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第45話『スポットはしましたが、どうしますか? やりますか?』

 森の中を、木々を避けながら全力で走る。周辺MAPを見ると、すぐ後ろに同じ速度でついてくる青い三角マーカーが一つ。グローブ越しに『H&K MP7A2』を両手でしっかりと保持して、いつでもエイムできるようにする。そう、僕は今ソフィーアと二人で討伐依頼に来ている、森の中腹あたりを二人で索敵中だ。しばらく走っているとソフィーアのマーカーの動きが止まり、そのあとすぐに前方に気配を感じて僕も走るのをやめる。ソフィーアの索敵範囲は相変わらず広い。ソフィーアが気配と足音を消して右側に移動するのを見て、僕は左側に移動していく。


 周辺MAPと前方の木々の奥に赤い三角マーカーが一つ二つ、三つと増えていく。計五つの赤いマーカーが移動しているのが見える。僕はまだスポットしていないので、ソフィーアがスポットした事になる。


『見えるのはこれで全部かな?』

『そのようです、仕掛けますか?』

『そうだね、カウント三、二、一、今!』


 左右からのクロスファイアにより、赤いマーカーが一つ、二つと減っていき、五つすべてのマーカーが消えてなくなる。銃声は限りなく小さく、サウンドサプレッサーからガスの漏れる音と、対象が突然の敵襲に僅かな鳴き声をあげたのが聞こえただけで、いつも通り静かな森に戻る。事前に目視していた通り、そこにはゴブリンの死体が残った。森の中腹のゴブリンはまず、群れの人数が多くなる。そして、木で作られた武器ではなく、粗末な金属の武器や防具を装備し始める。冒険者が残していったものや、折れたものを修復して使っているようだ。


 初めてパーティーメンバーと野外実習に行った日から、約一年経ち僕は冒険者学校の二年生になっていた。先程の戦闘でもわかる通り、ソフィーアも防具タブの開放を行い銃魔法の防具を装備している。ゴーグルを装備した時のソフィーアの驚きも新鮮だったけど、ヘルメットについていたタクティカルヘッドセットが、ただの飾りではなく音声通信機能を備えている事については、僕もソフィーアと同時に驚いた。


 なぜかいつも、ゴブリンと戦っているような気がするけどそんなことはなく、今年の春先にはビッグスパイダーが大量発生して大変だった。自分より大きい蜘蛛がわしゃわしゃと…いや、思い出すのはやめよう。結局僕は、コンパウンドボウからナイフに持ち替えて戦闘をすることができなかった。近くで戦う勇気はない。その他にはビッグアントにノーマルヘッドが通らず、苛ついて実戦で初めてエクスプローシブヘッドを使用して、木々をなぎ倒してコンに怒られたりもした。脚が多い系は勘弁してほしい。


「ヴェル様、見張りありがとうございます。討伐証明の回収完了しました」

「お疲れ様、周囲には異常なしだよ。もうちょっと奥まで行ったら、折り返そうか」


『TAZ90迷彩フィールドパーカー』を着ているソフィーアが、無線越しではなく直接声を掛けてくる。森の浅い部分に出現するゴブリンとは装備や体格が違うのに、種族が違わないので討伐の金額は変わらないのが悲しい。かと言って、ゴブリンは放っておくとすぐ溢れかえるから、余程緊急の何かを追っているとかでなければ、数を減らしていかないといけない。装備していた鉄くずが唯一違う点となるけど、それほど金額的に変わるわけでもないし、僕とソフィーアでは数を沢山回収することは出来ない。中腹の魔物だというのに、ビッグアントの甲殻やビッグスパイダーの糸の方が素材としての価値が高いのが、ゴブリンの嫌われる理由の一つだ。もっと奥にはビッグベアやホブゴブリン等、他の魔物も出るので、いずれはもっと激しい戦いになるだろう。ゴブリンの物量も時には脅威になるけど。


 先程戦闘をした所から二十分ほど歩いた所で、また気配を感じる。目標の折り返し地点までは、まだまだ歩くくらいの浅い場所でさらに魔物に出会う。


『ヴェル様、奇妙です。こんな中腹でも浅い所に、武器持ちゴブリンを多数連れたホブゴブリンが哨戒しています』

『周辺MAPを見ても、僕達が間違って奥まで来たって訳でもなさそうだ』


 ソフィーアが先に魔物を目視したのに続いて、僕もその魔物を見る。粗末な木製の装備を持つゴブリンよりも一回り大きい武器持ちゴブリンが十体ほどと、さらにそれよりも大きく僕と同じくらいの背丈のホブゴブリンが一体見える。損傷のないロングソードを振りながら、周囲のゴブリンになにやら命令をしている。


