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未来魔王は未確認の過去から  作者: yuFa
第1章 足りない1日目
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第1章ー5話 未確認の過去

【変更のお知らせ】

第1編ー4話 戦いは始まった


後半部分の、勇者アリシア・カーライルの描写を、手違いで金髪と記載してしまいました。


《金髪→赤い髪》ですので、よろしくお願いします。

 真っ暗な闇の中。

 周りには何も見えない。

 それどころか、自分の体さえも見ることができない。

 まるで、この空間には自分の目だけしか無いというような感覚だ。


 その暗闇の中では何の音も聞こえない。

 さっきまでの勇者軍と魔王軍の雄叫びや、剣と剣が混じり合う金属音、突然鳴り響いた轟音も、綺麗さっぱり無くなっている。


 すると、闇の奥から少しの音が漏れてきた。


 『……て……』


 何かを言っているのかは分からないが、声が聞こえる。

 先ほどまで聞いていた声。

 あどけない、健気な勇者の声。


 アリシアの声だ。


 その声は次第に、近づいてくる。

 まだ声は小さくて聞こえないが、どうやら何度も同じ言葉を繰り返しているようだ。

 辺りを見渡しても、アリシアはいない。ただただ暗い闇が広がるばかりである。


 段々とその声は近づき、言葉としての形を形どってくる。


『散々私の仲間たちを傷つけて……』

『人殺しが……!!』


 相変わらずの口の悪いことである。

 しかし、その声には深い、この闇よりも深い憎しみが含まれてるように感じた。

 本当の憎しみ。

 家族や親友を殺した相手に言うような......そんな声。


 その声はやがて耳元まで近づき、頭に中に入ってきた。


 そして、そこにあったかどうかも分からない意識が、そこで途絶えた。



****************************************




――「お目覚めですか?」


 目が覚めると、目線の先に天井が見えた。

 現実世界の自分の部屋の天井ではない。むさ苦しい木で出来た天井ではなく、シャンデリアが吊るされている豪華な天井だ。

 魔王城の王室の天井だった。


 次第に意識がハッキリしつつあるレオナは、自分の記憶を一つずつ辿っていく。


 確か俺は……アリシアに告白しようとしたような……?

 そうか、そしたらいきなりでかい音が聞こえて……!


「レオナさぁーん!?」


 耳元でいきなりでかい声が聞こえた。


「うぉっ!」


 レオナの鼓膜を突き破りそうなくらいの幼女の大声が耳を襲う。

 レオナはその反動でベッドから飛び起きた。


「やっとお目覚めですか……心配したんですよ?」


 側を見ると、マルカが宙に浮きながらレオナを見守っていた。

 ずっとここにいてくれていたのだろうか。


「は? 心配? 何で」


「何でって……覚えてないんですか?」


 マルカは呆れたような声を出す。


「覚えてないって……」


 レオナは必死に過去を思い出そうとする。

 そして、勇者軍の大群や、自分の魔力による攻撃、アリシアの顔が浮かび上がってきた。


「そうだ、勇者軍と戦争してたんだった……」


「やっと思い出しました?」


「あぁ、でも途中で突然頭の中で大きな音が鳴って……それで倒れたのか」


「大きな音……? 何を言ってるんですか」


 マルカはレオナがまるで的外れなことを言っているかのような口調で問いかける。


「あなたは剣で刺されて倒れたんじゃないですか」


「は? 刺されただと?」


 レオナの脳内にはそんなシーンは一切残っていない。

 例え痛みのショックで記憶を喪失したとしても、さすがにそこまでの衝撃的な出来事は全く忘れることはないだろう。


「……本当に覚えてないみたいですね。まぁ首筋を刺されたから無理もないですが」


「首筋!?」


 それは死んじゃうやつじゃないのか!?


「心配には及びませんよ。私の治癒魔法で何とか回復させました」


「治癒魔法? お前誰にも見えない妖精じゃなかったか」


 マルカは無い胸、いや、体自体が小さいため、無い以上に無い胸をはる。


「霊体に近い妖精だからといっても元魔王ですよ? それくらいお茶の子さいさいです」


「お茶の子さいさいって久しぶりに聞いたな……」


 突然の古い表現にレオナは微妙な表情をする。

 それよりも、首筋の怪我でさえ治せる魔法への驚きの方が強かったが。


「しかし驚きましたよ。あの戦争の時にいきなり勇者を庇うんですもん。何事かと思いましたよ」


「……ん?」


 突然の意味不明な発言に、レオナはつい聞き返す。


「勇者を、庇った……?」


「えぇ。そこも覚えてないんですか?」


「あ、あぁ、覚えてない……」


 再びレオナは頭の中の記憶をかい探る。まるで自分の記憶があの轟音からすっ飛んだかのような……。


 俺が勇者に告白しようとするまでは覚えている。

 あぁ今思い出すと恥ずかしい……!

 勇者に告るとかどんな魔王だよ……!!


 自分の軽率な行動を省みて悶絶しているレオナに、マルカはゆっくりと説明した。


「あなたが勇者軍の兵士たちを蹴散らしていく間に、勇者と少し会話をして……その後突然勇者を庇ったんじゃないですか」


「だ、誰からだ……?」


「分かりませんよ。私も突然の出来事だったので、周りまで見てませんでした」


 マルカは欧米人のように手を横にしてやれやれといった風に首を振る。


「……何で俺、勇者を庇ったりなんか……」


 いくら記憶を遡っても、勇者を庇ったなどという記憶は覚えていない。

 何度も言うようだが、告白しようとしていたところまでしか記憶が無いのだ。


 庇った……ということは魔王軍の誰かが勇者を攻撃しようとしたのを見て庇ったといった感じなのだろうか。

 レオナならやりかねない。


「そのあと後ろから勇者に首筋を刺されたんですけどね」


「だっさ!」


 どんな理由で死んでるんだ俺……!

 敵を庇った上にその隙を突かれて刺されるとか馬鹿すぎるだろ俺……!


「ほんとですよ。魔王が勇者を庇って勇者に倒されるなんて……ぷふっ」


 どうやら笑いを堪えていたようだ。

 自分が話して、自分で笑ってしまったらしい。

 レオナも釣られて、自分の愚行に笑みをこぼす。



『散々私の仲間たちを傷つけて......』


『人殺しが!!!!』



 突然。

 気を失っていた時の勇者アリシアの声が、頭の中でフラッシュバックし始めた。

 レオナの笑みはすぐに引っ込んだ。


 深い憎しみのこもったその声。

 この言葉は多分、レオナがアリシアを庇った後に彼女が言った言葉なのだろう。

 記憶には無いが、そうだと推測できる。


 レオナは思い出したその言葉の意味を噛みしめる。


 仲間たちを傷つけて……人殺し……。



「……」


 そこでレオナは思い出した。

 自分の攻撃によって倒れた兵士たちを。

 傷ついて苦しみ、唸っている兵士たちを思い出す。

 中にはピクリとも動かなくなった兵士もいた。


 その時のレオナは自分の力に酔っていて、倒れている兵士に意識が向いていなかった。

 しかし、今思い出すと自覚せざるを得ない。


 レオナは罪もない人々を傷つけ殺した、悪の王、魔王だということに。



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