第4話「あのー、いい属性ではなかった事は理解したんですが、結局じゅう魔法ってなんなんですか?」
司教様へ感謝の言葉を述べ、教会を出る。
「ヴェルナー様、またいらしてください。私はアリーセ様や勇者様のお話が得意なんです」
司教様が他に何か言いたそうに口を開けるが、少し眉を落としそれだけを言った。
お母さまと手をつなぎ家へと歩く。家から教会までは歩いて行ける距離であり、また街の中心地を通らない為徒歩で移動をしている。まだ陽も高く街の賑やかな声が聞こえるが、少し遠くから聞こえどこか寂しい。家族が笑っていないからだろうか、春の陽気もどこか爽やかさを失っていた。
(十魔法? 重、柔、渋…縁起の良くない印象を受ける言葉か。想像つかないな)
考えても分からない為、手をつないで歩くお母さまを見上げる。
「ねぇお母さま、じゅ…」
「ヴェル、家に着いたら話すから。詳しい話はお茶でも飲みながらゆっくり話そう」
じゅう魔法ってのはなんじゃらほい? と軽い空気で聞いてみようと思ったが -いや多分普通になんなのですか? としか聞けなかっただろうが- お父さまが被せ気味に僕の頭を撫でながら言った。
重い空気のまま家の前まで帰ってくると、扉の前でソフィーアが待っていた。
「皆様おかえりなさいませ。アルマ様とアルフォンス様が食堂でお待ちです」
皆の表情を見て、わずかに眉を上げながら挨拶をする。
「ただいまソフィーア。私達のお茶の用意も頼むよ、喉が乾いてしまったよ」
お父さまがソフィーアにお願いし、家へと入って行く。それに続きおじいさま、お母さまと僕も家に入りそのままの服装で食堂へ入って行く。
「あらあら、おかえりなさい。司教様はお元気でしたか?さぁ座って、ほら私の隣に。ルードルフが街で話題のバウムクーヘンを買ってきてくれたのよ」
おばあさまは先に座っているお父さまの暗い顔を気にもせず僕に笑顔を向ける。ちなみにルードルフはおじいさまとおばあさまの同年代の我が家の執事である。アル兄さまはお父さまとおばあさまのギャップについていけてない様で、困った顔をしながら僕におかえり。と言っていた。
ソフィーアが皆の前に紅茶を用意して退出しようとするが、お父さまに止められる。
「ソフィーアもそのまま聞いて行きなさい。さて、ヴェルの魔法属性についてだが…すまん、ちょっと紅茶を…いてっ、わかったよ…うん、魔法属性はじゅう魔法だった」
余程説明したくないのか、途中で紅茶を飲もうとして、隣のお母さまに肘で小突かれた後小さな声でお父さまは言った。
あらあら、の後に言葉が続かず紅茶を一口飲むおばあさま。バウムクーヘンを食べようとしたまま石化してしまうアル兄さま。
眉間に皺を寄せ怖い顔のまま泣きそうな顔になるおじいさまが突然立ち上がった。
「ソフィーア、今すぐツァイス家系図を持って来い! 魔法属性も書いてあったはずだ!じゅう魔法属性持ちの先祖を洗う!」
「父さん! 属性は遺伝しないだろう! じゅう魔法持ちの先祖を探して何になるって言うんだ! それよりもこれからの事だろう!」
おじいさまの言葉にお父さまが立ち上がり声を荒げる。
「ぐぬぬ…しかしこれではヴェルが…!」
「だからこそこれからの事を話そうと…」
「あなた、フリッツ、黙りなさい。声が大きいわ。アルとヴェルが驚いているでしょ。落ち着きなさい、そして座りなさい。はい、結構。そもそもに私はあなた達がなぜそうも騒いでいるのか理解できません。ヴェルは頭も良いし次男です。アルが辺境伯を継いだ際に右腕となり、2人で盛り立てる事もできるでしょう? それに属性でない武器を使い功を立てた英雄だっているではないですか。ヴェルの可能性はあなた達が決めるものではありません」
いつも細目笑顔のおばあさまの目がカッと開き、おじいさまとお父さまに静かにゆっくりと自分の考えを伝えて行く。その静かな迫力に食堂はシーンと静まり、アル兄さまがバウムクーヘンを落とす音だけが聞こえた。
「あのー、いい属性ではなかった事は理解したんですが、結局じゅう魔法ってなんなんですか?」
恐る恐る手を上げ、僕は発言をして見た。
「あらあら、そうよね。まだ詳しい話もせずに大人だけで盛り上がってごめんね? 本当に情けないわ。ほら、フリッツ情けない顔をしてないで説明なさい。父親であるあなたの役目よ?」
おばあさまがいつも通りの糸目笑顔に戻り、手を上げて発言した僕の頭を撫でる。本当に情けないわと言った所ではしっかりとおじいさまの方を向いていたが。ちなみにおじいさまは「ぐぬぬ…」と眉間に皺を作っていた。
「コホン…ヴェル、すまなかった。説明すると言って何もしていなかったね。じゅう魔法についての説明をしよう。実はじゅう魔法と言うのは…よく解っていないんだ」
…ん?
18時更新予定でしたが、予約掲載が出来ていませんでした…。