那に、彼は一つの可能性を祈った。


 自分にとって消えた過去のレオナが、しっかりと告白を果たすように。



 そこで、レオナの意識は眠ったように落ちた――。

 

 はい。第1章『足りない一日目』の最終回が終わりました。

 詳しくは活動報告で書かせていただきますが、8話を書くのはめっちゃ楽しかったです。


 次回からは第2章『七人の魔王』を書き始めます。いよいよDWRの世界の魔王全員(仮)が登場します!


 では、次回をお楽しみに!

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