『スポットはしましたが、どうしますか? やりますか?』

『……いや、気づかれない様に撤退しよう。ギルドに報告を優先しよう』


 二丁のサブマシンガンで弾をばら撒けば倒せない事はないだろう。しかし、二人しかいない今は不測の事態が起きても対応できない。リリィさんのパーティーなら、回復魔法使いのリタさんもいるし多少無理が出来たかもしれないけど。しかし、巣の奥でふんぞり返っているはずのホブゴブリンがなぜ、こんな前線とも呼べる場所にいるんだろうか。ホブゴブリンを視界に捉えたまま後退していると、さらに五体ほどのゴブリンがホブゴブリンの元に合流する。これは本格的に撤退だな、僕はソフィーアに目で合図すると気配と足音を本気で消して、ギルドへと向かい走り出した。



「森の中腹でホブゴブリンと十五体ほどのゴブリンですか……ちなみに倒したのですか?」

「いえ、今日はソフィーア姉さんと二人だったので、大体の位置だけ把握して帰ってきましたけど?」


 いつもお世話になっている男性のギルド職員さんに、顔色一つ変えずに答える。あなたと同じ歳の冒険者なら、無謀に戦い帰ってこないのが五割、泣きながら帰ってくるのが五割ですよ。と、ため息混じりの小さい声で職員さんが言っているのが聞こえる。そこで十割使っちゃうと僕の入る余地がないんですけど……。


「……こほん。迅速な情報提供助かります、ありがとうございます。C級以上に調査依頼を出さないといけませんね、これは」


 斥候職二人のパーティーだからね、情報提供くらい正確に迅速にしていきたいものです。僕とソフィーアは予定より早く森から帰ってきたので、家に帰ってお風呂に入ってゆっくりすることにする。今日はソフィーアにゆっくりしてもらうために、夕飯は外食にしようかな? ソフィーアは少しだけ不満そうではあったけど、たまには外の食事も今後の料理の参考になるんじゃないという僕の提案に、渋々納得したようだ。


 商店街にある大衆食堂にやってくると、本格的な夕食時より少し早いにも関わらず、騒がしい一団が見える。遠目からもわかるほどジャガイモを山盛りにして食べている少女や、エールを片手に目つきの悪い少年に絡んでいる残念褐色美女などなど。まぁ、うちのパーティーとソフィーアのパーティーですね。小動物のようなリタさんが向かい側に座る体の大きなテオを見てぷるぷる震え、その震えているリタさんを見たテオが緊張して小刻みに震えている。共鳴でもしているんだろうか。騒がしい冒険者達に慣れている食堂のおばちゃんですら若干引いているレベルでカオスな空間が出来上がっていた。


「おぉ、ヴェル君十一歳とソフィーアちゃんにじゅ……はい、すいません調子乗りました! ほら、こっちに来て一緒に飲みやがれー!」

「いや、飲みませんよ!」


 コンに絡んでいたリリィさんが、目ざとく僕達を見つけて早速絡んでくる。半歩後ろにいるソフィーアの顔を見ないように、リリィさんに言葉を返す。コンがリリィさんとの間に僕を無理やり座らせ、ソフィーアはリタさんを持ち上げ一つ横の席に移動させる。コンは僕という壁を手に入れ、リタさんは共鳴を止める事に成功した。


「ソフィーアとヴェル君は今日も二人で討伐依頼かい?」

「そうですね、訳あって予定より早く切り上げて帰ってきましたけど」

「仲がいいねぇ、ボクとミーナとは大違いだね」

「もぐ? 私は一向に構わんぞ! 今度行ってみるか、イーゼ姉!」

「アハハ、ほら、ジャガイモお食べ。おいしいかい?」

「うむ!」


 イーゼさん、完全に誤魔化してるな。さすがに僕もミーナと二人で討伐に行く勇気はないなぁ。ジャガイモ食べさせておけば大人しいんだけどね。


「んで、訳ってのはなんだよ? お前もソフィ……ア、さんも怪我してるようには見えねぇし」


 リリィさんから開放されて安心しているコンが、ソフィーアの方を恐る恐る見ながら僕に話しかける。ソフィーアの名前を口にする時だけやたらと声が小さい。すまないコン、君が悪い友達だという誤解がまだ解けていないんだ、頑張ってるから今は耐えてくれ。今までちょくちょく会っているが、ソフィーアのコンへの警戒が凄い。


「んー、特に口止めもされてないし良いのかな? リリィさん達にも関係あるかも知れないし」


 興味津々という感じの一同に、僕は一応周囲に人がいないかを確認して、小さな声で説明を始めた。


余裕が出来ると、つい他の事をしてしまう。

追い込まれないとやらないタイプは本当にダメですね。

いつもそれで痛い目にあうと言うのに、学習しません。自分のことながら。

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